異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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王位継承編⑥ 好奇心に負けて蓋を開ける

リル㉒ 記録を読む人

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 リルが生まれたのが十八年前。
 オメロさんのざんはそれから少しっての話のようだけれど、とりあえず十八年前から記録を読み始める。
 しかし――。読むのを手分けしてみて改めてわかったが、マノンは異常な速読だ。本当に流れるような速さで読み込んでいく。


「それ、本当にちゃんと読めてるんだよな?」

「もちろんです! 他人のおくさんをったざんなんて本当は目も通したくないのですが、いつか私とハヤトさんがげる日本をこの目で見るためなら、労力はしみませんよ!」


 相変わらず、ひきこもりなのに働くことを嫌わない奴だ。本当に現代日本にはピッタリではなかろうか。


「添い遂げる予定なんてないけどな」

「私の中では予定ではなく確定ですから、お気になさらずに」

「そのおれの気持ちを全力で無視するスタイルがこわいんだよ……」


 しようかん術を使ってゲーム世界からモンスターを召喚し、国を混乱におとしいれ、俺が命をけて実現させた平和を無に返すなんていうとんでもない話でおどしてきた前科があるわけで。
 まあ、そのときはさすがに本気でおこったけれど。
 あれからマノンは、一度たりとも『その手は使わない』と明言してない。
 この確信の裏にあるものが結局、きようはくなのだとしたら……。

 自分が望むヒロインを連れ帰るためだけに、十字大陸全ての人間を危険にさらすなんて、できるはずもない。
 でもマノンには、そうやって俺といつしよに帰ったところで俺がマノンを好きになんて絶対にならないって、早く気付いてしい。


「――で、リルは何を興奮しているんだ?」

「ふやっ!? ひえ、はんでもないわ!!」

「どう見てもどうようしてるじゃねえか」


 ちょっとした興味ときようみながら、リルの読む書類をとなりからのぞきむ。


『私は妻子ある人を寝取ってしまいました。でも、ベッドでのかれは私だけを愛してくれると――』しゅうりょーっ。


「人の寝取り話で顔真っ赤にしてんじゃねえよ!!」

「顔が赤いのは、好きな人の顔がすぐそばにあったからよ!!」

「お、おう……」


 あれ? 俺、口説かれてる?
 さすがプロヒロイン。コメディ路線の最中に告白を混ぜてくるなんて、もはやれた印象すら受ける。
 見目はばつぐんで性格もせいへきを除けばとんでもなく良いわけで、こいつに落とされないってのは結構な気合いが必要だ。

 ……実際、何度か落とされかけているし。

 大人の付き合いとして割り切って、『俺がだれかに寝取られちゃえば良いんだー』って、少し思っていたけれど。
 こいつと男女の仲になって情が移らないなんて、少なくとも俺には無理である。その上で寝取られてしまったら四六時中酒を飲んでらす目にうだろう。
 もちろんリルが落ち込む姿も見たくないし、困った話だ。


「うーん。懺悔者のめい簿を見ていると、十七年前から十五年前ぐらいの出来事のようですね」


 リディアは年次別の名簿を開いて、調べる書類の期間を確定させてくれた。


「なあ、結構な数の書類だと思うんだけど、全体で何年分あるんだ? なんか千年分ぐらいんでそうなんだが」

「五十年をさかいに別の場所へ移管されていくので、この書庫にあるのは、ちょうど五十年分ですね」

「これでたった五十年かよ……」

「罪を自ら告白した者に、何人もばつあたえられない。ということはつまり、重罪人のみ寺のような機能を果たすこともありますので」

「おい! それマジでダメなやつだろ!!」


 教会で懺悔して済むなら警察はいらないという話だ。
 警察はないけれど国軍が同じ役割を果たしているから、これは一種の『無罪確定ルート』になってしまう。


「もちろん対象外もあります。主に人殺しや放火、ごうかんなどが通報対象です。まあ、どこからを通報とするかのさじ加減は、きようこう様の意向がまれますが」

「通報されたらそくたいで裁判。教会って、検察みたいな役割もしてんのかよ……。しかも教皇の意向で……って、最悪じゃねえか」


 中世世界らしいくさりかたが想像できる。


「そうでしょうか? 熱心な信者であれば一考の余地があるというのは、とても人情味にあふれると思いますけれど」

「あのなぁ。がいしやにとっては人情味なんていらないんだよ。そういう情けは無用でさばいて欲しいと願うのが被害者心理だと思うぞ」

「そういうものですかねぇ」


 忘れがちだけれど、一応、日本に帰ったら弁護士資格の取得を目指したいわけで。
 こういう話にはどうしてもびんかんになってしまうな。


「リディアが知るはんで、信者への温情みたいなものが働いたことはないのか?」

「うーん。信者のかたというのは、ほう作業で善行を積み重ねている場合もありますから。町のせいそうとか、いんへの協力とか、人手が足りないところをぜん活動していただくことで補っているのが実情です。むしろ温情がなければ非情ですよ」

「寄付金で差が付いたりとか」

ぜにを切って人のためにお金を使ってくださいと言う人に、あまり厳しいことは言いづらいでしょうね。さすがに人殺しとかになると、全部帳消しですけれど。軽犯罪……例えば『少額のせつとう』とか『のぞき』とか『軽傷程度で済むけん』とかなら、反省していればとがめない場合もあります」


