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王位継承編⑦ 一つ屋根の下
リル㉕ 全てを変える人
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リルの部屋へ入ると、リルとマノンが同じベッドで並んで、すやすやと眠っていた。
賓客をもてなす部屋のベッドは広く、二人で姉妹のように寝ている様子がやけに背景と馴染んで、視界に収まった。
――――これほど微笑ましい光景というものは、そうないだろう。
俺は国王への怒りや、打ち明ける気の重さ、そういった一切を一度溜め息に変えてゆっくり吐き出した。
「すげーよな、こいつら……」
思わず呟かされる。
王族と平民。
片や寝取られを真実の愛と言い、片や寝るとかそういう話自体が大嫌い。
そして王位継承選を戦うライバルでもある。
これだけ相容れない要素があって、実際に最初はいがみ合っていた。それなのに、いつの間にか親友どころか、本当の姉妹みたいになっている。
初めて会ったリルは本当に完璧な女の子で、俺なんかには勿体ないとしか思えなかった。美しすぎて、不釣り合いにもほどがある。
でも、色んな一面を見てきて、綺麗さや可愛さとか、器量の良さとか……。そういうところで『評価』をするような関係では無くなった。
リルはリルであって、別に、俺を含めて誰を好きになったって、こいつの自由でしかない。寝取られは困るけれど、まあ、もし本当にそういうことになったとしても、こいつの性格を最初から知っていただろうと誰かから言われれば、俺はもう頷くしかないわけだ。
そしてマノンも、最初はもの凄い勢いで引きこもっていたから根っからの人間嫌いかと思いきや、蓋を開けてみるとそうでもなかった。
リルと姉妹のような関係を築いて、俺に対しては『ひきこもるための材料』ではなく明確な恋愛感情まで抱くようになっている。
この純真無垢な寝顔を見れば、ヤンデレ化も社会経験の少なさ故かな……という気がしてくる。リルだけではなく、俺にとっても妹のように可愛い。
俺は二人をそのまま寝かせておくために、そっと部屋を出て自室へ入り、一人では広すぎるベッドで横になった。
――――翌日。
リルに全ての事情を伝えると、思いがけない反応が返ってくる。
「……ありがと、ハヤトくん」
「礼を言われるようなこと、したか?」
過去を漁るような真似をして、知らなければ幸せだったことを知って、リルを不幸にしただけのように思うけれど。
「本当のことを知れて、よかった。これで――、もう心置きなく城を出られるから」
「ちょっ、どういうことだよ」
「この城、嫌いだったのよ。ほら……、疎まれてるし、良いことなんて、あんまり無かったから。お父さんの子じゃないのなら、私はただの平民でしょ? ここにいるのは色々な意味で間違いだと思うの」
「……王族の権利を放棄する、ってことか?」
「うん」
「王位継承はどうするんだよ」
「リタイア……かな。資格、ないし。それにやっぱり、ハヤトくんと一緒になりたいから国王を目指すなんて、ちょっと、おかしいかな」
いつもより途切れ途切れの言葉を紡ぐ苦しそうな姿を見ると、やるせない感情に襲われる。
確かにリルの言っていることは正しい。
妾の子や呪いの子なんて呼ばれながら城にいろとなんて、言えないし、反対する気もない。
しかし……。なぜだろう。
何も悪くない人間が一番振り回されるというのは、俺が異世界へ強制召喚されて『先陣を切って戦争してこい』なんて言われた状況と、かぶって見える。
――――いや、リルだけじゃない。
マノンだって本人は悪くないのに酷い目に遭わされた。
ある意味、俺たちが三人で固まっているのは、必然なのかもしれない。
みんな揃って、この国に翻弄された存在だ。
「いつ、ここを出る気だ?」
「行く当てがあれば、今日にでも」
「挨拶しておきたい人はいるか?」
「…………お祖父様と、もし会えるのなら、お父さん……。育ててくれた二人には、お礼を伝えたい。私のことを見放さなかっただけでも、感謝しないといけないから。……けれど、今は、……ちょっと無理かも」
リルは本来、明るい性格だ。俺が好きな、自立した強い女性像が当てはまる。歳を取ったらうちの母ちゃんみたいになりそうだけれど、まあ、それだって好きだ。
そんな彼女だって、落ち込むことはある。
自分を守ってくれていた人が本当の父親ではなくて、王族の血筋なんてないのに、蔑まされながらも耐えて王族として……いや、誰よりも王族らしく、凜と振る舞い続けた。
そして平民に紛れながらも、耐えない努力で首席の座を射止めたヒロイン養成学校での生活。これも全て、爺さんたちが企んだ計画だったのかもしれない。
