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《旅立ち》
ゼウスの命令の下、ヨルは鎖に繋がれて移送の開始をする予定だった。そんななかでさえも、ヨルは内心では「これで良かったのだ」と納得させていた。
「シギュンは俺なんかよりふさわしい人間と結婚して、幸せに暮らした方が良い。だって俺は」
――罪人だから。
自分で被った罪ではあるが、やはり業は業。仕方がないが人間に侮蔑をされるのも当たり前なのだ。
鎖がシュゥゥゥと時間を経てて溶けていく。やはり自分に触れた物質は、自分に危害を加えるモノは自身の炎によって焼かれてしまうらしい。
ポタリと落ちた熱は少し地面を焼いて焦がしてしまった。そして鉄は元の形状に戻ったときであった。
「ヨル、今よろしいですか?」
牢屋へ移送する前に、シギュンが悲痛な顔を見せてやってきた。あどけない顔立ちが悲しみに包まれていると知りながらも、ヨルは背中に解かれた腕を隠した。
「あぁ。どうした急に? もう移送の時間なの」
――か? と尋ねようとすれば、シギュンはヨルを深く抱擁したのだ。戸惑いを抱くヨルにシギュンは泣き出しそうな顔を近づけて訴えかける。
「私は、あなたと……離れたくない、です。嫌、です」
「そんなことを言われてもさ。お前は俺なんかよりもふさわしい人と結ばれるべきなんだ、な?」
でもシギュンは言うことを聞いてくれない。頬から崩れ落ちるようにヨルの平たい胸に泣きついてしまう。
「私は、あなたと居たいのです! どうしてなのかはわからないけれど、あなたと……結ばれたいです」
「シギュン……」
その切実な言葉に罪人は耳を傾けてしまう。自分もみたいな人間をどうして欲するのかがわからないが、単純に嬉しかったのだ。
ヒクついて涙を零すシギュンに、ヨルは息を吐いては解かれた腕を広い背中に回して抱いた。「えっ、鎖は……?」という言葉も聞こえたが、ヨルは言葉を綴る。
「お前が俺みたいな罪人と居たいというのならさ。一緒に来てくれないか?」
――俺の母国に、日本に。
シギュンはその言葉に顔をほんのり染めてからにっこりと笑って「はい」と言った。
そして二人は牢屋に行くふりをして脱獄するのだ。教会を背にシギュンは手を組んで「ごめんなさい」と謝罪をする姿を、ヨルは見届けるのだ。
シギュンの家に訪れ、彼が荷造りをしている最中にはヨルが「お腹空いただろう?」そう言って料理を作ってくれた。
ここに来る前に買い物をしておいたのである。するとヨルが手早く調理をしてくれて、荷造りが終えた頃には料理が並んでいた。
豚肉の白ワインのソテーにかぼちゃのポタージュとシーザーサラダに、どうやって作ったが知らぬがゼリーが添えられていた。緑と青の色に染まったゼリーにシギュンは首を傾げる。
「このゼリーは、なんのゼリーですか?」
するとヨルは少し笑って「あとで食べればわかるよ」と言った。
「いただきます」
手を合わせたヨルにシギュンは首を傾げているが、日本の文化だと言ってヨルが言葉を乗せる。
「日本では、食材に感謝を込めて手を合わせて願うんだ。食材にも、食材を作ってくれた農家や畜産にも、それを作ってくれた多くの人間ににもだ」
するとヨルは豚肉をナイフで切り、フォークで突き刺して薄い唇に運んだ。美味しそうに食すヨルにシギュンもごくりと飲みこんで、手を合わせて「イタダキマス」そう言ってかぼちゃのポタージュをスプーンですくって飲むと……程よい甘さとかぼちゃのうまみに驚愕して目を見張った。
「美味しい……です! とっても美味しい!」
「それはどうも。作った甲斐があったよ」
ヨルが猫のような瞳を緩ませて、朗らかに微笑む姿にシギュンは胸を高鳴らせた。付き合った人間は数知れないが、こんなにも鼓動が早くなるのは初めてであった。
そんな二人は拙くも会話をしつつ食事を楽しんでいた。主にシギュンがヨルのことについて聞いたり、アニメの話をしたりしていたがヨルもヨルで「キョウダイが居て、二人いるんだ」くらいの会話をしていた。――仲の良さは普通くらいらしい。
シギュンはデザートのゼリーをすくい上げて口に運んで見せた。緑と青に色彩が合わさったゼリーは林檎のような甘味がして溶けていくような感覚に陥る。
――とても美味であった。
「これも美味しい……。ヨルは器用ですね! 料理上手で羨ましいです!」
素直に褒めるとヨルは白い肌を赤く染めて照れるように礼をした。大きな口で食べていくシギュンに、ヨルは急に真剣な顔をして声を掛けた。
「本当にいいのか? お前は俺を受け入れたら……この国には戻れないぞ」
「……そうですね」
「それでもいいのか?」
するとシギュンは戸惑いの表情を見せたかと思えば覚悟を決めたように笑って言い放った。
「アクシデントとはいえ、ヨルとは結婚の契りを結びました。だから私はあなたを信じます。そして」
――あなたに尽くします。
澄んだ青い瞳と金色の長い髪であるのに褐色肌をした男は、罪人を許すように笑う。すると白い肌で赤髪、なおかつ翡翠の瞳をした小柄な男は頭を真っ白にさせてか細い声で「ありがとう……」そう言って、手を付けていないゼリーを渡したのだ。
林檎の味にしたのはヨルが自分の中で好きな果実だから。自分の中で好きな味を曝け出すのさえ抵抗があったが、シギュンに自分の好きな味を直接伝えるのが恥ずかしかった自分が居たのだ。
