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第二話 血祭り
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「祭り? なにを言って――」
怪訝な顔をする衛兵の横を通り抜け、賊の周囲に張った目に見えないバリアの中に踏み込む。
「血祭りに決まってるでしょう。盛大に、祭りあげてあげます」
メリケンサックを握り込み、軽く肩を回す。
大柄な賊が、剣を構え切っ先を私に向けてきた。
「ねぇ、どうしてウチの隊長を殺りにきたの? ウチみたいな、しがない小部隊の隊長、狙う理由わからないんだけど? それに、爵位を持っているとはいえ、領地もない男爵よ?」
「…………」
無言の男に焦れた私は、唇を舌でひと舐めして濡らしてもう一度口を開く。
「じゃぁ、これだけ教えて貰えるかしら? 貴様に、この仕事を、命じた人間は誰だ?」
「…………」
口調を変え、低い声で恫喝するように問うけれど。やはり、効果はないようね。
「おいっ! ひとりでなにを勝手――っ! な、なんだコレは! 障壁かっ?! 早くこれを解くんだ! お前の細腕でどうにかなる相手じゃないっ!」
煩い外野がようやくバリヤの存在に気付き慌てふためく。
それを見て、目の前の男も自分が囚われていることに気付き、殺気を高めた。
男の目を見て、ニヤリと笑う。
「私を殺せば、この魔法は消えるよ」
「そうか」
はじめて返ってきた固い声に決意を感じる。
そりゃそうか、王弟殿下主催の夜会でこれだけ派手に殺るんだから、相応の覚悟があるだろう。
「命じた人間の名を答えてくれたら、命までは取らないけど。――半殺しは、確定だから、諦めて」
低い声でそう宣言してから、駆けだした。
自身に掛けた身体能力を高める魔法は、私を風よりも早く走らせ、メリケンサックを嵌めた拳を男の固い腹にめり込ませた。
「ぐふっ! くっ!」
腹を殴られ、胃液を吐いて体をくの字に曲げた男だったが、すぐに体勢を立て直し剣を振り下ろしてくる。
なかなか手応えがありそうだわ、いたぶり甲斐があるわね。
「ふんっ!」
振り下ろされる剣の横面を、メリケンサックで殴り折る。
呆然とする男の顔に、返す手で裏拳をたたき込み鼻をへし折ってから、身を捻って男の脇腹に膝をたたき込んだ。
「ごふっ!」
床に膝をついた男の頭を勢いよく踏みつけ、蹴り転がしてマウントポジションを取り、振り落とされないように、ぎゅっと両膝を男の脇に食い込ませる。
右手のメリケンサックを外してポイと投げ、もう一度確認する。
「ウチのボスの命ぁ取れって命令した人間の名前を答えな」
「い、言え、るか……っ」
口と鼻から血を吹いている男が、頑なに拒否するから、私は仕方なく拳を振るう。
べき、ばき、と肉が肉を抉る音。
制裁を拒否しない無抵抗の男を散々殴りつけてから、ぐったりした男の胸ぐらを掴みあげた。
「なぁ、第十二小隊所属パイラッツア。お前の、三族(三親等)皆殺しにされたくなきゃ、言えよ」
そう言った私の言葉に、このまま死のうとしていた男の目に光が戻る。
「なっ! な、なっ」
名指しされて狼狽える男の心を挫く為に、笑いながら続ける。
「知ってるよ、あんた、正規兵だろう。あんたの嫁と子供三人と両親と兄弟、必ず殺すよ。どんなことをしても殺すよ。ねぇ教えてよ、あんたにこんな任務与えた人間の名前、言えよ」
目を白黒させて口をあぐあぐと喘がせていた男の胸ぐらを掴んでいた手を離し、両耳を掴んで床に頭を押さえつけ、その耳元に唇を寄せる。
「人質に取られてるんだろ? 子供か? くずの名前を吐けば、そっちは助けてあげる」
「ほ、ほんどう、か……っ」
藁をも掴む気持ちなのだろう、簡単に乗ってきた。
歯が折れて聞き取りにくいその音を拾う。
返り血の付いた唇をにんまりと歪め、男の上から退いて立ち上がり、男の方へ左手を向ける。
