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王位継承編⑥ 好奇心に負けて蓋を開ける
リル㉔ 知っていた人
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結局のところ、目的の人物は名前すら懺悔に登場してこなかった。
しかしリルの出生に嘘があるというならば、俺たちは、確実に事情を知る人物を一人知っている。
「おいジジイ!」
「なんじゃ騒々しい」
場所はゲーム部屋。
「リルは本当に、あんたにとって血の繋がった孫か?」
国王はコントローラーを置いて、豪奢な杖を持ち、珍しく神妙な面持ちでこちらへ向かって立ち上がった。
「…………やはり気付いたか。隠し通すにも無理が出てきたとは、思っておったのじゃが」
俺は彼女が本気で傷心している姿を、初めて見た。
そしてこの場にいるのは、俺と国王のみ。
リルは本当に苦しそうな顔で
『自分で確認するのが怖い』
と打ち明けてくれた。
続けて――
『ごめんなさい』
と。
そう謝られた瞬間に、俺の頭の中でなにかのスイッチが切り替わった。
マノンもリルのそばへ置いてきた。
本人が『あの人の顔を見たくない』と言っていたし、俺としても、リルのことを友達だと思っているマノンがキレたら止められ……いや、止めないかもしれないから、置いてくることが最善だった。
「てめぇ、血縁の孫じゃないからリルをヒロインに仕立て上げやがったな」
「どうじゃ? 寝取られ以外は完璧じゃろう?」
「歳取っててよかったな。若けりゃ殴ってるところだ」
「リルでは不満かの」
「そういう問題じゃねえだろ!!」
本気で怒っていることが伝わったのか、国王は重そうに溜め息を吐く。
「――では問うが、母を失ったリルが幸せに生きるための最善手は、なんじゃ?」
「最善……? これが最善手だって言いたいのか!?」
「記録を見たのなら知ったのじゃろう? 本当の父親はリルを育てようとしなかった。オメロが平民を娶り、平民と平民の間に産まれた子を我が子として育てると決めたのじゃ。間違っているのは本当の父親のほうじゃろう」
「ああ、そりゃあテメエの息子は可愛いだろうよ! でも実際はどうだ。リルを見捨てて一人で日本に行ってるじゃねえか! ちゃんと育てる気があるなら最後まで――っ」
「不治の病で死ぬとわかっていても――か? どちらにせよリルは一人となる。オメロは考えたのじゃよ。どうすれば娘が幸せになれるかを。……そして、自分が異世界へ渡って、リルがヒロインに選ばれることを願った」
「嘘で塗り固めたまま消えるより、先に言うべきことがあっただろ!」
「言うべきこと? いつかリルが英雄のヒロインとなって異世界へ渡り、そこで何も知らずに家族を作って、今度こそ詐りのない本当の幸せを得る。――――なにか、問題があるのか?」
「てめっ――――」
「事実を知ったリルはもう、寝取られを望むことはなくなるじゃろう。あれを完全に洗脳できたのは、偽物の生い立ちを本気で信じてくれていたからじゃ」
質が悪い――っ。
「過去とは過ぎ去るもの。ワシとオメロは責任を果たしたと言ってもいい」
「勝手すぎるだろ!」
「今となっては、リルを幸せにできるかどうか、鍵を握っているのはハヤトじゃ。おぬしがリルをヒロインと認めれば全てが丸く収まる。…………ライカブルで確認できているのじゃろう? 好意が完全なものである、と」
「まさか、このスキルまで最初から――っ」
「のう、若造。過ぎ去った過去のことをほじくり返す怖さは、身に染みたか?」
「くっ――――。何から何まで全部思い通りかよ……」
リルをヒロインに選んで、日本で生涯を共にする。
もし本当に寝取られ願望がなくなっているなら、それは当然、俺だって本望だ。
…………でも、そうなったらマノンはどうなる?
そもそも王位継承まで国王は不在。俺は、合意のしようがない。
「悩め、若造。ワシやオメロも悩み抜いたすえに決断したのじゃ」
「……パソコンはいらねえのか?」
「この国で活動するための金銭がいらぬのか?」
――――ここで感情的になって交渉を破綻させることは簡単だ。
だが俺やリルではない、もしかするとマノンですらない誰かが国王となった場合、この話は更に難航する可能性がある。
せめて俺とリルのどちらかが即位して、そのままトンズラするか。いや、しかしそれではマノンの問題が解決しない。
「…………少し、時間をくれ」
「賢明じゃろう」
俺はどうしようもなく暗い気持ちで、リルとマノンの待つ部屋へと足を向かわせた。
冷静になって根源まで立ち返って考ると、日本でそのまま生きていたって、俺の性格じゃヒロインとか嫁とか以前に、彼女や女友達もできなかったと思う。
そりゃあ、この世界に来て本当の『命がけ』を経験してしまったから、多少強引にでも性格を変える必要に迫られて、当時の俺と今の俺はもう違う人間だろう。
それでもリルのように完璧すぎる女の子と親しくなれるなんてこと、ありえただろうか。日本にこんな子がいるのかすら、疑わしいと言うのに。
ましてやマノンのような可愛い妹みたいな子となんて……。
日本で二十一歳と十四歳が出会うなんて、塾や家庭教師の先生でもしていなければ、他にどういう切っ掛けがあるのかわからない。それだって先生と生徒であって、異性として出会うわけではない。
今日のデートだって、日本でなら下手をすると事件性を疑われるレベルだ。
だから自分の利益だけを考えれば、寝取られ願望のなくなったリルを連れ帰ることができれば、万々歳。
…………でも、それじゃマノンが、一人で残されてしまう。
