異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

文字の大きさ
69 / 93
王位継承編② 茸と香辛料

マノン⑮ 召――っ

しおりを挟む
 昼からぱらったせいもあるのか、ほとほとつかれて夕食へ。
 この席は国王が個人的に開いているものだから、そろそろ解散かな。退位が決まったことだし。
 そうなると俺やマノンは城から追い出されたって不思議じゃない。
 リルも元の生活へもどることとなるだろう。
 だからまあ、残り少ない機会を大切にしておきたかったのだが、マノンはその席に現れなかった。


じいさん、パティはどうしてるんだ? まだきゆう中だと思っていたんだが」

「それがのう……」


 この席に来てからずっと、国王が、いつになく深刻なおもちとしずんだ声のトーンでいる。
 セーブデータでも飛んだのかな? やりこんでいるゲームのセーブデータが飛ぶとへこむからなぁ。ネット上にバックアップを取るとか、できるわけもないし。


「実は、のう」

「どうしたんだよ。色々としゆうたいさらしたんだ。いまさら、言いにくいことなんて無いだろ?」

「醜態をさらすのは構わんのじゃ。あとで快感に身悶みもだえるから、の」

「堂々と気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ……」


 しかしそんなせいへきすらさらせるじいさんが、言いづらいこととは?
 嫌な予感しかしないなぁ。


「ワシのゲーム部屋べやが、せんりようされてしまったのじゃ」

「…………まさか、マノンに……か?」

「その通りじゃ」


 マズい。それは非常にマズいことにしか、なりそうにない。


「死すら恐れないじいさんがおどされることなんて、もうない、と思っていたんだが」

「ゲームのかいを持ち出されたのじゃ」


 命よりゲームかよ……。


「セーブデータを消されてはかなわぬ」


 まさか死をも恐れぬじいさんにそんな弱点があったとは。もうてんすぎた。


「――で、マノンはゲームざんまいか?」

「それが……の」

「まだ言いにくいことがあるのかよ。勘弁してくれよ……」

「マノンは常識外のりよくを持ち、魔法の痕跡こんせき辿たどることや、それらを記憶することにかけても天才じゃ」

「そういや、リルと同じ魔法をすぐに使っていたな」


 死の魔法『リミデス』。
 リルがそれを使ったところ見ていないのに、そっくりそのまま――。


「マノンちゃん、わたしの使った魔法を逆向きに辿たどってかいせきしたらしいわよ」

「何でもありだな、あいつ」


 そんな子がヤンデレ化なんて、恐ろしいにもほどがある。目的のためならば、どんな手を使うかわからない。


「――――ワシの召喚術も、コピーされてしまって…………の」

「おい…………。マジ、か?」

「ワシは洒落しゃれにならないじようだんを言わぬよ」


 俺は頭をかかえてしまう。
 そして急いで夕食を口へ、かきんだ。


「リル、マノンを止めに行くぞ!」

「う、うんっ」


 リルも上品さを崩さないはんで口へ運ぶスピードを上げる。
 食べ終えるとすぐ、俺たちは玉座の間へ向かった。
 国王の許可を得ていることはすでに伝達済みだ。


「開けてくれ」

「かしこまりました」


 土下座かくの説得やピッキングで対抗していたのがアホらしくなるぐらい、あっさりと通される。
 まあ番人なんてそういう仕事だけどさ。なんかこう、がんったことが国王の言葉一発でくつがえってしまうと、どうしようもなくむなしくなるんだよなぁ。

 あの部屋へやすべだいのようなものを降りて入り、横には召喚の部屋へやつながっているだけで、出るにはまたすべり台を降りなければならない。つまり上から下への一方通行。
 逆方向から登るのは、ツルツル滑りすぎて無理。
 やはり非常時用の避難部屋なのだろう。


「行くぞ」

「うんっ」


 覚悟を決めて、すべちていく。
 スタッと着地してすぐ、マノンがテレビゲームをしている姿が目に入った。


「ふっふっふ。まさかこれほどとは――」

「おいマノン、それはじいさんのものだぞ」

「…………ハヤトさん、これ、どう思います?」

「これ――って、ただのゲームだろ」


 アクション要素を交えたRPGゲームだ。
 これが最初の作品で、後に大人気シリーズ化する。確か日本で初めて歌のあるアニメオープニングが採用されたゲーム……だったかな。よく覚えていないけれど、色々な意味で『伝説のRPG』である。


わたし、頭が良いですよね?」

「そういうのは、自分で言うな」

わたしが国王になるのは簡単なこと。王族貴族を『協力しなければ町ごと破壊して殺す』と脅せばいいだけ。……ふえふえふえふ。自分の命が惜しいなおな人も、町を守ろうとするぜんしやも、これでイチコロ」


 こいつ、実は異世界帰りのラスボスなんじゃないか?
 この世界の神様は、魔力をあたえる人間をもう少ししんちように選ぶべきだったな。
 妹みたいに思っていた気持ちもほとんど全部、んでしまった。


「でもわたしが国王になるだけでは、足りない。ヒロイン決定には『国王』と『英雄』、そうほうの合意が必要」

「気付いてやがったのか……。それなら、そんなこわいことなんかしないで、もっとつうにしていてくれよ。人を殺すって脅して権力を手に入れるやつなんて、好きになれるわけがないだろ?」

「えっ、なんでハヤトさんがわたしを好きになる必要があるんですか?」


 …………ん?
 そこは必要…………じゃ、ないのか?


