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第一話 祭りの始まり
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眩しいほど煌びやかなホール。
中央では紳士淑女が手を取り合い美しい服を翻してステップを刻み。周囲には華奢なグラスを手に、歓談をする男女の声がさざ波のように聞こえてくる。
間違っても足を振り上げるようながさつなダンスはなく、お酒が入っても下品な笑い声が響くこともない。
王弟殿下主催の夜会は、国の有力者が集まり、いつにも増して絢爛豪華だった。
美しい絵画のような広間の中で、悲劇が起きた――
壁際に立って警備の人員に混ざりながら、こっそり目で追っていた上官が凶刃に倒れた。
「エンボルグ男爵っ!」
周囲から上がる悲鳴に、やはり刺されたのは上官だと思い知らされ。
近くに居た従僕が倒れかかった彼を抱きとめるのを、スローモーションのように見ながら、魔法を展開する。
「『バリア大展開』『バリア中展開』『精神安定展開』『強固なる守り発動』」
私は日々の鍛錬通り、反射的に複数の魔法を展開してから、上官であるエンボルグ男爵の元へ向かうべく、足を踏み出す。
目の前に居る着飾った人々を無言でかき分ける。
一介の魔術師でしかない私に向ける彼等の視線は友好的ではないし、舌打ちや怒りの声も掛けられたが気にもならない。
私の邪魔をするな。
邪魔をするならば……殺す。
心の中でそんなとこと唱えている、私の殺気を知ってか、目の前に道ができる。
エンボルグ隊長を刺した衛兵の格好をした賊が、正規の衛兵達に取り囲まれていて逃げようもない中で、最後の抵抗とばかりに剣を構えているのを横目に見ながら、私は倒れ伏した隊長のもとに辿り着いた。
「ジェイク、エンボルグ隊長は」
エンボルグ隊長を横たえた従僕に声を掛けると、沈黙が返ってきた。
傷に触れるからか横向きに寝かされた彼の側に膝をつき、顔の前に手を翳しその呼吸を確かめる。
それから、鼓動を捕らえるために彼の首筋に乗せていた指先を、血の気の引いた頬に滑らせてスルリと撫で、その手をきつく握り込んだ。
ああ――まだ温かいのに……。
「ナイフに毒でも仕込まれていたの? 随分と呆気ないものね、人の命というのは」
「エイシャ副長っ! まさか……っ」
彼の鋭い双眸が私を見ることはないのか、彼の大きな手が器用にペンを滑らせるのを見ることはできないのか、知略を巡らせているような顔をして実はぼんやりと空を眺めているその厳しい横顔をみることはもうないのか。
ぽかんと胸に広がった穴。
既に大きな穴はあるけれど、いくらでも増えるもんなんだな……。
ああ、寂しいや――
私はゆらりと立ち上がり、いまだ捕り物劇の最中にあるその方向を見やり、賊を捕らえてすら居ないのを知る。
「遅っせぇんだよ、愚図共が」
穴を埋めなきゃ、心が死にそうだ――
「え?」
小さく零した私の悪態を拾った従僕のジェイクが、驚いたように私を見上げる。
「エ、エイシャ、副長?」
「エンボルグ隊長の弔いは、盛大にしないといけないわよね」
騒がしいことは苦手な方だったけれど、情の深い方だったから敵を討つことを反対したりはしないわよね――
懐から出したメリケンサックを右手に嵌めながら、彼を殺したその男の方へ歩いて行く。
「退きなさい、いまから、私が尋問します」
「邪魔をするな! 魔術師は下がっていろ!」
男を取り囲んでいる衛兵の言葉を無視して、歩を進める。
「『透明バリア小を展開』『身体能力強化』」
彼等には理解できない言語で魔法を唱えてから、震える口元を引き上げる。
「さぁ、祭りをはじめましょうか」
中央では紳士淑女が手を取り合い美しい服を翻してステップを刻み。周囲には華奢なグラスを手に、歓談をする男女の声がさざ波のように聞こえてくる。
間違っても足を振り上げるようながさつなダンスはなく、お酒が入っても下品な笑い声が響くこともない。
王弟殿下主催の夜会は、国の有力者が集まり、いつにも増して絢爛豪華だった。
美しい絵画のような広間の中で、悲劇が起きた――
壁際に立って警備の人員に混ざりながら、こっそり目で追っていた上官が凶刃に倒れた。
「エンボルグ男爵っ!」
周囲から上がる悲鳴に、やはり刺されたのは上官だと思い知らされ。
近くに居た従僕が倒れかかった彼を抱きとめるのを、スローモーションのように見ながら、魔法を展開する。
「『バリア大展開』『バリア中展開』『精神安定展開』『強固なる守り発動』」
私は日々の鍛錬通り、反射的に複数の魔法を展開してから、上官であるエンボルグ男爵の元へ向かうべく、足を踏み出す。
目の前に居る着飾った人々を無言でかき分ける。
一介の魔術師でしかない私に向ける彼等の視線は友好的ではないし、舌打ちや怒りの声も掛けられたが気にもならない。
私の邪魔をするな。
邪魔をするならば……殺す。
心の中でそんなとこと唱えている、私の殺気を知ってか、目の前に道ができる。
エンボルグ隊長を刺した衛兵の格好をした賊が、正規の衛兵達に取り囲まれていて逃げようもない中で、最後の抵抗とばかりに剣を構えているのを横目に見ながら、私は倒れ伏した隊長のもとに辿り着いた。
「ジェイク、エンボルグ隊長は」
エンボルグ隊長を横たえた従僕に声を掛けると、沈黙が返ってきた。
傷に触れるからか横向きに寝かされた彼の側に膝をつき、顔の前に手を翳しその呼吸を確かめる。
それから、鼓動を捕らえるために彼の首筋に乗せていた指先を、血の気の引いた頬に滑らせてスルリと撫で、その手をきつく握り込んだ。
ああ――まだ温かいのに……。
「ナイフに毒でも仕込まれていたの? 随分と呆気ないものね、人の命というのは」
「エイシャ副長っ! まさか……っ」
彼の鋭い双眸が私を見ることはないのか、彼の大きな手が器用にペンを滑らせるのを見ることはできないのか、知略を巡らせているような顔をして実はぼんやりと空を眺めているその厳しい横顔をみることはもうないのか。
ぽかんと胸に広がった穴。
既に大きな穴はあるけれど、いくらでも増えるもんなんだな……。
ああ、寂しいや――
私はゆらりと立ち上がり、いまだ捕り物劇の最中にあるその方向を見やり、賊を捕らえてすら居ないのを知る。
「遅っせぇんだよ、愚図共が」
穴を埋めなきゃ、心が死にそうだ――
「え?」
小さく零した私の悪態を拾った従僕のジェイクが、驚いたように私を見上げる。
「エ、エイシャ、副長?」
「エンボルグ隊長の弔いは、盛大にしないといけないわよね」
騒がしいことは苦手な方だったけれど、情の深い方だったから敵を討つことを反対したりはしないわよね――
懐から出したメリケンサックを右手に嵌めながら、彼を殺したその男の方へ歩いて行く。
「退きなさい、いまから、私が尋問します」
「邪魔をするな! 魔術師は下がっていろ!」
男を取り囲んでいる衛兵の言葉を無視して、歩を進める。
「『透明バリア小を展開』『身体能力強化』」
彼等には理解できない言語で魔法を唱えてから、震える口元を引き上げる。
「さぁ、祭りをはじめましょうか」
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