風の唄 森の声

坂井美月

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開けてはいけない真実の扉⑤

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空がゆっくりと部屋から出ようとすると、廊下に美咲が立っていた。
「美咲さん!いつからそこに?」
驚く空に、美咲は黙って空の腕を肩に回す。
「何処に行けば良いんですか?」
「え?」
「空さん、力を蓄える為に行かなくちゃならない場所があるんでしょう?」
美咲はそう言うと、黙って歩き出した。
気が付くと、座敷童子も空のそばを付いて歩いている。
すると
「美咲?空さん?何処行くんだ?」
驚いた顔をした修治が駆け寄って来た。
「修治、お願い。手を貸して」
美咲の必死な言葉に、修治は黙って頷くと空を抱き上げた。
「修治さん、大丈夫です」
慌てる空に
「そんなフラフラで、何処に行くのか知りませんけど…。時間が掛かります。急がないと」
そう言って修治と美咲は走り出した。
空の案内の通りに歩くと、小さな滝がある川辺に出た。
水の中に入り、滝を抜けるとお社が祀られいた。
「此処で大丈夫です」
空はそう言って、修治にゆっくりと下ろしてもらう。
そこはシンっと静まり返り、神聖な空気が漂っていた。苦しそうに呼吸をしていた空が、ゆっくりと回復していくのを見て、美咲がホッと肩を撫で下ろす。
「もう、大丈夫です。あなた方が此処に長く居ると、体調を崩します。早く、戻って下さい」
空に言われて、美咲と修治は顔を見合わせて頷いた。
「美咲さん、修治さん。ありがとうございます」
2人が社から出ようとすると、空がそう言って微笑んだ。
でもその笑顔は、今にも消えてしまいそうな程に儚い。
2人は黙って並んで歩くと、修治は意を決して
「あのさ!美咲。俺、気付いたんだけど…」
そう言い掛けて、美咲が悲しむのを見たくなくて口を噤んでしまう。
「何?」
美咲が怪訝そうに修治を見てから
「ねぇ…教授は、やっぱり風太君を人間界に連れて行くのかな?」
ぽつりと呟いた。
「え?」
修治が驚いて美咲の顔を見ると
「実の父親だから、一緒に暮らしたいのは分かるんだけど…。でも、そうしたら空さんはどうなるんだろう?」
そう呟く美咲に、修治は驚いた顔をして
「え?美咲、教授が風太ちゃんの父親って知ったの?」
と叫んだ。
「え?あれ?私、修治に言ってなかった?」
「聞いてないよ!俺、それに気付いた時、美咲がショック受けるんじゃないかって心配してたのに!」
あっけらかんとしている美咲に、修治が思わず叫んでしまう。
美咲は驚いた顔で修治を見ると
「そっか…、心配掛けてたんだ。ごめんね」
と呟くと、俯いて
「何も知らない修治が気付くくらい、あの2人って親子だよね」
そう美咲が呟いた。
「うん…」
美咲の言葉に頷くと、修治は
「相手は…空さんなんでしょう?」
と美咲に訊ねた。
すると美咲は首を横に振り
「私もそう思ってたんだけど、どうやら違うらしい。タツっていう人が、教授の奥さんだったんだって。絶世の美女だったらしいよ」
そう答えた。
「絶世の美女。あ~だから教授は、どんな女性にも興味が無かったんだ」
「それは過去の話ね!でも、今は空さんが居るじゃない」
美咲はそう呟いて、大きな溜息を吐く。
「でも、不思議なんだよね。そもそも教授って、あんまり人の容姿に興味無いじゃない?」
美咲が呟くと、修治が考え込む。

『どんな女が好みかって?…考えた事もない』
いつだったか、修治が美咲の為に恭介に質問をした事があった。
相変わらずの鉄仮面で返され
「ですよね~!」
と呟くと
「…見た目とかそんなものは、どうでも良い。俺にこいつらより興味を持たせる人かな?…ま、居たらの話だけどな」
そう言って、在来植物の世話をしていた。

「在来植物…」
「え?」
「教授、此処に来てから全然探してない」
「言われてみれば…」
美咲と修治が顔を見合わす。
「でも…いつから教授は空さんを?」
思わず口に出してしまい、修治は慌てて口を押さえる。美咲はそんな修治の顔を見て笑うと
「気を使わなくて良いよ。なんとなくだけど、あの2人。出会った時から空気が似てたのよ」
そう呟いた。
「空気が似てる?」
「あ~!あんたにはわかんないから、聞き流して。多分、一緒にいるのが当たり前みたいな空気が流れてた。教授、此処に来てから穏やかに笑ってるもん」
美咲はそう言って小さく笑う。
「ずるいよね。あんな顔見せられたら、負けを認めるしか無いじゃない」
ぽつりと言うと、満点の星空を見上げた。
「教授さ……プロポーズしてた」
夜空を見上げてそう呟いた美咲の声が震えている。
「私ってさ、タイミング悪いんだよね!空さんが心配で様子を見に行ったら、プロポーズの瞬間にでくわしちゃって」
そう言うと、両手で顔を覆う。
「でも…空さん。断ったんだ」
「え?」
「教授、振られたんだけどさ…。なんでだろうね。全然、嬉しくないの。部屋を飛び出して来た教授、私に気付かなくてね。凄く、傷付いた顔してた」
美咲の言葉に、修治は何も言えなくなる。
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