「ふえふえふえふ。わたしの目的は、一生、日本でハヤトさんと一緒に引きこもること」

「嫌すぎる目的だな」

「確かに、添い遂げるには両想いが理想ですが」

「最低条件だろ」

「別に好きになってもらうなんて、後回しでも良いのですよ。まずは一緒にいる時間を作らなくては――――。……ふぇっふぇっふぇ。ハヤトさんだって、脅しには逆らえないはず」


 こいつ、俺のことも脅す気か?
 というか考えかたがみすぎていて怖い。


「召喚――」


 マノンは一言で、その場に鉄製らしきけん顕現けんげんさせた。


「これは?」

「アイアンソード――。このゲームに出てくる、剣ですよ」

「おいっ、まさかこの調子でモンスターまで……っ」

「ええ。ハヤトさんが同意しないのなら、わたしはモンスターをバンバン召喚します。もうなんびきかは覚えましたから、いつでも召喚可能なのです」

「……いやいや。でも、だってじいさんがサラマンダーを召喚するのに五年もかかったんだぞ? それもマノンの魔力を消費して、ようやく召喚できたんだ。いくらマノンでも、そうポンポンとは――」


 これは脅し――。
 そう願ってけてみたのだけれど、マノンは不敵に笑い続ける。


「ええ。サラマンダーなんていう超弩級どきゅうは無理です。でも野良のらモンスター程度を世界へ解き放つのは、ぞうもないこと。ふえっふえっふえっ」

「おいっ、そんなことをされたら、十字大陸統一でせつかく平和になったのが台無しじゃねえか!」

「だから『脅し』なのですよ。命をけて五年もかけた成果を、なし崩しにされる。――ふえふえふえふ。どうですか? 嫌でしょう? 死んでいったあの人もこの人も、に――あいたっ!?」


 さすがに言い過ぎになっていたから、俺はマノンのおでこに手刀を落とした。


「ひっ、ひどいです……っ」

ひどいも何もあるか! それだけは絶対に許さねえぞ!!」

「そ、そんなぁ――」

「マノンはもう少し、他人の気持ちをわかるようになってくれ。そのほうが俺は、ずっと好きだ」

「す、好き!? ――――――――いえっ、そんな甘言かんげんにはだまされませんよ! どうせハヤトさんはおっぱいが大きくないとダメな人ですから!」

「…………………………………………………………そんなこと、ないぞ」

「なんですか今の間は! めちゃくちゃ図星じゃないですか!」


 はい。ごめんなさい。
 いやね、好きになってしまえば関係ないと思うよ。
 でも好きになるまでの過程にはえいきようおよぼすことが確かなわけで。
 ……マノンの胸は成長しそうにないからなぁ。期待薄だ。


「そんなんだから、わたしがこうして! ……もうっ、この場で私の恐ろしさを見せてあげます! しょうか――いだっ」


 俺はマノンがモンスターを召喚しようとしたタイミングで、もう一度手刀を落とした。
 なるほど。魔法を使い始めて結果が出るまでに物理こうげきを与えれば、止まるわけだ。


「しょうか」

「ていっ」

「あだっ――――。しょうかっ」

「てい、てい」

「いだっ、あうっ。……二回もやる必要ありましたか!?」

「念のためだ」

「くっ……。いいです! じゃあハヤトさんの見ていないところで召喚しますから!!」


 これは困ったな。常時誰かに見張ってもらうというわけにもいかないし。


「ハヤトくんが、面倒見たら?」


 リルがあきれた声で言う。


「マノンちゃん、ハヤトくんと一緒にいたいのよね?」


 問いかけに、マノンは縦に一回、こくりとうなずいた。思いっきりなみだだ。


「じゃあハヤトくん、マノンちゃんと一緒にいてあげなさい。一日中」

「はあ!?」

「召喚しようとしたら、責任を持ってハヤトくんが止めるの。わかった?」


 俺になんの責任があると言うのか。


「いやっ、でもそれじゃ、お前との共同戦線が」

「それはそれ、これはこれ。一緒に行動するけれど、そこにマノンちゃんがいたって、悪ささえしなければ問題はないはずよ」

「まあ、そうなんだが……」


 マノンを見ると、困ったようなうれしそうな、複雑な表情をかべていた。


「いいわね? マノンちゃん」

「う、うん――っ。はい!」


 こうして俺とヤンデレロリっこの共同生活が始まってしまった。

 ――――というか、リルが優しすぎるように思えるのは、気のせいだろうか?
 マノンなんか眼中にないのか、それとも国を思っての行動か。……ま、どっちかというと後者だろうな。
 この王族様は自分の感情よりも国の平和を優先するタイプだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...