風の唄 森の声

坂井美月

文字の大きさ
28 / 49

交差する想い④

しおりを挟む
「ふぁ~」
美咲はあくびをしながら台所へと向かって歩いていた。
昨夜は結局、みんなで恭介が教えてくれる星座の話を聞いて遅くなってしまった。
普段は空が朝食の用意をしてくれているが、大龍神の神殿に行っているので、美咲が朝食を用意しようと思っていたのだ。
眠い目を擦りながら台所に行くと
「おはようございます」
と、空の姿があった。
「空さん?神殿に行ってたんじゃ無いんですか?」
驚いた顔をすると、空は微笑んで
「朝食の準備をしたら、すぐに戻ります。美咲さんは、まだ寝ていて下さい」
空はそう言うと、手際よく料理を作っている。
「あの…空さん」
「はい?」
「空さんは……」
そう言い掛けて、美咲は唇を噛み締める。
(聞いてどうするの?私。それで、教授が好きだと言われても、困るだけなのに…)
思わず俯いてしまうと
「安心して下さい」
ぽつりとそう言われて、美咲は顔を上げる。
「恭介様の事ですよね?私はなんとも思っていませんから」
「え?」
思わず驚いて空の顔を見ると
「人間と私達龍神が結ばれると、寿命を縮めるんです」
空はそう言うと、お味噌汁の蓋を閉めて
「私は風太が7歳になるまで、死ねないんです」
と呟いた。
「それ…どう言う…」
「それ、どういう意味だ?」
いつの間にか、美咲の後に恭介が立っていた。
「恭介様!」
驚いた顔をする空に
「どうせ朝早くに来て、又、姿くらますんだろうと思って早く起きてみれば…」
吐き捨てるように言うと、恭介は空に足早に近付くと腕を掴み
「彼女の墓は何処にある?何故死んだ?そしてお前は一体…何者だ?」
矢継ぎ早に質問する恭介に、空が怯えた目を向ける。
美咲も、普段決して言葉を荒げない恭介の姿に呆然としてしまった。
「教えろ!何故、名前が思い出せない?」
ギリギリと手首を締め上げる恭介に、空が苦痛の色を顔に浮かべる。
「教授!止めて下さい!」
慌てて美咲が止めると
「邪魔するな!こいつは、俺の妻で風太の母親の鍵を握っているんだ!」
そう叫んだ恭介に、美咲の動きが止まる。
「え?教授の妻?風太君が子供って…どういう事?」
驚いて空を見ると
「離して下さい!ちゃんと話しますから!」
空はそう叫んで、恭介の腕を振り払った。
「恭介様の奥様は、この龍神の里を治める大龍神様の一人娘、タツ様です」
空の言葉に、恭介の記憶が蘇って来る。
「そうだ……。俺は…なんで名前を忘れていた?」
頭を抱える恭介に
「それは…タツ様が、亡くなられる前に記憶を封じたからです」
空はそう答えた。
「なんでだ?記憶を消す必要なんか、無かっただろう!」
「それは…。恭介様に、全てを忘れて新しい人生を歩んで欲しかったんだと思います」
「それで俺は、のうのうと自分の最愛の妻も子供の事も忘れて、5年間生きて来たって訳か」
恭介は力無く笑うと、そう言ってその場に座り込んだ。
「で、お前は誰だ?何故、風太のそばに居る。なんでタツの代わりに風太を育てている!」
空を睨み上げる恭介に
「私は…ずっと、タツ様に仕えておりました。恭介様は、タツ様しか目に映っていらっしゃらなかったので、覚えていないんだと思います」
力無く答える空に、恭介はゆっくり立ち上がり
「俺の知ってるタツは、他人に子育てを任せるような女じゃなかったけどな」
そう呟くと
「もう分かった。邪魔して悪かった」
恭介はそう言い残して、部屋へと戻って行った。
「どういう事?教授に奥さん?風太君が子供って…」
震えながら呟く美咲に、空が手を伸ばすと
「触らないで!」
とっさに美咲は叫んでしまい、ハッと我に返る。
自分を悲しそうに見つめる空に
「ごめんなさい。空さんが悪いんじゃ無いの、分かってるのに…。私…ごめんなさい」
そう叫んで、美咲も自分の部屋へと走り去ってしまった。
空はその場に残されて、ズルズルと座り込み涙を流すと
「とうとう…時が来てしまったのですね…」
そう呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...