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異世界帰りへ⑧ その召喚術は○○を招く
召喚!
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翌日、目が覚めるとリルがそばにいて、俺の手を柔らかく握っていた。
ただ、そばで寝ていたラブコメ展開ではない。ベッドの端に腰掛けている。
「おい……。なんだこの手は」
「しっ! なんだか城の様子がおかしいのよ」
「手を握っている説明に、なっていないんだが」
どーせ、『こうして積極的にスキンシップを取れば、英雄様は簡単に落ちるでしょう』とか、学校で習ったんだろ? このプロヒロインめ。めっちゃドキドキするわ。朝からこれはダメだって。
ただ――――。リルは眉根を寄せて、真剣な面持ちだ。
こりゃ本当にラブコメ展開ではなさそうだな。
「お祖父様の居場所が、一晩わからなくなった――って」
「爺さんが? ――――そりゃ、国王が行方不明なんて一大事だわな」
「私も探しに行きたいんだけど……。ほら、あの部屋」
「――――ああ、ゲーム部屋か。どうせゲームして寝落ちとかしてんだろ? 歳を考えろっての」
と、まあ普段通りに、憎まれ口を叩いてみたのだけれど。
リルは黙って一度だけ、こくりと頷く。
「わかった。このタイミングで城が混乱してるってのは、絶好のチャンスだからな。あの部屋に行って、爺さんの所有ゲームを確認しよう。……爺さん自身がどこにいるかも、気になるしな」
ただ――――。もしかすると、目前まで危機が迫っているだけなのかもしれない。
国王が消えた。
もしこれが召喚と関係していることであれば、事態が一歩以上進展した可能性がある。あまり考えたくないことではあるが。
しかし国王不在の間にゲームコレクションを確認できれば、どのゲームのどんなキャラクターやモンスター、兵器を召喚することが理に適うのかを予想することができるし、なんならその場でゲームを破壊してしまえば召喚を止めることもできるかもしれない。
「マノンも連れて行くか? あいつの盗撮魔法でまずは居場所を確認できる」
「できれば……。でもこの状況で、出てきてくれるかな」
「魔法はともかくとして、慌ただしい城の中を移動するのは、嫌いそうだな」
しかしマノンにとっても重要な話である。俺たちは一旦通路へ出て、マノンの部屋のドアをノックした。
「――――どうぞ」
「おう、起きてたのか」
寝ていると思ったけれど、さては夜更かししてたか?
「国王がいなくなったらしい。例の盗撮魔法で探してくれないか?」
「……うん。わかった」
やけに素直だな。元気がない、という気もするけれど。
盗撮魔法の映像には、大きな魔法陣の前で、この国の言葉でもない何か特殊な言語を念仏のように唱える国王の姿が、映し出されていた。
「爺さんは召喚術の行使中――か。これは緊急事態だな」
「でも私たちでは、場所がわからないわ」
魔法は『国王』を見ているだけで『場所』を映しているわけではない。
「…………しゃーない。足を使って探すしかないな。まずは例の部屋から――。マノン、俺たちは爺さんを探しに行くけれど、どうする?」
「――行く」
どうも様子がおかしい。素直だけれど、どことなく疲れているような。
なんだ、この違和感。
「………………お前、ちゃんと寝たか?」
問うてもマノンは、答えてくれなかった。
「ははーん。さては寝られなかったな? はじめて人と食事して、興奮しちゃって」
「そ――っ、そんなことないのです!」
「結構、夜遅くまで話し込んだもんな」
「は、はい! そっちが原因です!」
大して変わらない気がするのだけれどね。
「……ふえふえふえふ。人と一緒に食事なんて、私にとっては些細なこと」
眠そうな目で無理して笑っているけれど、ほとんどの人にとっても些細なことだぞ?