「『電気ショック』」
雷撃を男に向けて放ち、意識を刈り取ってから、近くに放り投げてあったメリケンサックを再び装着してバリアの外に踏み出した。
「いやぁっ……っ」
「こ、こちらに来ないでくださいましっ」
淑女の皆さんが悲鳴をあげて私から距離を取り、紳士の皆さんはそれぞれパートナーを守るように私を警戒する。
バリアの周囲を囲むように衛兵の半数近くが集まっている。はっは、面白いくらい警戒されているな。
「お、おいっ! 殺したのかっ!」
勇敢な衛兵が、馬鹿な質問をしてくる。
「上官の敵を取って、なにが悪い?」
唇に付いた血を拭い、胡乱な目を向ければ、衛兵は狼狽える。
この程度の事で狼狽るなんて、衛兵の訓練が足りないんだよ、くそったれ。
「もうひと狩り行ってくる。ああ、この広間はバリ……障壁で閉鎖してあるから。もし、ここを出ようとする人間が居たら、犯人と見なして拷問するからね。犯人を捕まえるまでは、誰一人帰れないこと、肝に銘じな」
親切心でそう教えてあげる。
流石に警告もなしに拷問するのは、気が引けるしね。
「なっ! 貴様に、何の権限があって――っ」
果敢に食って掛かってきた貴族の紳士に顔を向けると、目が合っただけで口を噤んだ。
「権限? 敵討ちですよ? ウチの上官が殺されたんですよ? 邪魔をなさるんですか? あなたさまも――私の敵ですか?」
「ち、違うっ」
ゆらりと見上げれば、即座に否定されたので、小さく笑い足を踏み出した。
「おいっ! どこに行く気だっ!」
「狩りですよ。獲物が居なくなるまで、狩らねばなりませんから」
歩き出した私を追って、数人の衛兵が付いてくるが、邪魔をする様子はないので放っておく。
探索の魔法を使用しながら広間を歩くと、ご婦人方が今にも卒倒しそうな顔で椅子に座り扇で顔を隠して必死に私を見ないようにし、男性陣は顔色悪く女性達の側に立つ。
豪奢な人々の間をゆっくりと歩き、広間の隅に立つ男の前を通り過ぎかけてから、顔を男の方へぐるんと巡らせ、にやりと微笑む。
「見ぃつけた」
怪訝な顔をする衛兵の横を通り抜け、賊の周囲に張った目に見えないバリアの中に踏み込む。
「血祭りに決まってるでしょう。盛大に、祭りあげてあげます」
メリケンサックを握り込み、軽く肩を回す。
大柄な賊が、剣を構え切っ先を私に向けてきた。
「ねぇ、どうしてウチの隊長を殺りにきたの? ウチみたいな、しがない小部隊の隊長、狙う理由わからないんだけど? それに、爵位を持っているとはいえ、領地もない男爵よ?」
「…………」
無言の男に焦れた私は、唇を舌でひと舐めして濡らしてもう一度口を開く。
「じゃぁ、これだけ教えて貰えるかしら? 貴様に、この仕事を、命じた人間は誰だ?」
「…………」
口調を変え、低い声で恫喝するように問うけれど。やはり、効果はないようね。
「おいっ! ひとりでなにを勝手――っ! な、なんだコレは! 障壁かっ?! 早くこれを解くんだ! お前の細腕でどうにかなる相手じゃないっ!」
煩い外野がようやくバリヤの存在に気付き慌てふためく。
それを見て、目の前の男も自分が囚われていることに気付き、殺気を高めた。
男の目を見て、ニヤリと笑う。
「私を殺せば、この魔法は消えるよ」
「そうか」
はじめて返ってきた固い声に決意を感じる。
そりゃそうか、王弟殿下主催の夜会でこれだけ派手に殺るんだから、相応の覚悟があるだろう。
「命じた人間の名を答えてくれたら、命までは取らないけど。――半殺しは、確定だから、諦めて」
低い声でそう宣言してから、駆けだした。
自身に掛けた身体能力を高める魔法は、私を風よりも早く走らせ、メリケンサックを嵌めた拳を男の固い腹にめり込ませた。
「ぐふっ! くっ!」
腹を殴られ、胃液を吐いて体をくの字に曲げた男だったが、すぐに体勢を立て直し剣を振り下ろしてくる。
なかなか手応えがありそうだわ、いたぶり甲斐があるわね。
