異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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異世界帰りへ⑧ その召喚術は○○を招く

きらめく星と、二人のヒロイン――。

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 そろそろエンディングも近いか、なんて思っているところで、リルが顔を赤らめたまま近寄ってくる。


「あの――っ」

「どうした、リル?」


 見た目の可愛さなら百点満点。……だから、あんまり寄るな! 危険なんだよ!
 だが、俺はてっきりいつものプロヒロイン行動かと思っていたのに、どうも様子が違うようで――。リルははくしんの表情で、うつたえかけてきた。


「私を日本に連れて帰って!!」


 明らかに嘘偽うそいつわりのない、本気の言葉である。


「……いや、何を今更。ネトラレヒロインなんて連れて帰れるかよ」

「寝取られは…………あきらめ、る」

「なに?」


 耳を疑った。あのリルが、ネトラレをあきらめる?


「だって、その……。少なくとも今は、ハヤトくんのことが……っ」

「言うなよ。俺だって結構、ヒヤヒヤのつなわたりでれないようにしてんだ。絶対に言うなよ」

「で、でもっ」

「そもそも『少なくとも今は』って、それじゃダメなんだよ! あとで気が変わったら寝取られる気満々じゃねえか!」

「そう……だけど」

「少しは否定してくれないか!?」


 ――――いや、ちょっと待てよ。
 こいつを日本に連れて帰ることはできない。絶対だ。
 今になって気付いたけれど、もしリルが今更『ネトラレは諦める』と言ったところで、信用できるはずがない。

 ……だが。

 連れ帰るヒロイン以外とは恋愛しちゃダメだなんて、誰もそんなこと、言っていないのでは?
 とりあえず付き合ってみて、こいつのほんしようを十分に確かめる。そういう手段も、ひょっとしたら、あるんじゃないか?
 その間にもっと良い人が出てきて俺が浮気をしたって、寝取られの成立だ。文句は言うまい。あくまで本気にならない中での、危険なお遊び…………。



 ――――――――ごくり。



 俺ももう、二十一だ。こういう大人のせんたくをしたって、誰もとがめはしまい……。


「…………リル、ちょっと二人きりで、話をしようか」


 大人になろう。大人になって、そのあとのことは、そのあと考えよう。


「ハヤト――くん?」


 とくり、と、心臓が不思議なみゃくを打った。やばっ……。色んな制限を外して真っ正面から見ると、やっぱこいつ、可愛い――っ!


「トイレからもどってきましたぁ!!」


 リルとめ合って良い感じのふんだったのに、いきなりマノンの声がひびいた。
 そういやいたなー。このロリっこ。
 お前とは火遊びができないから、今は用がないのだけど。


「途中でパティさんから教わってきましたよ! 究極の攻撃魔法を!」


 あれ? こいつの情報、そこで止まってるのか?


「頭上にきらめく星たちよ――」


 おい。なんか詠唱えいしょうしはじめたぞ。


「今、くだけてそそげ!!」

「ちょっ、待てマノン!!」


 耳にしたことのない轟音ごうおんが空で鳴り始めた。
 見上げると、どう見ても隕石いんせき以外の何物でもないものが、城へ向かって落下してきている。
 サイズはドラゴンぐらいかもしれないけれど、しようとつしたら周囲が丸ごと吹き飛んでしまうだろう。
 ヤバいヤバいヤバいヤバい!! これはドラゴンにダメージをあたえるだけじゃ済まない!


「リル! 魔法を止める方法は!?」

「うぇえっ!? そんなの――」


 知るわけないか。せんとう用の強力魔法が存在しない世界だからな。
 だいたいパティは、なんてをしてくれてんだ! マノンがめっちゃ鬼気ききせまった顔してるじゃねえか……。
 こいつが本気を出せば、最悪、この大陸や世界まるごと――っ。


「物理攻撃じゃ」

「爺さん!?」

えいしよう中に物理攻撃を受けると最初からやり直し――。それがゲームの基本じゃろう」

「今ゲームとか言ってる場合なのか!?」


 だが他に方法がない――!
 俺はマノンに向かって全力でけた。足が千切ちぎかたが外れそうになるほど必死に走って、一発なぐってでも、このアホな魔法を止めるしかないと、覚悟を決めた。


「メテオストラァァァァァァァィック!!」


 でもダメだ。間に合わなかった――。
 サラマンダーの上にいんせきがぶつかる寸前、ドラゴン特有の技や魔法なのか、結界のようなものを作ってサラマンダーが隕石の衝突を防ぐ。
 しかし隕石は結界ごとんでいって、ゴオオオオオオオッと空気を破壊するかのごとき音が、世界を支配した。
 仕方がない。最後の賭けだ!!