 ……難しいところだな。
 基本的には、罪をおかせばそこがスタートと考えるのが日本の法律だ。どれだけ良い人であろうと罪は罪であり、罰せられなければならない。
 ただ実際の裁判官はよくしやべるし、温情を付けることも、それほどまでにはめずらしくないようでもあった。
 裁判をぼうちようする中学生というのはかなり珍しがられたけれど、俺は何度か近くの裁判所へ行って裁判というものを生で見たことがある。
 そうして将来の進む道を決めないと、本格的にひきこもりをだつする決心が付かなかったからだ。
 まさか家から出るどころか異世界に召喚されるとまでは、夢にも思わなかったけれど。


「――――って、ちょっと待て。今、『のぞき』って言ったよな?」

「はい。言いましたよ」

「ちょっとここ数年の名簿を見せてくれ」

「どうぞ……」


 さて。のぞきと言えば、最近顔を見ないれいけんじやのことしか思い当たらないわけで。


「ほうほう。今年だけですでに五回も懺悔しておるのう。ほーう、そうかそうか……」


『○月×日。東部えんせいひかえたパトリシアさんが来訪。またもえいゆうの私生活をのぞいてしまったと懺悔。これからもかえす私の罪をおゆるしください。とのこと』

『○月×日。十字大陸統一の任を解かれたパトリシアさんが来訪。命を危険に晒す中でするのぞきこうほど興奮するものはない。ああ神よ、罪深き私をお赦しください。とのこと』

『○月×日。前回の来訪から三日目でパトリシアさん再来訪。今日も英雄様はまつなものをブラ下げてご入浴。私しか知らないギャップがたまりません、お赦しください。とのこと』

『○月×日。パトリシアさん来訪。今日は顔色がすぐれないようだ。心配になって何があったのかをうかがってみると、とうさつほうがバレてしまった――ッ、と。これまでのことを泣きながら懺悔。全てお話ししますから今までのことはいつたん流して、次に行きましょう。とのこと』

『○月×日。またパトリシアさんが来訪。三日間の休みをもらったものの、ほとんどの時間をしゆののぞきについやしてしまった。最近は英雄様と王族の関わりも多く、王族のプライベートをあばかずに英雄様だけをのぞくことは困難をきわめる。だが、ここでくじけては賢者の名折れ! 私はりよく量ではあのむすめおとるが、そうふうでは誰にも負ける気はない。今日も今日とて英雄様の粗末なものをこの目に焼き付けて、白黒とは言え現像して保管するのだ――っ。むふぅーっ、たまらん! とのこと』


 ふーーーーん。
 こんな紙なんてビリビリビリィー! とのこと。


「うわぁ! なんで破っちゃうんですか!?」

「うるせえ! パティの悪事はともかく、なんで俺のかん評価が教会に保存されなきゃならん!? つうかこれ通報案件だろ!!」

「いえ。パティは賢者として国にくし、そのきゆうの多くを寄付してくれています。善行を積んでいるので、この程度の軽犯罪では――」

「こいつが積んでいるのは悪行だけだぁぁぁぁぁぁっ!!」


 被害者は俺なわけで、このまま告発とかできないものだろうか。
 なんだよ『何人も罪を咎められない』って。
 やっぱりこの世界には法制度が必要だ! この件に関してはじいさんも正解としか言えない!


「…………で、リルは去年の記録を開いて、何をしているんだ?」

「いやっ、その……っ」

「まさか、お前までパティと同じようなことを……」

「じゃ、じゃあハヤトくん、私の胸のサイズに興味ない?」

「あるに決まってるだろ」

「それよそれ! 同じこと! ちょ、直接見るわけじゃないんだし、文章で読むぐらいは……ね?」

「ね? じゃねえよ! 今初めてお前のこと爺さんの孫だと確信したわ!! 完全に変態じゃねえか!!」


 異性に好かれるって、こういうイベントが発生するものなの? ちがうよね? そもそもパティは俺のことを好きでもなんでもないわけで。
 ――――あれ? しかしあいつ、好感度百パーセントだよな。
 まあ百パーセントは同性でもあることだし、例えば直接の知り合いじゃなかったとしても百パーセントになることはある。
 英雄に本気で憧れている子供なんて、ほとんどみんな百パーセントだ。重たいけれど。

 だから、異性としての好きとは限らない。
 きっと違う。
 たぶん。
 …………考えると怖くなってくるから、やめておこう。もし異性としての好意だったら単なるストーカーだ。


「マノンはさすがだな。最近は軽くよごれ始めてきたかと思ったけれど、やっぱりお前が一番ピュアだ」


 男として、十四さいの女の子というのは、これぐらいのじゆんしんでいて欲しいと願ってしまう。


「私はあまり、そういうことに興味がないので。ただ一緒にいられたら、それだけでいいんです」

「マノン――っ」


 一番汚れてないのがヤンデレむすめって、どういうこと?
 リルの寝取られ病は治る気配がないし、パティはもう犯罪者以外の何物でもないし、なんでお前ら、バランス取る気がないんだよ……っ。
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