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#24 雷撃vs重力操作
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破裂音が飛び交う中で、白夜と杵淵は睨み合っていた。白夜は気を引き締める。
杵淵の異能が"電撃"であることは承知していたが、少しかすっただけで神経が痺れるほどのものだとは思ってもいなかった。自らの武器である大太刀でさえ、必要であれば投擲するぐらいに思い切った戦術を杵淵はとってくる。油断ができない相手だ。
――杵淵の持ち手が微かに下がった。白夜は彼女の攻撃を予期して引き締める。
杵淵は大太刀を振るい、異能"電撃"を纏わせた斬撃を繰り出した。それは一閃、光の刃となって白夜へ向かって放たれる。
牽制攻撃というべきか。今回の戦闘でも今と同じく、さっきも起点として用いられていた。
さらに白夜はバーでの雪音との戦闘を思い出す。あの時も雪音にこれと似た斬撃を撃たれた。
さっきは異能で加重した拳で対抗したが、全てを相殺することはできなかった。そしてその隙に杵淵に接近され、ペースを握られた。――ならば。
白夜は今度は突っ込まず、その場で右手をかざして重力波を放った。それらは迫りくる斬撃とぶつかって轟音を響かせると、そのまま相殺しあう。
さらに白夜は重力波を放った。杵淵はそれを身を翻してかわすと、さらに大太刀で斬撃を飛ばす。
白夜もそれを横に躱して、お返しに重力波を放った。そこから二人の遠距離攻撃の打ち合いが始まった。
斬撃が地面を抉り、重力が壁を崩す。交互に放たれ躱されるそれは建物ばかりに被害が及んでいく。
――放たれた斬撃を白夜は体を横に倒しながら躱しつつ、左手で重力波を放った。杵淵はそれをこの撃ち合いで慣れた様子で最低限の動きで躱す。――が、その直後杵淵の体が揺れた。
「っ!」
白夜は左手で重力波を放つと同時に、彼女の回避を予測して"引き寄せる重力"を右手で放っていたのだ。杵淵が重力波の回避に"慣れてきた"のは、白夜も彼女の斬撃の回避に"慣れてきていた"ので予想できていた。
引き寄せの重力が杵淵の体を捕らえ、白夜へと引き寄せていく。
「くそっ……!」
「させねぇよ!」
杵淵は苦し紛れに大太刀に"電撃"を付与し、白夜に向かって投擲するも、それが彼へ届くことはなかった。手から太刀が離れた瞬間に、白夜の重力波がその太刀を吹っ飛ばしたのだ。太刀はくるくると舞って杵淵の背後の壁へ刺さる。
「――っ」
大太刀が吹き飛ばされ、杵淵は唇を噛み締めた。彼女は武器を持たないまま、白夜へ向かって引き寄せられてる。白夜はその先で拳を構えた。
――彼女の武器は剥いだ。これからはお互いに武器はなく、素手での殴り合いとなる。素手の勝負に持ち込めば、白夜が有利であるのは明白だった。
ある種の確信だった。白夜の瞳と意識は今からぶん殴る対象である杵淵の顔面にだけ向いていた。――だから、杵淵が引き寄せられる中、密かに左腕を後ろに回していることに気づけない。
――杵淵の背後の壁に刺さった大太刀が、ピクリと揺れた。同じくして、白夜の加重した右拳が杵淵の顔面へ放たれる。
「っ!」
しかし白夜の狙いは杵淵に読まれていて、彼の拳は顔面には届かず腕で防御された。右肩の切り傷がピリつく。しかしそれでも威力は本物だ。杵淵の体は勢いよく吹っ飛ばされる。
このままでは再び二人の間に距離が生まれ、また不慣れな遠距離攻撃による牽制が始まるだろう。だが白夜はそれを許す気はない。吹っ飛ぶ彼女を再び強い引き寄せる重力で捕らえた。
杵淵の体が空中でガクンと曲がり、再び白夜へ向かって引き寄せられる。今度は先ほどよりも引き寄せる力が強く、それに伴い引き寄せられる速度もかなり速い。
故に、防御は間に会わないだろう。白夜はそう考えていた。――聞きなれてきた声が彼の名前を呼ぶまでは。
「白夜っ!」
