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洞窟の中からオーガたちの持っていた宝を全て運び終えると、手押し車の荷台は半分ほど埋まった。イブリースはその光景を見て一息つく。その隣で少女は貰ったナイフを太陽にかざしていた。
「行くぞ」
イブリースは手押し車を押し始める。少女もナイフを大事そうに握りしめて、イブリースと共に手押し車を押そうとするも、そもそも手押し車はひとりで押すことを想定して造られているため、はっきり言って邪魔でしかない。イブリースはいったん止まった。
「邪魔。お前は押さなくていい」
少女が残念そうな顔つきで手押し車から離れると、それを見たイブリースは再び車を押し始めた。少女はそのあとをトボトボついてくる。
しばらく歩くとようやく村に帰ってこれた。何だかさっきよりも道のりが長く感じたが気のせいだろう。オーガによって壊された門を通ってそのまま死骸の咲いた庭を通っていく。
「ひっ」
村の中には内臓をむき出しで転がっている人の死体の数々と、部分的に破裂しほとんど原型をとどめることなく死滅したオーガ、そしてそれらにたかる大量の蛆虫という光景が広がっており、それらを見た少女は立ち止まって震えた手で口を抑えた。大事そうに持っていたナイフが音を立てて地面に落ちる。カラカラと手押し車を押す音だけがその空間を支配していた。
黙々と進むイブリースを見て、少女は震えが止まらずとも落としたナイフを拾い、イブリースの背中まで走った。それから先ほどと同じ歩調で彼の後ろをトボトボ歩き出すと、少女は静かにその震えた唇を動かす。
「わるいひと、なの?」
その言葉にイブリースの足取りが止まる。そして睨みつけるかのように鋭い目線を後ろに向けて、イブリースは言った。
「この世には悪い奴しかいねぇよ」
少女がその言葉の裏にあるものを感じ取れたのかは分からない。イブリースは踵を返すと手押し車を押して、トロメーオ宅の前に止めた。その言葉を聞いてしばし立ち尽くしていた少女も、音をたてていた手押し車の音が消えると同時にはっと意識を回帰させて、すぐさまイブリースのもとへ駆け寄った。
「入るぞ」
少女がうなずくのを見て、イブリースは玄関の扉を開いて自らは家に入らず少女だけを入れる。少女はイブリースは入らないの、と言わんばかりに首をかしげて困ったようにイブリースを見上げた。
「まずは風呂に入って体を洗え。それから確か娘がいたはずだから、その娘の部屋を探して服を出して着ろ。俺は外に出てるから、戻ってくるまで家の中で適当に休んでな」
不安そうな表情でうなずく少女。そういえばこの少女は元々捨て子で、この村での扱いは良いものではなかったようだった。
「もう誰もいないから安心しろ」と、ふいに少女の頭を撫でてしまうイブリース。その行為に気づいたころにはハッとして、弾くように少女から手を離した。こいつはただの餌なのに、と毒づいて自分に喝を入れる。情を移せば移すほど、食べるときにつらくなるだけだ。
そんなイブリースの心情を知らない少女は、彼のその意外な行動に嬉しそうに頬を赤く染めると、そのまま家の中へ駆け出して行った。そういえば彼女は裸足だった。ケガをしてないか、彼女が走っていった廊下の床を見るも大した異常はなく、そのまま扉を閉じてその家を後にした。
イブリースは食料小屋のところまで行く。その小屋には併設された小さなデッキがあり、その上には丸テーブルとそれを囲む3つの椅子があった。イブリースはそのうちのひとつに腰をかけ、懐から持っている限りのナイフをテーブルに並べた。残り6本。どこかで補充しないと、と思いながら手のひらを広げて念じてみる。
ナイフの造形が立体的に半透明で現れるが、それに実体はない。イブリースはそれを握り潰す。イブリースの毒は、未だ構築力が付与されるまでに至っていないようだ。火属性の魔法を極めると、炎の剣を魔力で無から造り出すことができると聞いたあの日から、自分の毒でも同じようなことができるのではないかと思い、その時からこういう試みを行ってきた。この感じだと、恐らく次の襲撃が成功して、幾人かを食えば毒から造形されたナイフの構築もできるようになるだろう。
イブリースが持っていた、かつて住んでいた村から勝手に持ち出した宝剣は、現在あの手押し車の中にある。あの剣は特殊なようで、何故かイブリースの毒を弾き押し出してしまい、毒を仕込むことはできいない。故に飾りの一部の扱いとなっていた。ただの剣として使うには申し分ないが、それを使うよりも一撃当てれば勝てる毒を塗ったナイフを使った方が強いのは誰が見たってわかる。
肘をついてぼーっとしていたら、唐突に眠気が襲ってきた。もう夕暮れになる。今寝るわけにはいかないが、それでも睡魔は構わずイブリースを襲う。
がた、とイスを動かす音が聞こえた。見てみると、隣の椅子にあの少女が座ったようだ。イブリースはテーブルに並べたナイフを全てしまう。
「家の中で休んでろよ」
イブリースがそう言うも、彼女は「んー」と伸び伸びとテーブルの上に突っ伏した。さっきまでの破けてほとんど裸同様だったワンピースとはうってかわって、上質な布の素材が使われている、エメラルドグリーンのラインが入った――あまり服について詳しくないので、正式な名称は分からないのだが――ドレスとワンピースがくっついたような服を着ている。長い髪もちゃんと洗われており、べたつきがなくなっていた。
「……飯にするか」
「うん」
