異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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異世界帰りへ⑦ ○○を知る英雄は紳士と語る

マノン⑭ 食べる

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 きんちよう気味にマノンが夕食を口へ運ぶ。手がふるえているけれど、スプーンやフォークの使い方は問題ないどころか、れいだ。


しい……」


 些細ささいなことかもしれないけれど、再びリルと見合って破顔はがんしてしまう。
 妹のめんどうを見る兄ふうとか、そんな気分になってくる。


「遠慮なくどんどん食べてくれよ。――って、俺が作ったわけじゃないんだけどさ」

「よかったら今度、おはしの使い方も教えてあげましょうか?」

「ちょっと待て。はしの使い方なら俺のほうが教えられるだろ。生粋きっすいの日本人をめんなよ」

「日本向けのプロヒロインをあなどらないでほしいわ」


 こいつ、本気でプロヒロインって言葉を気に入ってやがるな。
 しかし養成学校では箸の使いかたまできっちり教えていたのか……。かりの無さはさすがだ。勝手なイメージだけれども、綺麗にお箸を使える女性というのは、良妻賢母りょうさいけんぼになりそうな印象がある。


「…………なあ、リル。一ついてもいいか?」

「どうしたの? 改まっちゃって」

「お前のネトラレ願望なんだけど……。本当に学校でたたまれたことが、全てなのか?」


 ようしよくヒロイン、プロヒロイン。
 なんにせよ、ろくでもない学校で仕上げられたはずのリルというれいじようは、ネトラレ願望以外は本当にかんぺきなんだ。
 日本のことを知って俺の好みをあくし、そして努力を重ねた結果、ヒロインの座を射止いとめた。
 そこに俺の意思が介在かいざいしていなかったことは問題ありだけれど、本当に好みを把握されていた俺は、しよけんれてしまうほどにかのじよを気に入ったわけだ。そこについては文句の付けようがない。
 でもりようさいけんとネトラレヒロインなんて、絶対に結びつかないだろう。そこに矛盾むじゅんを感じる程度の頭の良さぐらいは、リルなら確実に持っている。


「例えば……。寝取られ教育が始まって、生徒の中に混乱の一つぐらいは、あったんじゃないか」


 言うと、リルはわいらしく首をかしげて疑問をていした。


「無かったわよ? ああ、そういう性癖せいへきの人なんだ――って。特に問題なく、すんなり」

「そ、そうか……」

「もちろんドン引きする人はいたけれどね。うわぁ……って。まあ、『そういう人』のヒロインを育てる学校なんだから、納得するしかないわよね――って感じかな」

「そうかよ! つか俺のじゃなくて、じいさんのせいへきだからな!?」


 この国は英雄をなんだと思っているのだろうか……。できることなら生徒だった全員の誤解を解いて回りたい。俺にそんなとくしゆせい癖はないのだから。


「でも……。私は、本当に好意的に受け止めたの。多分、私だけ……ね」


 ということは、そもそもの素養のようなものがあったと言うことだな。


「――めかけの子だから……か?」

「うん――。私のお母さんは、元々別の人とけつこんしていた普通の平民だったの。それをお父さんが寝取って、産まれたのが、私…………。寝取られがなかったら、産まれていなかった命なのよ」


 重い……。
 もうネトラレ願望を否定しちゃいけなくなるんじゃないかな、というかくを決めて問うたわけだけれど、実際にリルの口から語られると想像以上の重苦しい事情だ。


「リルの両親は、仲が良かったのか?」

「良かった――から、正妻や他の王族からはうとまれたわ。王族は王族としか子供を作らないのが、この国にあるあんもくりようかいですし」


 王族は王族と――――。
 そうでなければ『王族だけが持つ魔法の才』が、世に出回ってしまうわけだ。王族が王族でいるためには、合理的で必要なことだったのだろう。


「この国は歴史が古くて王族の数も多いからな。近親にもならない――か」

「ええ。でも父は、暗黙の了解をおかして、母に当時の結婚相手がいても、構わずに母を愛した。……そのことを否定するなんて、私には無理。だって…………。それが愛じゃなかったら、なんなの?」


 だから重いって!
 ――――と、人の人生を重いとか軽いの一言で片付けるなんてのは、残念なことに俺の主義に反するわけで。
 戦場でたくさんの仲間が死んでいく中、俺はライカブルではない、もう一つのユニークスキルの特殊性もあって、人のちを沢山知ることとなった。


 特技継承スキル、『クロシード』。


 目の前で死んだ人間の特技を一つだけ継承するという、とんでもないユニークスキルだ。こんなものを強制じゆされて、やっぱりあの国王は頭がおかしいんじゃないかと思った。
 ただ……。
 死んでいく人の特技をぐと言うことは、俺が使い方さえちがえなければ、その人の人生をより意味のあるものへしようさせることができる――。じよじよに、そういう前向きなとらえ方をするようになっていった。
 努力で手に入れた特技、才能で持って生まれた特技、種類も会得えとく過程も十人十色で様々だ。
 総じて言えることは、死にゆく人の人となりを知れば、その特技がどういうもので、どう役だったのかを知ることができた。この情報は特技を使いこなす上で必要不可欠だ。
 そうして他人の人生に全力でれようとして、気付いた。


 ――――重くない人生なんて、そうそうない。


 どんだけチャラいように見えても、どれだけ豊かな家庭かんきようで育っていても、人生という長いスパンで物事を観察すると、なにかしら、重い部分がある。
 それがリルの場合には、『産まれ』や『生い立ち』にあったという話――――。


「一度、リルのおやさんと会って、話をしてみたいな」

「それは無理よ……」

「どうしてだ」

「五年前に、失踪しっそうしているから――」

「王族がしつそう?」


 それはおかしな話だ。王族は途轍とてつもなくめぐまれた地位にいて、権力もあり、不自由なく暮らしているはず。
 失踪なんてする必要がなさそうだし、そもそも、大事件になるだろう。


「じゃあ、母親は?」

「私が七歳の頃に、びようで――」


 ……こいつ。王族なのになんで、こんな重い人生を歩いているんだよ。
 それじゃあ俺がこの世界にしようかんされた辺りからずっと、親がいなかったってことじゃないか。それでめかけの子だからきらわれてるとか、身の回りのことは自分でやっているとか……。
 こんなの、王族令嬢どころか、むしろ不幸少女なんじゃないか?
 ――――俺だって召喚後は、とんでもない五年を経験させられてしまったからな。重い人生というものに、共感できるようになってしまった。


「あの…………」


 ついに俺が言葉を失っていると、遠慮気味にマノンがしゃべり出す。


「はじめて他人と食事する子がいる席で、する話なのですか?」


 土下座する勢いで頭を下げた。


『はじめて人と一緒にご飯を食べるよ。わーい』

『親父さんは』

『失踪』

『母親は』

くなりました』


 …………イヤすぎる。
 しかし、五年前に失踪、ね。
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