異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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王位継承編③ その戦いで得るものは

いざ、手合わせ

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 親睦会というのは本当に名前だけで、道場の中ではすぐに試合が始まった。
 この世界の武術は『術』であって『道』ではない。けんじゆつけんどうが異なるように、よりじつせんてきな戦いとなるわけだ。

 そういうこともあってか、切っ先こそ木製ではあるがけんやりと棒、武器はどれを選んでもよく異種かくとう戦のようなじようきようとなる。
 初戦はチェンバーズ家の長男が剣術、ミューレン家の長男は槍術そうじゅつ
 俺は隣に座るリルへ問う。


「この世代はチェンバーズ家が強いんだったか?」

「うん。長男は剣術で最強と呼ばれていたみたい」


 たったそれだけの会話を終えた瞬間、チェンバーズ家の長男がいつしゆんみできよを無くすと、相手の持つやりの根元をガッとげた。
 無防備になったところに首へ寸止め――。
 一瞬の攻防で勝利を収めた。


はくりよくあるわね」

「さすが武術の名門同士――ってところだな。一瞬で相手を無防備に追い込むのは実践的だ」


 俺とリルの会話に、マノンはぽそりと「魔法の前では無力ですけれどね」と呟いた。
 それはお前だけだって……。

 次いで次男同士の対決。
 こちらはミューレン家がリーチの長さをかしにかした槍術そうじゅつで、ごういんにねじ伏せた。全体的に見てミューレン家のほうが身長が高いが、中でもこの次男は飛び抜けている。

 そして三戦目。
 レイフさんとゴルツさんの当代対決だ。
 リルがゴクリと喉を鳴らして、不安そうに問うてくる。


「当代同士の対決って……。ねえ、これ、本当にだいじようなのかな?」


 大会や公の前で行われる試合ならば、当代同士の対決は家名を背負ったとんでもなく重い意味を持つ勝負となる。
 ただこの場合は――。


「あくまで親睦会だからな」

「そういうもの、なのかな……」


 マノンはあまり興味がないようで、一言呟いて魔法の優位性を語って以来、ずっと口を噤んでいる。


「おやわらかに」

「ふんっ――」


 やりを持ったレイフさんは一礼をして、棒を持つゴルツさんは礼をせずに構える。
 道として正しいのはレイフさんだが、これは道ではない。
 礼節にかかわらず、勝ったほうが正義となる。


「棒術は力が命だと聞くけれど」

「技術だけで軽く当てたところで、棒じゃることはできないからな。だからこそじゆうじゆつを組み合わせることも多いわけだが、そこでも力は必要になる。基本的に、剣術は速さ、槍術そうじゅつは間合い、棒術は力――――」

「そっか。だから体格に優れたゴルツさんは棒を持って、比較すると小柄なレイフさんが槍を構えたんだ」


 リルは納得をしたようだが、どうかな。
 優れたところを活かすなら、レイフさんは素早さを武器とできる剣を選びそうなものだ。
 更に言えば、俺はロニーくんの稽古を付けるレイフさんから並々ならぬ力を感じだ。
 あれだけの棒術をあつかえるのにやりを構えたということは、槍術そうじゅつに相当な自信があるか、あるいは――。

 先にけたのはゴルツさんで、長めの棒を力業ちからわざまわす。
 一般人としてはしっかりした体格でも、とうとしては痩身そうしんのレイフさん。対して年齢に似付かわしくないほどに分厚い肉体のゴルツさん。
 ――一見すると、力でガンガンんでいるゴルツさんが有利に見えるだろう。

 しかしレイフさんは槍の長い間合いを保って棒を打ちさばき、一瞬のすきねらってゴルツさんの棒を跳ね上げると、そのまま一瞬でのどもとやりの先をけてしまった。

 勝負あり、だ。

 棒は手元から先までほとんど同じ太さで同じ重さ。しかしそんな棒にも最も力がかかる『しん』が存在し、レイフさんはそれをけてさばいていた。
 そしてやりしんほこさきにあり、その矛先で相手のしんでないところを打ち付けたわけだ。
 そうすればわんりよく差など無かったかのように、しんで打ち付けたほうが勝てる。
 深く一礼をして紳士な振る舞いで引き上げてくるレイフさんに、リルが語りかけた。


すごいですっ……。力ではあつとうてきにゴルツさんだったのに」

「振り回す力を暴力と呼びます。チェンバーズ家は代々守りの型をいでおりますので、暴力へのたいこう手段を豊富に持ち合わせているのですよ」


 暴力的な武術――。
 確かに、ゴルツさんを筆頭にミューレン家はそういう印象だ。
 まあゴルツさんの息子むすこさんはゴルツさんがきたえているわけで、当然と言えば当然なのだが。


「さて。――ロニー、がんってくるのですよ」


 レイフさんの言葉に、ロニーくんは静かにうなずいた。
 小さな背中から沸き立つほどの闘志を感じる。
 ここまではチェンバーズ家が二勝一敗だ。四戦勝負になるからロニーくんが勝てば完全な勝利を決めて、負ければ引き分けとなる。
 負ければ敗北というプレッシャーを背負うよりは、良いだろうけれど――。


「相手の子、大きいわね」
「本当に一さい差か疑わしいな」


 ロニーくんの身長は百三十センチ程度。多分、年齢なり。
 だが相手の子はマノンよりも大きく、リルと同じぐらい。少なく見積もって百六十センチ近くはあるだろう。
 礼をしたロニーくんを、相手は不敵に笑いながら見下げてくる。
 試合をする前から『勝敗は決まっている』と言いたげな顔だ。
 先手を打ったのはロニーくんで、得意の棒術をれいろうする。だが――。


