月歌(げっか)

坂井美月

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すれ違う思い⑦

私はこの時に見た森野さんの、まるで消えそうな笑顔が忘れられずにいた。
悲しそうな、切なそうな…何かに耐えるような笑顔。
杉野チーフや木月さんの話では、森野さんはクラシック音楽以外は全く聞かないらしい。
一時期、お店で邦楽を流していたら
「仕事に集中出来ない」
と文句を言っていたらしい。
なので、カラオケに誘っても行く筈もなく…。
一度、店長、奥様と杉野チーフと一緒に森野さんもカラオケに行ったらしいが、人の歌を聴く専門で決して歌わない。
一度、童謡の「ふるさと」を唄ったら、全く音が取れていなくて壊滅的な歌声だったらしい。
「勿体無いよね…、あんなに良い声してるのに…」
杉野チーフが残念そうに呟いていた。
「でもね、あの森野君に弱点があるっていうのも親しみわいたけどね」
杉野チーフの言葉に、私はいつの間にか「カケル」さんと森野さんを別に考えている事に気が付いた。
私はきっと、森野さんがカケルさんに似た声で無くても好きになったと思う。
今なら、自信を持って言える。

「そんな…。私こそ、森野さんに失礼な事をたくさん言ったのでお互い様です」
 必死に吐き出した言葉に、森野さんはフッと微笑み視線を元の場所へと戻した。
何も映していないような…、私には見えない何かを映しているような瞳は、これ以上私を森野さんに近付けさせないようにしているかのようだった。
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