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王位継承編① ヒロインをかけてヒロインと戦うゲーム
王位継承方法
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朝食の席で、国王が自ら語り出した。
「昨晩、中央区に在籍する全ての賢者と話し合った」
その一言で王位継承の話だと察した俺とリル、マノンは、食事を口へ運ぶ手をピタリと止める。
「――それで、どうなったんだ?」
「まず退位が決まり、早速、今日付で告知されることとなった。そして王位継承の方法は、ワシの最後の仕事として一存で決定させてもらった」
国王の最後の仕事が、次の国王の決め方――か。
爺さんとかジジイとか呼んできたけれど、ここ五年の俺は、この人を国王とした国で活躍したわけで。爺さんが国王じゃ無くなるというのは、ほんの僅かに寂寞の思いもある。
あくまで、ほんの僅かに、だけど。
「お祖父様、どのような方法で次の王を――」
「総選挙じゃよ。身分も老若男女も問うことなく、大陸中の全ての国民へ一票を投じる権利を与える」
総選挙って……。この爺さん、日本のアイドルに嵌まっていたりしないだろうな?
まあ、そうだとしても、ジャンケン大会とか言い出さないだけマシか……。国王をそれで決められたら洒落にならなかった。
「立候補の権利者は、全ての王族と、王族をも凌ぐ魔法の才を持つマノン。そして十字大陸統一の英雄である、ハヤト。――例外は一切認めぬ」
なるほど。納得のラインナップだ。
王族は元来の権利者であり、魔法の才に従って決めるという前例に倣えばマノンを外すわけにはいかない。
つまり最たる例外は俺であり、むしろ異世界人の俺を加えてくれたことには、いくらパソコンという対価を払うと言えども感謝しなければならないだろう。
ただ――。
「いいのか、爺さん。俺が国王になったところで、すぐにトンズラするかもしれないんだぞ」
「過去の国王には、在籍期間が一日に満たない王もいるほどじゃ。まあ、暗殺によるものじゃが、の」
の、って。
物騒だな……。武器を使った暗殺なら抵抗はできるけれど、毒殺は見抜くのが少し難しくなるし、さすがに大軍で押し寄せて全力で殺しにかかられたら、俺のスキルだけでは逃げ切れないかもしれない。
選挙ならば、仮に最少人数であるリル、マノン、俺の三人で票をわけあったとすれば、三十三パーセント強での当選があり得る。
残りの六十六パーセント、つまり過半数は反対票を投じているわけだから……。
これは、しっかりと権力者と国民の納得を得なければガチで殺されかねないな。ヒロイン報酬の件は伏せておくのが得策か。
「選挙……」
リルは不安そうな顔をしている。
王族の中には領土や軍の師団、家臣を持つ者が多くいる。しかしリルは裸一貫の状態。王族同士で争えば最後尾からのスタート間違いなしだ。
領土持ちが選挙に参加するというのは、公平なのかどうか疑いの余地がある。
けれど、それを覆すことができないようなら、王の座につく権利など無い――――。そういうことだろう。
無論、マノンと俺も裸一貫だ。
だが――
「ふぇっふぇっふぇ。これは私の勝ちで確定ですね。人間なんて、脅せばイチコロ。ふえふえふえふ」
こうしてインチキ臭い武器を持つ奴もいるからなぁ。しっかりと公正な選挙というわけには、いかなさそうだ。
しかし、ここにきてマノンの強大な魔力と脅し癖が敵になるとは……。
こいつは自分が国王になったところで、俺が同意しなけりゃ事態はどうにも動かないってこと、気付いているのか?
十四歳じゃまだ、わかんないかな。
俺の心さえも力でどうにかできると、本気で思っていそうだ。
「となると、俺とリルが一番不利――か」
「いや、最後尾スタートはリルじゃろう」
「なんでだ?」
「ハヤトには五年にわたって軍を指揮した実績がある。当時の国軍在籍者が票を投じる可能性は十分にあり、英雄へ憧れを抱く者も少なからずおるじゃろう」
「そいつらが自由に投票者を選べる保証は?」
「人間の意思までは束縛できぬ。ワシにできることは、投票の不正を許さぬことだけじゃ。しかしその一点に関しては、ワシと十二人の賢者が保証しよう」
例えば領主の命令などに民衆が従ったとして、それは制御できない――――と。
ま、そりゃそうだ。仕方がない。
でもなぁ。俺の率いた師団はすでに解散済みで、蜜に会話を交わしたことのある人は結構限られる。さすがに全員と仲良くなんて、なれるわけもない。
まあライカブルのおかげで、反乱の可能性がある人を事前に見抜いたりとかはしてきたから、概ね良好な関係は気付けていたけれど――。
ヤマさんのような一部を除くと、結構、広く薄くになっちゃったんだよなぁ。
「それでも領土持ちには勝てないな。それに、金銭で票を買収する可能性もある」
「買収行為は違反とさせてもらった。どの程度の効果があるかはわからぬが、何もしないよりは抑止になるじゃろう」
何もしないよりは――。この国、結構上が腐ってるからな。
権力者の違反は違反じゃない。そんな風に考えて堂々と買収行為がまかり通る可能性は高い。
「結局、現王族の上澄みが有利。逆転の可能性が高いのは金にも力にも屈しないマノンってことか」
「そうかもしれぬ」
「そもそも俺には魔法の才がない。つまり、本来の王位継承権から一番遠い。そのマイナス分を考慮すれば結局、ほとんど丸腰に近い」
国王へ向かって俺の不利を訴えたつもりだったのだが、応じたのはリルだった。
「――いえ。それでも最後尾スタートは私です。私は……、マイナスしか、ありませんから」
王族としては最下位で、嫌われ者。
そして王族を嫌う国民が多い。
……確かに、これは不利すぎるな。
「よしっ、じゃあリル。俺としばらく共闘しようぜ」
「共闘……?」
「俺が思うに、リルには国民から好かれる要素が多くあると思う。品がよくて低姿勢で、そして幼少期とはいえ平民だった過去があるからな。そこから国王の座を射止めるシンデレラストーリーに票を投じてくれる可能性があるわけだ」
「しんでれら……?」
「平民の気持ちがわかる王様なら、平民は喜ぶだろ? ってこと」
「まあ……。そう、かもしれません」
いや、この国の王政に対する不満は根が深い。
そういう意味で考えた場合、リルは大きな爆発力を秘めている。
「俺は英雄としての実績を強調するしか、勝つ手立てがない。一人で行動すれば押し売りのセールスマンみたいになってしまうだろうからな」
英雄へ清きご一票を!
