90 / 93
王位継承編⑦ 一つ屋根の下
三人の新居③
しおりを挟む
城下町の外周にほど近い、閑散とした場所。
そこに、ぽつりと一軒。
平民の家としては少々立派すぎる。
けれど警備を気にして壁で囲まれているわけでもなく、貴族の家としては平民寄りすぎる解放的な造り。
ヤマさんらしいなぁ、と思える家が建っていた。
「大きいけど、可愛い家だよね。こんな立派なところを借りちゃって、本当に良いのかしら?」
「どうにか家賃ぐらいは払えるようになりたいな。しかしなんか、少しメルヘンすぎないか」
「窓が多い……」
三角屋根の上に日本でいう風見鶏が立っていて、庭には沢山の綺麗な花が咲いていた。
ただ、レイフさんが言っていたとおり、多少の手入れは必要な印象だ。
芝は丈が十センチ近いだろうか。芝刈り機なんて便利な機械はないわけで、芝の手入れは手作業となる。
「――よっしゃ。早速、中に入ってみようぜ」
俺たち三人はレイフさんから鍵を預かった。
備え付け以外の家具は全て持ち出しているから、この家は現状をそのまま使っても良いとのことだが――。
「5LDK。水回りは整っているし、家具が足りないだけですぐに住めそうだな」
「まずは床と壁、それから窓ね」
リルが腕まくりをして、さっき発見したバケツと雑巾を手にしている。
ほんと働き者だな。
「――って、マノン。お前までどうした?」
「なんですかその『マノンは汚くても住めるだろ?』みたいな顔は!!」
「いや、だって引きこもってたからさ。引きこもると部屋とか汚れるだろ」
「私は快適な環境を求めて引きこもっているのです! なんでわざわざ汚れた部屋に引きこもらなければならないのですか!」
「う……。一理あるな」
昔の俺よりも立派な引きこもりである。
『ハヤト、部屋掃除するわよ』
『うるせーババア』
『どうせそんなこと言って、自分じゃ絶対に掃除しないんだから……。ん、なに? この黒いノート。ええっと、DEATHNO……。ぷふっ、ちょっと古いんじゃない?』
『出て行けババァァァァァーッ!!』
…………俺は日本に帰ったら、まず母ちゃんに土下座すべきだな。
あと、死の魔法とか使えなくて良かった。
………………というか、俺に比べてマノンの引きこもりって超健全じゃね? こいつ炊事できるし、掃除も怠っていないみたいだし、引きこもる理由が外部圧力で『引きこもれ』とされたわけで。
まあ俺は『引きこもりを脱出しないとなぁ』という気持ちが強くて、マノンは『一生引きこもりたいでござる!』の状態だから、重症度だけで言えばマノンなのだろうけれど。
「じゃ、俺は庭の掃除をやってくるよ。あっちのほうが体力勝負だろうからな」
俺はのんびりまったり生きていたい人間だ。
けれど、忙しく働く二人をガン無視してくつろげるほど、傲慢でもないわけで。
家の中で発見した革製の手袋を装着。質感高い両開きのドアを開けて庭へ出て、まずは雑草の駆除作業に勤しむことにした。
とりあえず家の外周から……と思ったところで、植樹されたこの家のシンボルツリーの周りに、大量の『きのこ』が生えていることに気付く。
「きのこ――か」
そういえば王城の地下牢に一人、置き忘れてきたな。
サラマンダーのサラ。
彼女には国を混乱に貶めた罪が背負わされているわけで。放っておいたら処刑されてしまうだろう。
まあ時々会いに行ったついでに守衛さんに確認している限りでは、当面はその予定がないと聞いている。
そもそもドラゴンが元の体だから、処刑が実行されたとしても易々と殺されるものなのかは疑問だ。
とは言え『人の体のときに首を落とされたから易々と死にました』なんてあとで知らされる可能性は、万が一であっても消ししておきたい。
そこに、ぽつりと一軒。
平民の家としては少々立派すぎる。
けれど警備を気にして壁で囲まれているわけでもなく、貴族の家としては平民寄りすぎる解放的な造り。
ヤマさんらしいなぁ、と思える家が建っていた。
「大きいけど、可愛い家だよね。こんな立派なところを借りちゃって、本当に良いのかしら?」
「どうにか家賃ぐらいは払えるようになりたいな。しかしなんか、少しメルヘンすぎないか」
「窓が多い……」
三角屋根の上に日本でいう風見鶏が立っていて、庭には沢山の綺麗な花が咲いていた。
ただ、レイフさんが言っていたとおり、多少の手入れは必要な印象だ。
芝は丈が十センチ近いだろうか。芝刈り機なんて便利な機械はないわけで、芝の手入れは手作業となる。
「――よっしゃ。早速、中に入ってみようぜ」
俺たち三人はレイフさんから鍵を預かった。
備え付け以外の家具は全て持ち出しているから、この家は現状をそのまま使っても良いとのことだが――。
「5LDK。水回りは整っているし、家具が足りないだけですぐに住めそうだな」
「まずは床と壁、それから窓ね」
リルが腕まくりをして、さっき発見したバケツと雑巾を手にしている。
ほんと働き者だな。
「――って、マノン。お前までどうした?」
「なんですかその『マノンは汚くても住めるだろ?』みたいな顔は!!」
「いや、だって引きこもってたからさ。引きこもると部屋とか汚れるだろ」
「私は快適な環境を求めて引きこもっているのです! なんでわざわざ汚れた部屋に引きこもらなければならないのですか!」
「う……。一理あるな」
昔の俺よりも立派な引きこもりである。
『ハヤト、部屋掃除するわよ』
『うるせーババア』
『どうせそんなこと言って、自分じゃ絶対に掃除しないんだから……。ん、なに? この黒いノート。ええっと、DEATHNO……。ぷふっ、ちょっと古いんじゃない?』
『出て行けババァァァァァーッ!!』
…………俺は日本に帰ったら、まず母ちゃんに土下座すべきだな。
あと、死の魔法とか使えなくて良かった。
………………というか、俺に比べてマノンの引きこもりって超健全じゃね? こいつ炊事できるし、掃除も怠っていないみたいだし、引きこもる理由が外部圧力で『引きこもれ』とされたわけで。
まあ俺は『引きこもりを脱出しないとなぁ』という気持ちが強くて、マノンは『一生引きこもりたいでござる!』の状態だから、重症度だけで言えばマノンなのだろうけれど。
「じゃ、俺は庭の掃除をやってくるよ。あっちのほうが体力勝負だろうからな」
俺はのんびりまったり生きていたい人間だ。
けれど、忙しく働く二人をガン無視してくつろげるほど、傲慢でもないわけで。
家の中で発見した革製の手袋を装着。質感高い両開きのドアを開けて庭へ出て、まずは雑草の駆除作業に勤しむことにした。
とりあえず家の外周から……と思ったところで、植樹されたこの家のシンボルツリーの周りに、大量の『きのこ』が生えていることに気付く。
「きのこ――か」
そういえば王城の地下牢に一人、置き忘れてきたな。
サラマンダーのサラ。
彼女には国を混乱に貶めた罪が背負わされているわけで。放っておいたら処刑されてしまうだろう。
まあ時々会いに行ったついでに守衛さんに確認している限りでは、当面はその予定がないと聞いている。
そもそもドラゴンが元の体だから、処刑が実行されたとしても易々と殺されるものなのかは疑問だ。
とは言え『人の体のときに首を落とされたから易々と死にました』なんてあとで知らされる可能性は、万が一であっても消ししておきたい。
0
あなたにおすすめの小説
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる