異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

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王位継承編⑥ 好奇心に負けて蓋を開ける

リル㉓ 記録を読んだ人

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 書庫にもどるとリディアが机にしてスヤスヤと眠っていた。
 この聖職者は王族なのに平民と同じ視線に立って働いている。
 疲れているのなら、少し寝かせておいてあげよう。
 しかし一方でリルは足音に気付いて、こちらへ顔を向けた。


「ハヤトくん――」

「どうした?」


 あまり良くない内容だったのか。【実録! 父親のり話!】を読んだ割に興奮した様子がない。いやつうはそうか。
 これで寝取られにはがいしやがいることをさとってもらえたらいいのだが。


「その……」

「言いにくいことなら、心の整理が付いてからでもいいぞ。マノンだって、少し待つぐらいはできるだろ」


 となりに立つマノンは首を縦にうなずく。
 少しの時間とは言えデートをしたからか、いつもより距離が近めに立っていた。


「………………私、もしかしたら、お父さんの子じゃないのかも」

「――――は?」


 やつれた顔で放たれた言葉は想定外すぎて、うまく頭で処理しきれずにちんもくの間を作ってしまった。
 第一、リルには平民と明らかに異なるほうの才があるわけで。
 それは王族である父親からさずかったものだと思うのだが。
 まあ、マノンのようなちようレアケースの存在もあるけれど……。こいつは魔法の才があるというわくに収まっていない。だから本当に『とつぜん変異』のようなものだと想像できる。

 もし魔法の才が王族の順位付けをするのならば、マノンが新たな女王となって子孫が王族を名乗ることがこの世界の未来なのではないかと思えるほどに、たんである。
 だがリルの魔法は『死』という、とんでもないものに特化してはいるが、現王族の持つ力のはんないだろう。

 …………………………って、ちょっと待て。


「リル、例の魔法を最後まで使い切ったことはあるか?」


 つまるところ『死の魔法』ってものは、だれかを殺していないと実証不可能なのではないだろうか。
 確かにカッと感情的になるところはあるけれど、こいつは人を殺すような性格ではない。
 第一それって、十字大陸統一でも最強クラスの武器になれたように思える。
 要人に魔法をかけて、おどすことができる。おれがそうされたように。
 ――――そしてかのじよは、ふるふると横へ首をった。


「マジかよ……。おい、マノン。マノンはリルの魔法を逆に辿たどってかいせきしただろ? それは本当に死の魔法だったか?」

「はい。しかし問題は魔力量です。人の生死を分かつ魔法なんて、かなりのりよくを持たないと使えないと思いますけれど、そこは解析不可能です」

「じゃあリルは『死の魔法を行使したけれど、本当に殺せる力があるかはわからない』――ってことか」


 この世界では、生活魔法のように体系化された魔法が存在する。
 それは一種の科学とも呼べるだろう。学習すれば誰にでもあつかえるもので、特別な力ではない。
 百メートルを速く走る方法とか、野球で速いボールを投げる方法とか、とりあえず理論が存在するものとそう変わりはないわけだ。

 ――――では、もし、死の魔法が体系化されていたら?

 実行に必要な魔力が足りなくとも、実行に必要な要素や手順がすでに存在していたら?

 賢者は様々な魔法を編み出し、中には危険であることを理由に『秘匿魔法』として国で管理するものもあると聞く。


「まさか俺を殺せとも言えないし、ましてや誰かを殺せなんて、言えるはずもないわけだ……。つまりこれは、『実証しないほうが、全員が幸せであり続ける、そういう魔法』――――ってことか」


 王族外の人間を王族といつわるには、これ以上の条件は存在しないだろう。これは魔法というよりもトリックに近い。

 開けてはならない、パンドラの箱。

 それは案外、身近に存在するのだろうか。
 身内のごとあばくなんて、やはりするべきではなかった――。
 俺は昨日の時点で、すでにこうかいを感じ始めていた。やはりそこで止めておくべきだった、と、いまさらながらに深く思わされてしまう。
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