君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン

ユキトシ時雨

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ミッション1 覚醒の生物因子! 助けを呼ぶ声に応えて見せろ!! 

第2話 銀色の海と新米隊員(2/2)

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「────そこまで!」

 胸元の無線機から聞こえてくる声と、耳朶に響く彼女の声がピタリと重なった。

「訓練終了よ」

 先ほどまで炎に包まれていたはずの船内が、ハリボテのセッティングされた真っ白な訓練室へと瞬く間に様変わりしていく。

 仮想災害シミュレーション室────第六救助隊の保有する大型救護艦〈こんぺき〉の船内に設けられたこの一室は、立体映像(ホログラム)や音響、空調機などの設備を用いてあらゆる災害現場を疑似的に再現できる最先端技術の塊であった。

 顔の半分以上を覆うヘッドセットを外したのなら、甲殻類型ハイドラの動きを再現していた多脚ドローンの前足が目と鼻先の先まで迫っていた。

「ビ、ビビったぁ……」

 鋼助は思わずその場にヘナヘナとへたり込む。すると、今度は鋼助の肩にもたれていた救護者役の彼女が機敏な動きで立ち上がった。

「なーにが、『ビ、ビビったぁ……』よ!」

 凛としたその声は、無線から聞こえてきた声と同じだ。

 濡羽色の艶やかな髪に、刃よりもよく切れてしまいそうな切れ長の瞳。オレンジ色をした隊服の胸元には「宝条(ほうじょう)」と金糸の刺繍が入っている。彼女、宝条蛍(ほたる)は鋼助よりも二つ歳上の先輩隊員であった。

「はぁ……暑かった。ずっと同じ姿勢で動けないし、救護者役も楽じゃないわね」

 愛想良くしていれば間違えなく美人の部類に入るであろう蛍だが、彼女はムスッと呆れかえった顔で鋼助を一瞥する。

 室内の空調はつい先ほどまで、火災状況を再現するために過酷な温度へと設定されていた。そのせいで彼女の額にもじんわりと汗が滲んでいる。

 襟のジッパーを緩め、パタパタとはためかせる彼女の胸元からは、淡い桜色を帯びた肌が覗くだろう。

「さて、新人くん。反省会としましょうか」

「は……はい!」

「けど、その前に……ねぇ、新人くん、君はいったい私のどこ見ているんだろうね?」

 慌てて視線を外すも、それでは遅い。

 彼女はジッと鋼助を睨んだ。

「えっと、その……すみませんでしたァ!」

「うーん……謝罪としてはイマイチね」

 思案すること数秒。蛍は悪戯っぽい顔で手を打った。

「『私、玄野鋼助がノロマなヘボ新人だったせいで、敬愛すべき蛍先輩を訓練中といえど、死なせるような結果になってしまいました』はい、復唱!」

「えっ……」

「はい、復唱!」

「わ……私、玄野鋼助がノロマなヘボ新人だったせいで、……敬愛すべき蛍先輩を訓練中といえど、死なせるような結果になってしまいました」

 これは新手のパワハラだろうか。しかも、この程度では彼女の嗜虐心は満たされないようで。わざとらしくとぼけて見せる。

「あれれ? 『エッチでスケベ』が抜けてるような?」

「うぐっ……私、エッチでスケベな玄野鋼助がノロマなヘボ新人だったせいで、敬愛すべき蛍先輩を訓練中といえど、死なせるような結果になってしまいましたァ! ……これで満足でしょうか?」

「まぁ、及第点ってところね。とりあえずこのくらいで許して上げるとして。それよりも新人くん、今日の訓練で特に反省しなければならない点はどこかしら?」 

 そう言われて鋼助も訓練の立ち周りを振り返る。

 そこには多少の粗さと拙さこそあれど、現場への突入から救護者の確保までは迅速には動けていたはずだ。

「自分でも途中までは上手く、動けていたと思います。ただ、最後にハイドラと鉢合わせたせいで……」

「そうね。……けど、私が指摘したいのはそこじゃないの! 〈EXD(エクステンド)手術〉を受けていない隊員がハイドラと交戦することは、立派な隊務規定違反でしょ?」

 蛍の視線は鋼助の腰に向く。腰に巻かれたベルトには訓練用にリミッターをかけられたアックスだけでなく、ハイドラの動きを止めるための閃光弾もぶら下がっている。

「そっちを使えば良かったのに」と言いたげな様子だ。

「確かにその手もありましたが、閃光弾の効き目だってたかが知れています。なら確実に眼前の脅威を排除したほうが、救護者の安全も確保できたはずで」

「そういうのは、確実に眼前の脅威を排除できる人が言うことよ。けど貴方はウチに来てまだ半年足らずのド新人。少なくとも、もう半年は訓練を積まなくちゃ」

 蛍はピシャりと言い切った。

「けど……」

「けども何もないでしょ。言っておくけど、レスキュー活動において、無茶をしたり、命を賭けたりすることでしか誰かを助けられない救助隊員は二流もいいところ。自殺志願者はお呼びじゃないの」

 彼女はその切れ長な瞳をさらに細める。敢えて厳しい口調になるよう努め、鋼助の眼前にスッと人差し指を立てた。

「いい新人くん。君がウチの救助隊員である限り、救護者を連れて、ちゃんと帰ってくることを徹底しなさい。もし貴方が途中で倒れてしまったのならば────あの銀色に濁った汚染海域に救護者を置き去りにしてしまうことと同義なのよ」 

 喉の奥をキュッと締めつけられるような感覚がした。だからこそ鋼助は、自らの軽率さを強く恥じる。
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