確かに二人は育ててくれたけれど、少なくとも五年前には『手放す』という決断をされて、それを当事者のリルだけが知らなかった。
…………こんなもの、落ち込んで当然だ。
俺はさすがに少し気まずそうな表情をしているマノンへ向いて、問いかける。
「――なあ、マノン。俺たち、三人で一緒に暮らしてみないか?」
「へ? 私たち、三人ですか?」
「リルが平民になって、例えば城下町で暮らす。――ぶっちゃけて言うけれど、王族から平民になったなんて周りに知られたら、何を言われるかわからない。王族を嫌う人から石を投げつけられたって不思議じゃないんだ。まともに暮らしていくのは無理だろう」
「まあ、そうですね」
「だから俺は、リルを一人にしたくない。――同時に、マノンとも離れたくない」
「はなっ――。ぅえっ!? でも私、無理を言って一緒にいるので……。その、まだ脅してませんよ?」
「まだ、ってなんだよ」
……こいつ、自分が無理矢理な手段を使って一緒にいるようになったものだから、『脅さないと一緒にいられない』とでも思っていたのか。
一緒にいることが嫌だったら妹みたいに可愛がったりしないってことに、気付けるようになってほしいものだ。
「あれ? でもリルも一緒なのですよね」
「愛の告白ってわけじゃないからな?」
「むぅ――」
頬を膨らませて不満を表現してきたけれど、マノンは「仕方ないですね」と言ってくれた。
そして二人でリルへ向く。
「ちょ、ちょっと待って! 私が城を出るだけでいいのに、なんで二人まで――っ」
「俺だってここ、居心地悪いんだ」
「あ、それは同感です。ずっと監視されてる感じで、息が詰まります」
感情的な声へ割って入るように答えた俺とマノンに対して、彼女は不満なのか喜んでいるのか、反対か賛成かよくわからないというか、全部ごちゃ混ぜにしたような難しい顔で俯いた。
そのあともう一度顔を上げて俺とマノンの顔をそれぞれ見ると、やっぱり難しそうな顔ではあるけれど、こくりと一度、小さく頷いてくれる。
「さて。じゃあ新しい住処を探しに行くとするか!」
この国にも不動産業はあるから、まずはそこへ行ってみよう。
金銭はパソコンの対価で手に入れればいい。
国王に依頼されて仕事をしている間は国費を自由に使っていいとされたけれど、『ぶよ』と『サラ』の召喚騒ぎでその話も途絶えた。
逆らいながら国費を使わせてもらえるなんて、そんな甘い話は無いわけで。
十字大陸統一の対価として、少しぐらい恩恵を分け与えてもらっても良いとは思うんだけれど。
…………まあ冒険中に国費で『お店のお姉様たち』に遊んでもらったのは事実なわけで。
横領はギロチン首。そこに関してはもう、何も言わないほうが良いだろう。
賓客をもてなす部屋のベッドは広く、二人で姉妹のように寝ている様子がやけに背景と馴染んで、視界に収まった。
――――これほど微笑ましい光景というものは、そうないだろう。
俺は国王への怒りや、打ち明ける気の重さ、そういった一切を一度溜め息に変えてゆっくり吐き出した。
「すげーよな、こいつら……」
思わず呟かされる。
王族と平民。
片や寝取られを真実の愛と言い、片や寝るとかそういう話自体が大嫌い。
そして王位継承選を戦うライバルでもある。
これだけ相容れない要素があって、実際に最初はいがみ合っていた。それなのに、いつの間にか親友どころか、本当の姉妹みたいになっている。
初めて会ったリルは本当に完璧な女の子で、俺なんかには勿体ないとしか思えなかった。美しすぎて、不釣り合いにもほどがある。
でも、色んな一面を見てきて、綺麗さや可愛さとか、器量の良さとか……。そういうところで『評価』をするような関係では無くなった。
リルはリルであって、別に、俺を含めて誰を好きになったって、こいつの自由でしかない。寝取られは困るけれど、まあ、もし本当にそういうことになったとしても、こいつの性格を最初から知っていただろうと誰かから言われれば、俺はもう頷くしかないわけだ。
そしてマノンも、最初はもの凄い勢いで引きこもっていたから根っからの人間嫌いかと思いきや、蓋を開けてみるとそうでもなかった。
リルと姉妹のような関係を築いて、俺に対しては『ひきこもるための材料』ではなく明確な恋愛感情まで抱くようになっている。
この純真無垢な寝顔を見れば、ヤンデレ化も社会経験の少なさ故かな……という気がしてくる。リルだけではなく、俺にとっても妹のように可愛い。
俺は二人をそのまま寝かせておくために、そっと部屋を出て自室へ入り、一人では広すぎるベッドで横になった。
――――翌日。
リルに全ての事情を伝えると、思いがけない反応が返ってくる。
「……ありがと、ハヤトくん」
「礼を言われるようなこと、したか?」
過去を漁るような真似をして、知らなければ幸せだったことを知って、リルを不幸にしただけのように思うけれど。
