風の唄 森の声

坂井美月

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交差する想い③

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(こんな風に無防備にされたら、余計好きになっちゃうじゃない!)

美咲が恭介から視線を落とすと、恭介が
「藤野君?何処か具合でも悪いのか?」
と、声を掛けて来た。

いつだってそうだ。
冷たくされたかと思うと、こうやって優しくされて。
だから余計に諦められなくなる。

美咲はそう思いながら、息を吸って笑顔を作る。
「何がですか?元気ですよ。あ!教授。もしかして…『藤野の憂い顔も可愛いな』とか思っちゃいました?だとしたら、ラッキー」
そう言って恭介の腕に触れようと伸ばした手を、美咲は引っ込めた。
その手には、右手に風太の手が握られ、反対側には座敷童子が手を握っていた。

(遠いな…)

美咲は、そばに居るのに恭介が大学に居た頃より遠くに感じていた。
すると
「酷いよ!風太ちゃん!」
考え事をしていた美咲の耳に、修治の声が届く。
「だってそうだろう!恭介はハクシキ?でウヤマウ?けど、修治はただのバカだからな!」
って、風太に辛辣に言われている。
「こら、風太。そんな風に人を悪く言っちゃダメだろう」
恭介が風太を嗜めていると、修治が恭介の背後から
「そうだぞ!お前らが知らないだけで、大学に戻ったら『きゃ~!修治君、素敵!』って言われてるんだからな!」
と反論した。
すると風太は哀れんだ目をすると
「修治…。人はお前が思ってる程、お前の事をかっこいいなんて思ってないぞ。な!座敷童子」
と呟いた。
すると座敷童子も思い切り頷いて、美咲と恭介は顔を見合わせて爆笑してしまう。
「な!なんだよ!2人まで笑ったりして!」
修治はそう叫びながら、お腹を抱えて笑う美咲を見て小さく微笑んだ。
修治はここに来てから決めていたのだ。
美咲が笑顔になるなら、どんなピエロにもなるんだと。たとえそれが、叶わない思いだとしても…。
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