醜い世界の綺麗な夢語り

トンボ

文字の大きさ
7 / 10

7 悪魔、少女を拾う

しおりを挟む

 目の前の少女は確かに今振り向いてこちらを見ている。魔力で操られている気配もない。生きているのだ。
 イブリースは駆けだして少女の首をつかみ、そのまま押し倒す。抵抗もなく細い少女の体が地面に打ち付けられた。打ち付けられあえぐ彼女を無視して、イブリースはそのまま毒ナイフを突き立てる。そして軽く頬に切り傷をつけて、そのまま見つめた。
 そのままの格好で数分が経った。少女の体に合わせた即効性の致死毒を与えたはずなのに、少女の生気は一向に衰えない。イブリースに鬼のような相貌で首を抑えられつけられているのにも関わらず、彼女は悲鳴すらあげないどころか瞳に涙すら浮かばなかった。その少女の無感情さはともかくとして、イブリースはある結論に至る。この少女は、毒に対して何か特別な耐性を持っているのだ。

 ならば。この少女を生きたまま食らえば、イブリースの毒はさらに強くなるのではないか。

 そんなことを思いながらナイフで彼女の腹を撫でてみるが、ちょっと考えてみる。イブリースの毒をこんな完全に発症させないということは、つまり悪影響を及ぼす前に毒を殺しているということではないだろうか。そんな強力すぎるもの食らった場合、イブリースの中に現存し、進化と生成を続けている毒すらも殺されてしまうという状況もあり得る気がしてきた。イブリースは魔法を司る5大魔属性、炎・水・木・光・闇の属性に対し、それらを扱える適正を持っていない。毒は、それらからは外れる副属性の中に位置する属性であり、他に相関関係を持つ属性もなく、この『毒』が消えてしまえばイブリースの戦力は一気にそがれてしまう。この少女を食らえば確かに毒が強化されるかもしれない。しかし、もしかしたらぶきを失う可能性もある。一か八か。
 焚火の薪がパキン、と沈黙の中で響き渡る。イブリースは少女から手を放して、落ちているランプを持ち明かりをつけると、本来の目的だった宝などが保管されている奥のくぼみに向かった。
 ランプの明かりに照らされ、確かに宝はあった。ネックレスや金貨、宝石のはめ込まれたナイフなど、ランプの光を反射させてその存在感を放っている。これほどのものを、あのオーガたちはどこから調達したのだろうか。気になるところであるが、今となっては分からずじまいだ。
 運びきるまでに何往復すればいいのだろうか、と頭を抱えて、焚火のところに戻って辺りを見回した。この宝を運び出すために使えそうな道具を探すも特に見当たらない。オーガたちはこの宝をここまで運んだのだから、運び込むための道具があるかもしれないと思ったのだが、奴らは道具を使わず巨体と人数を利用して運んだのだろう。はあ、ため息をついて座り、焚火にあたった。
 村の食料はいつまで持つだろうかとか、あの村の虐殺が大きめな街に伝わるのはいつになるだろうか、とか考えていると、いつの間にかあの少女がイブリースのそばに立っていた。そして小さな口を開く。

「あの大きいひとたちは……?」

 少女のか弱い声にイブリースはしばし黙った。大きいひとたち、というのは恐らくオーガたちのことだろう。彼女はオーガを嫌っていたはずだし、奴らの死亡を報告したところで別に何か起こるわけでもないだろう。けれど、イブリースの中で何かが引っ掛かっていた。この少女に対して、何か抱くものがある。それが何なのか、この時点では判明させることができなかったが。

「死んだ」

 ぶっきらぼうに、イブリースは焚火をいじくりながら言った。少女はショックを受けたとも分からない表情のまま、イブリースの隣に座って焚火をいじろうとする。

「わたしは、またひとりになるの……?」

 破り取られて布切れになったワンピースを手繰り寄せながら、彼女は焚火をぼんやりと見つめた。イブリースもしばし焚火の前で座り込んで、それから立ち上がるとランプを持って宝のあるくぼみへ向かう。

「手伝え。少しの間ぐらい、衣食住ぐらいは負担してやる」

「……? いーしょくじゅー?」

「……着るものと、食べるものと、住むところを用意してやるから手伝え」

「いっしょに?」

「少しの間だけ、だ」

 イブリースの言葉に、少女は何を思ったのか枯れ果てた瞳で不器用そうに微笑むと、彼の背中を追った。
 イブリースの言葉に嘘はない。だがそれも、彼女の持つ毒への耐性をイブリースの毒が上回るまで、という意味での少しの間、という話。つまり、イブリースの毒が彼女の耐性を上回ったときに喰らい、毒を強化するのために拾ったということだ。少女はイブリースの良心で拾われたと勘違いさせておいた方が色々と役に立つだろう。それに何かと利用価値もありそうだ。オーガが攫うだけはある。

「ありがとう」

 背後から聞こえる少女の感謝を振り切るかのように、イブリースは宝の前に身をかがめた。

「手伝え。これを運ぶ」

 少女はうなずくと、イブリースの隣に駆け寄って膝を地につけて宝を腕の中にかき集め始める。従順そうに見えるし、少しは使えるかもしれないとイブリースが思っていると、彼女の動きが止まり視線が宝の中の、とある品に釘付けになっていた。イブリースはその視線を辿って彼女の視線を釘付けにしている品を見る。宝石が柄の部分にかたどられた小さなナイフだ。
 別にひとつぐらい無くても大丈夫だろう、とイブリースはそのナイフを取って彼女によこした。「お大事に」と宝をかき集めながら言うと、少女はそれを手に取って胸の前で握りしめる。

「……うん」

 ついさっきイブリースに押さえつけられて頬を斬られたことをもう忘れてしまっているのか、少女はナイフを大事そうに握りしめて、それから焚火の方へかけていくと、大事そうにそのそばに置いて戻ってきた。すでに宝を腕の中にかき集めたイブリースの隣ですぐさま宝をたくさん掻き込むと、歩き出したイブリースの背中を負ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

処理中です...