相手は領土や金を持ち、人の上に立つ人ばかり。これだけで勝てるわけがない。
「それに平民はともかく、貴族や王族には取り合ってももらえないだろう。リルと行動を共にすることで、そのハンデを捨てられるかもしれない」
「こんなことを訊くのは本意では無いのですが……。ハヤトくんと行動を共にすることで、私の得られるメリットは?」
「お前が立候補して、もし目立ってきたら――。きっと他の王族は、面倒だからサックリ抹殺しようとすると思う。つまりまあ、身を寄せ合って守り合いましょう――ってことだ。ボディガードだと思ってくれてもいい」
リルは数秒の間、考え込んで、ゆっくりと深く頷いた。
念のため、マノンの表情も伺う。
このヤンデレロリッコがどう反応するか……。
「どうぞご自由に。私の勝ちは決まっていますので」
自信満々だな。
こいつに弱点があるとすれば、考えの甘さ、社会経験の異常な少なさ――だ。
「決定だ。爺さん、俺とリルは一時的に共闘する。これは違反行為とかじゃねえよな?」
「自由の範囲内じゃ」
そうして朝食を食べ終えると、散会となり、すぐに国王退位の告知文が城下を駆け巡った。東西南北の全てへ行き渡るには更に数日を要するだろう。
「昨晩、中央区に在籍する全ての賢者と話し合った」
その一言で王位継承の話だと察した俺とリル、マノンは、食事を口へ運ぶ手をピタリと止める。
「――それで、どうなったんだ?」
「まず退位が決まり、早速、今日付で告知されることとなった。そして王位継承の方法は、ワシの最後の仕事として一存で決定させてもらった」
国王の最後の仕事が、次の国王の決め方――か。
爺さんとかジジイとか呼んできたけれど、ここ五年の俺は、この人を国王とした国で活躍したわけで。爺さんが国王じゃ無くなるというのは、ほんの僅かに寂寞の思いもある。
あくまで、ほんの僅かに、だけど。
「お祖父様、どのような方法で次の王を――」
「総選挙じゃよ。身分も老若男女も問うことなく、大陸中の全ての国民へ一票を投じる権利を与える」
総選挙って……。この爺さん、日本のアイドルに嵌まっていたりしないだろうな?
まあ、そうだとしても、ジャンケン大会とか言い出さないだけマシか……。国王をそれで決められたら洒落にならなかった。
「立候補の権利者は、全ての王族と、王族をも凌ぐ魔法の才を持つマノン。そして十字大陸統一の英雄である、ハヤト。――例外は一切認めぬ」
なるほど。納得のラインナップだ。
王族は元来の権利者であり、魔法の才に従って決めるという前例に倣えばマノンを外すわけにはいかない。
つまり最たる例外は俺であり、むしろ異世界人の俺を加えてくれたことには、いくらパソコンという対価を払うと言えども感謝しなければならないだろう。
ただ――。
「いいのか、爺さん。俺が国王になったところで、すぐにトンズラするかもしれないんだぞ」
「過去の国王には、在籍期間が一日に満たない王もいるほどじゃ。まあ、暗殺によるものじゃが、の」
の、って。
物騒だな……。武器を使った暗殺なら抵抗はできるけれど、毒殺は見抜くのが少し難しくなるし、さすがに大軍で押し寄せて全力で殺しにかかられたら、俺のスキルだけでは逃げ切れないかもしれない。
選挙ならば、仮に最少人数であるリル、マノン、俺の三人で票をわけあったとすれば、三十三パーセント強での当選があり得る。
残りの六十六パーセント、つまり過半数は反対票を投じているわけだから……。
これは、しっかりと権力者と国民の納得を得なければガチで殺されかねないな。ヒロイン報酬の件は伏せておくのが得策か。
「選挙……」
リルは不安そうな顔をしている。
王族の中には領土や軍の師団、家臣を持つ者が多くいる。しかしリルは裸一貫の状態。王族同士で争えば最後尾からのスタート間違いなしだ。
領土持ちが選挙に参加するというのは、公平なのかどうか疑いの余地がある。
けれど、それを覆すことができないようなら、王の座につく権利など無い――――。そういうことだろう。
無論、マノンと俺も裸一貫だ。
だが――
「ふぇっふぇっふぇ。これは私の勝ちで確定ですね。人間なんて、脅せばイチコロ。ふえふえふえふ」
こうしてインチキ臭い武器を持つ奴もいるからなぁ。しっかりと公正な選挙というわけには、いかなさそうだ。
しかし、ここにきてマノンの強大な魔力と脅し癖が敵になるとは……。
こいつは自分が国王になったところで、俺が同意しなけりゃ事態はどうにも動かないってこと、気付いているのか?
