異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

文字の大きさ
64 / 93
王位継承編① ヒロインをかけてヒロインと戦うゲーム

王位継承方法

しおりを挟む
 朝食の席で、国王が自ら語り出した。


「昨晩、中央区にざいせきする全てのけんじやと話し合った」


 その一言で王位けいしようの話だと察した俺とリル、マノンは、食事を口へ運ぶ手をピタリと止める。


「――それで、どうなったんだ?」

「まず退位が決まり、さつそく、今日付で告知されることとなった。そして王位継承の方法は、ワシの最後の仕事として一存で決定させてもらった」


 国王の最後の仕事が、次の国王の決め方――か。
 爺さんとかジジイとか呼んできたけれど、ここ五年の俺は、この人を国王とした国でかつやくしたわけで。爺さんが国王じゃ無くなるというのは、ほんのわずかに寂寞せきばくの思いもある。
 あくまで、ほんのわずかに、だけど。


「お祖父じい様、どのような方法で次の王を――」

「総選挙じゃよ。身分もろうにやくなんによも問うことなく、大陸中の全ての国民へ一票を投じる権利をあたえる」


 総選挙って……。この爺さん、日本のアイドルにまっていたりしないだろうな?
 まあ、そうだとしても、ジャンケン大会とか言い出さないだけマシか……。国王をそれで決められたらしやにならなかった。


「立候補の権利者は、全ての王族と、王族をもしのほうの才を持つマノン。そして十字大陸統一のえいゆうである、ハヤト。――例外は一切認めぬ」


 なるほど。なつとくのラインナップだ。
 王族は元来がんらいの権利者であり、魔法の才に従って決めるという前例にならえばマノンを外すわけにはいかない。

 つまり最たる例外は俺であり、むしろ異世界人の俺を加えてくれたことには、いくらパソコンという対価をはらうと言えども感謝しなければならないだろう。
 ただ――。


「いいのか、爺さん。俺が国王になったところで、すぐにトンズラするかもしれないんだぞ」

「過去の国王には、在籍期間が一日に満たない王もいるほどじゃ。まあ、暗殺によるものじゃが、の」


 の、って。
 ぶつそうだな……。武器を使った暗殺ならていこうはできるけれど、毒殺はくのが少し難しくなるし、さすがに大軍でせて全力で殺しにかかられたら、俺のスキルだけではれないかもしれない。
 選挙ならば、仮に最少人数であるリル、マノン、俺の三人で票をわけあったとすれば、三十三パーセント強での当選があり得る。
 残りの六十六パーセント、つまり過半数は反対票を投じているわけだから……。
 これは、しっかりと権力者と国民の納得を得なければガチで殺されかねないな。ヒロイン報酬の件は伏せておくのが得策か。


「選挙……」


 リルは不安そうな顔をしている。
 王族の中には領土や軍の師団しだん、家臣を持つ者が多くいる。しかしリルは裸一貫はだかいっかんの状態。王族同士で争えばさいこうからのスタート間違いなしだ。
 領土持ちが選挙に参加するというのは、公平なのかどうか疑いの余地がある。
 けれど、それをくつがえすことができないようなら、王の座につく権利など無い――――。そういうことだろう。
 無論、マノンと俺もはだかいつかんだ。
 だが――


「ふぇっふぇっふぇ。これは私の勝ちで確定ですね。人間なんて、おどせばイチコロ。ふえふえふえふ」


 こうしてインチキくさい武器を持つやつもいるからなぁ。しっかりと公正な選挙というわけには、いかなさそうだ。
 しかし、ここにきてマノンの強大なりよくおどぐせが敵になるとは……。

 こいつは自分が国王になったところで、俺が同意しなけりゃ事態はどうにも動かないってこと、気付いているのか?
 十四さいじゃまだ、わかんないかな。
 俺の心さえも力でどうにかできると、本気で思っていそうだ。


