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第1部:はじまりの種と、絆の芽吹き
第52話:省の特別調査員の訪問
土曜日の朝、灯さんが来る前に農作業を済ませようとしていた。
午前七時。トマトの水やりとなすの追肥を終えて、キュウリの誘引確認に入ったところだった。六月に入って気温が上がり、キュウリの成長が急激に速くなっていた。一日確認を怠ると誘引が間に合わなくなる。
「ソル、今日は午前中に農作業を全部終わらせる。灯さんが昼前に来るから」
ぷるっ。
「急ぐぞ」
ぷるぷる。
キュウリの誘引を進めていた時、門の方から車の音がした。
灯さんが来るには少し早かった。
顔を上げると、黒い車が門の前に止まっていた。灯さんの車ではなかった。
降りてきた人物を見て、俺は手を止めた。
藤堂だった。
***
先月俺の家を訪ねてきた省の特別調査員、藤堂だった。
スーツ姿は変わらなかった。四十五歳ほどで、体格が良く、感じの良い笑みを崩さない人物だった。その笑みが先月と全く同じで、俺は少し警戒した。
「木村さん、突然申し訳ありません。藤堂です。お時間をいただけますか」
「協会経由で連絡をいただくと言っていましたよね」
「そうでした。ただ、少し急ぎの件がありまして——正式な手続きを経る前に、まず直接お話しできればと思いました」
俺はキュウリの誘引の手を止めて、藤堂を見た。
「何の用ですか」
「ダンジョムの管理権についての件です。省として木村さんにお伝えしたいことがあります」
「深沢さんを通していただけますか。協会の管理下にあるダンジョムについての話は、協会経由で行うと取り決めています」
「それはまだ正式な取り決めではないかと思いますが」
「俺にとっては正式です」
***
藤堂が少し笑みを変えた。感じの良い笑みのまま、目の温度だけが少し変わった。
「木村さん、省は木村さんと対立したいわけではありません。EXランクのダンジョムを個人が管理している状況は、安全保障上のリスクがあります。それを解消するために、省が関与させていただくことは木村さんにとっても——」
「俺のためになると言いたいですか」
「そう言いたいわけではありませんが、共同管理によってリスクが分散されます」
「このダンジョムが安全保障上のリスクになったことがありますか」
「現時点ではありませんが——」
「現時点でリスクがないダンジョムを、リスクがあると想定して管理権を奪う理由はないと思います」
藤堂が少し黙った。
「奪う、というのは言いすぎで。共同管理の提案です」
「俺は共同管理を希望していません。協会との連携協定は進めています。省との共同管理は、俺にとって必要ありません」
***
藤堂が少し体勢を変えた。
「木村さん、率直にお話しします。省内では来週の会議で、強制管理申請の内容を確定させる予定があります。特別指定の登録が完了していることは把握しています。ただ、省として異議申し立てを行う手段があります」
「知っています」
「それを行使する前に、任意の合意ができないかという話をしにきました」
「任意の合意というのは、俺が省の共同管理を受け入れることですか」
「そうです」
「断ります」
藤堂が俺をしばらく見た。
感じの良い笑みは変わらなかった。でも俺には、その笑みが圧のように感じられた。省という組織の力を背景に持った人間が、こちらに向けている視線だった。
「……木村さんは頑固ですね」
「自分のものを守ることが頑固なら、そうです」
「このダンジョムは国家資産として扱われる可能性があります。個人の所有物ではないという論点があります」
「発見したのは俺で、管理してきたのも俺です。国家資産として扱われる根拠があるなら、正式な手続きで主張してください。俺もそれに対して正式な手続きで対応します」
***
「……分かりました」
藤堂が少し間を置いてから言った。
笑みがわずかに薄れた。
「木村さんのお気持ちは伺いました。ただ——省の動きは続きます。任意の合意が難しいということは、正式な手続きを進めるということになります」
「そうしてください。俺も正式な手続きで対応します」
「……最後に一つ」
藤堂が俺を見た。
「木村さん、あなたのお父様が省内でこの件について動いていることは把握しています。省の官僚が家族の私的な利益のために動くことは、職務上の問題になります」
俺は少し止まった。
