11 / 12
ミッション2 ボーイミーツガール!? 彼女は銀海よりの使い?
第10話 要救護者は名無しの姫君(1/2)
しおりを挟む
蛍の口にした「きな臭い」というフレーズが妙に気になったが、その詳細を尋ねるよりも先に、鋼助には果たさなくてはならない義務がある。
「隊長室」とある扉の前。────目覚めた鋼助には今回の事態の詳細を、この船の長たる人物へ報告する義務があるのだ。
「玄野鋼助、只今より職務に復帰しました! 和明(かずあき)隊長、お時間よろしいでしょうか!!」
最奥のデスクには一人の強面かつ大柄な男が腰掛けている。大隈(おおくま)和明隊長。人命救助に特化した隊の重要性を上層部に訴えかけ、第六救助隊を新設。そこに集った船員たちをまとめ役を務め上げる豪傑でもある。
「し、失礼します!」
鋼助は大隈と話す際、いまだに緊張を隠せずにいた。
その要因は、部下と上司という関係性も勿論ある。しかし、その最たるは、彼のなかなかに強烈な人柄に起因していた。
「あらぁ、鋼助チャン。ようやく目が覚めたのね」
和明の表情がパッと明るくなる。
名前通りの熊みたいな巨漢から、女性らしい言葉遣いが飛び出すのだから、そのギャップには思わず面を食らってしまうだろう。今ではそれなりに慣れもしたが、第六救助隊に入ったばかりの頃は、その迫力に圧倒されっぱなしだった。
「うーん……それにしてもどっちがいいのかしら」
和明のデスクには二枚のお面が置かれていた。確か、日曜朝に放映している女児向けアニメのキャラクターのものだったか。それを交互に見比べては、彼が唸っている。二人組のヒロインのどちらを付けようかで迷っているようだった。
「あの隊長……もしかして、そういう趣味もあるんですか?」
「違うわよ。私の趣味はコッチ系ってだけ。けど、そうね……鋼助チャンみたいな可愛い坊やも好みかも。ペロリと食べちゃいたいくらい」
和明は左頬に手を添えて「おホホ」と笑う。最後に甘いハートが付きそうなトーンに思わず、背筋が凍り付く。
「なーんて、最後の方は冗談よ」
「いや、冗談に聞こえませんから! ………というか結局そのお面は何です? ウチの船の売店ってたまに変なものまで揃えてますけど、そこで買ったんですか?」
「まぁ、そんなところよ。貴方の助け出した、あの眠り姫チャン。彼女が目覚めたらアタシも色々と話を聞かせてもらいたかったんだけど。皆して、寝起きに隊長のインパクトは強すぎるからダメとか言い出すのよ! まったく失礼しちゃうわよね!」
それは的確な判断であろう。
「寝起きに隊長が現れたりなんかしたら、俺でも卒倒しちゃいますよ」
「あら、何か言ったかしら?」
鋼助はすかさず目をそらす。
どうやら和明が女児向けアニメのお面で悩んでいたのは、そのインパクトを少しでも和らげようとしてのことらしい。
「鋼助チャンはどう思う? こっちの赤い子か水色の子。二人とも可愛いけど、アタシもこういうのはよく分からなくって」
「……多分、どっち選んでも関係ないですよ。というか、少し冷静になってください。強面な大男がオネエ口調で喋っていて、オマケにお面で顔まで隠れているんですよ。キャラの大渋滞ってレベルじゃありませんって」
和明は隊長としておおむね優秀な人物だといってよい。
日頃から船員とのコミュニケーションを欠かさず、状況を俯瞰で見ることもできる。なんだかんだで〈こんぺき〉の船員からは慕われているし、いざという場面での統率力だって高い。あの巨大ハイドラに襲われた時だって、前線に立って皆を扇動したのは蛍だったが、彼女にそうするよう指示を出していたのは和明なのだ。
まぁ、その反動で奇行の類も目立ってしまうわけだが。
「けど、隊長がわざわざ話されるんですか? 彼女のカウンセリングならドクター姉崎が。聴取なら俺や蛍先輩が適任だと思われるのですが」
「まぁ、普段ならそうなんだけどね……実は今、だいぶきな臭いなことになってるのよ……」
またも「きな臭い」と。和明からも蛍が口にしたものと同じフレーズが飛び出した。
どうにも言葉の歯切れが悪いまま和明は眉間に皺を寄せて、瞳を伏せる。
ことの発端は数時間前。和明の元に特務海上保安庁の上層部から、ある一報が届いたことが始まりだった。
「単刀直入に言うわね。貴方が保護した少女。彼女の身柄を上層部が要求してきたの────『保護した少女の身柄を即刻、問答無用で此方へ引き渡せ。また保護した少女についての口外を禁じる』だ、そうよ」
「えっ……なんですかそれ」
それは、きな臭いの一言どころではないんじゃないだろうか。
なにより、「口外を禁ずる」という一文がわざわざ付け加えられていることが不自然である。
「お尋ねしたいのですが……本当にそれは正当な要求なんでしょうか?」
「どうなのかしらね……ただ、どこからか眠り姫チャンの話が外に漏れちゃったみたいで」
けれど、鋼助が動揺するのも無理はない。和明でさえ、上層部からこのような強引な迫られ方をされたのは初めてのことなのだから。
「確かにドクターの話では、あの娘も普通の体質とは言い難いのかもしれません……けど、それだけですよね?」
「それだけで上層部が、こんな強引な要求を出すわけがない!」と、鋼助はそう続けようとした。
だが、その言葉も和明の重い一言によって遮られてしまった。