太陽が昇る前、罪人と神の使いは夜空を駆ける。星空は瞬いて輝き、二人を陰ながら背中を押すように夜風が吹いたのだ。
「シギュンは俺なんかよりふさわしい人間と結婚して、幸せに暮らした方が良い。だって俺は」
――罪人だから。
自分で被った罪ではあるが、やはり業は業。仕方がないが人間に侮蔑をされるのも当たり前なのだ。
鎖がシュゥゥゥと時間を経てて溶けていく。やはり自分に触れた物質は、自分に危害を加えるモノは自身の炎によって焼かれてしまうらしい。
ポタリと落ちた熱は少し地面を焼いて焦がしてしまった。そして鉄は元の形状に戻ったときであった。
「ヨル、今よろしいですか?」
牢屋へ移送する前に、シギュンが悲痛な顔を見せてやってきた。あどけない顔立ちが悲しみに包まれていると知りながらも、ヨルは背中に解かれた腕を隠した。
「あぁ。どうした急に? もう移送の時間なの」
――か? と尋ねようとすれば、シギュンはヨルを深く抱擁したのだ。戸惑いを抱くヨルにシギュンは泣き出しそうな顔を近づけて訴えかける。
「私は、あなたと……離れたくない、です。嫌、です」
「そんなことを言われてもさ。お前は俺なんかよりもふさわしい人と結ばれるべきなんだ、な?」
でもシギュンは言うことを聞いてくれない。頬から崩れ落ちるようにヨルの平たい胸に泣きついてしまう。
「私は、あなたと居たいのです! どうしてなのかはわからないけれど、あなたと……結ばれたいです」
「シギュン……」
その切実な言葉に罪人は耳を傾けてしまう。自分もみたいな人間をどうして欲するのかがわからないが、単純に嬉しかったのだ。
ヒクついて涙を零すシギュンに、ヨルは息を吐いては解かれた腕を広い背中に回して抱いた。「えっ、鎖は……?」という言葉も聞こえたが、ヨルは言葉を綴る。
「お前が俺みたいな罪人と居たいというのならさ。一緒に来てくれないか?」
――俺の母国に、日本に。
シギュンはその言葉に顔をほんのり染めてからにっこりと笑って「はい」と言った。
そして二人は牢屋に行くふりをして脱獄するのだ。教会を背にシギュンは手を組んで「ごめんなさい」と謝罪をする姿を、ヨルは見届けるのだ。
シギュンの家に訪れ、彼が荷造りをしている最中にはヨルが「お腹空いただろう?」そう言って料理を作ってくれた。
ここに来る前に買い物をしておいたのである。するとヨルが手早く調理をしてくれて、荷造りが終えた頃には料理が並んでいた。
豚肉の白ワインのソテーにかぼちゃのポタージュとシーザーサラダに、どうやって作ったが知らぬがゼリーが添えられていた。緑と青の色に染まったゼリーにシギュンは首を傾げる。
「このゼリーは、なんのゼリーですか?」
するとヨルは少し笑って「あとで食べればわかるよ」と言った。
「いただきます」
手を合わせたヨルにシギュンは首を傾げているが、日本の文化だと言ってヨルが言葉を乗せる。
「日本では、食材に感謝を込めて手を合わせて願うんだ。食材にも、食材を作ってくれた農家や畜産にも、それを作ってくれた多くの人間ににもだ」
するとヨルは豚肉をナイフで切り、フォークで突き刺して薄い唇に運んだ。美味しそうに食すヨルにシギュンもごくりと飲みこんで、手を合わせて「イタダキマス」そう言ってかぼちゃのポタージュをスプーンですくって飲むと……程よい甘さとかぼちゃのうまみに驚愕して目を見張った。
「美味しい……です! とっても美味しい!」
「それはどうも。作った甲斐があったよ」
ヨルが猫のような瞳を緩ませて、朗らかに微笑む姿にシギュンは胸を高鳴らせた。付き合った人間は数知れないが、こんなにも鼓動が早くなるのは初めてであった。
そんな二人は拙くも会話をしつつ食事を楽しんでいた。主にシギュンがヨルのことについて聞いたり、アニメの話をしたりしていたがヨルもヨルで「キョウダイが居て、二人いるんだ」くらいの会話をしていた。――仲の良さは普通くらいらしい。
シギュンはデザートのゼリーをすくい上げて口に運んで見せた。緑と青に色彩が合わさったゼリーは林檎のような甘味がして溶けていくような感覚に陥る。
――とても美味であった。
「これも美味しい……。ヨルは器用ですね! 料理上手で羨ましいです!」
素直に褒めるとヨルは白い肌を赤く染めて照れるように礼をした。大きな口で食べていくシギュンに、ヨルは急に真剣な顔をして声を掛けた。
「本当にいいのか? お前は俺を受け入れたら……この国には戻れないぞ」
「……そうですね」
「それでもいいのか?」
するとシギュンは戸惑いの表情を見せたかと思えば覚悟を決めたように笑って言い放った。
「アクシデントとはいえ、ヨルとは結婚の契りを結びました。だから私はあなたを信じます。そして」
――あなたに尽くします。
澄んだ青い瞳と金色の長い髪であるのに褐色肌をした男は、罪人を許すように笑う。すると白い肌で赤髪、なおかつ翡翠の瞳をした小柄な男は頭を真っ白にさせてか細い声で「ありがとう……」そう言って、手を付けていないゼリーを渡したのだ。
林檎の味にしたのはヨルが自分の中で好きな果実だから。自分の中で好きな味を曝け出すのさえ抵抗があったが、シギュンに自分の好きな味を直接伝えるのが恥ずかしかった自分が居たのだ。
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