なんでだろうか。
こいつらのどちらかと離れて幸せになる未来が、俺には想像できなかった。
しかしリルの出生に嘘があるというならば、俺たちは、確実に事情を知る人物を一人知っている。
「おいジジイ!」
「なんじゃ騒々しい」
場所はゲーム部屋。
「リルは本当に、あんたにとって血の繋がった孫か?」
国王はコントローラーを置いて、豪奢な杖を持ち、珍しく神妙な面持ちでこちらへ向かって立ち上がった。
「…………やはり気付いたか。隠し通すにも無理が出てきたとは、思っておったのじゃが」
俺は彼女が本気で傷心している姿を、初めて見た。
そしてこの場にいるのは、俺と国王のみ。
リルは本当に苦しそうな顔で
『自分で確認するのが怖い』
と打ち明けてくれた。
続けて――
『ごめんなさい』
と。
そう謝られた瞬間に、俺の頭の中でなにかのスイッチが切り替わった。
マノンもリルのそばへ置いてきた。
本人が『あの人の顔を見たくない』と言っていたし、俺としても、リルのことを友達だと思っているマノンがキレたら止められ……いや、止めないかもしれないから、置いてくることが最善だった。
「てめぇ、血縁の孫じゃないからリルをヒロインに仕立て上げやがったな」
「どうじゃ? 寝取られ以外は完璧じゃろう?」
「歳取っててよかったな。若けりゃ殴ってるところだ」
「リルでは不満かの」
「そういう問題じゃねえだろ!!」
本気で怒っていることが伝わったのか、国王は重そうに溜め息を吐く。
「――では問うが、母を失ったリルが幸せに生きるための最善手は、なんじゃ?」
「最善……? これが最善手だって言いたいのか!?」
「記録を見たのなら知ったのじゃろう? 本当の父親はリルを育てようとしなかった。オメロが平民を娶り、平民と平民の間に産まれた子を我が子として育てると決めたのじゃ。間違っているのは本当の父親のほうじゃろう」
「ああ、そりゃあテメエの息子は可愛いだろうよ! でも実際はどうだ。リルを見捨てて一人で日本に行ってるじゃねえか! ちゃんと育てる気があるなら最後まで――っ」
「不治の病で死ぬとわかっていても――か? どちらにせよリルは一人となる。オメロは考えたのじゃよ。どうすれば娘が幸せになれるかを。……そして、自分が異世界へ渡って、リルがヒロインに選ばれることを願った」
「嘘で塗り固めたまま消えるより、先に言うべきことがあっただろ!」
「言うべきこと? いつかリルが英雄のヒロインとなって異世界へ渡り、そこで何も知らずに家族を作って、今度こそ詐りのない本当の幸せを得る。――――なにか、問題があるのか?」
「てめっ――――」
「事実を知ったリルはもう、寝取られを望むことはなくなるじゃろう。あれを完全に洗脳できたのは、偽物の生い立ちを本気で信じてくれていたからじゃ」
質が悪い――っ。
「過去とは過ぎ去るもの。ワシとオメロは責任を果たしたと言ってもいい」
「勝手すぎるだろ!」
「今となっては、リルを幸せにできるかどうか、鍵を握っているのはハヤトじゃ。おぬしがリルをヒロインと認めれば全てが丸く収まる。…………ライカブルで確認できているのじゃろう? 好意が完全なものである、と」
「まさか、このスキルまで最初から――っ」
「のう、若造。過ぎ去った過去のことをほじくり返す怖さは、身に染みたか?」
「くっ――――。何から何まで全部思い通りかよ……」
リルをヒロインに選んで、日本で生涯を共にする。
もし本当に寝取られ願望がなくなっているなら、それは当然、俺だって本望だ。
…………でも、そうなったらマノンはどうなる?
そもそも王位継承まで国王は不在。俺は、合意のしようがない。
「悩め、若造。ワシやオメロも悩み抜いたすえに決断したのじゃ」
「……パソコンはいらねえのか?」
「この国で活動するための金銭がいらぬのか?」
――――ここで感情的になって交渉を破綻させることは簡単だ。
だが俺やリルではない、もしかするとマノンですらない誰かが国王となった場合、この話は更に難航する可能性がある。
せめて俺とリルのどちらかが即位して、そのままトンズラするか。いや、しかしそれではマノンの問題が解決しない。
「…………少し、時間をくれ」
「賢明じゃろう」
俺はどうしようもなく暗い気持ちで、リルとマノンの待つ部屋へと足を向かわせた。
冷静になって根源まで立ち返って考ると、日本でそのまま生きていたって、俺の性格じゃヒロインとか嫁とか以前に、彼女や女友達もできなかったと思う。
そりゃあ、この世界に来て本当の『命がけ』を経験してしまったから、多少強引にでも性格を変える必要に迫られて、当時の俺と今の俺はもう違う人間だろう。
それでもリルのように完璧すぎる女の子と親しくなれるなんてこと、ありえただろうか。日本にこんな子がいるのかすら、疑わしいと言うのに。
ましてやマノンのような可愛い妹みたいな子となんて……。
日本で二十一歳と十四歳が出会うなんて、塾や家庭教師の先生でもしていなければ、他にどういう切っ掛けがあるのかわからない。それだって先生と生徒であって、異性として出会うわけではない。
今日のデートだって、日本でなら下手をすると事件性を疑われるレベルだ。
だから自分の利益だけを考えれば、寝取られ願望のなくなったリルを連れ帰ることができれば、万々歳。
…………でも、それじゃマノンが、一人で残されてしまう。
なんでだろうか。
こいつらのどちらかと離れて幸せになる未来が、俺には想像できなかった。
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