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EP07 現実改変EXTEND

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 夕星(ゆうせい)はヘッドセットを介することで〈エクステンド〉の操るのに必要な情報の全てを理解することが出来た。

 そんな自分でさえ、知り得ない機能がこの〈エクステンド〉には秘められているというのか?

『まず前提として。〈エクステンド〉に備えられた二丁の突撃機銃は、私たちARAS(エリアズ)が無理やり増設しただけの予備兵装に過ぎない。だから、その銃じゃ牽制こそ出来ても、君と同じエゴシエーターによって生み出された怪獣には通用しないんだ』

「待て待て、難しい専門用語がいっぱい出てきやがったぞ! もっと俺みたいなバカでも分かるように説明しやがれ!」

『失礼。君にも分かりやすく説明するのなら、そうだな。────いまの〈エクステンド〉には、奴を倒せる武器が搭載されていないんだ。ただの一つもな』
 
 夕星は今日まで〈エクステンド〉が怪獣に勝利する瞬間を幾度となく見てきた。けれど、その決着の全てが近接攻撃によって付いていたことに、今更ながら気付かされる。

 では、あの怪獣を倒すには、近接に持ち込み、殴り倒すしかないというのか?
〈エクステンド〉の右腕は完全に壊れてしまっている。そんな状態で敵に素手の殴り合いを挑むなど、無謀としか言いようがない

「理不尽もいいところだな、畜生ッ!」

 落胆にくれようと、そんな事情を怪獣は知り得なかった。伸ばされた両腕は、襟首の装甲を狙っている。

『おや、今度は柔道みたいだね』

「クソッ、本当に器用な奴だなッ……!」

 夕星は咄嗟に踏板(キックペダル)を蹴って、バックステップ。怪獣の爪は装甲をガリガリと削りながらも、〈エクステンド〉を捉えるには至らなかった。

 だが、次も避けられるとは限らない。それどころか夕星の三管器官は機体の急性動によってよって激しい負担を掛けられていた。

「うっぷ……」

 内臓をシェイクされて覚えたのは、激しい吐き気だ。何故ロボットもののアニメや漫画で、パイロットたちが揃いも揃ってスウェットのような専用のスーツを着込んでいるのか分かった気がする。あれは操縦者の貧弱な肉体を庇護するためにあるのだ。

「決めたぞ……この野郎を倒したら、絶対パイロットスーツを作るんだ。デザインもカッコよくて、機能性の高いヤツ!」

 なんて自分を鼓舞してみたが、それは強がりにしかならない。

〈エクステンド〉には、あの怪獣に通じる武器がないのだから。

『おいおい、そう熱くなるなよ。私たちARASが願いを叶えるためには、まだ〈エクステンド〉を失うわけにはいかないんだ』

  ノイズまみれの声が通信機越しに囁く。

『もちろん、乗り手である君もな。────それに言ったろう? 私が〈エクステンド〉の真の力を教えてやるって』

「だったら、勿体ぶってないで、早く教えやがれ!」

 こっちにはもう後がないのだ。夕星は噛みつかんとする勢いで吠えた。

「〈エクステンド〉が秘める力はにわかに信じ難いものだからな。どう伝えていいものか、私も迷っていてな」

「この際だッ! どんなミラクルでも信じてやるッ!」

 向こうから聞こえる「ジジ……ジジ……」というノイズ。またも彼女は笑いを押し殺しているのだろう。

『ならば教えよう、〈エクステンド〉の備える真の力。それは「現実改変能力」だ』

「現実……改変だと?」

『現実固定(メルマー)値に干渉し、君たちの日常を歪曲させうる力だ。もちろん、制約もあるし、なんでも好き勝手にできるわけじゃない。ただ、そうだな』

 効果の有効範囲は〈エクステンド〉を中心に半径一〇メートル程度。範囲内に存在する物質を一度砂塵に変換することによって、それらを材料に様々な武器を創り出すことができる、と彼女は語る。

『目には目を。歯に歯を。エゴシエーターにはエゴシエーターを。そうやって創られたエゴシエーター製の武器であれば、あの怪獣にも有効なはず』

 正直、彼女の説明は半分も理解できなかったし、容易に受け入れられるものではなかった。

 それに〈エクステンド〉にそんなチートじみた力が備わっていると仮定しても、その力をどう開放すればいいのか?

 夕星はコックピット中を見渡したが、それらしいスイッチを見つけることは叶わなかった。

「じゃあ……その現実改変能力を使うにはどうすれば良いんだよ?」

『簡単さ。君はただ目を閉じて、願うだけでいい。それだけで簡単に願いは叶うんだ』

「そんな、都合いいわけ、」

『そんな、都合いいわけがあるだろ? 君は既に「願い」の力で砂になった〈エクステンド〉を作り直してみせたんだから』

 しばしの沈黙の後に、夕星は深呼吸することにした。

 一度力を抜いて、解れ掛けていた集中の糸を紡ぎ直す。そうすれば、思考も次第にクリアーに漉き取っていくのがわかる。

 何が、願いは簡単に叶うだ? そうであれば、誰も苦労はしないのだ。

 だが、夕星はその僅かな可能性に縋らなければならない。あの怪獣を倒し、陽真里を守る為には────

「アンタの言い分はわかったよ……イチかバチか、やってやろうじゃねぇか!」

 瞳を閉ざし、願いを明瞭にイメージする。それに応えるように、辺りの建造物が砂塵と化して〈エクステンド〉の元へ集約された。

 そうやって形作られるのは紛れもない、一本の刀剣である。

『日本刀を模した実体剣か。ふふっ、王道を征くねぇ』

 何故だか、彼女の「うん、うん」と頷いていた。

 翡翠色をした双眸のカメラアイは輝きを増し、目の前の敵を睨みつける。対して怪獣が取るのは、前腕で上半身をガードするコンパクトな構えだ。ここにきて始まりのボクシングに戻してきたか。恐らくは刃による初撃を躱し、カウンターを狙う魂胆であろう。

「上等だ……こういうのはいつだって、ビビったら負けなんだよ」

 勝負は一瞬だ。創造した刃の間合いに怪獣が飛び込んでくる。その一瞬で、

「解除ッ!」

〈エクステンド〉は刀を投げ捨てた。掌(マニピュレーター)から離れたそれは、また一瞬で砂塵へと崩れ去った。

 きっと、怪獣は〈エクステンド〉の手元を存分に警戒してくれたのだろう。「わざわざ、武器を捨てるなんて、何かある」と。だからこそ、怪獣はその足を止める。

「フェイントに二度も乗せられんなよッ!」

 再び周囲の建造物が崩れ、砂塵が〈エクステンド〉の左拳を覆った。即席のボクシンググローブだ。

 タイマン。殊更、正面からの殴り合いとなればこちらも望むところなのだ。

 突き出した拳はモロで怪獣の顔面へと突き刺さった。さらに壊れた右腕を補強するように砂塵を集約。ギプスを形作り、無理やりにでも追撃のボディーブローをねじ込む。

「これで終わりだッ!」

 夕星は機体の右脚を振り上げた。三度舞い上がった砂塵は脛部に新たなブレードを創造し、〈エクステンド〉は渾身の胴回し蹴りを放ってみせる。
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