傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第三章 コルマノン大騒動

101 間抜け

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「色々なものが暴れてたみたいだけど」

 『支配』の力を使い、地面を無理やり掬いあげ、バロットへと投げられた剣を止めたシルヴァは、そう言いつつ壊れかけた門から庭へと足を踏み入れた。

 亀裂が走り、きれいに整備されていたであろう庭の芝生はほとんど台無しになっている。屋敷の玄関辺りにはステフと思われる中年の男を囲うように、使用人と思われる者たちが膝をついたりしていた。

 その中でシルヴァはステフに対して言う。

「なんというか……とても総出だね。ところで、貴方がステフ・ライニー?」

 シルヴァに名指しされたステフは忌々しそうに噛みしめ、吐き捨てた。

「貴様は……貴様らは! 死んだハズじゃ……!」

「貴様ら……? 僕とシアン、死んでることになってたの?」
「……? よく分からないね……?」

 どういうわけか、ライニー家当主のステフはシルヴァとシアンが死んでいる思っていたようである。シルヴァの隣にいるシアンも彼の言葉に首を傾けた。

「まあ……」

 何がともあれ、シルヴァはボロボロになっているバロットと、不格好な芝生の上で倒れているサラを見る。

「内部抗争か何かは知らないけど、僕の目的はディヴィっていう役人のおっさんの捜索だから、貴方たちは好きにやってていいよ」

「ハッ……言ってくれるな」

 シルヴァは大げさ気味に手をヒラヒラと揺らし、余裕そうに笑って見せた。バロットはそれを見て小さく緩ませ、調子良く言う。

 そのやり取りに一瞬遅れて、シルヴァが『支配』で隆起させた土壌が崩れ始めた。それに伴い、その崩れた地面の向こう側にいた白髪の少年――シェルムがシルヴァと対面する。シェルムは隆起した地面の向こう側にいて、現れたシルヴァとシアンの声は聞こえていたものの、二人の顔は見えなかったようだ。

 二人の顔を初めて見るや否や、シルヴァはチッと舌打ちをする。

「横やりが入った……」

 シェルムは不機嫌そうな顔になりながらも、バロットと距離を取りながら移動し、その先に落ちていた槍を拾う。それはサラとバロットの二人と彼が戦った際、最初の方で使っていた武器だった。サラに投擲したっきりで、そのまま放置されていたのだ。

「バロット……サラ……俺が戦いやりたいのはお前ら二人であって、てめぇらじゃねぇんだよなぁ……? なんたって、

 そう言ってシェルムはくるりと上半身だけ振り向く。振り向いた先にいたのはステフたちだった。そして、シェルムの視線の先にいたのはステフの左右にいる二人の人物。彼に見られた彼らはピクリと肩を振るわせた。

「つっ立ってるだけがてめぇらの仕事か? 羨ましいなァおい! "A級"も名ばかりかァ!?」

「……っ!」

 シェルムの言葉に、"A級"と称された二人の男女は唇をかみしめると、男はククリ、女は薙刀の柄を握りなおした。そして二人ほぼ同時に抜刀する。

「……ステフ様は屋敷の中に! 使用人は私たちに続け! 私たちはあの二人を狙う!」

 その矛先は完全にシルヴァとシアンに向けられていた。女の掛け声を聞いた使用人たちも硬直から溶けたように、瞬時に各々の武器を構えなおす。ステフはその二人に踵を返すと、そのまま屋敷の中へ入り、思いっきり玄関の扉を閉めた。

 それらを見たシェルムはどこか面白くなさそうに舌打ちをして、バロットに向き直った。シェルムの眼に捕らえられたバロットは軽く笑って両手に新たなナイフを充填し、背後にいるシルヴァとシアンへと呼びかける。

「俺はこいつらの敵で、お前らもこいつらの敵だ。言いたいこと、分かるだろ?」

 バロットの言葉にシアンは息を呑む。
 シルヴァに至っては肩をすくめて少し拗ねるように言った。

「敵の敵は味方、とでも? 僕は君の連れの女に何度か斬られたんだけど」
「……水に流せ、めんどくせぇ。元はといえば"ディヴィとかいう奴がしくじったせい"だ。文句は全部、あの間抜けディヴィに言うんだな」

 シルヴァの文句にバロットは食いつかず、なかなかに興味深いことを発言する。

 バロットの言葉の中でディヴィという単語が出た瞬間にシアンの獣耳がぴくりと揺れた。シルヴァもじとりとバロットの背中を見つめ、それからため息とつくと懐から虚無の短銃セフル・ラサーサを取り出した。

 ――ディヴィ。その名前が出てくるとは。

 シルヴァは虚無の短銃を構え、"A級"と呼ばれた二人とその周囲にいる使用人たちを見据える。

 ディヴィはステフのバカ息子と一緒にいた役人だ。バカ息子が去ったあと、一緒にライニー家をどうするかの話し合いもした。そして彼は去り際にこう言ったのだ。

『何か動きをつかめれば、また報告しますね』

 小太りの男、ディヴィはハンカチで己の汗をぬぐいながら、そう言って『食事処-彩食絹華』を出て行った。

 その時はその言葉に対して、特に思うことはなかった。役人という立場からライニー家の動向を見張り、それを報告してくれるのだろう、ぐらいにしか。

 けれど、今この場所でバロットの口から彼の名前が出たということは、全く違うことを意味する。それは暗に、バロットとディヴィは繋がっていたということ。繋がりがあることが明白になった今、それがどういう意味を成すのかは簡単に理解できる。

 ディヴィは、バロットとサラという内通者スパイをライニー家に送り込んでいたのだ。ライニー家の動向をより深く探るために。

「……にしても」

 そこまで考えて、シルヴァはぼそりと呟く。
 内通者を作ったのは良いけれど、この状況を鑑みる限りは内通者であることがバレてしまったようだ。バロットの言うことを真に受けるならば、ディヴィが原因の様。それらの要因から、ディヴィは屋敷につかまっていることがほぼ確定になった。

「バレちゃお終いでしょ……」

 ディヴィの努力はたたえられるべきものだが、結果が伴わないことになってしまっている。シルヴァはため息をつくと、"A級"と呼ばれた二人を見つめて後ろのシアンへと言った。

「シアン。あの"A級"と呼ばれた二人、使用人たちの中では群を抜いて強いと思う。気をつけて」

 白髪の青年――シルヴァは彼がシェルムという名前であることはまだ知らない――が言った"A級"という言葉。彼らの相貌からして、その意は"A級冒険者"ということなのだろう。

 冒険者のランク付けとして、E~A、大きな壁を挟んでSに分けられる。単純に考えると、"A級"というのは二番手のランクであり、高位として受け取られる階級の冒険者だ。一筋縄ではいかないかもしれない。

「うん……分かった……!」

 シルヴァの声を聞いたシアンはうなずいて『液状武装』を鎌の形に変化させ、構える。

「……まァ、いいや。今度こそ殺ってやるよ、バロット」
「やってみろよ、シェルム」

 仕切り直し、再び屋敷での戦闘が始まった。
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