またしても雪音の怒鳴り声。こんな状況で白夜に忠告を叫べるなんて余裕がある、と憎まれ口を叩く時間が白夜にはなかった。
その声と同時に右側で何かを弾く音がさく裂する。白夜は視界の隅にその正体を見た。
――あの大太刀だ。杵淵の大太刀が、白夜の横から飛んできていた。それを白夜のもとに飛び込んできた雪音が刀で防御した音だった。
「くそっ!」
杵淵は舌打ちをする。白夜はすぐ我に返り、引き寄せた杵淵へボディブローをかました。やはり防御は間に合わなかったようで、それはしっかりと杵淵を捕らえた。
「――ッ!」
杵淵は白夜の拳に吹っ飛ばされつつ、左腕を大きく振るいあげた。すると雪音が相殺した大太刀が釣られて舞い上がり、彼女のもとへ戻っていく。
その瞬間を見て、白夜は刀と腕の間に細く光った線が繋がっていることに気づいた。
「糸か……!」
白夜が見たそれは、大太刀と杵淵の腕を繋ぐ糸だった。その糸を使って壁に刺さった大太刀を引き抜き、遠心力で勢いをつけて弧を描くかたちで横から白夜を攻撃したのだろう。
彼女が容易に太刀を投擲できたのも、糸で繋がっていて回収が楽だったからだ。そしてさっき投げた太刀を自ら拾い上げていたのは、糸の存在を隠すためのミスリード。
雪音がいなければ、白夜の腹が裂けていた。自らの油断もあったが、その戦術に白夜は関心する。関心しながらも、白夜はまたもや杵淵を引き寄せる重力で捕らえようと、右手をかざした。
しかしそれと同時に杵淵は何とか大太刀を手に戻していた。吹っ飛ばされながら、杵淵は白夜の引き寄せる重力を大太刀を振るい弾く。そしてそのまま壁へと激突した。
「助かった、雪音!」
「まだです」
杵淵の衝撃で砂ぼこりが舞う中、白夜は隣の雪音へ感謝を告げる。しかし彼女は壁へ吹き飛び砂ぼこりを舞わせた杵淵に対し、刀を振るって斬撃を放った。
容赦のない追撃だ。その冷気が纏った一閃は砂ぼこりをかきわけ、その奥にいる杵淵へと一直線に向かっていった。命中すれば纏った冷気により凍結する――実際にそれを白夜は経験していた。
「っ!」
それでも、その一閃が杵淵を捕らえることはなかった。
砂ぼこりが一気に霧散し、同時に雪音の一閃が新たな一閃とかち合い相殺される。砂ぼこりが消えた中心には、二本足で立ち大太刀を振るった杵淵の姿があった。
「効いたよ……まだ腹が痛ぇ」
苦笑いを浮かべ、白夜へそう告げる杵淵。大太刀を下して構える。
「へっ……連れてきた奴らはもう全滅か……。ガキ相手にこの醜態かよ……!」
白夜越しに、後ろの光景が杵淵に見えているのだろう。白夜は振り向かずとも、雪音が他の襲撃者を下したことを彼女のセリフ察する。
他の襲撃者を倒したからこそ、彼女は白夜の増援にきたのだ。白夜が杵淵に苦戦している間、雪音も雪音で自分のやることを全うしてていた。流石である。
雪音は刀を杵淵に向け、刺々しく警告した。
「武器を捨てなさい。貴女の負けです」
杵淵はゆっくりと一歩前に出る。白夜と雪音の両隣には後ろから武装した"スイレン"の兵が出てきて、一斉に短機関銃で杵淵に狙いを定めた。
異能力者の数でも、純粋な戦闘員の数でも杵淵は追い込まれている。勝ち目は極めて薄い。その戦力差もあって、人数差の水増しのためにか、雪音の後ろで戦闘向きではない理恵もちょろっと顔を出す。
「……確かに分が悪いね」
ずらりと並ぶ白夜たちを見据えつつ、杵淵は大太刀を振り下し構えた。――武器を捨てるつもりはないらしい。白夜の隣でそれを見た雪音は小さく息を吐いた。
「っ!」
「はぁっ!」
次の瞬間、杵淵が大太刀を斬り上げ、雪音も刀を振り下ろす。"雷撃"と"凍結"――それぞれの異能が込められた斬撃が放たれ、それは二人の間でぶつかり合った。
爆音と爆風が巻き上がる。その衝撃で天井についていたスプリンクラーが破壊され、大量の水が頭上から放たれた。霧のように水しぶきが舞い上がり、白夜たちは一瞬ひるむ。
「っ!」
