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光のもとへ…⑧
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私はずっと聴きたかった「カケル」さんの生歌を聴いている。
その声は大人びた声になってはいたけれど、紛れもない「カケル」さんの歌声だった。
透き通った透明感のある声に、月の光のように優しく人を包み込むような歌声。
それはまるで…月の歌声のように人の心に降り注ぐ。
ふとそんな風に考えていた時、人込みをかきわけて兄妹のお母さんが現れた。
「ママ~」
笑顔で抱き付くまいちゃんに、お母さんが安心した笑顔を浮かべる。
どうやら迷子センターの方に事情を聞いたらしく、兄妹のお母さんは森野さんに何度も何度も頭を下げていた。
「歌の上手いお兄ちゃん、バイバイ~」
二人が手を振って帰る姿を見送ると
「翔太!」
森野さんを呼ぶ声が聞こえた。
息を切らせているその姿に、かなり走って来たのが分かる。
「お前、声が出るようになったのか?」
息を切らせながら叫ぶその顔に見覚えがあった。
「あ…」
思うわず呟いて、慌てて口を塞ぐ。
間違いない。
カケルさんの彼女だった鈴原清香さんが「お兄ちゃん」と呼んでいた人だ。
顔はすっかり年齢を感じさせている顔になってはいるけど、優しそうな雰囲気が変わっていない。
思わず呟いた私の顔を見て、最初は怪訝そうな顔をしていた鈴原さんが、ジッと私の顔を見てから
「あれ?もしかして…あすみちゃん?」
向こうも驚いた顔で私を見た。
「どうして?」
びっくりして思わず呟いた私に、鈴原さんはあの時を彷彿とさせる笑顔を浮かべて
「やっぱり!小さい頃とあんまり変わってないね」
そう言った。
そして「うんうん」って頷き
「翔太の声、あすみちゃんが戻してくれたんだ。ありがとう」
と言って満面の笑顔を浮かべる。
相変わらず崩壊力の高いイケメン笑顔にぽ~っとしていると
「おい!こんな所でナンパしてっと、奥さんにチクるぞ」
森野さんが眉間に皺寄せて言い出した。
すると鈴原さんは吹き出して
「変わらないな~、お前のヤキモチ妬きな所。こいつが相手だと、大変だよ」
こっそりと囁いた鈴原さんに、森野さんが
「こいつとはそんなんじゃねぇよ」
そう言って、私を鈴原さんから引き離す。
「はいはい。で、本題に移りたいんだけど?」
鈴原さんは真剣な顔をして森野さんを見つめた。
「亮にお前を預けて、俺達はずっとお前の声が返って来るのを待ってた。もう、良いんじゃないのか?帰って来い、翔太」
鈴原さんの言葉に、森野さんは辛そうに
「音と一緒に合わせてねぇから、わかんねえよ。それに…俺は歌手になる気は無い」
そう言い捨てて歩き出した。
「森野さん!」
慌てて叫ぶ私に一瞬振り向くと
「さっさと来い」
と言い残して歩いて行ってしまう。
私が困った笑顔を浮かべる鈴原さんを見ると
『早く行って』
って、口パクで言われた。
私が頭を下げて森野さんを追い掛けると、森野さんは少し歩いた所で待っていた。
「遅ぇよ」
ポツリと言うと少し前を歩き出す。
私が小走りで隣に並ぶと
「ごめん」
って、ポツリと呟いた。
「え?」
驚いて森野さんを見ると
「お前に嘘を吐いてた」
そう呟く。
「ああ…、知ってましたよ。でも、知られたくないんだろうなって、黙ってました」
私は空と桜を見上げて答える。
その瞬間、森野さんに腕を掴まれた。
驚いて森野さんを見ると
「お前は俺とカケル…どっちが大事なんだ?」
突然訊かれて戸惑う。
「そんなの…」
言い掛けて、思わず口を噤む。
もし…ここで森野さんの名前を言ったらどうなるんだろう?
森野さんは、私にどの答えを求めているんだろう?