「本当のことを知れて、よかった。これで――、もう心置きなく城を出られるから」
「ちょっ、どういうことだよ」
「この城、嫌いだったのよ。ほら……、疎まれてるし、良いことなんて、あんまり無かったから。お父さんの子じゃないのなら、私はただの平民でしょ? ここにいるのは色々な意味で間違いだと思うの」
「……王族の権利を放棄する、ってことか?」
「うん」
「王位継承はどうするんだよ」
「リタイア……かな。資格、ないし。それにやっぱり、ハヤトくんと一緒になりたいから国王を目指すなんて、ちょっと、おかしいかな」
いつもより途切れ途切れの言葉を紡ぐ苦しそうな姿を見ると、やるせない感情に襲われる。
確かにリルの言っていることは正しい。
妾の子や呪いの子なんて呼ばれながら城にいろとなんて、言えないし、反対する気もない。
しかし……。なぜだろう。
何も悪くない人間が一番振り回されるというのは、俺が異世界へ強制召喚されて『先陣を切って戦争してこい』なんて言われた状況と、かぶって見える。
――――いや、リルだけじゃない。
マノンだって本人は悪くないのに酷い目に遭わされた。
ある意味、俺たちが三人で固まっているのは、必然なのかもしれない。
みんな揃って、この国に翻弄された存在だ。
「いつ、ここを出る気だ?」
「行く当てがあれば、今日にでも」
「挨拶しておきたい人はいるか?」
「…………お祖父様と、もし会えるのなら、お父さん……。育ててくれた二人には、お礼を伝えたい。私のことを見放さなかっただけでも、感謝しないといけないから。……けれど、今は、……ちょっと無理かも」
リルは本来、明るい性格だ。俺が好きな、自立した強い女性像が当てはまる。歳を取ったらうちの母ちゃんみたいになりそうだけれど、まあ、それだって好きだ。
そんな彼女だって、落ち込むことはある。
自分を守ってくれていた人が本当の父親ではなくて、王族の血筋なんてないのに、蔑まされながらも耐えて王族として……いや、誰よりも王族らしく、凜と振る舞い続けた。
そして平民に紛れながらも、耐えない努力で首席の座を射止めたヒロイン養成学校での生活。これも全て、爺さんたちが企んだ計画だったのかもしれない。
確かに二人は育ててくれたけれど、少なくとも五年前には『手放す』という決断をされて、それを当事者のリルだけが知らなかった。
…………こんなもの、落ち込んで当然だ。
俺はさすがに少し気まずそうな表情をしているマノンへ向いて、問いかける。
「――なあ、マノン。俺たち、三人で一緒に暮らしてみないか?」
「へ? 私たち、三人ですか?」
「リルが平民になって、例えば城下町で暮らす。――ぶっちゃけて言うけれど、王族から平民になったなんて周りに知られたら、何を言われるかわからない。王族を嫌う人から石を投げつけられたって不思議じゃないんだ。まともに暮らしていくのは無理だろう」
「まあ、そうですね」
「だから俺は、リルを一人にしたくない。――同時に、マノンとも離れたくない」
「はなっ――。ぅえっ!? でも私、無理を言って一緒にいるので……。その、まだ脅してませんよ?」
「まだ、ってなんだよ」
……こいつ、自分が無理矢理な手段を使って一緒にいるようになったものだから、『脅さないと一緒にいられない』とでも思っていたのか。
一緒にいることが嫌だったら妹みたいに可愛がったりしないってことに、気付けるようになってほしいものだ。
「あれ? でもリルも一緒なのですよね」
「愛の告白ってわけじゃないからな?」
「むぅ――」
頬を膨らませて不満を表現してきたけれど、マノンは「仕方ないですね」と言ってくれた。
そして二人でリルへ向く。
「ちょ、ちょっと待って! 私が城を出るだけでいいのに、なんで二人まで――っ」
「俺だってここ、居心地悪いんだ」
「あ、それは同感です。ずっと監視されてる感じで、息が詰まります」
感情的な声へ割って入るように答えた俺とマノンに対して、彼女は不満なのか喜んでいるのか、反対か賛成かよくわからないというか、全部ごちゃ混ぜにしたような難しい顔で俯いた。
そのあともう一度顔を上げて俺とマノンの顔をそれぞれ見ると、やっぱり難しそうな顔ではあるけれど、こくりと一度、小さく頷いてくれる。
「さて。じゃあ新しい住処を探しに行くとするか!」
この国にも不動産業はあるから、まずはそこへ行ってみよう。
金銭はパソコンの対価で手に入れればいい。
国王に依頼されて仕事をしている間は国費を自由に使っていいとされたけれど、『ぶよ』と『サラ』の召喚騒ぎでその話も途絶えた。
逆らいながら国費を使わせてもらえるなんて、そんな甘い話は無いわけで。
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