壁が破壊される音が響き渡った。"その斬撃"の余波で爆風が晴れる中、白夜はハッとして音の方向に重力波を放った。が、それは杵淵に躱され外の柱を砕く。
「……っ」
白夜たちが怯んだ瞬刻に、杵淵は病院の壁を大太刀で破壊して外へと走り出していたのだ。一拍遅れて非異能力者の兵士たちが逃げる杵淵を狙い、短機関銃の引き金を引いた。
銃声が鳴り響く中で、雪音は白夜の裾を握る。
「私たちは射線外から杵淵を追いましょう!」
「ああ」
杵淵は外の駐車場で身のこなしと大太刀で銃弾を捌いていく。非異能力者の兵士たちは弾幕を切らさず、歩幅を合わせ距離をつめていった。
白夜と雪音、そして理恵は彼女に回り込む形で距離をつめた。全速力で院内の連絡通路を通り抜け、東の出入口から外に出る。
駐車場に出た白夜たちは杵淵の姿を追った。挟み撃ちは成功していて、銃弾をかいくぐる杵淵の背中が見える。しかしその距離はだいぶ離れていて、三人は早々に駆け出した。
が、白夜たちが杵淵に奇襲攻撃をかける前に、彼女の一閃が駐車場の車へ波及した。それは轟音と共に爆発して、地面を揺らす。黒い煤煙が噴出し、杵淵の姿が隠れた。
「姑息な……!」
雪音は飛び出すと、刀を振り上げた。太刀筋の圧により黒い煙は霧散していく。
と、そこに見えたのは一台の黒い車が煙をかき分けて病院の敷地内から出ていく様。――それを見た理恵は慌てて白夜の肩を引いた。
「これをあの黒い車に投げてください! はやく! 狙いは少しぐらいブレてもいい!」
「――任されたっ!」
理由は後で聞こう――白夜は理恵が差し出した半透明の『ダーツ』を走り去るハッチバックに投擲した。異能"重力操作"で速度と狙いは補正したが、しっかりと命中したかまでは判断しかねた。
その暴走車はそのまま駐車所の料金所のバーをぶち破り、隣接している二車線の国道へ躍り出た。それから複数の車をかいくぐりながら、視界の外へと消えていった。
「……逃げられちまったな」
生暖かい空気を吸いながら、白夜はぼそりとぼやいた。あの車に乗っていたのは杵淵であり、彼女の逃亡を許してしまったのは一目瞭然だった。
肩を落とす白夜。彼の肩を叩いたのは理恵だった。彼女は言う。
「及第点です。"ダーツは刺さりました"。ただでは転んでませんよ」
「……」
白夜は彼女を見返した。その瞳はまだ負けていない。
白夜が投げた半透明の『ダーツ』。あれが肝になっているのだろう。恐らく理恵の異能が関係している。彼女は自身の異能は戦闘向きではないと語っていた。ならば、どのような効果かは推測できそうだ。
白夜は小さく笑って言った。
「アンタの異能は『あのダーツで刺した物の居場所が分かる』みたいな感じか?」
「そんなところです」
理恵は茶色のくせ毛が入った短髪を抑えながら、唇を緩ませた。
装備を施した非異能力者たちが銃を揺らしながら駆け寄ってくる。雪音は彼らと合流し、指示を出していた。
「襲撃者ですが、確保できているのが三人。戦闘不能により意識不明なのが二人。杵淵は逃亡しましたが、私たちが追います。非異能力者の方々のAチームは戦闘不能な者の回収と束縛。Bチームは確保した襲撃者の方へ回ってください。こちら側の異能力者が彼らを捕縛しているはずです。補助をお願いします」
兵士たちは雪音の指示を聞き、二手に分かれて各々の任務に向かっていった。雪音も彼らに背を向けると、白夜と理恵の方へ足を踏み出す。
「私たちは杵淵を追いましょう。……理恵のダーツは機能してるよね?」
「はい。問題ありません。いつでも追えます」
雪音は理恵の答えに満足そうにうなずいた。。そして白夜を見ると、しっかりとした口調で告げた。
「恐らく杵淵は本拠地に向かうでしょう。……私たちは彼女を追い、そのまま私たちだけで本拠地に乗り込みます。今更降りるなんて言わせないので、覚悟を決めといてくださいね」
雪音はそう言って白夜の隣を通り過ぎた。白夜は振り返ると、笑って告げる。
「金剛寺の居場所がようやく分かるんだろ? ――ここで降りるなんて損じゃねえか」