私の言葉を黙って待つ森野さんに、私は小さく微笑む。
「選べませんよ。でも…今日、久し振りに歌を聴けて幸せでした。」
私はそう答えると
「森野さん、あなたは歌うべきだと思います」
そう続けた。
「それは…俺があの店から居なくなるって事だとしても?」
真剣に聞かれて、私は深呼吸する。
本音は…傍に居て欲しい。
こうしていつでも話せる位置に居て欲しいって思ってる。
でも…今日、森野さんの歌を久し振りに聴いて、やっぱり森野さんの居場所はスポットライトの下だと確信した。
それを、私の我儘でここに留めていることは出来ない。
幼い頃からずっと、カケルさんの歌声に救われていた私が、森野さんを好きだという個人的感情で森野さんの翼をもいで良いことにはならない。
「私ね…カケルさんの歌に本当に救われたんです。両親の離婚、転居、見知らぬ土地での生活、母親の再婚。色々あったんです。でもね、カケルさんの歌声が私の心を救ってくれたんです。その私が、森野さんに歌うなと言えないです」
森野さんを真っ直ぐ見つめて答えた。
すると森野さんは小さく微笑むと
「そっか…わかった。ありがとう」
とだけ言って、又歩き出した。
私は森野さんの少し後ろを歩きながら、森野さんの背中を見つめて居た。
入社してからずっと追いかけていた背中。
好きで好きで…大好きで…
でも、私には森野さんの才能を摘み取ることは出来ない。
例えもう、隣を歩く事が出来ないとしても…。
季節は春。
桜が舞い散る中、美しい夜桜と人込みの中を歩く森野さんの背中を、私は焼き付けるように見つめていた。
その声は大人びた声になってはいたけれど、紛れもない「カケル」さんの歌声だった。
透き通った透明感のある声に、月の光のように優しく人を包み込むような歌声。
それはまるで…月の歌声のように人の心に降り注ぐ。
ふとそんな風に考えていた時、人込みをかきわけて兄妹のお母さんが現れた。
「ママ~」
笑顔で抱き付くまいちゃんに、お母さんが安心した笑顔を浮かべる。
どうやら迷子センターの方に事情を聞いたらしく、兄妹のお母さんは森野さんに何度も何度も頭を下げていた。
「歌の上手いお兄ちゃん、バイバイ~」
二人が手を振って帰る姿を見送ると
「翔太!」
森野さんを呼ぶ声が聞こえた。
息を切らせているその姿に、かなり走って来たのが分かる。
「お前、声が出るようになったのか?」
息を切らせながら叫ぶその顔に見覚えがあった。
「あ…」
思うわず呟いて、慌てて口を塞ぐ。
間違いない。
カケルさんの彼女だった鈴原清香さんが「お兄ちゃん」と呼んでいた人だ。
顔はすっかり年齢を感じさせている顔になってはいるけど、優しそうな雰囲気が変わっていない。
思わず呟いた私の顔を見て、最初は怪訝そうな顔をしていた鈴原さんが、ジッと私の顔を見てから
「あれ?もしかして…あすみちゃん?」
向こうも驚いた顔で私を見た。
「どうして?」
びっくりして思わず呟いた私に、鈴原さんはあの時を彷彿とさせる笑顔を浮かべて
「やっぱり!小さい頃とあんまり変わってないね」
そう言った。
そして「うんうん」って頷き
「翔太の声、あすみちゃんが戻してくれたんだ。ありがとう」
と言って満面の笑顔を浮かべる。
相変わらず崩壊力の高いイケメン笑顔にぽ~っとしていると
「おい!こんな所でナンパしてっと、奥さんにチクるぞ」
森野さんが眉間に皺寄せて言い出した。
すると鈴原さんは吹き出して
「変わらないな~、お前のヤキモチ妬きな所。こいつが相手だと、大変だよ」
こっそりと囁いた鈴原さんに、森野さんが
「こいつとはそんなんじゃねぇよ」
そう言って、私を鈴原さんから引き離す。
「はいはい。で、本題に移りたいんだけど?」
鈴原さんは真剣な顔をして森野さんを見つめた。
「亮にお前を預けて、俺達はずっとお前の声が返って来るのを待ってた。もう、良いんじゃないのか?帰って来い、翔太」
鈴原さんの言葉に、森野さんは辛そうに
「音と一緒に合わせてねぇから、わかんねえよ。それに…俺は歌手になる気は無い」
そう言い捨てて歩き出した。
「森野さん!」
慌てて叫ぶ私に一瞬振り向くと
「さっさと来い」
と言い残して歩いて行ってしまう。
私が困った笑顔を浮かべる鈴原さんを見ると
『早く行って』
って、口パクで言われた。
私が頭を下げて森野さんを追い掛けると、森野さんは少し歩いた所で待っていた。
「遅ぇよ」
ポツリと言うと少し前を歩き出す。
私が小走りで隣に並ぶと
「ごめん」
って、ポツリと呟いた。
「え?」
驚いて森野さんを見ると
「お前に嘘を吐いてた」
そう呟く。
「ああ…、知ってましたよ。でも、知られたくないんだろうなって、黙ってました」
私は空と桜を見上げて答える。
その瞬間、森野さんに腕を掴まれた。
驚いて森野さんを見ると
「お前は俺とカケル…どっちが大事なんだ?」
突然訊かれて戸惑う。
「そんなの…」
言い掛けて、思わず口を噤む。
もし…ここで森野さんの名前を言ったらどうなるんだろう?
森野さんは、私にどの答えを求めているんだろう?
私の言葉を黙って待つ森野さんに、私は小さく微笑む。
「選べませんよ。でも…今日、久し振りに歌を聴けて幸せでした。」
私はそう答えると
「森野さん、あなたは歌うべきだと思います」
そう続けた。
「それは…俺があの店から居なくなるって事だとしても?」
真剣に聞かれて、私は深呼吸する。
本音は…傍に居て欲しい。
こうしていつでも話せる位置に居て欲しいって思ってる。
でも…今日、森野さんの歌を久し振りに聴いて、やっぱり森野さんの居場所はスポットライトの下だと確信した。
それを、私の我儘でここに留めていることは出来ない。
幼い頃からずっと、カケルさんの歌声に救われていた私が、森野さんを好きだという個人的感情で森野さんの翼をもいで良いことにはならない。
「私ね…カケルさんの歌に本当に救われたんです。両親の離婚、転居、見知らぬ土地での生活、母親の再婚。色々あったんです。でもね、カケルさんの歌声が私の心を救ってくれたんです。その私が、森野さんに歌うなと言えないです」
森野さんを真っ直ぐ見つめて答えた。
すると森野さんは小さく微笑むと
「そっか…わかった。ありがとう」
とだけ言って、又歩き出した。
私は森野さんの少し後ろを歩きながら、森野さんの背中を見つめて居た。
入社してからずっと追いかけていた背中。
好きで好きで…大好きで…
でも、私には森野さんの才能を摘み取ることは出来ない。
例えもう、隣を歩く事が出来ないとしても…。
季節は春。
桜が舞い散る中、美しい夜桜と人込みの中を歩く森野さんの背中を、私は焼き付けるように見つめていた。
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