異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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王位継承編② 茸と香辛料

マノン⑯ ひきこもり、家事をする

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 俺はマノンという少女を、あまていたのかもしれない。


「ハヤトさんっ、わたしの手料理を食べてください!」

「…………ヤンデレの手料理とか、どう考えても死亡フラグだろ」

「やんでれ……?」


 そこに疑問をもたれてしまうと、説明しづらいな。『病的なほど俺を好きと言うことだ』なんて言えるわけない。ずかしすぎる。


「あ、じゃあ俺も一緒に作ろう!」


 これでもサバイバル環境で調理手順は多少覚えた。
 特に野生動物のきはクロシードで特技継承済みだ。クロシードは対象者の『最も得意とすること』が対象となる。
 まあ、血抜きは継承できたのに料理は誰からも継承できなかったあたり、戦地に来る人って……、と思わなくもないけれど。
 おくさんとか子供の話ばかりする人なら、いくらでもいた。でも『せんとうより料理が得意です!』なんて人は、そもそも師団に入ったところで調理班に回されるだろう。

 戦時と言えど常にサバイバル環境であるはずもなく、非常事態を除けばすべて、調理班が食料を食べられる状態にして用意する。
 戦地での食事は『命と同義』だと言ってもいい。
 専門の特定された人間が常に調理を担当することで、さいきんやウイルスのかんせんリスクを減らし、更には毒を盛られる可能性も最小限とする。
 ライカブルで調理班の中に好感度が低い人を視認したら、そつこく、好感度を上げにかかっていたぐらいだ。

 だからこそ断言する。
 マノンに料理を任せるのは、命を握られることと同義だ――と。

 いやまあ、好きな人を殺したりはしないと思うけれどさ。
 病みすぎて『一緒に死にましょう……』なんて展開になったら本当に洒落しゃれでは済まないわけで。


わたし一人ひとりで作らないと、手料理と呼べないじゃないですか!」

「共同作業ってことじゃ、だめか?」

「共同……っ。そ、それはりよくてきですけれど、次に取っておきます!」


 みように意地になっている気がする。


「なんで、そんなに手料理を食べさせたいんだ?」

「それはその……。わたし、魔法をいてしまったら、家事ぐらい・・・しか特技がないので」

「……………………………………………………は?」

「ああ! そのは信じていないですね! おっぱいの時と同じ間ですよ!!」

「いやだって、お前、マノンだろ!?」

「すっごいバカにされています! かいです! 引きこもっていて親が貿易商で、家事ぐらいできなくてどうやって生きていけると思っているのですか!?」

「お、おぅ……。言われてみれば、その通りだな」


 食ってかかってくるマノンに対して、俺は両手を胸の前にかざしてきよを保ちながら、首を縦にしてうなずいた。


「わかった……けどさ。一応、横で見ていてもいいか?」

「不愉快ですけれど、そこまで言うのなら仕方ないですね」


 不愉快とかえす割に、好感度が一ミリも動かない。ずっと百パーセント。好意はうれしいけれど受け止めきれないから、申し訳ないことに困ってしまう。

 とりあえず、この客室には料理をする設備がなく、俺たちは城にある調理施設へ向かった。
 城にはいくつかの調理専用施設があって、国王とらいひんのためにある最上級のものから、地下牢ちかろうへ配給するそつちよくに言ってまつな食事を作る施設まで、様々だ。


「で、どこを借りる?」

「学校に調理実習室があったので、そこを使わせてもらいます」

「……マノンって、学校に通ったのは一日だけなんだよな?」

「はい」

「なのに、この前と今回でもう二回目か。――閉校した後のほうが学校に通う生徒ってのも、めずらしいもんだな……」

「ではっ」


 マノンは急に魔法を展開して、周囲に黒い幕を張った。四角いボックスの中に閉じ込められたような感覚になる。


「なんだこれは」

「視界をさえぎるためです」

「お前、まだ引きこもり体質治ってなかったのな」

「治す気がないですから」

「絶望的なことをあっさり言いやがって……」


 まあ仕方がない。このまま行こう。
 俺たちはドアを開けて客間を出て、通路を歩く。


「これ、周りからはどう見られているんだ?」

「最初は黒いかたまりにしていたのですが、歩くブラックボックスと呼ばれたり気味が悪いあまりに攻撃されることすらあったので、今はとうめいしています」

「擬態みたいなものか?」

「周囲の景色と馴染むようにしていますから、そうですね」

「でもそれだと、無意識に人がはいんでくる可能性もあるだろ?」

「バリアだと思ってください。外からのしんにゆうは不可能です。行く道に人があれば自然と押しのけます」


 改めて思うけれど、平民には生活魔法しか使えないってのに、この子の魔法の才は群を抜きすぎて異常なレベルにまで達している。
 マノンが引きこもることも性格がアレになることもなく、普通の大人おとなに成長していれば……。俺なんか召還しなくても、ほとんどがいを出さずに十字大陸統一だってできただろう。
 まあそれをやらせてしまえば、魔法の才に優れたものが王位に就くというかんれいならって、次の国王がマノンに決まってしまうわけだ。
 彼女に比べればぞうぞうにしかならない王族は、威厳をなくしてしまう。
 彼らが保身のためにマノンの存在を認めなかったことにも、一応の理解は及ぶか……。