「父の行動については、父が判断することです。俺から言えることはありません」
「……そうですか。では、今日はこれで失礼します」
藤堂が車に乗った。黒い車が動き出した。
見えなくなってから、俺は一度深呼吸した。
***
藤堂が帰ってから、俺はすぐに深沢さんに連絡した。
「藤堂さんが直接来ました。協会経由でという返答はしましたが——省の異議申し立てを行使すると言いました。それと——父が省内で動いていることを把握していて、職務上の問題になると言いました」
深沢さんからすぐに返信が来た。
「藤堂が直接来ましたか。予想していましたが、早かった。父上の件については——省内でそれを問題にする動きが出ることも想定していました。木村さん、今日中に弁護士に連絡することをお勧めします。個人の管理権を守るための法的サポートが必要になってきています」
「弁護士、ですか」
「協会に顧問弁護士がいます。木村さんのケースに対応できる方を紹介できます。費用は協会側で一部負担します」
「お願いします」
「それと——父上に連絡をとってください。藤堂が動いたことを伝えた方がいいです」
***
深沢さんに連絡した後、父に電話した。
「藤堂が来ました」
「……そうか」
父の声が少し低くなった。
「職務上の問題になると言われました。父さんのことを把握していると」
少しの間があった。
「問題ない」
「本当ですか」
「俺の行動は全て手続きの範囲内だ。会議の日程変更も、確認事項の追加も——全部正当な職務上の行為として記録している。藤堂はプレッシャーをかけているだけだ」
「父さん、俺のために無理をしているなら、やめてほしいです」
「……無理はしていない」
「本当に?」
「お前が心配することじゃない」
「でも——」
「蒼太」
父の声が少し変わった。
「俺が決めてやっていることだ。お前は探索を続けろ。それがお前のやることだ」
「……はい」
「弁護士はつけるか」
「深沢さんに紹介してもらいます」
「いい判断だ。連絡は続ける」
電話が切れた。
***
そこから三十分後、灯さんの車が門の前に止まった。
俺は少し気持ちを切り替えた。
今日は灯さんが来る日だった。藤堂の訪問の件は、今日は話さないことにした。灯さんに余計な心配をかけたくなかった。
「こんにちは、蒼太さん」
「こんにちは。今日は来てくれてありがとうございます」
「また来ました」
灯さんが荷物を持って降りてきた。今日はリュックの他に、大きめのエコバッグを持っていた。
「今日は食材を持ってきました。昨日スーパーで見つけた旬のものと、お土産を少し」
「ありがとうございます」
「……蒼太さん、今日何かありました?」
灯さんが俺の顔を見て言った。
「なぜですか」
「少しだけ、顔が硬い気がして」
俺は少し驚いた。連絡してから一時間足らずで来て、会った瞬間に気づいた。
「少し込み入ったことがありました。でも——今は大丈夫です」
「無理していないですか」
「大丈夫です。今日は灯さんと過ごします」
灯さんが少し俺を見ていた。それから頷いた。
「分かりました。でも、話したくなったら聞きます」
「ありがとうございます」
***
午後は一緒に農作業をした。
今日は乾燥中の玉ねぎの状態確認と、なすの追肥作業を灯さんに手伝ってもらった。
「玉ねぎ、こんなに吊るして乾燥させるんですね。初めて見ました」
「二週間ほど吊るして乾燥させてから保存します。この状態で出荷するものと、自家消費用に残すものを分けます」
灯さんが一個の玉ねぎを手に取った。
「重い。ちゃんと育ってますね」
「今年は去年より平均で三割大きいです。土の準備の違いが出ました」
「蒼太さん、毎年着実に成長してますね」
「耕一さんのおかげです」
「耕一さんだけじゃないと思います」
灯さんがそう言った。俺は返答せずに次の作業に移った。
追肥の作業を一緒に進めながら、二人の間に自然な会話が続いた。
農業の話、セレスティアの最近の変化、ソルの新能力の話。
灯さんが「ソルが毒素を粘着液に変換する話、配信で見て驚きました」と言った。「スライムって吸収するだけかと思っていたら、変換して出力もできるんですね」と続けた。
「俺も驚きました。ソルが自分で試したんです」
「ソル、自発的に考えているんですね」
「考えているというより——俺が何を必要としているか感じて、それに合わせて動いてくれている気がします」
「それって、すごく深い繋がりですね」
