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36 吸血鬼の女王、出陣
しおりを挟む「カルミラ様」
江戸東京博物館の上階に誂えた専用の小部屋にはアール・デコ様式の上品なローズウッド製ベッドと幾つかの上質な調度品が並べられ、二名の女性従者が入口に控えている。女性従者は共に黒を基調とした体の線に添ったデザインのシルク製のロングワンピースを纏い袖口と襟元には白いレースが付いていて、胸元は金色のネックレスで飾っている。髪型は違うが二人共美しい銀の髪色をしている。薄っすらと目を伏せているが、其処から覗く瞳孔は紅く光を帯びている。
アイロンのかかった黒いスーツをビシッと纏った背の高い白髪のアフリカ系の老人が二人に軽く会釈をしてその部屋に入室すると、ベッドに横たわる女性に声を掛けた。
「カルミラ様」
「……」
カルミラと呼ばれた女は背を向けて横たわったまま振り向きもせず、答えもしない。
「失礼します、カルミラ様」老人はそう言うと侍女達に目配せをする。
老人の意図を汲み取った二人は両手で耳を塞いでその場に蹲った。侍女達の様子を確認した老人は
「Take control of your mind〈己を律せよ〉」と言葉を発する。
《グワワワヮン》と空気が振動し、驚いた女がベッドから弾けるように飛び起きて瞬時にその右手で老人の首を鷲掴みにすると
「何よシㇲ、起こさないで」と怒気を孕んだ声で言った。
「失礼しました、火急のお知らせがございます」
首を掴まれてもシㇲは平然としている。
その態度に平静さを取り戻したカルミラは「ンッ」と一つ、咳払いをしてベッドに座り直した。胸元の大きく開いた袖の無いベルベット地の赤いゆったりとしたドレスが美しいプリーツの裾を揺らしている。
「どうしました?」
「はい、兼ねてより仰せの勇者パロミデスの動向につきまして動きがありました」シㇲが答える。
「へぇ…」
「高レベルのブックキャストが数名結託して勇者パロミデスに攻撃を仕掛ける相談をしているのを眷属が聞きつけております」
「高レベルって?」
「現在レベル63が三名の様です」シㇲが答える。
一般人の殺戮を続ける勇者パロミデスの存在は吸血鬼のカルミラ・ダーク・ブルーにとっては目の上のタンコブだった。人間は彼女の大切な食料であり、また血を吸われた人間は彼女の従順な眷属となるからだ。カルミラには何時かはどうにかしてパロミデスを排除する必要があった。
「レベル63…」カルミラの知る限り、ダーク・シーに於いて最高レベルキャストであり、数は限られている。
〈これは最大のチャンスかもね〉
「居場所は分かっていますか?」
「はい、常時眷属に見張らせております」
今やカルミラの眷属となったシㇲはコンシェルジュとして優秀な働きをしていた。
「そうですか…」
カルミラは暫くの間、考えた後
「シㇲ、此処を任せます、眷属とこの城を守って下さい」と告げた。
「協力するお積もりで?カルミラ様お一人で出向かれるのですか!?失礼ながら告発者として私もお役に立てるかと」
部屋に控える二名の従者もシㇲの言葉に同意する様に不安気な表情を浮かべている。
「そしたら誰が君達を護るんですか、それにパロミデスは恐らくはレベル63近くに達しています、シㇲを護ってあげる余裕もありません、それとぉ…」
「シㇲには色々とお願いしたい事もあるんです、ええ」
シㇲはそれ以上自分の意見を押す事を止め、深く頭を下げた。
「カルミラ様の仰せのままに」
「先ずは、ギリギリまでここで英気を養います、人間を用意して下さい」
シㇲが頭を下げ退室した後、カルミラは木製の装飾棚に飾った〈銀黒鐵蠍〉を取り出し、《ブォン!》とその重さを確かめるように振るった。
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