赤髪の免罪

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
7 / 38

《太陽が許さない》

 疑いを通り越して唖然とし「マジかよ……」と、翡翠色の瞳を瞬いて確認をすると、目の前に居る色黒の屈託のない顔で澄んだ青空の瞳は爛々とさせて頷いた。
 冷静さが取柄のヨルでさえも、この事実には驚いてしまった。
「う……そ、だろ?」
「嘘じゃないです。……こういう形になってしまったのが早いですが、私たちは結婚をするのですね。まるでアニメのヒロインのような気持ちです!」
 いや、展開が早すぎるだろというのも言いたいが、その前には結婚などもってのほかだ。お互いなにも知らぬ状態で結婚だなんて聞いたこともないし、自分は一生の独り身だと決めているし、……それに、自分はこの美しい男を幸せなどできない。
 同性だからというのもあるが、その前に人殺しの罪人との結婚だなんて、神々が許すはずなどない。
 だからヨルはなぜだが嬉々としているシギュンへちゃんと断りを入れたのだ。
「俺のせいなのは分かっているけれど、お前は俺と離婚すべきだ。いや、籍を入れていないからまだ間に合う。……さっきのキスはなしだ。即刻、別れよう」
 ”別れる”発言にシギュンは大きな瞳を二回、三回とゆっくりと瞑っては、疑問形で尋ねてきた。
「ヨルは同性と結婚をするのは嫌ですか? 私じゃダメですか?」
「いや、ダメとかじゃなくてな。俺はお前を幸せにできないし、キスしたのはお前が俺の毒に充てられたからであって、なんというか……」
 しどろもどろになってしまうが、はっきりと告げようと試みた。罪悪感が勝るが、どうしてだが寛大すぎて心が広すぎる、楽観的なシスターに告げなければならないこと。
 結婚を軽んずのは、親父や自分たちを罵った神々だけで十分だとヨルは、シギュンに嫌われるのを覚悟で言い放った。
「俺なんかと一緒に居たら一生、お前は不幸だ。それは、お前には絶対に良くない」
「……ヨル」
 ”不幸”という言葉と悲痛な顔をして冷酷に言い放つヨルに、シギュンは突き放された感覚に陥る。だが無情にもヨルは言葉を続けた。
「俺と居たらお前は死ぬまで不幸なんだ。せっかく神々の使い、シスターになれたのだから、俺なんか忘れてほかの奴と幸せになれよ。その方がお前に――」
 熱弁をしていたせいでシギュンの顔を見ていなかったが、ふと顔を見ればシギュンは涙を一つ零していた。しかも啜るような、しゃくりあげるような声を上げるものだからヨルは慌ててしまう。 
 なにがどうしてこの褐色肌の大男が涙を流すのかがわからなかった。
「なんで泣くんだよ? 俺とお前はまだ会ったばかりだ。しかも怖い目にも遭っただろう? それを見ただろう?」
「うぅ……で、も、いやです……」
「なにが嫌なんだよ? 俺のキスはへたくそだっただろう? 不幸そうな顔をしているだろう? ……お前はどうして、俺のことを気にかけるんだよ?」
(意味がわからない。どうして……?)
 しかしシギュンは深呼吸をしてから右手で涙を拭き、「だって……」と言って言葉を紡ぎだすのだ。
「一目ぼれもしてしまった相手とずっと一緒に居られるのなら、私は幸せです。私はあなたに瞳も、唇も、身体も心も奪われました。……私はそんな相手と結婚をしたいのです。こんな気持ちは、初めてです。でも、あなたは自分のせいで不幸になるからと、勝手に決めつけて離れようとするのが……私はひどく悲しいのです。だって」
 ――切ないではありませんか。
 シギュンの深い青空の瞳はヨルを見据えて離さない。だからヨルも逸らせない。そんな彼にシギュンは言葉を紡ぐのだ。
「あなたが幸せにできないのなら、私が幸せにさせます。籍は入れてはいませんが、私たちはもう夫婦。これからは助け合う関係です」
「……夫婦って。一気に話が飛んだな」
「もう夫婦です! これはお天道様が、太陽が許すはずがない決定事項です!」
(太陽って……。また、親父が罪に課された最大の理由を堂々と……)
 まぁ普通は知らないか、なんて思っているとシギュンは照らし出す太陽を見てからヨルを見て、両手で彼の手を囲むようにして合わせたのだ。
「あなたが不幸にさせるのならば、私があなたを幸せにさせましょう。……美青年の童貞卒業など、至極の極みですね」
「……ぶっ飛ばすぞ、お前」
 ド下ネタをぶち込まれた童貞の美青年は息を吐いては、軽く頷いて「好きにしろ」と告げた。するとシギュンは花が咲いたように微笑んで、ヨルの手を引いて強く繋ぐのだ。
「じゃあまずは結婚報告です! ゼウス様に報告に参りましょう!」
「おい、引っ張るなって……」
「シギュンです! さぁ、参りましょう!」
「まったく……お前は」
 先ほどとは打って変わって幸せそうに笑う大男に、ヨルは自分が必要とされている気がして嬉しくなってしまうが恥ずかしくて言えなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。