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7 悪魔、少女を拾う
しおりを挟む目の前の少女は確かに今振り向いてこちらを見ている。魔力で操られている気配もない。生きているのだ。
イブリースは駆けだして少女の首をつかみ、そのまま押し倒す。抵抗もなく細い少女の体が地面に打ち付けられた。打ち付けられあえぐ彼女を無視して、イブリースはそのまま毒ナイフを突き立てる。そして軽く頬に切り傷をつけて、そのまま見つめた。
そのままの格好で数分が経った。少女の体に合わせた即効性の致死毒を与えたはずなのに、少女の生気は一向に衰えない。イブリースに鬼のような相貌で首を抑えられつけられているのにも関わらず、彼女は悲鳴すらあげないどころか瞳に涙すら浮かばなかった。その少女の無感情さはともかくとして、イブリースはある結論に至る。この少女は、毒に対して何か特別な耐性を持っているのだ。
ならば。この少女を生きたまま食らえば、イブリースの毒はさらに強くなるのではないか。
そんなことを思いながらナイフで彼女の腹を撫でてみるが、ちょっと考えてみる。イブリースの毒をこんな完全に発症させないということは、つまり悪影響を及ぼす前に毒を殺しているということではないだろうか。そんな強力すぎるもの食らった場合、イブリースの中に現存し、進化と生成を続けている毒すらも殺されてしまうという状況もあり得る気がしてきた。イブリースは魔法を司る5大魔属性、炎・水・木・光・闇の属性に対し、それらを扱える適正を持っていない。毒は、それらからは外れる副属性の中に位置する属性であり、他に相関関係を持つ属性もなく、この『毒』が消えてしまえばイブリースの戦力は一気にそがれてしまう。この少女を食らえば確かに毒が強化されるかもしれない。しかし、もしかしたら毒を失う可能性もある。一か八か。
焚火の薪がパキン、と沈黙の中で響き渡る。イブリースは少女から手を放して、落ちているランプを持ち明かりをつけると、本来の目的だった宝などが保管されている奥のくぼみに向かった。
ランプの明かりに照らされ、確かに宝はあった。ネックレスや金貨、宝石のはめ込まれたナイフなど、ランプの光を反射させてその存在感を放っている。これほどのものを、あのオーガたちはどこから調達したのだろうか。気になるところであるが、今となっては分からずじまいだ。
運びきるまでに何往復すればいいのだろうか、と頭を抱えて、焚火のところに戻って辺りを見回した。この宝を運び出すために使えそうな道具を探すも特に見当たらない。オーガたちはこの宝をここまで運んだのだから、運び込むための道具があるかもしれないと思ったのだが、奴らは道具を使わず巨体と人数を利用して運んだのだろう。はあ、ため息をついて座り、焚火にあたった。
村の食料はいつまで持つだろうかとか、あの村の虐殺が大きめな街に伝わるのはいつになるだろうか、とか考えていると、いつの間にかあの少女がイブリースのそばに立っていた。そして小さな口を開く。
「あの大きいひとたちは……?」
少女のか弱い声にイブリースはしばし黙った。大きいひとたち、というのは恐らくオーガたちのことだろう。彼女はオーガを嫌っていたはずだし、奴らの死亡を報告したところで別に何か起こるわけでもないだろう。けれど、イブリースの中で何かが引っ掛かっていた。この少女に対して、何か抱くものがある。それが何なのか、この時点では判明させることができなかったが。
「死んだ」
ぶっきらぼうに、イブリースは焚火をいじくりながら言った。少女はショックを受けたとも分からない表情のまま、イブリースの隣に座って焚火をいじろうとする。
「わたしは、またひとりになるの……?」
破り取られて布切れになったワンピースを手繰り寄せながら、彼女は焚火をぼんやりと見つめた。イブリースもしばし焚火の前で座り込んで、それから立ち上がるとランプを持って宝のあるくぼみへ向かう。
「手伝え。少しの間ぐらい、衣食住ぐらいは負担してやる」
「……? いーしょくじゅー?」
「……着るものと、食べるものと、住むところを用意してやるから手伝え」
「いっしょに?」
「少しの間だけ、だ」
イブリースの言葉に、少女は何を思ったのか枯れ果てた瞳で不器用そうに微笑むと、彼の背中を追った。
イブリースの言葉に嘘はない。だがそれも、彼女の持つ毒への耐性をイブリースの毒が上回るまで、という意味での少しの間、という話。つまり、イブリースの毒が彼女の耐性を上回ったときに喰らい、毒を強化するのために拾ったということだ。少女はイブリースの良心で拾われたと勘違いさせておいた方が色々と役に立つだろう。それに何かと利用価値もありそうだ。オーガが攫うだけはある。
「ありがとう」
背後から聞こえる少女の感謝を振り切るかのように、イブリースは宝の前に身をかがめた。
「手伝え。これを運ぶ」
少女はうなずくと、イブリースの隣に駆け寄って膝を地につけて宝を腕の中にかき集め始める。従順そうに見えるし、少しは使えるかもしれないとイブリースが思っていると、彼女の動きが止まり視線が宝の中の、とある品に釘付けになっていた。イブリースはその視線を辿って彼女の視線を釘付けにしている品を見る。宝石が柄の部分にかたどられた小さなナイフだ。
別にひとつぐらい無くても大丈夫だろう、とイブリースはそのナイフを取って彼女によこした。「お大事に」と宝をかき集めながら言うと、少女はそれを手に取って胸の前で握りしめる。
「……うん」
ついさっきイブリースに押さえつけられて頬を斬られたことをもう忘れてしまっているのか、少女はナイフを大事そうに握りしめて、それから焚火の方へかけていくと、大事そうにそのそばに置いて戻ってきた。すでに宝を腕の中にかき集めたイブリースの隣ですぐさま宝をたくさん掻き込むと、歩き出したイブリースの背中を負ったのだった。
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