「マノン! 一緒に――――っ。一緒に、日本へ行こう!!」

「――ふぇ?」


 おにのような攻撃魔法を使うに相応ふさわしい形相ぎょうそうから、急に十四歳相応そうおうの表情に変わって、ボワッと顔を赤くした。
 同時に、この世界を丸ごと壊してしまいそうな音が収まっていき、サラマンダーが結界で防ぎ止めていた隕石がキラキラときらめきながら消失する。


「止ま……った?」

「あの――。今、なんて――」

「えっ、いや、その――。マノンと一緒に日本へ帰っても、いいかなぁ……と」

「本当ですか!?」


 一気にがおかせられてしまう。
 まずい。これは『魔法を止めるために仕方なく言ったんだよねー。うそに決まってんじゃん』とは言いづらい。俺が殺されそうだ。こいつの力が半端ないことは、今さっき身をもって知ったわけで。
 まあ、でも……。日本に魔法はないから、マノンも少しは普通になるのかな。

 ――――――――――仕方がない。

 五年をついやして命を賭けたほうしゆうが、ロリっこの引きこもり? そんなの嫌だ。嫌だけれど……。この世界を守るためだったと思えば、まあ、なつとくできてしまう。
 これも大人の判断だ。
 早く日本へ帰りたい気持ちも、ある。
 色んなことを仕方ないと思うことができれば……。
 俺の行動で助かった命が沢山あったと思えば、まあ、――うん。仕方がない。


「――ああ。マノン、一緒に」

「ちょっと待って!!」


 リルが口をはさんでくる。ねるとんか? ねるとんを知っているのか?


「二人きりで話があるって言ってたじゃない! あれは……なんだったの?」

「…………そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。仕方がないんだ」


 そう。これはエンディング。幕引きのイベントである。
 俺はここでせいいつぱいの格好を付けて、この世界をるのみ――。


  ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや、なんつーかもう、とりあえず帰りたい。
 こんな国はもう嫌だ! どうせまともなヒロインなんていないし! 爺さんがネトラレとかんじゃったし! もういっそ気心の知れたパティでもいいかなとか思ったけど、あいつが一番リアル路線でヤバいやつだったし!!


「仕方、ない?」


 ――――ん? 気のせいだろうか、マノンの声に怒気どきが……。


「ハヤトさん、仕方なく・・・・、私と帰るんですか?」

「えっ、いや――。だってマノンの目的は、日本での引きこもり生活だろ? それなら仕方なくでも、何でもいいんじゃ……」


 あれ? ライカブルで見える好感度がきっちり百パーセントになっている。いつ? どこでそうなった?


「仕方なく――とは、何かをあきらめる時の台詞せりふですよね? 一体、ハヤトさんは何を諦めたのでしょうか? ねえ? 教えてください? …………言えますよね?」


 ヤバい。なんかこの子、普通に異性として怖い気がしてきた。ドス黒いオーラみたいなものを隠し切れてない。
 ゆらーり、と、揺れながら近寄ってくる。――――目が、怖いッ!


「リルとの恋愛でしょうか? それとも他の女? ひょっとしてハーレム? まさかあのパティ? 嫌ですよ、私だけを見てくれないと。ほら、私はこんなにも純情にハヤトさんを好きになっているのですから。それならハヤトさんも私と同じように……ねぇ?」


 怖い怖い怖い怖い怖いッ!! こいつ、この土壇場どたんばでヤンデレに進化しやがったのか!?


「私たち、運命的な出会いをしたじゃないですかぁ。ねぇ、そぅでしょう?」


 言葉の揺らぎが怖い。あと、こいつの疑問符ぎもんふからはノーと言わせる気配を少しも感じないんですけど!