***
夕食の準備を一緒にした。
灯さんが持ってきた食材を並べると、旬の魚と夏野菜が揃っていた。
「今日は俺が主導で作りますが、一緒にやりましょう」
「はい。今日は教えてもらいながらやりたいです」
魚の処理から始めた。灯さんが横で見ていた。
「魚をさばくの、初めて見ます」
「難しくはないですよ。包丁の角度と力の入れ方だけです」
「教えてもらっていいですか」
「やってみますか」
「……やってみます」
灯さんに包丁を渡した。手を添えて角度を教えた。
近かった。
包丁を持つ灯さんの手に俺の手が重なっていた。背後から角度を見せる形で、距離が必然的に近くなっていた。
「……こっちの角度で入れると、骨に沿って切れます」
「こうですか」
「そうです、上手い」
灯さんが集中していた。俺も説明に集中しようとしていた。でも、髪が近かった。
「……できました」
灯さんが包丁を置いた。
「上手くできましたね」
「蒼太さんの教え方が分かりやすいです」
二人の距離が、まだ近いままだった。灯さんが振り返った。
距離が縮まっていた。
俺は少し後退しようとして——しなかった。
***
「灯さん」
「はい」
「言えなかった言葉、今日言おうと思っています」
灯さんが動きを止めた。
俺は続けた。
「連絡のたびに「待っています」と言っていますが——俺がそれを言えるのは、灯さんに来てほしいと思っているからです。来てほしいというのは——一緒にいる時間が、俺には必要なんだと思っています」
灯さんが俺を見た。
「必要、ですか」
「……好きです」
言った。
「一緒にいると——落ち着きます。それと、灯さんのことが気になります。来るたびに、次も来てほしいと思います。それが好きということだと思って」
「……ありがとうございます」
灯さんの声が少し震えていた。
「私も——蒼太さんのことが好きです。配信で知って、来てみて、来るたびに好きになって——言おうと思って、前に言えなかったので」
「お互い言えなかったんですね」
「……お互い遅かったですね」
「すみません」
「謝らなくていいです。今言えたので」
二人の間に静かな間があった。
台所の窓から夕方の光が入っていた。
「……夕食、続きを作りましょうか」
「そうですね」
灯さんが少し笑った。俺も少し笑った。
ソルが俺の肩の上でぷるぷるしていた。
「うるさい、ソル」
ぷるるん。
「分かった、ありがとう」
***
夕食を食べながら、二人の間の空気が少し変わっていた。
同じ場所にいる。でも、さっきまでと違う何かがそこにあった。
「蒼太さん、今朝何かあったって言ってましたよね」
灯さんが聞いた。
「……省の人が来ました。ダンジョムの管理権についての話で」
「また来たんですか」
「直接来ました。協会経由でという話をしましたが、聞かなかった」
灯さんが少し眉をひそめた。
「大丈夫ですか」
「対応します。弁護士にもお願いすることになりました」
「……私には何もできないですが」
「配信を見ていてくれることが、俺には支えになっています」
「配信だけでなく——もっと、役に立ちたいです」
灯さんがそう言った声に、何か決意のようなものがあった。
俺はその言葉を受け取った。
「ありがとうございます」
***
夜、縁側に二人で出た。
前回と同じように並んで座った。でも今日は前回と違った。
灯さんが俺の手に自分の手を重ねた。今日は「すみません」と言わなかった。
俺も何も言わなかった。
ただ、握り返した。
「蒼太さん」
「はい」
「ここ——私の帰る場所にしていいですか」
「帰る場所、か」
「以前、ここに来ると帰りたいという感覚があると言いました。今日からは、ここが帰る場所でいいと思って。蒼太さんが許してくれるなら」
俺は少し考えた。
「許すとか許さないとかじゃなくて——灯さんが帰ってきたいと思う場所になっているなら、俺は嬉しいです」
「……嬉しいです、私も」
二人の手が繋がったまま、夜の畑を見ていた。
「ぱぱ、あかり、てつないでる」
縁側の端からセレスティアが言った。
俺と灯さんが同時にセレスティアを見た。セレスティアが金色の目でじっとこちらを見ていた。
「セレスティア、見るな」
「なんで」
「なんでもない」
「なかよしになったの?」
「……そういうことだ」
「よかった。せれすてぃあもうれしい」
セレスティアが縁側から離れていった。
灯さんが小さく笑った。俺も笑った。
繋いだ手を、放さなかった。
