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《初めまして》
買いものに出かけたのは、最近はミサにも出席ができていなかったのもあるが、一番はゼウスの助言をいただいてしまったから。
この小国では愛こそが正義。性欲が第一。……恩師でもあるし、初老の割には若い方ではあるが老人との性行為はしたくはない。
シギュンはゼウスから寵愛を受けている自覚がある。この国では神に近い存在であるが、だからこそ真に受けたくはないのだ。
――ゼウスの性癖はかなりの悪癖だ。ドン引きするほどのものだ。誰でも愛を育んでしまう姿にはそれは愛などあるのかと疑う自分も居る。
だから罪滅ぼしと離れるために買い出しへやってきたのである。白と黒を基調とした服に身を包んだシギュンは、買い出しの内容をメモに収めていたので人通りの多い道へ歩いていくのだ。
「えっと、かぼちゃと人参にジャガイモの詰め合わせ……それと鶏肉に――」
すると突風が巻き起こり、メモ用紙が飛ばされてしまった。「しまった!」そう言ってメモの行方を宙で巡らせると……右端に、見事な赤髪が見えたのだ。
黒いパーカーがひらりと彼の顔を覗かせると、美しいほどの赤い髪に白く透き通った肌と猫のようなくりっとした緑色の瞳は、罰が悪そうな顔をして歪めたのだ。その小柄な美青年は……シギュンの理想だった。――いわゆる、一目ぼれである。
(な、なんて素敵な殿方なんだ! いや、殿方なのか? いや、ここで逃したらあの方は居なくなってしまう!)
赤髪の青年はフードを被り直し、集中して浴びせられる視線を回避するように小走りで逃げてしまう。
その後を、顔を紅潮させて興奮したシギュンも追いかけるのだ。
小走りで走り、路地裏を通って、ヨルは大きく息を吐く。人前に触れるのも、運動をするのも得意ではないので旅をするのも決心が必要ではあったが、ある目的のためによるはヨーロッパ諸国を旅してきたのだ。
――目的は父親の免罪を晴らせる材料。父親が怒りを収めてもらうために、自分がすべての罪を滅するためにしている行動だ。いい加減な親ではあったが、ヨルにとっては大切な父親である。しかもキョウダイの命運も担っているのだからとても重要なのだ。……終焉に向かわせるまでは自分が押さえないとならない。
「はぁ~……、あ~疲れた」
深く息を吐いてぼんやりと前を見る。
(やばいな。今日は野宿かもしれない。……でもそっちの方が都合はいいか)
なんとかなるだろうと踏んで路地裏を進もうとした――その瞬間。
「あの! あなた、あなたです!」
流暢な外国語で話されて振り向くと……そこにはシスターがいた。
だがフードは被っておらず、金髪の長い髪を結わいているのだが、服の上からでも分かるほど筋肉質な身体つきに、ヨルは恐れおののいた。
だから身を引くように逃げようとすると、長身の男はその長く逞しい腕でヨルの手を掴んだのだ。――その行為にヨルは目を見張って素早く払いのけた。
「触んな!!!」
「え……?」
一瞬、何語なのかわからなかった。だが青年はシギュンの躊躇う様子を見ては、後悔の念を抱くように、この小国での言葉で綴る。
「ごめん……、俺のせいであんたの人生が。……思い残すことはないか?」
流暢な言語にシギュンは呆然をしたかと思えば、彼は思い詰めたような顔をして謝罪をする。
(どうしてそんなことを……?)
疑問を募らせるがわからないことだらけだ。だからシギュンは懺悔の顔をするヨルに向けて手を差し伸べて……握るのだ。
(なにも……起こらない?)