白夜の言葉に、雪音は密かに微笑んだのだった。
杵淵の異能が"電撃"であることは承知していたが、少しかすっただけで神経が痺れるほどのものだとは思ってもいなかった。自らの武器である大太刀でさえ、必要であれば投擲するぐらいに思い切った戦術を杵淵はとってくる。油断ができない相手だ。
――杵淵の持ち手が微かに下がった。白夜は彼女の攻撃を予期して引き締める。
杵淵は大太刀を振るい、異能"電撃"を纏わせた斬撃を繰り出した。それは一閃、光の刃となって白夜へ向かって放たれる。
牽制攻撃というべきか。今回の戦闘でも今と同じく、さっきも起点として用いられていた。
さらに白夜はバーでの雪音との戦闘を思い出す。あの時も雪音にこれと似た斬撃を撃たれた。
さっきは異能で加重した拳で対抗したが、全てを相殺することはできなかった。そしてその隙に杵淵に接近され、ペースを握られた。――ならば。
白夜は今度は突っ込まず、その場で右手をかざして重力波を放った。それらは迫りくる斬撃とぶつかって轟音を響かせると、そのまま相殺しあう。
さらに白夜は重力波を放った。杵淵はそれを身を翻してかわすと、さらに大太刀で斬撃を飛ばす。
白夜もそれを横に躱して、お返しに重力波を放った。そこから二人の遠距離攻撃の打ち合いが始まった。
斬撃が地面を抉り、重力が壁を崩す。交互に放たれ躱されるそれは建物ばかりに被害が及んでいく。
――放たれた斬撃を白夜は体を横に倒しながら躱しつつ、左手で重力波を放った。杵淵はそれをこの撃ち合いで慣れた様子で最低限の動きで躱す。――が、その直後杵淵の体が揺れた。
「っ!」
白夜は左手で重力波を放つと同時に、彼女の回避を予測して"引き寄せる重力"を右手で放っていたのだ。杵淵が重力波の回避に"慣れてきた"のは、白夜も彼女の斬撃の回避に"慣れてきていた"ので予想できていた。
引き寄せの重力が杵淵の体を捕らえ、白夜へと引き寄せていく。
「くそっ……!」
「させねぇよ!」
杵淵は苦し紛れに大太刀に"電撃"を付与し、白夜に向かって投擲するも、それが彼へ届くことはなかった。手から太刀が離れた瞬間に、白夜の重力波がその太刀を吹っ飛ばしたのだ。太刀はくるくると舞って杵淵の背後の壁へ刺さる。
「――っ」
大太刀が吹き飛ばされ、杵淵は唇を噛み締めた。彼女は武器を持たないまま、白夜へ向かって引き寄せられてる。白夜はその先で拳を構えた。
――彼女の武器は剥いだ。これからはお互いに武器はなく、素手での殴り合いとなる。素手の勝負に持ち込めば、白夜が有利であるのは明白だった。
ある種の確信だった。白夜の瞳と意識は今からぶん殴る対象である杵淵の顔面にだけ向いていた。――だから、杵淵が引き寄せられる中、密かに左腕を後ろに回していることに気づけない。
――杵淵の背後の壁に刺さった大太刀が、ピクリと揺れた。同じくして、白夜の加重した右拳が杵淵の顔面へ放たれる。
「っ!」
しかし白夜の狙いは杵淵に読まれていて、彼の拳は顔面には届かず腕で防御された。右肩の切り傷がピリつく。しかしそれでも威力は本物だ。杵淵の体は勢いよく吹っ飛ばされる。
このままでは再び二人の間に距離が生まれ、また不慣れな遠距離攻撃による牽制が始まるだろう。だが白夜はそれを許す気はない。吹っ飛ぶ彼女を再び強い引き寄せる重力で捕らえた。
杵淵の体が空中でガクンと曲がり、再び白夜へ向かって引き寄せられる。今度は先ほどよりも引き寄せる力が強く、それに伴い引き寄せられる速度もかなり速い。
故に、防御は間に会わないだろう。白夜はそう考えていた。――聞きなれてきた声が彼の名前を呼ぶまでは。
「白夜っ!」
またしても雪音の怒鳴り声。こんな状況で白夜に忠告を叫べるなんて余裕がある、と憎まれ口を叩く時間が白夜にはなかった。
その声と同時に右側で何かを弾く音がさく裂する。白夜は視界の隅にその正体を見た。
――あの大太刀だ。杵淵の大太刀が、白夜の横から飛んできていた。それを白夜のもとに飛び込んできた雪音が刀で防御した音だった。