午前七時。トマトの水やりとなすの追肥を終えて、キュウリの誘引確認に入ったところだった。六月に入って気温が上がり、キュウリの成長が急激に速くなっていた。一日確認を怠ると誘引が間に合わなくなる。
「ソル、今日は午前中に農作業を全部終わらせる。灯さんが昼前に来るから」
ぷるっ。
「急ぐぞ」
ぷるぷる。
キュウリの誘引を進めていた時、門の方から車の音がした。
灯さんが来るには少し早かった。
顔を上げると、黒い車が門の前に止まっていた。灯さんの車ではなかった。
降りてきた人物を見て、俺は手を止めた。
藤堂だった。
***
先月俺の家を訪ねてきた省の特別調査員、藤堂だった。
スーツ姿は変わらなかった。四十五歳ほどで、体格が良く、感じの良い笑みを崩さない人物だった。その笑みが先月と全く同じで、俺は少し警戒した。
「木村さん、突然申し訳ありません。藤堂です。お時間をいただけますか」
「協会経由で連絡をいただくと言っていましたよね」
「そうでした。ただ、少し急ぎの件がありまして——正式な手続きを経る前に、まず直接お話しできればと思いました」
俺はキュウリの誘引の手を止めて、藤堂を見た。
「何の用ですか」
「ダンジョムの管理権についての件です。省として木村さんにお伝えしたいことがあります」
「深沢さんを通していただけますか。協会の管理下にあるダンジョムについての話は、協会経由で行うと取り決めています」
「それはまだ正式な取り決めではないかと思いますが」
「俺にとっては正式です」
***
藤堂が少し笑みを変えた。感じの良い笑みのまま、目の温度だけが少し変わった。
「木村さん、省は木村さんと対立したいわけではありません。EXランクのダンジョムを個人が管理している状況は、安全保障上のリスクがあります。それを解消するために、省が関与させていただくことは木村さんにとっても——」
「俺のためになると言いたいですか」
「そう言いたいわけではありませんが、共同管理によってリスクが分散されます」
「このダンジョムが安全保障上のリスクになったことがありますか」
「現時点ではありませんが——」
「現時点でリスクがないダンジョムを、リスクがあると想定して管理権を奪う理由はないと思います」
藤堂が少し黙った。
「奪う、というのは言いすぎで。共同管理の提案です」
「俺は共同管理を希望していません。協会との連携協定は進めています。省との共同管理は、俺にとって必要ありません」
***
藤堂が少し体勢を変えた。
「木村さん、率直にお話しします。省内では来週の会議で、強制管理申請の内容を確定させる予定があります。特別指定の登録が完了していることは把握しています。ただ、省として異議申し立てを行う手段があります」
「知っています」
「それを行使する前に、任意の合意ができないかという話をしにきました」
「任意の合意というのは、俺が省の共同管理を受け入れることですか」
「そうです」
「断ります」
藤堂が俺をしばらく見た。
感じの良い笑みは変わらなかった。でも俺には、その笑みが圧のように感じられた。省という組織の力を背景に持った人間が、こちらに向けている視線だった。
「……木村さんは頑固ですね」
「自分のものを守ることが頑固なら、そうです」
「このダンジョムは国家資産として扱われる可能性があります。個人の所有物ではないという論点があります」
「発見したのは俺で、管理してきたのも俺です。国家資産として扱われる根拠があるなら、正式な手続きで主張してください。俺もそれに対して正式な手続きで対応します」
***
「……分かりました」
藤堂が少し間を置いてから言った。
笑みがわずかに薄れた。
「木村さんのお気持ちは伺いました。ただ——省の動きは続きます。任意の合意が難しいということは、正式な手続きを進めるということになります」
「そうしてください。俺も正式な手続きで対応します」
「……最後に一つ」
藤堂が俺を見た。
「木村さん、あなたのお父様が省内でこの件について動いていることは把握しています。省の官僚が家族の私的な利益のために動くことは、職務上の問題になります」
俺は少し止まった。
「父の行動については、父が判断することです。俺から言えることはありません」
「……そうですか。では、今日はこれで失礼します」
藤堂が車に乗った。黒い車が動き出した。
見えなくなってから、俺は一度深呼吸した。