触れられてなにも起きないシギュンに、ヨルは困惑の念を抱いたがそれでも彼は言葉を続ける。
「思い残すことがあるとすれば……あなたと出会ってしまったことです」
「……はぁ?」
……なに言っていんだこいつ? 唖然とするヨルに、男は握ってからヨルを自身のもとへ引き寄せた。
さすがのヨルもたじろいで男から離れようとするが、その前に一つ尋ねるのだ。
「なぁ、あんたは平気なのか? 俺に触れてさ。……なんか、こう……熱くはないか?」
どうしてだが事態を把握できていない意中の美青年に、シギュンは軽やかに笑ってこのように伝える。もちろん、まさか、自分とは対照的で肌の白い美男子と触れ合えたのが嬉しかったというのも添えるつもりである。
「熱くなんてありません。あなたのような見事な赤い髪をなびかせる子猫のように小柄で、肌が麗しくて、美しく輝いた翡翠色の瞳に見つめられ、薄い唇が強く結ばれている姿を見ると、私は興奮……じゃなかった、幸福に苛まれます」
「……あんた、シスターの割には変態だろ」
「いえいえ。ここは”愛”がすべての国ですから」
頬を緩めていつまでもくっついてくる変態に、ヨルは軽く足を踏んだ。「いったぁ!?」なんて言って仰け反るシギュンに、ヨルはそそくさと離れては逃走を図るが、その前にシギュンが叫ぶのだ。
「待ってください! あなたのお名前は? それに今はどこに住んでいるのですか!」
「……答える必要あるのか?」
「私はシギュン。サンクチュアリの教会で働いています。家もここから割と近いんです!」
シギュンという言葉にヨルは目を見開いて男を見る。絹のように細い長い金髪でもあるし、あどけない顔立ちと瞳が大きいので女性らしさは感じられるが……鍛え上げられた肉体は確かに男だ。だがそれでもヨルはシギュンを凝視する。
(まぁあの親父だから男でもいいかもしれないな……。こいつを連れ去るかどうか、か)
「あの! あなたのお名前は?」
問われたものなのでヨルは「あぁ……」と答えては躊躇いつつも、自身も名乗るのである。
「ヨル。ヨル 雫石だ。こう見えて日本人なんだ」
(ヨル……。ヨル シズクイシ)
ヨルの名を聞いてシギュンはどうしてだが飛び上がるほどの嬉しさを募らせたのだ。
ヨルもたじろいで男から離れようとするが、その前に一つ尋ねるのだ。
この小国では愛こそが正義。性欲が第一。……恩師でもあるし、初老の割には若い方ではあるが老人との性行為はしたくはない。
シギュンはゼウスから寵愛を受けている自覚がある。この国では神に近い存在であるが、だからこそ真に受けたくはないのだ。
――ゼウスの性癖はかなりの悪癖だ。ドン引きするほどのものだ。誰でも愛を育んでしまう姿にはそれは愛などあるのかと疑う自分も居る。
だから罪滅ぼしと離れるために買い出しへやってきたのである。白と黒を基調とした服に身を包んだシギュンは、買い出しの内容をメモに収めていたので人通りの多い道へ歩いていくのだ。
「えっと、かぼちゃと人参にジャガイモの詰め合わせ……それと鶏肉に――」
すると突風が巻き起こり、メモ用紙が飛ばされてしまった。「しまった!」そう言ってメモの行方を宙で巡らせると……右端に、見事な赤髪が見えたのだ。
黒いパーカーがひらりと彼の顔を覗かせると、美しいほどの赤い髪に白く透き通った肌と猫のようなくりっとした緑色の瞳は、罰が悪そうな顔をして歪めたのだ。その小柄な美青年は……シギュンの理想だった。――いわゆる、一目ぼれである。
(な、なんて素敵な殿方なんだ! いや、殿方なのか? いや、ここで逃したらあの方は居なくなってしまう!)