「くそっ!」
杵淵は舌打ちをする。白夜はすぐ我に返り、引き寄せた杵淵へボディブローをかました。やはり防御は間に合わなかったようで、それはしっかりと杵淵を捕らえた。
「――ッ!」
杵淵は白夜の拳に吹っ飛ばされつつ、左腕を大きく振るいあげた。すると雪音が相殺した大太刀が釣られて舞い上がり、彼女のもとへ戻っていく。
その瞬間を見て、白夜は刀と腕の間に細く光った線が繋がっていることに気づいた。
「糸か……!」
白夜が見たそれは、大太刀と杵淵の腕を繋ぐ糸だった。その糸を使って壁に刺さった大太刀を引き抜き、遠心力で勢いをつけて弧を描くかたちで横から白夜を攻撃したのだろう。
彼女が容易に太刀を投擲できたのも、糸で繋がっていて回収が楽だったからだ。そしてさっき投げた太刀を自ら拾い上げていたのは、糸の存在を隠すためのミスリード。
雪音がいなければ、白夜の腹が裂けていた。自らの油断もあったが、その戦術に白夜は関心する。関心しながらも、白夜はまたもや杵淵を引き寄せる重力で捕らえようと、右手をかざした。
しかしそれと同時に杵淵は何とか大太刀を手に戻していた。吹っ飛ばされながら、杵淵は白夜の引き寄せる重力を大太刀を振るい弾く。そしてそのまま壁へと激突した。
「助かった、雪音!」
「まだです」
杵淵の衝撃で砂ぼこりが舞う中、白夜は隣の雪音へ感謝を告げる。しかし彼女は壁へ吹き飛び砂ぼこりを舞わせた杵淵に対し、刀を振るって斬撃を放った。
容赦のない追撃だ。その冷気が纏った一閃は砂ぼこりをかきわけ、その奥にいる杵淵へと一直線に向かっていった。命中すれば纏った冷気により凍結する――実際にそれを白夜は経験していた。
「っ!」
それでも、その一閃が杵淵を捕らえることはなかった。
砂ぼこりが一気に霧散し、同時に雪音の一閃が新たな一閃とかち合い相殺される。砂ぼこりが消えた中心には、二本足で立ち大太刀を振るった杵淵の姿があった。
「効いたよ……まだ腹が痛ぇ」
苦笑いを浮かべ、白夜へそう告げる杵淵。大太刀を下して構える。
「へっ……連れてきた奴らはもう全滅か……。ガキ相手にこの醜態かよ……!」
白夜越しに、後ろの光景が杵淵に見えているのだろう。白夜は振り向かずとも、雪音が他の襲撃者を下したことを彼女のセリフ察する。
他の襲撃者を倒したからこそ、彼女は白夜の増援にきたのだ。白夜が杵淵に苦戦している間、雪音も雪音で自分のやることを全うしてていた。流石である。
雪音は刀を杵淵に向け、刺々しく警告した。
「武器を捨てなさい。貴女の負けです」
杵淵はゆっくりと一歩前に出る。白夜と雪音の両隣には後ろから武装した"スイレン"の兵が出てきて、一斉に短機関銃で杵淵に狙いを定めた。
異能力者の数でも、純粋な戦闘員の数でも杵淵は追い込まれている。勝ち目は極めて薄い。その戦力差もあって、人数差の水増しのためにか、雪音の後ろで戦闘向きではない理恵もちょろっと顔を出す。
「……確かに分が悪いね」
ずらりと並ぶ白夜たちを見据えつつ、杵淵は大太刀を振り下し構えた。――武器を捨てるつもりはないらしい。白夜の隣でそれを見た雪音は小さく息を吐いた。
「っ!」
「はぁっ!」
次の瞬間、杵淵が大太刀を斬り上げ、雪音も刀を振り下ろす。"雷撃"と"凍結"――それぞれの異能が込められた斬撃が放たれ、それは二人の間でぶつかり合った。
爆音と爆風が巻き上がる。その衝撃で天井についていたスプリンクラーが破壊され、大量の水が頭上から放たれた。霧のように水しぶきが舞い上がり、白夜たちは一瞬ひるむ。
「っ!」
壁が破壊される音が響き渡った。"その斬撃"の余波で爆風が晴れる中、白夜はハッとして音の方向に重力波を放った。が、それは杵淵に躱され外の柱を砕く。
「……っ」
白夜たちが怯んだ瞬刻に、杵淵は病院の壁を大太刀で破壊して外へと走り出していたのだ。一拍遅れて非異能力者の兵士たちが逃げる杵淵を狙い、短機関銃の引き金を引いた。