「となると、俺とリルが一番不利――か」

「いや、最後尾スタートはリルじゃろう」

「なんでだ?」

「ハヤトには五年にわたって軍を指揮した実績がある。当時の国軍ざいせきしやが票を投じる可能性は十分にあり、英雄へあこがれを抱く者も少なからずおるじゃろう」

「そいつらが自由に投票者を選べる保証は?」

「人間の意思まではそくばくできぬ。ワシにできることは、投票の不正を許さぬことだけじゃ。しかしその一点に関しては、ワシと十二人の賢者が保証しよう」


 例えば領主の命令などに民衆が従ったとして、それはせいぎよできない――――と。
 ま、そりゃそうだ。仕方がない。
 でもなぁ。俺の率いた師団はすでに解散済みで、蜜に会話をわしたことのある人は結構限られる。さすがに全員と仲良くなんて、なれるわけもない。
 まあライカブルのおかげで、反乱の可能性がある人を事前に見抜いたりとかはしてきたから、おおむね良好な関係は気付けていたけれど――。
 ヤマさんのような一部を除くと、結構、広くうすくになっちゃったんだよなぁ。


「それでも領土持ちには勝てないな。それに、金銭で票を買収する可能性もある」

「買収こうはんとさせてもらった。どの程度の効果があるかはわからぬが、何もしないよりはよくになるじゃろう」


 何もしないよりは――。この国、結構上がくさってるからな。
 権力者の違反は違反じゃない。そんな風に考えて堂々と買収行為がまかり通る可能性は高い。


「結局、現王族のうわみが有利。逆転の可能性が高いのは金にも力にもくつしないマノンってことか」

「そうかもしれぬ」

「そもそも俺には魔法の才がない。つまり、本来の王位継承権から一番遠い。そのマイナス分をこうりよすれば結局、ほとんどまるごしに近い」


 国王へ向かって俺の不利をうつたえたつもりだったのだが、応じたのはリルだった。


「――いえ。それでも最後尾スタートは私です。私は……、マイナスしか、ありませんから」


 王族としては最下位で、きらわれもの
 そして王族をきらう国民が多い。
 ……確かに、これは不利すぎるな。


「よしっ、じゃあリル。俺としばらくきようとうしようぜ」

「共闘……?」

「俺が思うに、リルには国民から好かれる要素が多くあると思う。品がよくて低姿勢で、そして幼少期とはいえ平民だった過去があるからな。そこから国王の座を射止いとめるシンデレラストーリーに票を投じてくれる可能性があるわけだ」

「しんでれら……?」

「平民の気持ちがわかる王様なら、平民は喜ぶだろ? ってこと」

「まあ……。そう、かもしれません」


 いや、この国の王政に対する不満は根が深い。
 そういう意味で考えた場合、リルは大きなばくはつりよくめている。


「俺は英雄としての実績を強調するしか、勝つ手立てがない。一人で行動すればりのセールスマンみたいになってしまうだろうからな」


 英雄へ清きご一票を!
 相手は領土や金を持ち、人の上に立つ人ばかり。これだけで勝てるわけがない。


「それに平民はともかく、貴族や王族には取り合ってももらえないだろう。リルと行動を共にすることで、そのハンデを捨てられるかもしれない」

「こんなことを訊くのは本意では無いのですが……。ハヤトくんと行動を共にすることで、私の得られるメリットは?」

「お前が立候補して、もし目立ってきたら――。きっと他の王族は、めんどうだからサックリ抹殺まっさつしようとすると思う。つまりまあ、身を寄せ合って守り合いましょう――ってことだ。ボディガードだと思ってくれてもいい」


 リルは数秒の間、かんがんで、ゆっくりと深くうなずいた。
 念のため、マノンの表情もうかがう。
 このヤンデレロリッコがどう反応するか……。


「どうぞご自由に。私の勝ちは決まっていますので」


 自信満々だな。
 こいつに弱点があるとすれば、考えのあまさ、社会経験の異常な少なさ――だ。


「決定だ。爺さん、俺とリルは一時的に共闘する。これは違反行為とかじゃねえよな?」

「自由のはんないじゃ」


 そうして朝食を食べ終えると、散会となり、すぐに国王退位の告知文が城下をめぐった。東西南北の全てへ行き渡るには更に数日を要するだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...