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EP09 【カジノ・バベル】
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「どうぞ、お入りください」
強面な案内人の胸ポケットにネジは札を一枚忍ばせた。そのやりとりはやけにスムーズで、彼女はまるでここに何度も来たことがある様子だった。
俺も慣れない場所に、おっかなびっくりでネジに着いていく。
「どうしたの、スパナ? もしかしてビビってる?」
「うっ……うっせぇ!!」
あぁ、ビビってるよ。デートなんて完全にネジの言葉の綾だった。パグリスでドレスコードがあって、かつ金を稼げるところなんて一つしかないんだ。
カジノ・バベル。
パグリスの中央に位置する金持ち達の遊び場。高く聳え立つ煉瓦造りの塔で、中には階層ごとにさまざまなギャンブルが出来るらしい。客のほとんどは権力者や政治家ばっかりで、欲望と享楽が混ざり合う混沌の坩堝みたいな場所だ。
ここはチンケなギャンブル場とは訳が違う。一度に動く金は少なくて数百万。間違っても貧乏人の俺が入れるような世界じゃない。
「闇金のコネはこういう時に便利なのよね」
ネジめ……俺に内緒で悪い子になりやがって。
けど、そのお陰でここに来れたんだ。
「は……はは、おもしれぇ! ここで派手に勝って稼げば良いんだな!」
一発当てるだけで借金の半分は返せる……いや、一括返済も夢じゃねぇ!
なんだよ、ネジのやつ! 面倒な仕事を紹介なんてせずにココに最初っから連れてきてくれればよかったじゃーん!
ふふ、久しぶりの大人の娯楽ってやつだぜ。ゾクゾクしてきた。もう我慢なんてしてられねぇ。
「なーにーかーら、あそっぼかな!」
「バカ!」
ギィっ! とネジに耳を引っ張られた。痛みはないが、バランスを崩して俺は転倒する。
「アンタの借金の原因は?」
「ギャンブルっす……」
「そんなヤツにギャンブルなんてやらせる訳ないじゃない。それに賭けるのは私よ」
ネジがギャンブルだと? なら俺を連れてくる必要もない。ボディガードなら信頼のおけるケインの方が適役だろうし。
「なぁ、ネジ。お前、何企んでやがる?」
「アンタの社会復帰と借金返済」
「俺がいうのもあれだが、ここはそれと一番かけ離れてると思うぞ」
「あら、よくわかってるじゃない。言っとくけど、楽に稼げると思わないでね」
ネジは一人の案内人を呼び止めると、会員証らしきカードを渡した。すると、案内人の表情が少し変わる。それはまるで俺たちを品定めしているようだった。
「失礼」と案内人は俺の首筋にあるS200・FDの文字を確認する。そして次に腕と足、胴をチェックすると、眼を覗き込んだ。
「珍しい魔導人形ですね」
「一点物よ」
「承りました。それではご案内します」
ネジと案内人は二人だけで勝手に話を進めて行く。そして俺は彼女と案内人に言われるままに裏口へと通された。
「カジノ・バベルのカジノっていうのは表向きの顔なの。裏の顔はバレないよう、塔のてっぺんに隠してあるの」
「な、なんだよ……その裏の顔って……」
「まぁ、見ればわかるわよ」
塔の最上階に続く長い螺旋階段を俺たちは登る。一歩、階段を上がるたびに現実感みたいなものが薄れていった。
この建物の名前の由来になった「バベルの塔」ってのは神に崩されてしまった伝説上の建物だ。
タロットにおいては最悪のカードして、奢った人間に対する天罰を表現しているのだが、多分そっちの意味がカジノとしての名前の由来だろう。
だが、裏の由来は違う。
バベルの塔は人類の挑戦でもあった。────そして、この階段を上がった先で俺たちを待つのも、一つの挑戦の舞台なのである。
強面な案内人の胸ポケットにネジは札を一枚忍ばせた。そのやりとりはやけにスムーズで、彼女はまるでここに何度も来たことがある様子だった。
俺も慣れない場所に、おっかなびっくりでネジに着いていく。
「どうしたの、スパナ? もしかしてビビってる?」
「うっ……うっせぇ!!」
あぁ、ビビってるよ。デートなんて完全にネジの言葉の綾だった。パグリスでドレスコードがあって、かつ金を稼げるところなんて一つしかないんだ。
カジノ・バベル。
パグリスの中央に位置する金持ち達の遊び場。高く聳え立つ煉瓦造りの塔で、中には階層ごとにさまざまなギャンブルが出来るらしい。客のほとんどは権力者や政治家ばっかりで、欲望と享楽が混ざり合う混沌の坩堝みたいな場所だ。
ここはチンケなギャンブル場とは訳が違う。一度に動く金は少なくて数百万。間違っても貧乏人の俺が入れるような世界じゃない。
「闇金のコネはこういう時に便利なのよね」
ネジめ……俺に内緒で悪い子になりやがって。
けど、そのお陰でここに来れたんだ。
「は……はは、おもしれぇ! ここで派手に勝って稼げば良いんだな!」
一発当てるだけで借金の半分は返せる……いや、一括返済も夢じゃねぇ!
なんだよ、ネジのやつ! 面倒な仕事を紹介なんてせずにココに最初っから連れてきてくれればよかったじゃーん!
ふふ、久しぶりの大人の娯楽ってやつだぜ。ゾクゾクしてきた。もう我慢なんてしてられねぇ。
「なーにーかーら、あそっぼかな!」
「バカ!」
ギィっ! とネジに耳を引っ張られた。痛みはないが、バランスを崩して俺は転倒する。
「アンタの借金の原因は?」
「ギャンブルっす……」
「そんなヤツにギャンブルなんてやらせる訳ないじゃない。それに賭けるのは私よ」
ネジがギャンブルだと? なら俺を連れてくる必要もない。ボディガードなら信頼のおけるケインの方が適役だろうし。
「なぁ、ネジ。お前、何企んでやがる?」
「アンタの社会復帰と借金返済」
「俺がいうのもあれだが、ここはそれと一番かけ離れてると思うぞ」
「あら、よくわかってるじゃない。言っとくけど、楽に稼げると思わないでね」
ネジは一人の案内人を呼び止めると、会員証らしきカードを渡した。すると、案内人の表情が少し変わる。それはまるで俺たちを品定めしているようだった。
「失礼」と案内人は俺の首筋にあるS200・FDの文字を確認する。そして次に腕と足、胴をチェックすると、眼を覗き込んだ。
「珍しい魔導人形ですね」
「一点物よ」
「承りました。それではご案内します」
ネジと案内人は二人だけで勝手に話を進めて行く。そして俺は彼女と案内人に言われるままに裏口へと通された。
「カジノ・バベルのカジノっていうのは表向きの顔なの。裏の顔はバレないよう、塔のてっぺんに隠してあるの」
「な、なんだよ……その裏の顔って……」
「まぁ、見ればわかるわよ」
塔の最上階に続く長い螺旋階段を俺たちは登る。一歩、階段を上がるたびに現実感みたいなものが薄れていった。
この建物の名前の由来になった「バベルの塔」ってのは神に崩されてしまった伝説上の建物だ。
タロットにおいては最悪のカードして、奢った人間に対する天罰を表現しているのだが、多分そっちの意味がカジノとしての名前の由来だろう。
だが、裏の由来は違う。
バベルの塔は人類の挑戦でもあった。────そして、この階段を上がった先で俺たちを待つのも、一つの挑戦の舞台なのである。
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