銃声が鳴り響く中で、雪音は白夜の裾を握る。
「私たちは射線外から杵淵を追いましょう!」
「ああ」
杵淵は外の駐車場で身のこなしと大太刀で銃弾を捌いていく。非異能力者の兵士たちは弾幕を切らさず、歩幅を合わせ距離をつめていった。
白夜と雪音、そして理恵は彼女に回り込む形で距離をつめた。全速力で院内の連絡通路を通り抜け、東の出入口から外に出る。
駐車場に出た白夜たちは杵淵の姿を追った。挟み撃ちは成功していて、銃弾をかいくぐる杵淵の背中が見える。しかしその距離はだいぶ離れていて、三人は早々に駆け出した。
が、白夜たちが杵淵に奇襲攻撃をかける前に、彼女の一閃が駐車場の車へ波及した。それは轟音と共に爆発して、地面を揺らす。黒い煤煙が噴出し、杵淵の姿が隠れた。
「姑息な……!」
雪音は飛び出すと、刀を振り上げた。太刀筋の圧により黒い煙は霧散していく。
と、そこに見えたのは一台の黒い車が煙をかき分けて病院の敷地内から出ていく様。――それを見た理恵は慌てて白夜の肩を引いた。
「これをあの黒い車に投げてください! はやく! 狙いは少しぐらいブレてもいい!」
「――任されたっ!」
理由は後で聞こう――白夜は理恵が差し出した半透明の『ダーツ』を走り去るハッチバックに投擲した。異能"重力操作"で速度と狙いは補正したが、しっかりと命中したかまでは判断しかねた。
その暴走車はそのまま駐車所の料金所のバーをぶち破り、隣接している二車線の国道へ躍り出た。それから複数の車をかいくぐりながら、視界の外へと消えていった。
「……逃げられちまったな」
生暖かい空気を吸いながら、白夜はぼそりとぼやいた。あの車に乗っていたのは杵淵であり、彼女の逃亡を許してしまったのは一目瞭然だった。
肩を落とす白夜。彼の肩を叩いたのは理恵だった。彼女は言う。
「及第点です。"ダーツは刺さりました"。ただでは転んでませんよ」
「……」
白夜は彼女を見返した。その瞳はまだ負けていない。
白夜が投げた半透明の『ダーツ』。あれが肝になっているのだろう。恐らく理恵の異能が関係している。彼女は自身の異能は戦闘向きではないと語っていた。ならば、どのような効果かは推測できそうだ。
白夜は小さく笑って言った。
「アンタの異能は『あのダーツで刺した物の居場所が分かる』みたいな感じか?」
「そんなところです」
理恵は茶色のくせ毛が入った短髪を抑えながら、唇を緩ませた。
装備を施した非異能力者たちが銃を揺らしながら駆け寄ってくる。雪音は彼らと合流し、指示を出していた。
「襲撃者ですが、確保できているのが三人。戦闘不能により意識不明なのが二人。杵淵は逃亡しましたが、私たちが追います。非異能力者の方々のAチームは戦闘不能な者の回収と束縛。Bチームは確保した襲撃者の方へ回ってください。こちら側の異能力者が彼らを捕縛しているはずです。補助をお願いします」
兵士たちは雪音の指示を聞き、二手に分かれて各々の任務に向かっていった。雪音も彼らに背を向けると、白夜と理恵の方へ足を踏み出す。
「私たちは杵淵を追いましょう。……理恵のダーツは機能してるよね?」
「はい。問題ありません。いつでも追えます」
雪音は理恵の答えに満足そうにうなずいた。。そして白夜を見ると、しっかりとした口調で告げた。
「恐らく杵淵は本拠地に向かうでしょう。……私たちは彼女を追い、そのまま私たちだけで本拠地に乗り込みます。今更降りるなんて言わせないので、覚悟を決めといてくださいね」
雪音はそう言って白夜の隣を通り過ぎた。白夜は振り返ると、笑って告げる。
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裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
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