赤髪の青年はフードを被り直し、集中して浴びせられる視線を回避するように小走りで逃げてしまう。
その後を、顔を紅潮させて興奮したシギュンも追いかけるのだ。
小走りで走り、路地裏を通って、ヨルは大きく息を吐く。人前に触れるのも、運動をするのも得意ではないので旅をするのも決心が必要ではあったが、ある目的のためによるはヨーロッパ諸国を旅してきたのだ。
――目的は父親の免罪を晴らせる材料。父親が怒りを収めてもらうために、自分がすべての罪を滅するためにしている行動だ。いい加減な親ではあったが、ヨルにとっては大切な父親である。しかもキョウダイの命運も担っているのだからとても重要なのだ。……終焉に向かわせるまでは自分が押さえないとならない。
「はぁ~……、あ~疲れた」
深く息を吐いてぼんやりと前を見る。
(やばいな。今日は野宿かもしれない。……でもそっちの方が都合はいいか)
なんとかなるだろうと踏んで路地裏を進もうとした――その瞬間。
「あの! あなた、あなたです!」
流暢な外国語で話されて振り向くと……そこにはシスターがいた。
だがフードは被っておらず、金髪の長い髪を結わいているのだが、服の上からでも分かるほど筋肉質な身体つきに、ヨルは恐れおののいた。
だから身を引くように逃げようとすると、長身の男はその長く逞しい腕でヨルの手を掴んだのだ。――その行為にヨルは目を見張って素早く払いのけた。
「触んな!!!」
「え……?」
一瞬、何語なのかわからなかった。だが青年はシギュンの躊躇う様子を見ては、後悔の念を抱くように、この小国での言葉で綴る。
「ごめん……、俺のせいであんたの人生が。……思い残すことはないか?」
流暢な言語にシギュンは呆然をしたかと思えば、彼は思い詰めたような顔をして謝罪をする。
(どうしてそんなことを……?)
疑問を募らせるがわからないことだらけだ。だからシギュンは懺悔の顔をするヨルに向けて手を差し伸べて……握るのだ。
(なにも……起こらない?)
触れられてなにも起きないシギュンに、ヨルは困惑の念を抱いたがそれでも彼は言葉を続ける。
「思い残すことがあるとすれば……あなたと出会ってしまったことです」
「……はぁ?」
……なに言っていんだこいつ? 唖然とするヨルに、男は握ってからヨルを自身のもとへ引き寄せた。
さすがのヨルもたじろいで男から離れようとするが、その前に一つ尋ねるのだ。
「なぁ、あんたは平気なのか? 俺に触れてさ。……なんか、こう……熱くはないか?」
どうしてだが事態を把握できていない意中の美青年に、シギュンは軽やかに笑ってこのように伝える。もちろん、まさか、自分とは対照的で肌の白い美男子と触れ合えたのが嬉しかったというのも添えるつもりである。
「熱くなんてありません。あなたのような見事な赤い髪をなびかせる子猫のように小柄で、肌が麗しくて、美しく輝いた翡翠色の瞳に見つめられ、薄い唇が強く結ばれている姿を見ると、私は興奮……じゃなかった、幸福に苛まれます」
「……あんた、シスターの割には変態だろ」
「いえいえ。ここは”愛”がすべての国ですから」
頬を緩めていつまでもくっついてくる変態に、ヨルは軽く足を踏んだ。「いったぁ!?」なんて言って仰け反るシギュンに、ヨルはそそくさと離れては逃走を図るが、その前にシギュンが叫ぶのだ。
「待ってください! あなたのお名前は? それに今はどこに住んでいるのですか!」
「……答える必要あるのか?」
「私はシギュン。サンクチュアリの教会で働いています。家もここから割と近いんです!」
シギュンという言葉にヨルは目を見開いて男を見る。絹のように細い長い金髪でもあるし、あどけない顔立ちと瞳が大きいので女性らしさは感じられるが……鍛え上げられた肉体は確かに男だ。だがそれでもヨルはシギュンを凝視する。
(まぁあの親父だから男でもいいかもしれないな……。こいつを連れ去るかどうか、か)
「あの! あなたのお名前は?」
問われたものなのでヨルは「あぁ……」と答えては躊躇いつつも、自身も名乗るのである。
「ヨル。ヨル 雫石だ。こう見えて日本人なんだ」
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