「ふんっ!」
振り下ろされる剣の横面を、メリケンサックで殴り折る。
呆然とする男の顔に、返す手で裏拳をたたき込み鼻をへし折ってから、身を捻って男の脇腹に膝をたたき込んだ。
「ごふっ!」
床に膝をついた男の頭を勢いよく踏みつけ、蹴り転がしてマウントポジションを取り、振り落とされないように、ぎゅっと両膝を男の脇に食い込ませる。
右手のメリケンサックを外してポイと投げ、もう一度確認する。
「ウチのボスの命ぁ取れって命令した人間の名前を答えな」
「い、言え、るか……っ」
口と鼻から血を吹いている男が、頑なに拒否するから、私は仕方なく拳を振るう。
べき、ばき、と肉が肉を抉る音。
制裁を拒否しない無抵抗の男を散々殴りつけてから、ぐったりした男の胸ぐらを掴みあげた。
「なぁ、第十二小隊所属パイラッツア。お前の、三族(三親等)皆殺しにされたくなきゃ、言えよ」
そう言った私の言葉に、このまま死のうとしていた男の目に光が戻る。
「なっ! な、なっ」
名指しされて狼狽える男の心を挫く為に、笑いながら続ける。
「知ってるよ、あんた、正規兵だろう。あんたの嫁と子供三人と両親と兄弟、必ず殺すよ。どんなことをしても殺すよ。ねぇ教えてよ、あんたにこんな任務与えた人間の名前、言えよ」
目を白黒させて口をあぐあぐと喘がせていた男の胸ぐらを掴んでいた手を離し、両耳を掴んで床に頭を押さえつけ、その耳元に唇を寄せる。
「人質に取られてるんだろ? 子供か? くずの名前を吐けば、そっちは助けてあげる」
「ほ、ほんどう、か……っ」
藁をも掴む気持ちなのだろう、簡単に乗ってきた。
歯が折れて聞き取りにくいその音を拾う。
返り血の付いた唇をにんまりと歪め、男の上から退いて立ち上がり、男の方へ左手を向ける。
「『電気ショック』」
雷撃を男に向けて放ち、意識を刈り取ってから、近くに放り投げてあったメリケンサックを再び装着してバリアの外に踏み出した。
「いやぁっ……っ」
「こ、こちらに来ないでくださいましっ」
淑女の皆さんが悲鳴をあげて私から距離を取り、紳士の皆さんはそれぞれパートナーを守るように私を警戒する。
バリアの周囲を囲むように衛兵の半数近くが集まっている。はっは、面白いくらい警戒されているな。
「お、おいっ! 殺したのかっ!」
勇敢な衛兵が、馬鹿な質問をしてくる。
「上官の敵を取って、なにが悪い?」
唇に付いた血を拭い、胡乱な目を向ければ、衛兵は狼狽える。
この程度の事で狼狽るなんて、衛兵の訓練が足りないんだよ、くそったれ。
「もうひと狩り行ってくる。ああ、この広間はバリ……障壁で閉鎖してあるから。もし、ここを出ようとする人間が居たら、犯人と見なして拷問するからね。犯人を捕まえるまでは、誰一人帰れないこと、肝に銘じな」
親切心でそう教えてあげる。
流石に警告もなしに拷問するのは、気が引けるしね。
「なっ! 貴様に、何の権限があって――っ」
果敢に食って掛かってきた貴族の紳士に顔を向けると、目が合っただけで口を噤んだ。
「権限? 敵討ちですよ? ウチの上官が殺されたんですよ? 邪魔をなさるんですか? あなたさまも――私の敵ですか?」
「ち、違うっ」
ゆらりと見上げれば、即座に否定されたので、小さく笑い足を踏み出した。
「おいっ! どこに行く気だっ!」
「狩りですよ。獲物が居なくなるまで、狩らねばなりませんから」
歩き出した私を追って、数人の衛兵が付いてくるが、邪魔をする様子はないので放っておく。
探索の魔法を使用しながら広間を歩くと、ご婦人方が今にも卒倒しそうな顔で椅子に座り扇で顔を隠して必死に私を見ないようにし、男性陣は顔色悪く女性達の側に立つ。
豪奢な人々の間をゆっくりと歩き、広間の隅に立つ男の前を通り過ぎかけてから、顔を男の方へぐるんと巡らせ、にやりと微笑む。
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