でもやっぱりこの子は、引きこもり願望さえなければ、ただ不遇で友達が少ないだけの子だ。
昨日の夜は俺やリルの話を楽しそうに聞いていて、ひょっとしてアルコールでも入っていたか? と心配になったぐらいだけれど。
多分、素の感情が出ているだけだったのだろう。
「…………ねえ、マノンちゃん。ひょっとして心配で、寝られなかった……とか?」
心配――って、なんの話だ。
不思議に思って一旦リルを見ていた視線をマノンへ切り替えるが、なぜか鼻から下を枕に埋めながら、耳を真っ赤にしてこちらを見ている。
ライカブル――っと。
おうおう。八十パーセント強ってところか。昨日の夜は六十から七十パーセントってところだったのに、合わない間に上がるってのは結構なことで。
一人で勝手に好感度を上げていくなんて、これがもし恋愛感情ならば割と重症である。
でも。心配……? はて。俺には心当たりがないな。
「大丈夫だよ。どんなに確実な方法でも、ハヤトくんはそんなこと絶対にしないから。――――ね?」
リルが優しく言うと、マノンは黙ってゆっくり頷いた。
俺がやることで心配…………ああ、なるほど。
「そんなに連れ出されるのが心配だったのか? さすがに、寝てるところを無理矢理なんて、するわけないだろ」
ようやくわかって言うと、マノンは顔の半分を埋めていた枕を、俺の顔面へ投げつけたきた。
「ぶはッ!」
予想していなかったからノーガードで当たってしまった。ふっかふかに柔らかいから、別にいいけれど。
「ほんっと! ほんっとこの人はダメな大人です!! もしかして本当にしっ、て、……ずっと心配してたいたのに、もう!!」
「なんでそこまでキレる!?」
「……ハヤトくん、結構天然なところあるよね……。ライカブルがあるのにそれって、ちょっと…………ねぇ」
「いやいや、マジでわからないんだけど!? わかったならリルも教えてくれよ!!」
「教えるわけないでしょ。……はぁ」
重たーい溜め息を吐かれてしまう。次いで軽蔑するような視線を、高い好感度のまま投げかけてくる。
ハッキリ言って、理解不能。なんなんだ、このダメヒロインズは。
ただ、そばで寝ていたラブコメ展開ではない。ベッドの端に腰掛けている。
「おい……。なんだこの手は」
「しっ! なんだか城の様子がおかしいのよ」
「手を握っている説明に、なっていないんだが」
どーせ、『こうして積極的にスキンシップを取れば、英雄様は簡単に落ちるでしょう』とか、学校で習ったんだろ? このプロヒロインめ。めっちゃドキドキするわ。朝からこれはダメだって。
ただ――――。リルは眉根を寄せて、真剣な面持ちだ。
こりゃ本当にラブコメ展開ではなさそうだな。
「お祖父様の居場所が、一晩わからなくなった――って」
「爺さんが? ――――そりゃ、国王が行方不明なんて一大事だわな」
「私も探しに行きたいんだけど……。ほら、あの部屋」
「――――ああ、ゲーム部屋か。どうせゲームして寝落ちとかしてんだろ? 歳を考えろっての」
と、まあ普段通りに、憎まれ口を叩いてみたのだけれど。
リルは黙って一度だけ、こくりと頷く。
「わかった。このタイミングで城が混乱してるってのは、絶好のチャンスだからな。あの部屋に行って、爺さんの所有ゲームを確認しよう。……爺さん自身がどこにいるかも、気になるしな」
ただ――――。もしかすると、目前まで危機が迫っているだけなのかもしれない。
国王が消えた。
もしこれが召喚と関係していることであれば、事態が一歩以上進展した可能性がある。あまり考えたくないことではあるが。
しかし国王不在の間にゲームコレクションを確認できれば、どのゲームのどんなキャラクターやモンスター、兵器を召喚することが理に適うのかを予想することができるし、なんならその場でゲームを破壊してしまえば召喚を止めることもできるかもしれない。
「マノンも連れて行くか? あいつの盗撮魔法でまずは居場所を確認できる」
「できれば……。でもこの状況で、出てきてくれるかな」
「魔法はともかくとして、慌ただしい城の中を移動するのは、嫌いそうだな」
しかしマノンにとっても重要な話である。俺たちは一旦通路へ出て、マノンの部屋のドアをノックした。
「――――どうぞ」
「おう、起きてたのか」
寝ていると思ったけれど、さては夜更かししてたか?
