君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン

ユキトシ時雨

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ミッション2 ボーイミーツガール!? 彼女は銀海よりの使い?

第10話 要救護者は名無しの姫君(1/2)

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 蛍の口にした「きな臭い」というフレーズが妙に気になったが、その詳細を尋ねるよりも先に、鋼助には果たさなくてはならない義務がある。

「隊長室」とある扉の前。────目覚めた鋼助には今回の事態の詳細を、この船の長たる人物へ報告する義務があるのだ。

「玄野鋼助、只今より職務に復帰しました! 和明(かずあき)隊長、お時間よろしいでしょうか!!」

 最奥のデスクには一人の強面かつ大柄な男が腰掛けている。大隈(おおくま)和明隊長。人命救助に特化した隊の重要性を上層部に訴えかけ、第六救助隊を新設。そこに集った船員たちをまとめ役を務め上げる豪傑でもある。

「し、失礼します!」

 鋼助は大隈と話す際、いまだに緊張を隠せずにいた。

 その要因は、部下と上司という関係性も勿論ある。しかし、その最たるは、彼のなかなかに強烈な人柄に起因していた。

「あらぁ、鋼助チャン。ようやく目が覚めたのね」

 和明の表情がパッと明るくなる。

 名前通りの熊みたいな巨漢から、女性らしい言葉遣いが飛び出すのだから、そのギャップには思わず面を食らってしまうだろう。今ではそれなりに慣れもしたが、第六救助隊に入ったばかりの頃は、その迫力に圧倒されっぱなしだった。

「うーん……それにしてもどっちがいいのかしら」

 和明のデスクには二枚のお面が置かれていた。確か、日曜朝に放映している女児向けアニメのキャラクターのものだったか。それを交互に見比べては、彼が唸っている。二人組のヒロインのどちらを付けようかで迷っているようだった。

「あの隊長……もしかして、そういう趣味もあるんですか?」

「違うわよ。私の趣味はコッチ系ってだけ。けど、そうね……鋼助チャンみたいな可愛い坊やも好みかも。ペロリと食べちゃいたいくらい」

 和明は左頬に手を添えて「おホホ」と笑う。最後に甘いハートが付きそうなトーンに思わず、背筋が凍り付く。

「なーんて、最後の方は冗談よ」

「いや、冗談に聞こえませんから! ………というか結局そのお面は何です? ウチの船の売店ってたまに変なものまで揃えてますけど、そこで買ったんですか?」

「まぁ、そんなところよ。貴方の助け出した、あの眠り姫チャン。彼女が目覚めたらアタシも色々と話を聞かせてもらいたかったんだけど。皆して、寝起きに隊長のインパクトは強すぎるからダメとか言い出すのよ! まったく失礼しちゃうわよね!」

 それは的確な判断であろう。

「寝起きに隊長が現れたりなんかしたら、俺でも卒倒しちゃいますよ」

「あら、何か言ったかしら?」

 鋼助はすかさず目をそらす。

 どうやら和明が女児向けアニメのお面で悩んでいたのは、そのインパクトを少しでも和らげようとしてのことらしい。

「鋼助チャンはどう思う? こっちの赤い子か水色の子。二人とも可愛いけど、アタシもこういうのはよく分からなくって」

「……多分、どっち選んでも関係ないですよ。というか、少し冷静になってください。強面な大男がオネエ口調で喋っていて、オマケにお面で顔まで隠れているんですよ。キャラの大渋滞ってレベルじゃありませんって」

 和明は隊長としておおむね優秀な人物だといってよい。

 日頃から船員とのコミュニケーションを欠かさず、状況を俯瞰で見ることもできる。なんだかんだで〈こんぺき〉の船員からは慕われているし、いざという場面での統率力だって高い。あの巨大ハイドラに襲われた時だって、前線に立って皆を扇動したのは蛍だったが、彼女にそうするよう指示を出していたのは和明なのだ。

 まぁ、その反動で奇行の類も目立ってしまうわけだが。

「けど、隊長がわざわざ話されるんですか? 彼女のカウンセリングならドクター姉崎が。聴取なら俺や蛍先輩が適任だと思われるのですが」

「まぁ、普段ならそうなんだけどね……実は今、だいぶきな臭いなことになってるのよ……」

 またも「きな臭い」と。和明からも蛍が口にしたものと同じフレーズが飛び出した。

 どうにも言葉の歯切れが悪いまま和明は眉間に皺を寄せて、瞳を伏せる。

 ことの発端は数時間前。和明の元に特務海上保安庁の上層部から、ある一報が届いたことが始まりだった。

「単刀直入に言うわね。貴方が保護した少女。彼女の身柄を上層部が要求してきたの────『保護した少女の身柄を即刻、問答無用で此方へ引き渡せ。また保護した少女についての口外を禁じる』だ、そうよ」

「えっ……なんですかそれ」

 それは、きな臭いの一言どころではないんじゃないだろうか。

 なにより、「口外を禁ずる」という一文がわざわざ付け加えられていることが不自然である。

「お尋ねしたいのですが……本当にそれは正当な要求なんでしょうか?」

「どうなのかしらね……ただ、どこからか眠り姫チャンの話が外に漏れちゃったみたいで」

 けれど、鋼助が動揺するのも無理はない。和明でさえ、上層部からこのような強引な迫られ方をされたのは初めてのことなのだから。

「確かにドクターの話では、あの娘も普通の体質とは言い難いのかもしれません……けど、それだけですよね?」

「それだけで上層部が、こんな強引な要求を出すわけがない!」と、鋼助はそう続けようとした。

 だが、その言葉も和明の重い一言によって遮られてしまった。

「困ったことに、それだけじゃないのよ。────どうやら彼女も記憶喪失らしいんだから」
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