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EP20 未那月刀剣術

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麗華(れいか)は自分の額が切られたことを理解するのに、数秒を要した。

 ハラハラと前髪が落ちて。霞む白煙の向こうに、大太刀を鞘に納めるシルエットを目撃する。

「久しぶりだね、竜胆(りんどう)ちゃん。牽制のつもりが前髪までバッサリいっちゃったけど……うん、姫カットの方が似合っているし、問題はないね」

 自分がARAs(エリアズ)に籍を置いていた頃から変わらないふざけた態度に辟易した。

 麗華は苛立ち混じりに、彼女の名を吐き捨てる。

「貴様こそ、剣の腕が鈍ったんじゃないか? 未那月美紀(みなつきみき)ッ!!」

「ふふっ、果たしてどうだろうね」

 その手には愛用の拡声器は握られていない。それは身の丈ほどあろう大太刀を、両腕で存分に振るう為であった。

 彼女は剣柄に指を添えながら、夕星(ゆうせい)たちを庇うような位置に立つ。

「神室(かむろ)くん、君もよく務めを果たしてくれたね。〈エクステンド〉なしで竜胆ちゃん相手によく時間を稼げたものだよ」

「未那月先生……けど、先生がなんでここに⁉」

「……ん? なんでって、君が助けを必要としたからじゃないのかい?」

 未那月と共に廃ビルへ飛び込んだミサイルは、彼女が待機していた一室の砂塵に変換することで創り出されたものだった。

「私は咄嗟にミサイルに刃をブッ刺して、一緒に飛んできたのさ。君のエゴシエーター能力に呼ばれた気がしたからね」

 それはめちゃくちゃな理屈だった。エリアズの基地から廃ビルまでの距離を駆け抜けるミサイルに飛び乗って尚、振り落とされない彼女の身体能力は、明らな常識外れである。

「これでも足腰は鍛えてるんだ。剣技は趣味でね、鍛錬を怠る気にもなれないんだよ」

「……んな、馬鹿な」

 ひとつ分かったことがあるとすれば、助けを必要とした夕星のエゴシエーター能力がこのような結果を招くケースもあるということだ。もっとも、今回のケースに限っては「それに飛び乗ってこれる未那月が大概である」という前提付きなのだが。

「それよりも、今は藤森(ふじもり)委員長の措置からだ。これを使いたまえ」

 彼女が投げ渡したそれは、傷口に充てる止血パッチのようなものだった。

「ARAs製の救命シールさ。押し当てる面に染み込ませた生態ナノマシンが傷口を補修してくれる優れものだよ」

「貴様らの蘇生措置を私が呑気に見ているとでも」

「おっと、そうだったね」

 麗華の身体が粒子と化して、空間一体に溶け出していく。次に再構築される先は、未那月の懐。杖が狙う先も未那月の喉元一点だ。

「未那月刀剣術──牛(うし)式・居合」

 だが、それも引き抜かれた大太刀に阻まれた。流れるような未那月刀剣術の型式はそれだけで飽き足らず、杖を根元から断絶して見せる。

「もちろん、君のことも忘れてはいないよ。竜胆ちゃん」

 斬られた杖は金具が外れ、先端に収まっていた宝玉が無惨に足元へと転がった。 

「ッッ……⁉」

「神室くんに託したGPSを頼りに、この廃ビルへ医療スタッフと工作員を派遣しておいた。だから、私の勝利条件は極めてシンプルなんだ」

 未那月にとっての現場における勝利とは夕星と陽真理(ひまり)を殺されないことだ。

 その目標を達成する為の条件はたったひとつ。────その妨害を試みる竜胆麗華を無力化すること。

 そこまでの条件を脳内で整理した未那月は、獲物を見定めた獣のように踏み込んだ。彼女が握りしめた大太刀が空を裂いて、白銀の軌跡を残す。

「未那月刀剣術──寅(とら)式・袈裟堕トシ!」
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