「国王がいなくなったらしい。例の盗撮魔法で探してくれないか?」
「……うん。わかった」
やけに素直だな。元気がない、という気もするけれど。
盗撮魔法の映像には、大きな魔法陣の前で、この国の言葉でもない何か特殊な言語を念仏のように唱える国王の姿が、映し出されていた。
「爺さんは召喚術の行使中――か。これは緊急事態だな」
「でも私たちでは、場所がわからないわ」
魔法は『国王』を見ているだけで『場所』を映しているわけではない。
「…………しゃーない。足を使って探すしかないな。まずは例の部屋から――。マノン、俺たちは爺さんを探しに行くけれど、どうする?」
「――行く」
どうも様子がおかしい。素直だけれど、どことなく疲れているような。
なんだ、この違和感。
「………………お前、ちゃんと寝たか?」
問うてもマノンは、答えてくれなかった。
「ははーん。さては寝られなかったな? はじめて人と食事して、興奮しちゃって」
「そ――っ、そんなことないのです!」
「結構、夜遅くまで話し込んだもんな」
「は、はい! そっちが原因です!」
大して変わらない気がするのだけれどね。
「……ふえふえふえふ。人と一緒に食事なんて、私にとっては些細なこと」
眠そうな目で無理して笑っているけれど、ほとんどの人にとっても些細なことだぞ?
でもやっぱりこの子は、引きこもり願望さえなければ、ただ不遇で友達が少ないだけの子だ。
昨日の夜は俺やリルの話を楽しそうに聞いていて、ひょっとしてアルコールでも入っていたか? と心配になったぐらいだけれど。
多分、素の感情が出ているだけだったのだろう。
「…………ねえ、マノンちゃん。ひょっとして心配で、寝られなかった……とか?」
心配――って、なんの話だ。
不思議に思って一旦リルを見ていた視線をマノンへ切り替えるが、なぜか鼻から下を枕に埋めながら、耳を真っ赤にしてこちらを見ている。
ライカブル――っと。
おうおう。八十パーセント強ってところか。昨日の夜は六十から七十パーセントってところだったのに、合わない間に上がるってのは結構なことで。
一人で勝手に好感度を上げていくなんて、これがもし恋愛感情ならば割と重症である。
でも。心配……? はて。俺には心当たりがないな。
「大丈夫だよ。どんなに確実な方法でも、ハヤトくんはそんなこと絶対にしないから。――――ね?」
リルが優しく言うと、マノンは黙ってゆっくり頷いた。
俺がやることで心配…………ああ、なるほど。
「そんなに連れ出されるのが心配だったのか? さすがに、寝てるところを無理矢理なんて、するわけないだろ」
ようやくわかって言うと、マノンは顔の半分を埋めていた枕を、俺の顔面へ投げつけたきた。
「ぶはッ!」
予想していなかったからノーガードで当たってしまった。ふっかふかに柔らかいから、別にいいけれど。
「ほんっと! ほんっとこの人はダメな大人です!! もしかして本当にしっ、て、……ずっと心配してたいたのに、もう!!」
「なんでそこまでキレる!?」
「……ハヤトくん、結構天然なところあるよね……。ライカブルがあるのにそれって、ちょっと…………ねぇ」
「いやいや、マジでわからないんだけど!? わかったならリルも教えてくれよ!!」
「教えるわけないでしょ。……はぁ」
重たーい溜め息を吐かれてしまう。次いで軽蔑するような視線を、高い好感度のまま投げかけてくる。
ハッキリ言って、理解不能。なんなんだ、このダメヒロインズは。
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