異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ～命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします～

王位継承編② 茸と香辛料

サラ① とらわれ

　城に帰って、サラマンダーの『サラ』と会う。


「ご主人様？」


　…………鉄格子てつごうし、越こしに。


「あーあー、酷ひどい扱あつかいだな」

「きのこ、沢山食べた」

「そりゃ良かったな。……けど、こんな環かん境きようじゃ落ち着かないだろ」


　退位を表明したことで国王の権力が弱まったのか、王族の一部がこれまでの体制に反発。
　特にぶよぶよの一件とサラマンダー騒ぎは収めることが叶かなわずに、サラは地下の牢ろうへ閉とじ込こめられることになった。
　重罪人と同じ扱あつかいは酷ひどすぎるだろうと俺とリルは抗こう議ぎをしたのだが、城を騒がせた時点で重罪とのこと。
　ほんと、この中世世界は嫌いだ。


「今までより、ずっとマシ」

「今まで……って、この世界に来るまでは、どうしていたんだよ」


　ゲーム内での記き憶おくがあるってことか？


「サラマンダーより、ずっと、はやい！　――――ほとんどこの言葉の中で、私わたしは生きてきました」

「…………ごめん。もうちょっと噛かみ砕くだいてもらえないか？」

「私わたしは人間の創作物でした。人々に伝承される中で生きていたのです。忘れられることが死を意味します」

「あー……。まああのゲームでサラマンダーって言うと、そのシーンばかり語られるかもなぁ」


　不憫ふびんすぎる生き方である。


「でも、あのゲームではドラゴンの姿だけだっただろう？」

「はい。ですが召喚の際に、女の子の情報が沢山流入してきました……」


　心当たりがありすぎる。
　召喚には集中力と脳内イメージが重要だと知った俺たちは、爺じいさんの頭の中を精せい一いつ杯ぱいかき乱したわけで。
　いっそ純じゆん粋すいな女の子が召喚されてしまえば――という思いだったけれど、まさかドラゴンと女の子、二つの面を持つ存在が召喚されてしまうとは。


「サラはこの環境に、不満はないのか？」

「一つもありません。きのこを頂けますし」


　困ったな……。不満たっぷりだろうから、どうにか出してやろうと思っていたのに。
　本人に不満がないのなら、このままというのも『あり』になってしまう。
　当面は処刑の心配も無さそうだしな。下手を打ってドラゴンの姿になられたら、痛い目を見るのは権力者だろう。


「……じゃ、今度は俺がきのこを持ってきてやるよ」

「本当ですか！？」


　おっ、急に抑よく揚ように富んだな。


「ご主人様の、大きなきのこ……っ」

「やめろ。確実に誤解を招くから、マジでやめろ」


　地下牢ちかろうを守る兵がゲスいものを見る目でこっちを……。
　この誤解はしっかり解いておきたいところだ。狭せまい城内で噂うわさが広まる速度というのは恐ろしいものがあるからな。

　――それにサラのことは、俺一人ひとりで抱かかえ込こむことでもないだろう。
　本人が満足していて身が無事であり続けるなら、とりあえず、急ぎではないのかもしれないし。

　でも……。
　うっかり名付けてしまった結果、ご主人様とか呼ばれてしまっているわけで。
　それならせめて大きなきのこの一つぐらいは、採ってきてやろうかな。