異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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王位継承編③ その戦いで得るものは

親睦会

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 チェンバーズ家のていたくに招かれて、メイドさんの案内でそのまま道場へ通される。
 王族に仕える貴族に仕える、メイド。
 貴族に仕えるというのは平民の中で最大級のめいだ。自分より上位層と争うことはなく、仕えることが名誉になるわけだから、改めて、明確なヒエラルキーを持った国だと思う。

 ちなみにメイドさん、俺と変わらないぐらいのねんれいに見えて、結構可愛かわいい。
 むなもとのキッチリ閉まったゆいしよ正しいメイド服だけれど、めたるポテンシャルはかくせず、はち切れんばかりだ。
 いいなあ。もうメイドさん連れて帰ろうかなぁ。主従関係じゃだめか。うち、つうのサラリーマン家庭だし。


「こちらです」


 立ち止まって軽く顔をせると、手のひらで道場の入り口を示される。
 ドアは最初から開け放たれていた。


「おおっ、リル様にハヤト様、それにマノンさん。ようこそおでになられました」


 レイフさんと軽くあいさつわし、道場に集まる人間の顔をそれぞれ見遣みやる。
 向こう側のかべに並んですわっている人を数えると五人。全て男性で、のきみ好感度が低い。
 逆にこちら側の壁に沿って座っている人は総じて高い。
 チェンバーズ家とミューレン家で別れて座っているのだろう。

 向こう側の五人はおそらく当代、長男、次男、三男、孫の代表者――といったところか。
 ただこちら側の壁には四人しかいない。
 レイフさんとロニーくんに、恐らくヤマさんのおにいさんと思わしきかたが二人ふたり。確かヤマさんは三男だったはずだ。

 俺とレイフさんが親しさを表すようにあくしゆを交わすと、向こう側の人たちは隠すことなくげんそうな顔をして、リルが続けばさらに表情をゆがめた。
 王族がわざわざ貴族の家へ出向くなんて、かなりの大事おおごとだ。
 つまり、相応のしんらいを置かれていて、親密ということになる。
 いくらリルが王族の中で最下層に位置しているとは言えども、ライバル家としてはこころよく受け取れないのだろう。

 とはいえ、ここは招かれたえいゆうと王族として、りんと立ち居うことが定石。
 レイフさんの評判をみすみす下げる必要はない。
 俺とリルが向こう側の団体へ向かって歩み寄ると、レイフさんと同年代の初老男性がスクッと立ち上がった。


「はじめまして。ミューレン家の当主、ゴルツと申します。今日きょうは英雄殿どのとジニ家のごれいじようが来ると聞きまして、大変驚いている・・・・・ところです」


 ごつい名前に似合うごつい手で、握手を求められる。
 好感度十パーセントと言うところ。こんな握手なんて単なる建前に過ぎないが、今はこの建前が重要だ。


「ハヤトです。ミューレン家のほまれ高いおうわさは、かねがねおうかがいしております」


 大嘘おおうそである。ミューレン家なんて名前ぐらいしか知らなかった。


「ほうほう。そうですか」

「ミューレン家の加勢があれば――と、なげく兵もおりましたよ」

「貴族は王族に仕えるものです。平民の寄せ集めである前線兵に尽くすことは本来のあり方にそむきます。――――ああ、しかしチェンバーズ家には前線に出向いたものがおりましたな。残念なことに」

「非常にゆうしゆうなかたでした」

「過去形になったことがやまれますが、戦場で生き残ることも強さ。……ふふっ、かれにはそれが足りなかったのでしょう」


 おいおい。死者を冒涜ぼうとくする気満々って顔をしているぞ。
 リルから聞いた話では、ミューレン家についてはくないうわさが広まっているという。
 例えば武術の型が代を重ねるごとれていって、暴力と変わらなくなっただとか。
 例えば平民の中から出てきた武術の達人を金で買収して使用人にしてしまい、大会で当たると主従関係を持ちだしてわざと負けさせただとか。

 だからまあ、こうして実際に対面する前からすでに良いイメージはなかったのだけれど、これじゃあ悪い貴族そのものだな。
 俺はリルに順をゆずった。


「リル・ジニと申します」

「おおっ! あなたがあの、ジニ家のご令嬢ですか!」


 この人、本気でリルのことを知らなかったっぽい。


わたくしの家をご存じで?」


 どうやら王族として振舞うには、『わたし』ではなく『わたくし』が正解らしい。細かいところまで訓練されているなあ。


「もちろんでございます! ジニ家といえばすべての当代がはくしやく以上のしやくあたえられてきた名門中の名門。――本日はお目にかかれまして、大変光栄にございます」


 リルは王族として、ていねいな所作で振る舞っている。
 こういう『しばがかったこと』にも慣れているのだろう。
 だが、大変光栄にございます、と述べたゴルツさんはそのままニヤリと口角を上げた。ゆっくりと口を開いて、二の句をぐ。