立ち上がるイブリースに、少女も嬉しそうに椅子からぴょんと飛び降りる。
いやに懐かれてしまった、とガクリと肩を落とすイブリースとは対照的に、少女は楽しそうに肩を揺らしていた。
「行くぞ」
イブリースは手押し車を押し始める。少女もナイフを大事そうに握りしめて、イブリースと共に手押し車を押そうとするも、そもそも手押し車はひとりで押すことを想定して造られているため、はっきり言って邪魔でしかない。イブリースはいったん止まった。
「邪魔。お前は押さなくていい」
少女が残念そうな顔つきで手押し車から離れると、それを見たイブリースは再び車を押し始めた。少女はそのあとをトボトボついてくる。
しばらく歩くとようやく村に帰ってこれた。何だかさっきよりも道のりが長く感じたが気のせいだろう。オーガによって壊された門を通ってそのまま死骸の咲いた庭を通っていく。
「ひっ」
村の中には内臓をむき出しで転がっている人の死体の数々と、部分的に破裂しほとんど原型をとどめることなく死滅したオーガ、そしてそれらにたかる大量の蛆虫という光景が広がっており、それらを見た少女は立ち止まって震えた手で口を抑えた。大事そうに持っていたナイフが音を立てて地面に落ちる。カラカラと手押し車を押す音だけがその空間を支配していた。
黙々と進むイブリースを見て、少女は震えが止まらずとも落としたナイフを拾い、イブリースの背中まで走った。それから先ほどと同じ歩調で彼の後ろをトボトボ歩き出すと、少女は静かにその震えた唇を動かす。
「わるいひと、なの?」
その言葉にイブリースの足取りが止まる。そして睨みつけるかのように鋭い目線を後ろに向けて、イブリースは言った。
「この世には悪い奴しかいねぇよ」
少女がその言葉の裏にあるものを感じ取れたのかは分からない。イブリースは踵を返すと手押し車を押して、トロメーオ宅の前に止めた。その言葉を聞いてしばし立ち尽くしていた少女も、音をたてていた手押し車の音が消えると同時にはっと意識を回帰させて、すぐさまイブリースのもとへ駆け寄った。
「入るぞ」
少女がうなずくのを見て、イブリースは玄関の扉を開いて自らは家に入らず少女だけを入れる。少女はイブリースは入らないの、と言わんばかりに首をかしげて困ったようにイブリースを見上げた。
「まずは風呂に入って体を洗え。それから確か娘がいたはずだから、その娘の部屋を探して服を出して着ろ。俺は外に出てるから、戻ってくるまで家の中で適当に休んでな」
不安そうな表情でうなずく少女。そういえばこの少女は元々捨て子で、この村での扱いは良いものではなかったようだった。
「もう誰もいないから安心しろ」と、ふいに少女の頭を撫でてしまうイブリース。その行為に気づいたころにはハッとして、弾くように少女から手を離した。こいつはただの餌なのに、と毒づいて自分に喝を入れる。情を移せば移すほど、食べるときにつらくなるだけだ。
そんなイブリースの心情を知らない少女は、彼のその意外な行動に嬉しそうに頬を赤く染めると、そのまま家の中へ駆け出して行った。そういえば彼女は裸足だった。ケガをしてないか、彼女が走っていった廊下の床を見るも大した異常はなく、そのまま扉を閉じてその家を後にした。
イブリースは食料小屋のところまで行く。その小屋には併設された小さなデッキがあり、その上には丸テーブルとそれを囲む3つの椅子があった。イブリースはそのうちのひとつに腰をかけ、懐から持っている限りのナイフをテーブルに並べた。残り6本。どこかで補充しないと、と思いながら手のひらを広げて念じてみる。
ナイフの造形が立体的に半透明で現れるが、それに実体はない。イブリースはそれを握り潰す。イブリースの毒は、未だ構築力が付与されるまでに至っていないようだ。火属性の魔法を極めると、炎の剣を魔力で無から造り出すことができると聞いたあの日から、自分の毒でも同じようなことができるのではないかと思い、その時からこういう試みを行ってきた。この感じだと、恐らく次の襲撃が成功して、幾人かを食えば毒から造形されたナイフの構築もできるようになるだろう。
イブリースが持っていた、かつて住んでいた村から勝手に持ち出した宝剣は、現在あの手押し車の中にある。あの剣は特殊なようで、何故かイブリースの毒を弾き押し出してしまい、毒を仕込むことはできいない。故に飾りの一部の扱いとなっていた。ただの剣として使うには申し分ないが、それを使うよりも一撃当てれば勝てる毒を塗ったナイフを使った方が強いのは誰が見たってわかる。
肘をついてぼーっとしていたら、唐突に眠気が襲ってきた。もう夕暮れになる。今寝るわけにはいかないが、それでも睡魔は構わずイブリースを襲う。
がた、とイスを動かす音が聞こえた。見てみると、隣の椅子にあの少女が座ったようだ。イブリースはテーブルに並べたナイフを全てしまう。
「家の中で休んでろよ」
イブリースがそう言うも、彼女は「んー」と伸び伸びとテーブルの上に突っ伏した。さっきまでの破けてほとんど裸同様だったワンピースとはうってかわって、上質な布の素材が使われている、エメラルドグリーンのラインが入った――あまり服について詳しくないので、正式な名称は分からないのだが――ドレスとワンピースがくっついたような服を着ている。長い髪もちゃんと洗われており、べたつきがなくなっていた。
「……飯にするか」
「うん」
立ち上がるイブリースに、少女も嬉しそうに椅子からぴょんと飛び降りる。
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