「じゃあいっそ、内側から外も見えるようにすればいいんじゃないか? 結構歩きづらいぞ、これ。透明のほうが絶対にいい」


 なにせ数メートル先までしか視界が無いから、急にかべやら階段やらが現れてしまう。


「はぁ……。わかっていませんね。わたしは人から見られたくないだけではなくて、人を見たくもないのですよ。特に王城なんて、よごれた大人おとなだらけではないですか」

「ダメなやつなのか純粋すぎるのか、理解に困るわ……」


 ぼやきながら一緒に歩き、しばらくすると学校へ辿たどいた。


「ちゃんとうわきにえるのな」

「土足厳禁だそうなので」


 ルールもきっちり守る。素直さはあるってことか。
 ろうぐ進んでおくの左側に、調理室があった。
 キッチンそのものは日本とそう変わらない。水道が通っているからシンクにはじやぐちが付いているし、ガスで火を扱うこともできるからコンロの役割を果たす場所もある。
 まな板や包丁には多少おくにがらのようなものが出ているが、大差は無い。

 この世界の主食は固いパンとジャガイモ、あとは練り物。
 もちろん利便的に俺がそう呼んでいるだけで、パンの原材料は小麦じゃないし、ジャガイモだって味と形が似ているだけで違うものである。


「エプロンまで着けるのか」

可愛かわいいですか!?」

「そりゃ可愛かわいいけれど、十四さいじゃ色気がな……」

「むぅ……エプロンに色気を求めるとは、難しいことを言いますね……」


 なにか誤解をされたような、そもそも俺の思考がちがっていたような。だってはだかエプロンというものを発明したじんがいるわけで。
 そりゃ、マノンにそんなことをされても困るだけだけどさ。リルなら……似合いすぎて、逆の意味で困るだろう。


「食材はどうするんだ? とっくに閉校しているんだから、置いてあるものなんてないだろう」

「少し待っていてください」


 言うとマノンは空間に円状の穴を開けて、手をんだ。

 中からパンとイモと、数種類の野菜。調味料、そして紙包みのけものにくを取り出す。


「おい、なんだそれは」

「保存魔法です。この中にしまっておけば、生肉でも五年は保ちますよ」

「どこで覚えた」

「なにぶん、小さいころの話すぎて。思い出すのは難しそうです」


 なんでもありだな、この天才……。
 まあ隕石いんせきを降らせるぐらいだし、これぐらいは造作ぞうさもないのかもしれないけれど。特に害も無いし、ほうっておくのがきちか。


「ちゃんと作りますから、待っていてくださいね」


 その台詞だけを笑顔で言われるぶんには、可憐でグッとくるものもあるんだけれどな。
 俺は適当なすわり、マノンの腕前を拝見することとなった。

 おどろくことにぎわが良く、もちろんレシピなんて手元にないしすべてが目分量。それなのにとんでもなくこうばしいにおいがただよって、鼻腔びくうせんさいくすぐってくる。
 ――これはどう考えても美味おいしいだろう。


「できました!」

「お、おう。早いな」

「ここで食べていきますか?」

「そうだな。折角だから、温かいうちに食べたい」


 調理用の台に向かい合って座り、二人ふたりで食事を口へ運ぶ。


「うまっ――! ちょ、これマジで美味うまいぞ!?」

「よかったです」


 なんだろう。ヤンデレ感も消えているし、この子、もうちょっと待てばすごく良いよめさんになるんじゃないのか!?
 完全にぶくろつかまれた気分だ。


あわい味付けなのに、肉にけものぐささが全くない。この国の料理はソースで獣臭さをさえむのが主流だと思っていたんだが――。これ、どうやったんだ?」

「それはですねぇ、父と母が手に入れたスパイスを――」


 それからマノンは、楽しそうに料理の解説をしてくれた。
 貿易商はこうしんりようや食材をあつかうことに慣れていて、マノンはそこから国の各所に行かなければ手に入らないようなものを、いくつも手に入れることができたそうだ。
 そこに例の保存魔法が加わり、保存期間というがいねんちようえつしたことで様々な組み合わせの料理が可能となった。


 ――――この国で引きこもるのは、きっと、日本よりずっと難しい。


 わかっていたことではあったけれど、まさか引きこもることで家事スキルをみがいていたとは想像もしなかった。


「おかわり!」

「はいはい。ちょっと待っていてくださいね」


 こんな妹がいたら最高。
 引きこもっていても、仕事と家事をやる気はある。
 ――そう考えると、なんとなく、引きこもりはそれほど悪いことでもないように思えてきた。寝取られる心配はゼロだし。
 頭が良いからプログラミングとかも得意かもしれない。家事に加えて在宅で仕事ができるとなれば……。
 案外、こいつと日本で生きていくことは、可能なのかもしれない。
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