「しかし――。お父様とうさまが正妻との婚姻関係を破棄し、その上、しつそう。ジニ家による爵位のけいしようもそこでえてしまわれました。本来ならばリル様が当代に成り代わり、それなりの爵位を与えられるものなのですが――。さすがに平民との間に生まれた『のろいの子』では、国王陛下も躊躇ちゅうちょなされたのでしょう」


 呪いの子?
 そういう話はまだ耳にしたことがないな。
 ――――リルの横顔を見ると、がおくずしていない。人が見ている場で思いっきりけなされているというのに、精神のタフさがうかがえる。
 いや、こういうものはけなすと言うよりはずかしめと表現するほうが適切か。ゴルツさんからは『お前など王族とは認めない』という空気がダダれだ。


「ええ。爵位はわたくしの代で途絶えました。それはいたかたのないことでしょう」

「ほう。ご自分のお立場をよく理解されておられるようで――」

「しかし王位を継承しますので、どうぞご心配はなさらずに」


 急にリルの口から飛び出た王位継承戦への名乗りに、場がシンと静まる。
 おいおい。この空気で宣言するのかよ。タフどころか鋼の精神じゃねえか。


「ぶっ…………ぶわっはっはっはっは!! これはおもしろい。めかけの子風情ふぜいが王位継承とは、お気は確かですか? まさか呪いの力で……ぶわっはっはっはっは」


 おーおー、本音が出たよ。『めかけの子ぜい』とか、建前だけの挨拶じゃまず出てこないだろうからな。
 しかし、口振くちぶりから察するに呪いとは恐らく、リルに与えられた死のほうの才のことだろう。
 ……そういや好感度が低いまま夜をすと死ぬって言うあれ、まだ解除してもらっていないな。もう許されているだろうし、あとでやってもらおう。


「いえいえ。わたくしは『人をおどして地位を立てるようなおろもの』ではございません。正々堂々と勝負させていただきます」


 正に一触即発だ。全くもってこわいやりとりである。
 まあ大陸統一をこうしようげている間には、こういうことも多く経験してきたから、それほど感情も動かないのだけれど。俺もメンタルが鍛えられてしまった。
 しかし本来であれば、ここでリルをバカにされておこり、実力と威厳をもって場を正すぐらいのほうが『英雄らしい』のかもしれない。
 最後にリルは、マノンへ順を譲る。


「……こちらのおじようさまは? 見たところ王族や貴族ではなさそうですが」

「マノン・アウローラ。平民」

「平民? ――――ふっ、ふははははっ! 平民を貴族のしんぼくかいへ招くなど、いくら王族や英雄と言え、少々度が過ぎるのではないですか?」


 ゴルツさんは俺とリルへ向けて、言った。
 だがマノンはこわわらせて、恐ろしいほどに相手を見下した目で、宣言する。


わたし友達ともだちは人ができているけれど、わたしはできていないから。これ以上リルを悪く言ったら、殺すよ?」


 …………えっ。
 マノン、今、リルのことを友達ともだちって……。


「さすが平民、口が悪い」


 しかしマノンのことを、ゴルツさんが知っているはずもなく。
 いつしように付されてしまった。


「マノン、戻るぞ」


 俺から率先してきびすを返し、レイフさんのところへもどる。
 すると、面白いものを見るような顔で迎えられた。


「これはこれは。リル様とハヤト様には、とても良いことがあったようで」

「……いやぁ。そりゃ、だって」

「ね?」


 二人ふたりで次々にマノンの顔を見遣みやった。


「わ、わたしはずっと――っ!」

「ありがと、マノンちゃん。うれしいわ」

「おう。今までで一番怖かったけれど、一番可愛かわいかったぞ」


 ほおしゆに染めてうつむいてしまう。
 ヤンデレでほかの候補をはいじよする気満々でも、リルのことは友達ともだちだと思っている。この子も複雑な感情を胸に宿しているのかもしれないな。
 ――でも、どちらにせよミューレン家の当代、ゴルツさんのおかげでいんけんな空気になりそうだったところを、マノンがほぐしてくれたわけだ。
 あんな人の言葉なんかぶぐらいに、かのじよの言葉がうれしい。
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