「困ったことに、それだけじゃないのよ。────どうやら彼女も記憶喪失らしいんだから」
「隊長室」とある扉の前。────目覚めた鋼助には今回の事態の詳細を、この船の長たる人物へ報告する義務があるのだ。
「玄野鋼助、只今より職務に復帰しました! 和明(かずあき)隊長、お時間よろしいでしょうか!!」
最奥のデスクには一人の強面かつ大柄な男が腰掛けている。大隈(おおくま)和明隊長。人命救助に特化した隊の重要性を上層部に訴えかけ、第六救助隊を新設。そこに集った船員たちをまとめ役を務め上げる豪傑でもある。
「し、失礼します!」
鋼助は大隈と話す際、いまだに緊張を隠せずにいた。
その要因は、部下と上司という関係性も勿論ある。しかし、その最たるは、彼のなかなかに強烈な人柄に起因していた。
「あらぁ、鋼助チャン。ようやく目が覚めたのね」
和明の表情がパッと明るくなる。
名前通りの熊みたいな巨漢から、女性らしい言葉遣いが飛び出すのだから、そのギャップには思わず面を食らってしまうだろう。今ではそれなりに慣れもしたが、第六救助隊に入ったばかりの頃は、その迫力に圧倒されっぱなしだった。
「うーん……それにしてもどっちがいいのかしら」
和明のデスクには二枚のお面が置かれていた。確か、日曜朝に放映している女児向けアニメのキャラクターのものだったか。それを交互に見比べては、彼が唸っている。二人組のヒロインのどちらを付けようかで迷っているようだった。
「あの隊長……もしかして、そういう趣味もあるんですか?」
「違うわよ。私の趣味はコッチ系ってだけ。けど、そうね……鋼助チャンみたいな可愛い坊やも好みかも。ペロリと食べちゃいたいくらい」
和明は左頬に手を添えて「おホホ」と笑う。最後に甘いハートが付きそうなトーンに思わず、背筋が凍り付く。
「なーんて、最後の方は冗談よ」
「いや、冗談に聞こえませんから! ………というか結局そのお面は何です? ウチの船の売店ってたまに変なものまで揃えてますけど、そこで買ったんですか?」
「まぁ、そんなところよ。貴方の助け出した、あの眠り姫チャン。彼女が目覚めたらアタシも色々と話を聞かせてもらいたかったんだけど。皆して、寝起きに隊長のインパクトは強すぎるからダメとか言い出すのよ! まったく失礼しちゃうわよね!」
それは的確な判断であろう。
「寝起きに隊長が現れたりなんかしたら、俺でも卒倒しちゃいますよ」
「あら、何か言ったかしら?」
鋼助はすかさず目をそらす。
どうやら和明が女児向けアニメのお面で悩んでいたのは、そのインパクトを少しでも和らげようとしてのことらしい。
「鋼助チャンはどう思う? こっちの赤い子か水色の子。二人とも可愛いけど、アタシもこういうのはよく分からなくって」
「……多分、どっち選んでも関係ないですよ。というか、少し冷静になってください。強面な大男がオネエ口調で喋っていて、オマケにお面で顔まで隠れているんですよ。キャラの大渋滞ってレベルじゃありませんって」
和明は隊長としておおむね優秀な人物だといってよい。
日頃から船員とのコミュニケーションを欠かさず、状況を俯瞰で見ることもできる。なんだかんだで〈こんぺき〉の船員からは慕われているし、いざという場面での統率力だって高い。あの巨大ハイドラに襲われた時だって、前線に立って皆を扇動したのは蛍だったが、彼女にそうするよう指示を出していたのは和明なのだ。
まぁ、その反動で奇行の類も目立ってしまうわけだが。
「けど、隊長がわざわざ話されるんですか? 彼女のカウンセリングならドクター姉崎が。聴取なら俺や蛍先輩が適任だと思われるのですが」
「まぁ、普段ならそうなんだけどね……実は今、だいぶきな臭いなことになってるのよ……」
またも「きな臭い」と。和明からも蛍が口にしたものと同じフレーズが飛び出した。
どうにも言葉の歯切れが悪いまま和明は眉間に皺を寄せて、瞳を伏せる。
ことの発端は数時間前。和明の元に特務海上保安庁の上層部から、ある一報が届いたことが始まりだった。
「単刀直入に言うわね。貴方が保護した少女。彼女の身柄を上層部が要求してきたの────『保護した少女の身柄を即刻、問答無用で此方へ引き渡せ。また保護した少女についての口外を禁じる』だ、そうよ」
「えっ……なんですかそれ」
それは、きな臭いの一言どころではないんじゃないだろうか。
なにより、「口外を禁ずる」という一文がわざわざ付け加えられていることが不自然である。
「お尋ねしたいのですが……本当にそれは正当な要求なんでしょうか?」
「どうなのかしらね……ただ、どこからか眠り姫チャンの話が外に漏れちゃったみたいで」
けれど、鋼助が動揺するのも無理はない。和明でさえ、上層部からこのような強引な迫られ方をされたのは初めてのことなのだから。
「確かにドクターの話では、あの娘も普通の体質とは言い難いのかもしれません……けど、それだけですよね?」
「それだけで上層部が、こんな強引な要求を出すわけがない!」と、鋼助はそう続けようとした。
だが、その言葉も和明の重い一言によって遮られてしまった。
「困ったことに、それだけじゃないのよ。────どうやら彼女も記憶喪失らしいんだから」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる