赤髪の免罪

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《甘い時間》

 二人がそれぞれ自己紹介をするが、沈黙が勝ってしまった。
 シギュンは本来、人と話すのが得意な方であるが、眼前にはタイプすぎる美青年の前であるので、このまま連れ去って一夜を共にしたいと考えていた。だから思考がそこへ集中している。
 一方、ヨルは偶然だと思うが、父親の正妻であった名を持つ男に出会ったので、どこにいるのかわからないが父親の元へこの男を献上したいなと思ってしまうのだ。
 ――ヨルの父親は美麗さがあったがずる賢く、男女……いや、動物にさえも手を出した人間だ。この美しい男を差し出しても、気に入るに違いないと内心で思ってしまうのだ。……だが、シギュンの同意は出ていない。
(こいつを差し出せば、もしかしたら世界はなにも起こらずに済むかもしれないし……、でも、こいつもこいつで好みだってあるだろうし。というか、男だし……)
 なんていう両者が考えているので、沈黙が続いてしまうのだ。
 だが嫌な沈黙ではなかった。互いがそれぞれ別のことを考えてはいるが、相手のことを想っているからかもしれない。
「あの! ヨルって呼んでもいいですか?」
「あ、あぁ……うん。別になんでも構わない」
 いきなり名前呼びかいと思ったが、まぁ異国の地だし仕方がないなと考えているヨルではあったが、シギュンは嬉しそうに顔を綻ばせ急に手を繋いできたのだ。
「おい、なにすんだよ?」
「あなたに連れて行きたいところがあるんです。……駄目でしょうか?」
 屈強な男の割には女のようなしぐさをするシギュンに、ヨルは気持ち悪さというより不思議な感覚を得た。
 この小国についても調べておいたが、この国は男同士でもそういった行為をするらしい。自分が一瞬狙われているとなんとなく感じるものの、悪気のない笑みと強引に誘ってくる彼に、ヨルは息を吐き出しては「まぁいいよ」と告げた。
「ヨルは日本という国に居るのでしょう? 日本に行ったことがないからぜひ聞きたいです! アニメとか、この国でも流れているのですよ~」
「へぇ~、アニメがね~。確かに日本は、アニメや漫画は有名だからな。俺は興味がほとんどないけど……」
「え~、もったいない! ヨルは自分の国を誇るべきです! アニメ、ゲーム、漫画、オタク、メイドカフェに……」
「……一応、日本文化だけど、着物とか神社仏閣とか和食とか、そういうのにも触れてくれよ?」
 二人が居た場所は草木が生い茂る広場であった。だが中央には煌びやかな噴水があり、花々が咲き乱れ、城下町を見渡せる階段もある。
 このサンクチュアリきってのデートスポットの一つにヨルは案内された。そのおかげで、ベンチや広場には恋人だらけで手を繋ぐのは序の口で、抱き着いたり、キスをしたり……男女や男同士や女同士や、老若男女問わずに皆が愛を育んでいた。
(……なんか、すごいところに来ちゃったんだけど)
 冷や汗を垂らしたヨルは会話に集中しつつも、シギュンが自分にどうしてだが好意を寄せていることに気づいてしまう。
 だがヨルはノーマルだし、自分は一生恋人など作らないと決めている。だから余計に困っているのだが、いつも以上に困っているのは好意を寄せられている相手を父親の元へどのように会わせるかについてだ。
「ねぇ、ヨル……。今夜はどこの宿をお探しですか?」
 一応、シギュンには宿のことを伝えておいて掛け合ってくれたが、満室で入れなかった。だからヨルはシギュンに「野宿でもしようと思う」そう伝えると、彼はヨルの手を握り懇願するように言い放つ。
「その、私の家に来ませんか? それで、愛を育もうと……きゃっ!」
 ……いや、こっちが叫びたいわ。
 顔を青ざめてドン引きをするヨルを見て、今度はシギュンが不可解な顔をして尋ねてくる。
「ニホンンジンは好きな相手ができたら、家に連れ込んでセックスしないのですか?」
「白昼堂々と言ったな……。いや、しないよ。しないから。いる人が居ても手が早いっていなって、普通の人なら引くと思うよ」
「……引いちゃいました、か?」
 その途端に、シギュンが泣き出しそうな顔をするものなのでヨルは慌てて「だから!」なんて言って自分の現状を伝えた。
「俺はこういう付き合いをしたことがなかったから、その……。お前みたいに経験がないんだよ」
「……未経験ですか?」
「まぁ、そう、だな……。こうして触れ合えるのもキョウダイくらいしか……いない」
 真っ赤にして顔をすぼめ、猫のような瞳を伏せた顔にシギュンの胸が高鳴る。
(あぁ、なんてかわいい子なんでしょう。こういう子は早く筆下ろしさせてしまわせたい……。でもこんなかわいらしい子に犯されたら、私はちゃんとリードして励まないといけませんね)
 とんでもない性的描写を想像し浮足立つシギュンに、無垢なヨルが疑問に抱えていた。そんな彼にシギュンは指と指を絡み合わせた恋人つなぎをして、宣言をするのだ。
「じゃあ経験がないのなら、私が手取足取り教えますよ。私はあなたに一目ぼれをしてしまいましたから」
「ひ、一目ぼれ……」
 ヨルの顔がリンゴのようになり、耳まで彼の赤い髪と同じくらいになってしまった……そんなときであった。

「あれれ~? シギュンちゃんじゃ~ん。俺たちと遊んでくれないの~」
 広場に現れた刺青を入れた三人の男がシギュンを見かけて声を掛けてきた。嫌な視線を送るシギュンは、ヨルと繋がった手を離さないでいたのだ。
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