「棒術って、力がないと難しいのよね?」

「ああ。でも力がなければ戦えないというわけでもない。見てみろ」


 さすがにレイフさんが鍛えただけあって、すじい。すきのない棒さばきで相手にはんげきの機会を与えていない。


「本来、棒術と槍術そうじゅつには共通点が多いんだ。棒術で最も強いこうげきは『き』だからな」

「でもレイフさんとのけいで、突きはやってなかったよ? 今だって――」

「ああ。ヤマさんも突きはほとんど使わなかった。だからチェンバーズ家の棒術というのは恐らく、護身術に近いだろう」

「守りの型――ってこと?」


 俺はうなずいて、ロニーくんの戦う姿に目を細める。


「ヤマさんは味方を殺させないだけでなく、敵を殺すことすらもきらったんだ。だから――」


 言いかけたしゆんかん、ロニーくんが初めて突きをし、相手はそれを横へかわした。
 突きは攻撃で最強であると同時に、前向きの重心移動を持つから次の動作へ移りづらい。躱されてしまえば大きな隙を生み出してしまう。
 しかし大ピンチと思えるこの状況を作り出しておおりをさそうことこそが、きっと、チェンバーズ流の戦い方――。

 ロニーくんはした棒をそのまま投げ捨てて、前向きにそのまま相手のふところへ入ると、胸へかたを当て、体勢を崩させる。
 そのまま服をつかんであしばらいを決めた――。
 ヤマさんの棒術はこうして柔術と組み合わせることで、敵を、無傷のまま制圧する。いたずらに力を振り回すよりもよほど難しくて、勇気のいることだ。
 突きと見せかけて回避を誘い、放り投げて驚かせたところで柔術に繋げる。実戦でも何度か見てきたヤマさんの姿だ。
 戦場で武器を投げ捨てるとか正気じゃないな……と、毎度思わされたけれど。


「勝負あり――だな」


 相手の子はやりを手放して両手を広げ、大の字になった。
 ロニーくんの勝利――。
 しかし俺がホッと一息いたところで、ロニーくんの頭をかたこぶしおそった。
『ゴッ!!』とにぶい音が鳴る。


「なっ!!」

「ちょっと! もう勝負は付いてたでしょう!?」


 大の字になって降参を示してから、勝敗が決したと思ってはなれようとしたロニーくんを、ただ単純に『なぐった』。
 これではもう試合や手合わせとは呼べない。どうを説きたいわけでは無いが、ただの暴力なんて、武術ですらない。
 だが俺とリルのこうに、ゴルツさんは高笑いをかべた。


「んー? これが戦場であれば、果たして、どちらが勝っていましたかな。武器を捨てて柔術にたより、あまつさえ勝利を勝手に確信して手をくなど、正にの骨頂――。さすがあのヤーマンの息子むすこ! 親に似て弱いのう!」


 がっはっは、と笑うゴルツさんは更に言葉を続ける。


「さて。これで今年ことしも我々の勝利」


 勝利……?
 仮に今の勝敗をロニーくんの負けということにしたところで、二対二で引き分けだと思うのだが。


今年ことしもヤーマンの不戦敗によって我々が勝った。全く、武術で勝てずに、貴族にもかかわらず戦地へおもむき死んでしまうなど、これぞ一族のはじですな。不出来な息子むすこを持つとこうなるのですよ、ぐぁーはっはっは」


 うわぁ。悪いやつの見本みたいな性格をしているな。
 レイフさんは体格のちがう相手に殴られたロニーくんへって、グッタリしていることをかくにんするとすぐにかかげ、だまって引き返してくる。


「言い返さないんですか?」

「元々、親睦会は五対五の対決で続けられてきた伝統があるのです。戦える力を持っていないのはこちらの都合。――あそこでロニーが背負っていたものは、親の……。ヤーマンの不在、そのものなのです」

「……だからと言って、横暴だと思いますが」

今年ことしはあと一歩のところまでめました。この子は強くなれるでしょう。――――ッ、しかし!」


 はじめてレイフさんが、苦しそうに言葉をいた。


「もしせんであったなら、わたしが全員たたきのめしていたところです」


 明確なとうもった声は、悲痛でもあり、息子むすこを失った苦しみを延々と味わい続けることをも意味しているとさとるに十分だった。


「――――レイフさん、俺が代わりに出てもいいですか?」

「ハヤト様が? しかし、いくら英雄と言えど――」

「俺はヤマさんから色々なことを教わりました。その中には武術もふくまれます。…………このまま不戦敗となるぐらいなら……。お願いします。恩返しの機会を、与えてしいんです」


 特技継承については黙っておかなければならない。
 それでも、俺がすべてを黙っている義理も道理も、ない。


「……わかりました。よろしくお願いいたします」


 言うと、レイフさんはロニーくんを手当が受けられる場所へ運ぶと言い残して、いつたん場を去った。そして俺は、手合わせに名告なのりを上げる。
 ミューレン家でずっとゆうの表情をひけらかしながらひかえていた、さんなんぼう――。もちろん彼を指名した。

 このままでは、レイフさんは息子むすこの死を。ロニーくんは、父親の死を。延々と背負い続けることになってしまう。
 人のために生きたヤマさんの家族が不必要にとうされ続けるなんて、なつとくできるはずもない。

 ――――これは俺なりの、つみほろぼしだ。
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