***
藤堂が帰ってから、俺はすぐに深沢さんに連絡した。
「藤堂さんが直接来ました。協会経由でという返答はしましたが——省の異議申し立てを行使すると言いました。それと——父が省内で動いていることを把握していて、職務上の問題になると言いました」
深沢さんからすぐに返信が来た。
「藤堂が直接来ましたか。予想していましたが、早かった。父上の件については——省内でそれを問題にする動きが出ることも想定していました。木村さん、今日中に弁護士に連絡することをお勧めします。個人の管理権を守るための法的サポートが必要になってきています」
「弁護士、ですか」
「協会に顧問弁護士がいます。木村さんのケースに対応できる方を紹介できます。費用は協会側で一部負担します」
「お願いします」
「それと——父上に連絡をとってください。藤堂が動いたことを伝えた方がいいです」
***
深沢さんに連絡した後、父に電話した。
「藤堂が来ました」
「……そうか」
父の声が少し低くなった。
「職務上の問題になると言われました。父さんのことを把握していると」
少しの間があった。
「問題ない」
「本当ですか」
「俺の行動は全て手続きの範囲内だ。会議の日程変更も、確認事項の追加も——全部正当な職務上の行為として記録している。藤堂はプレッシャーをかけているだけだ」
「父さん、俺のために無理をしているなら、やめてほしいです」
「……無理はしていない」
「本当に?」
「お前が心配することじゃない」
「でも——」
「蒼太」
父の声が少し変わった。
「俺が決めてやっていることだ。お前は探索を続けろ。それがお前のやることだ」
「……はい」
「弁護士はつけるか」
「深沢さんに紹介してもらいます」
「いい判断だ。連絡は続ける」
電話が切れた。
***
そこから三十分後、灯さんの車が門の前に止まった。
俺は少し気持ちを切り替えた。
今日は灯さんが来る日だった。藤堂の訪問の件は、今日は話さないことにした。灯さんに余計な心配をかけたくなかった。
「こんにちは、蒼太さん」
「こんにちは。今日は来てくれてありがとうございます」
「また来ました」
灯さんが荷物を持って降りてきた。今日はリュックの他に、大きめのエコバッグを持っていた。
「今日は食材を持ってきました。昨日スーパーで見つけた旬のものと、お土産を少し」
「ありがとうございます」
「……蒼太さん、今日何かありました?」
灯さんが俺の顔を見て言った。
「なぜですか」
「少しだけ、顔が硬い気がして」
俺は少し驚いた。連絡してから一時間足らずで来て、会った瞬間に気づいた。
「少し込み入ったことがありました。でも——今は大丈夫です」
「無理していないですか」
「大丈夫です。今日は灯さんと過ごします」
灯さんが少し俺を見ていた。それから頷いた。
「分かりました。でも、話したくなったら聞きます」
「ありがとうございます」
***
午後は一緒に農作業をした。
今日は乾燥中の玉ねぎの状態確認と、なすの追肥作業を灯さんに手伝ってもらった。
「玉ねぎ、こんなに吊るして乾燥させるんですね。初めて見ました」
「二週間ほど吊るして乾燥させてから保存します。この状態で出荷するものと、自家消費用に残すものを分けます」
灯さんが一個の玉ねぎを手に取った。
「重い。ちゃんと育ってますね」
「今年は去年より平均で三割大きいです。土の準備の違いが出ました」
「蒼太さん、毎年着実に成長してますね」
「耕一さんのおかげです」
「耕一さんだけじゃないと思います」
灯さんがそう言った。俺は返答せずに次の作業に移った。
追肥の作業を一緒に進めながら、二人の間に自然な会話が続いた。
農業の話、セレスティアの最近の変化、ソルの新能力の話。
灯さんが「ソルが毒素を粘着液に変換する話、配信で見て驚きました」と言った。「スライムって吸収するだけかと思っていたら、変換して出力もできるんですね」と続けた。
「俺も驚きました。ソルが自分で試したんです」
「ソル、自発的に考えているんですね」
「考えているというより——俺が何を必要としているか感じて、それに合わせて動いてくれている気がします」
「それって、すごく深い繋がりですね」
***
夕食の準備を一緒にした。
灯さんが持ってきた食材を並べると、旬の魚と夏野菜が揃っていた。
「今日は俺が主導で作りますが、一緒にやりましょう」
「はい。今日は教えてもらいながらやりたいです」
魚の処理から始めた。灯さんが横で見ていた。
