異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

文字の大きさ
33 / 93
異世界帰りへ④ 魔法は時として○○にもなります

お邪魔します

しおりを挟む
「パティ、左だ!」

「はいっ」

「右右下!」

「は、はぃいっ!」


 俺たちは町の外周で目下ぶよぶよ中。……じゃなかった。ぶよ退治中。遊んでいるわけではない。
 どうも落ちてきたぶよを手作業で移動させるのは効率が悪く、統率が取れないと上手くいかない。
 そこで『移動魔法』を使えばもっとそれっぽく操作できるのではないか――と考えたわけだ。

 あくまでお仕事であって、遊んでいるわけではない。ほんとだよ?


「左左、回転、下!」

「うぇぇぇっ!?」

「よっしゃ三連鎖!」


 さすがに賢者と言えど異世界のゲームシステムに順応するのは難しいらしく、俺の指示に目を回している。


「ちょ、ちょっときゆうけいしましょう!」

「えー。折角リズム良く降ってくるようになってきたのに」

「…………ハヤトさん、念のため訊いておきますけれど、遊んでいるわけじゃないですよね?」

「そんなわけないだろ!」


 俺はキリリと表情を作って、強く否定する。


「し、失礼致しました……。そうですよね。ハヤトさんは、いつも全力の人ですからっ」


 チョロいのは嬉しいんだけど、そこまでぜんぷくの信頼を寄せるのはかんべんしてほしい気もする。
 罪悪感がはんない。ぶよぶよ楽しい。


「んー。あっ、じゃあリルはどうだ? 王族で魔法が使えるだろ?」

「移動魔法はちょっと……」

「そっか。王族って言っても特定魔法が強く使えるってだけだったな」

「――うん」


 なんか、しおらしいな。
 一般人――それも男に混ざっていつしようけんめいに『ぶよ』を積んでいる姿は好感が持てるけれども。
 ま、できないんじゃあ、どうしようもないわけで。
 俺も下に落ちてきたぶよを手でむ作業に戻りますか。


『ぶよんっ』

「うわっ、なんだこいつ――!」


 急にとうめいのぶよが落ちてきた。

 …………やばい。これは嫌な予感がする。

 こわごわと空を見上げると、透明なぶよが横並びに表示され、更に赤いぶよが一つ――。
 俺は力の限りさけんだ。


「やばいやばいやばいやばい!! 速く消さないと大量の『お邪魔ぶよ』が落ちてくるぞ!! みんな詰めぇぇーーーーぇ!! 急いで消すんだぁぁぁぁぁっ!!」


 これ対戦だったの!? 一人プレイモードじゃなかったのか!?
 俺の叫びに呼応して、男衆がおおあわてで一つ一つ丁寧に消していく。


「違う! せめて二連鎖させないとあれ消えないから!!」

「ハヤトさん、私を使ってください!」

「よしっ、行くぞパティ! 右右回転下、左回転下、右回転回転下、左左回転回転下、右回転あやっぱ左左回転下!」

「うわわわわわわっ」

「できないなら出てくるなぁぁぁぁぁぁっ!!」

「指示をちゆうで変えるからですよ!!」


 こいつ、がいせん以来ほとんど役に立ってないな……。
 言い合っていると空にかげがかかり、スーッと風を切る音を鳴らしながら大量のお邪魔ぶよが降ってきた。
 しんのようなしんどうが大地に伝わり、市街地からはカタカタカタ……と、れんか何かがふるえてぶつかる音がした。


「大丈夫か!? 誰もつぶされてないか!?」


 あわてて落ちてきたところへると、俺が最初に声をかけた男性がこしから下をお邪魔ぶよに埋められていた。
 ――くそっ、これじゃだいさんだ!


「ちくしょうっ。重くないのに体が動かねえ……っ」


 …………そういや、こいつら激軽だったな。
 でもお邪魔ぶよは動かせないから、固定されてしまった――ってことか。


「あの、毎日この感じで?」

「ああ。誰も死んでないのが奇跡ってもんだ。…………だが、今日ばかりはダメかもな」


 こんな正体不明の生物が空から大量落下してきて、軽いのに動けなくさせられる人なんて出てきたら、そりゃきようだわ。
 畑を荒らすのかはわからないけれど、最大級にけいかいするのもうなずける。


「お邪魔ぶよを消すぞ! こいつの隣で色つきのぶよを消していくんだ!!」

「「「ラジャ!!」」」


 たのもしい男衆のかつやくもあって、そこら中のぶよと降ってくるぶよをパズルのように組み合わせながら、どうにかお邪魔ぶよを消していった。
 いよいよ本格的にゲーム感が出てきたな……。リアル体験のイースポーツって、なんか元も子もないような気がする。


『ぶよんっ』


 ――――そういや、さっきから城のほうで変な音がしている。
 俺は遠くはなれた城を…………いや、城の少し上、空との境界線の辺りをる。
 半透明のぶよが空にまり、ドドドドっと降っていった。


「敵はあそこだぁぁぁぁっ!!」

「敵!? 『ぶよ』以外にまだ敵がいるんですか!?」


 パティの移動魔法はこの場で役立つ。大したものではないが、走るよりは多少速い。
 だが城に行って、もし王族や貴族が相手だったとしたら、基本的に権力の犬であるこいつじゃ何の役にも立たない!


「リル、いつしよに行くぞ!」

「えっ、ええ!?」


 俺はリルの腕を掴んで半ば強引に連れ去ろうとする。


「ちょ、強引なのは好きだけどだめ! だめだからぁぁぁ!!」


 なんでそこまでていこうするのやら。さっきまで乗り気だったくせに。
 ……っていうか、強引なの好きなんだ。そうなんだ。ほう。


「ええいっ、暴れるな!」

「色々事情があるの! それとも暴力夫にでもなるつもり!?」

「ネトラレ妻に何も言う権利はねえよ!!」

「ひどっ。ネトラレ妻の何が悪いのよ! 人妻が好きなくせにじゆんしてるわ!!」


 まずい。今ここでこいつと不毛な言い争いをしていても|らち《らち》があかない。
 お邪魔ぶよってのは消せば消した以上に・・・・・・相手に飛んでいくから、無限大に総量を増やしていく。
 ――――最悪、世界をぶよが支配してしまう。


「じゃあお前、この世界がほろんでもいいのか?」

「ほろ――? まさかぁ。こんな可愛い『ぶよ』で世界が滅ぶなんて、ハヤトくんって冗談のセンス無いなぁ」


 急に普通の女の子っぽく、「やだぁ」なんて言い始めやがった。


「…………オーケーわかった。空を見ろ」

「空……?」


 リルは緊張感のかけもない表情で空を見上げる。
 どうも俺のせつぱくした表情を本気で冗談とかんちがいしていたらしい。失礼な奴だな!


「げっ。何あれキモい! まるの集合体ってなんでこんな気持ち悪いの!?」

「それはあれだ。集合体恐怖とか草間くさまさん作品恐怖とか……じゃない! とにかくあれが無限に増えていくんだぞ!? ゲームオーバーのがいねんがわからないと、どうしようもないんだ!!」

「えっと……、でもあたし、王族の中じゃ一番下で……」

「それは後で聞くから、今は急ぐぞ」

「う…………うん。そうだね。わかった!」


 やたらしぶったが、パティと同じく自分より上の位の人間が関係していたらどうにもできない、と言いたいのだろう。

 しかしそんなことは今、本当にどうでもいい。
 異世界帰りする前に異世界がめつなんてことになったら、笑い話にもできない。俺は日本に帰って、この異世界でのくだらない話を、笑って思い出したいんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...