「いやっ、出会いなんて、マノンがヒロイン養成学校に通っていたというだけで」

「違いますよぉ。通ってなんていないのに、引きこもっているだけだったのに、ハヤトさんから会いに来てくれたのですよぉ。あれは運命でしょう? そうですよねぇ? ふふふふふっ、ふえふえふえふえふ」


 マズい。これはひょっとして、過去最大のピンチじゃなかろうか。
 世界を滅ぼせるレベルのほう使つかいが、ヤンデレ化。


「浮気は許しませんよ? 赤い糸は、一本だけですから」


 ちょぉ――っ、なんか、そんなに重いよりはネトラレのほうがまだ可愛い気がしてきた!! むしろ誰か、こいつを寝取ってくれないか!?


「ねぇ、一緒に引きこもりましょうよ。私とあなただけの世界で、ずぅーっと仲良く暮らしましょう」

「お、落ち着け、マノン?」


 そもそもどうしてこうなった!?
 考えろ。考えるんだ。こいつはトイレに行くまで、普通だった。帰ってきてからがおかしいんだ。いきなり隕石を降らすなんて暴挙ぼうきょに出たり、ヤンデレ化したり。
 いつからおかしくなった?
 確かに好感度はゆっくり上がってきていた。最初は四十パーセント程度。それがついに百パーセントになったわけだけれど、トイレに行く前だって八十から九十ぐらいの好感度はあったんだ。ここまで急に変わるほどのことではない――。



 …………って、ちょっと待て。



 マノンは引きこもりだ。引きこもりっていうのは、人を嫌ったり恐れたりするから、引きこもるんだ。
 端的たんてきに言えば、他人への好感度が最初からゼロということになる。
 それなのにこの子は、最初から俺への好感度がそこそこに高かった。日本の引きこもりかんきようを伝えたから高いのかと思っていたけれど、よーく考えてみたら、そんなことを伝える前からそこそこに高かった!!
 以来、一度も下がることなく、ジワジワと上がり続けて――。


「おい。ひょっとしてマノン……。最初から俺のこと――、好き……だったのか?」


 かくしんに迫ると、急にマノンは、ぷしゅぅ――と顔から湯気を上げそうなほど赤面して、うつむいてしまった。
 ああ……。ようやく、わかった。
 日本にいる母ちゃん。俺、ようやくわかっちゃったよ。
 唐突とうとつにリルがうでからめてきて、マノンに言う。


「わっ、私だって最初から好きだったから!」


 母ちゃん――。これ、ただの修羅場しゅらばです。


「はあ? リルは死の魔法をかけたじゃないですか」

「いやっ、まあ、その……」


 その点に関しては、マノンに軍配が上がるのか……。


「マノンだって同じことをしたじゃない!」

「あれはその……。はなれたくなかった――というか」


 なにこれ。いきなりモテはじめたんだけど、全っ然、嬉しくない。
 あーだこーだとリルとマノンが言い合っていると、背後で、ドサリと人がたおれる音がした。
 爺さんがついに倒れたのかと思って振り向いたのだが、視界の大半をおおっていたはずのサラマンダーさんが、姿を消している。
 どこ行った? 飛んで逃げたのかな。いくらワイでも隕石ぶつけられちゃあかなわんわー、って。


「ちょっ、ハヤトくん、あれ――」

「人……じゃないですか?」


 確かに目をこらしてみてみると、サラマンダーがいたはずのところに、人が倒れている。


「行ってみるぞ」

「うんっ」

「――仕方がないですね」


 倒れている人は、どうやら女性のようで、それをにんしたリルとマノンは俺の腕をグッと握ってきた。


「この子、サラマンダーでしょ? トラブルの予感しかしないわ。帰りましょう」

「これ以上敵が増えるなんて、ありえませんから」

「お前ら、人として何か失ってないか!?」


 ここは助けるべきだろう――と、二人の腕をごういんはらって女性にる。


「おいっ、大丈夫か!?」


 けいかいして、俺たち以外の人間は誰も近づいてこなかった。そりゃいきなりドラゴンを見たあとじゃ、そうなるのだろうけど。


「――――きのこ」

「なんだって?」

「きのこ、ください……」


 かんぺきなまでになぞの言葉を発した少女は、国王の指示で城内の医務室へと運ばれた。
 確かにもう、めんどうくさくなる気配しかしない!
 エンディング……まだかなぁ。
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