十四歳じゃまだ、わかんないかな。
俺の心さえも力でどうにかできると、本気で思っていそうだ。
「となると、俺とリルが一番不利――か」
「いや、最後尾スタートはリルじゃろう」
「なんでだ?」
「ハヤトには五年にわたって軍を指揮した実績がある。当時の国軍在籍者が票を投じる可能性は十分にあり、英雄へ憧れを抱く者も少なからずおるじゃろう」
「そいつらが自由に投票者を選べる保証は?」
「人間の意思までは束縛できぬ。ワシにできることは、投票の不正を許さぬことだけじゃ。しかしその一点に関しては、ワシと十二人の賢者が保証しよう」
例えば領主の命令などに民衆が従ったとして、それは制御できない――――と。
ま、そりゃそうだ。仕方がない。
でもなぁ。俺の率いた師団はすでに解散済みで、蜜に会話を交わしたことのある人は結構限られる。さすがに全員と仲良くなんて、なれるわけもない。
まあライカブルのおかげで、反乱の可能性がある人を事前に見抜いたりとかはしてきたから、概ね良好な関係は気付けていたけれど――。
ヤマさんのような一部を除くと、結構、広く薄くになっちゃったんだよなぁ。
「それでも領土持ちには勝てないな。それに、金銭で票を買収する可能性もある」
「買収行為は違反とさせてもらった。どの程度の効果があるかはわからぬが、何もしないよりは抑止になるじゃろう」
何もしないよりは――。この国、結構上が腐ってるからな。
権力者の違反は違反じゃない。そんな風に考えて堂々と買収行為がまかり通る可能性は高い。
「結局、現王族の上澄みが有利。逆転の可能性が高いのは金にも力にも屈しないマノンってことか」
「そうかもしれぬ」
「そもそも俺には魔法の才がない。つまり、本来の王位継承権から一番遠い。そのマイナス分を考慮すれば結局、ほとんど丸腰に近い」
国王へ向かって俺の不利を訴えたつもりだったのだが、応じたのはリルだった。
「――いえ。それでも最後尾スタートは私です。私は……、マイナスしか、ありませんから」
王族としては最下位で、嫌われ者。
そして王族を嫌う国民が多い。
……確かに、これは不利すぎるな。
「よしっ、じゃあリル。俺としばらく共闘しようぜ」
「共闘……?」
「俺が思うに、リルには国民から好かれる要素が多くあると思う。品がよくて低姿勢で、そして幼少期とはいえ平民だった過去があるからな。そこから国王の座を射止めるシンデレラストーリーに票を投じてくれる可能性があるわけだ」
「しんでれら……?」
「平民の気持ちがわかる王様なら、平民は喜ぶだろ? ってこと」
「まあ……。そう、かもしれません」
いや、この国の王政に対する不満は根が深い。
そういう意味で考えた場合、リルは大きな爆発力を秘めている。
「俺は英雄としての実績を強調するしか、勝つ手立てがない。一人で行動すれば押し売りのセールスマンみたいになってしまうだろうからな」
英雄へ清きご一票を!
相手は領土や金を持ち、人の上に立つ人ばかり。これだけで勝てるわけがない。
「それに平民はともかく、貴族や王族には取り合ってももらえないだろう。リルと行動を共にすることで、そのハンデを捨てられるかもしれない」
「こんなことを訊くのは本意では無いのですが……。ハヤトくんと行動を共にすることで、私の得られるメリットは?」
「お前が立候補して、もし目立ってきたら――。きっと他の王族は、面倒だからサックリ抹殺しようとすると思う。つまりまあ、身を寄せ合って守り合いましょう――ってことだ。ボディガードだと思ってくれてもいい」
リルは数秒の間、考え込んで、ゆっくりと深く頷いた。
念のため、マノンの表情も伺う。
このヤンデレロリッコがどう反応するか……。
「どうぞご自由に。私の勝ちは決まっていますので」
自信満々だな。
こいつに弱点があるとすれば、考えの甘さ、社会経験の異常な少なさ――だ。
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