「魚をさばくの、初めて見ます」
「難しくはないですよ。包丁の角度と力の入れ方だけです」
「教えてもらっていいですか」
「やってみますか」
「……やってみます」
灯さんに包丁を渡した。手を添えて角度を教えた。
近かった。
包丁を持つ灯さんの手に俺の手が重なっていた。背後から角度を見せる形で、距離が必然的に近くなっていた。
「……こっちの角度で入れると、骨に沿って切れます」
「こうですか」
「そうです、上手い」
灯さんが集中していた。俺も説明に集中しようとしていた。でも、髪が近かった。
「……できました」
灯さんが包丁を置いた。
「上手くできましたね」
「蒼太さんの教え方が分かりやすいです」
二人の距離が、まだ近いままだった。灯さんが振り返った。
距離が縮まっていた。
俺は少し後退しようとして——しなかった。
***
「灯さん」
「はい」
「言えなかった言葉、今日言おうと思っています」
灯さんが動きを止めた。
俺は続けた。
「連絡のたびに「待っています」と言っていますが——俺がそれを言えるのは、灯さんに来てほしいと思っているからです。来てほしいというのは——一緒にいる時間が、俺には必要なんだと思っています」
灯さんが俺を見た。
「必要、ですか」
「……好きです」
言った。
「一緒にいると——落ち着きます。それと、灯さんのことが気になります。来るたびに、次も来てほしいと思います。それが好きということだと思って」
「……ありがとうございます」
灯さんの声が少し震えていた。
「私も——蒼太さんのことが好きです。配信で知って、来てみて、来るたびに好きになって——言おうと思って、前に言えなかったので」
「お互い言えなかったんですね」
「……お互い遅かったですね」
「すみません」
「謝らなくていいです。今言えたので」
二人の間に静かな間があった。
台所の窓から夕方の光が入っていた。
「……夕食、続きを作りましょうか」
「そうですね」
灯さんが少し笑った。俺も少し笑った。
ソルが俺の肩の上でぷるぷるしていた。
「うるさい、ソル」
ぷるるん。
「分かった、ありがとう」
***
夕食を食べながら、二人の間の空気が少し変わっていた。
同じ場所にいる。でも、さっきまでと違う何かがそこにあった。
「蒼太さん、今朝何かあったって言ってましたよね」
灯さんが聞いた。
「……省の人が来ました。ダンジョムの管理権についての話で」
「また来たんですか」
「直接来ました。協会経由でという話をしましたが、聞かなかった」
灯さんが少し眉をひそめた。
「大丈夫ですか」
「対応します。弁護士にもお願いすることになりました」
「……私には何もできないですが」
「配信を見ていてくれることが、俺には支えになっています」
「配信だけでなく——もっと、役に立ちたいです」
灯さんがそう言った声に、何か決意のようなものがあった。
俺はその言葉を受け取った。
「ありがとうございます」
***
夜、縁側に二人で出た。
前回と同じように並んで座った。でも今日は前回と違った。
灯さんが俺の手に自分の手を重ねた。今日は「すみません」と言わなかった。
俺も何も言わなかった。
ただ、握り返した。
「蒼太さん」
「はい」
「ここ——私の帰る場所にしていいですか」
「帰る場所、か」
「以前、ここに来ると帰りたいという感覚があると言いました。今日からは、ここが帰る場所でいいと思って。蒼太さんが許してくれるなら」
俺は少し考えた。
「許すとか許さないとかじゃなくて——灯さんが帰ってきたいと思う場所になっているなら、俺は嬉しいです」
「……嬉しいです、私も」
二人の手が繋がったまま、夜の畑を見ていた。
「ぱぱ、あかり、てつないでる」
縁側の端からセレスティアが言った。
俺と灯さんが同時にセレスティアを見た。セレスティアが金色の目でじっとこちらを見ていた。
「セレスティア、見るな」
「なんで」
「なんでもない」
「なかよしになったの?」
「……そういうことだ」
「よかった。せれすてぃあもうれしい」
セレスティアが縁側から離れていった。
灯さんが小さく笑った。俺も笑った。
繋いだ手を、放さなかった。
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平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。