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《あたたかい》
ソファベッドで眠ったシギュンではあったが、一緒に眠ったはずのヨルが居ないことに慌ててしまう。ヨルは布団で眠ると言っていたが、シギュンが「結婚をする相手と一緒に眠らないといけません!」などという、よくわからぬことを言いだして大柄な自分と一緒に狭いソファベッドで眠ったのだ。
だがその割にはいい香りがしたのでシギュンは目線をキッチンへ向けると、腰を擦りながらなにかを作っているヨルの姿があった。――シギュンは真剣な顔で調理している彼に抱き着いた。
「おっ、と! シギュン……。お前、急に抱き着くな。危ない」
「嫌です~。ヨルは冷たいです。おはようのキスをしないとですよ?」
「なに朝っぱらから言っていんだ……」
軽く息を吐いて呆れた顔を見せるが、シギュンは訴えかけるような視線と行動でヨルの唇を貪る。……かなり驚いたヨルはお玉を落としてしまうが、無我夢中でキスに応えようと努力する。
「んぅ、んぅ……シ、ギュン……!」
(あぁなんて可愛らしいのでしょう。このまま朝のパフォーマンス大会でもしたいです。私の踊りでヨルを酔わせて、楽しませたい)
だが希望とは打って変わり、ヨルはシギュンの足を強く踏んだ。「いったぁっ!??」涙声で痛がるシギュンにヨルは息を切らしては告げる。
「そんなはしたないことするのなら、朝飯は抜きだ。もう!」
ヨルが口元を拭ってはお玉を拾い上げて料理を作る姿に、シギュンは悲しさもあったが嬉しさもあった。
朝食は日本と洋風が合わさったような食卓であった。白菜のクリームスープに赤魚の粕漬け、ご飯にポテトサラダと小鉢であるほうれん草のお浸しであった。
ヨルは聞いたことがあった。西洋人は海藻類などが日本人と比較して消化するのが遅いらしい。だから入れようかと思ったがやめたのである。もちろん、納豆も控えておいた。でも、日本食には少し触れて欲しかったのだ。
おとなしくコーヒーを飲んで待っていたシギュンにスプーンとフォーク、そして箸二膳を持ってソファベッドに腰掛ける。するとシギュンは嬉しそうに華やいで笑った。
「とっても美味しそうです! ヨルはやっぱり料理上手です~」
「……ありがとうな」
という会話をしつつ、二人して手を合わせて食そうとする前に、シギュンに箸の使い方を教える。どうやら少し苦戦を強いられているようだ。
「ほら、こうやって合わせて……人差し指と中指を動かすようにして……」
「ん~、難しいです……。スプーンとフォークで食べてはダメですか?」
「まぁいきなりだもんな~。これから練習していこう。じゃあ改めて」
――いただきます。
二人は再び手を合わせて食事をした。赤魚の粕漬けはシギュンの口に合ったようだが、少し食べ辛そうにしていた。しかしほかの物はなんなく食すことができたので、ヨルは内心嬉しさを感じた。
そんな幸せなかでヨルは自分が危険な存在であるにも関わらず、シギュンを連れてきてしまった経緯を想起する。
(そうだ、俺はシギュンを親父に会わせたくてここまで連れてきたんだ。キョウダイにも連絡したけれど……嫌だな。だって、シギュンを裏切る羽目になるし)
――俺も嫌なんだ。
白菜のクリームスープを飲みながら考えていると、周りを見渡しているシギュンに気が付いたのでヨルは首を傾げる。「どうかしたか?」尋ねてみるとシギュンは言いづらそうな顔をしてから思い切ったように言い放った。
「ここは少し寂しい部屋です……」
「そうかな?」
「えぇ、まるで”牢屋”に居るような……寂しくて簡素な部屋なのです」
牢屋という発言にはさすがに驚いた。しかしシギュンも悪気がなかったらしく、手刀を切って「いや、あの!」というように慌てて口を開閉させる。
「牢屋の番をしていた時に、同じような部屋だったのが、あの、その、思ってしまっただけなんです! だから、お買い物とかして、雑貨とか増やして……あの!」
「ふふっ! そんな慌てずに言うな。……あんまり自分の部屋に興味がないだけだからさ。正直に言ってくれてありがとう」
「……いえ」
照れくさそうにほうれん草のお浸しを食すシギュンは、率直な意見を受け止めてくれるヨルに再度惚れ直す。好みは容姿だけではなかったらしい。
二人は手を合わせて「ごちそうさまでした」と告げた。しかし、食器洗いはシギュンがやってくれたので、ヨルは礼を告げてスマホを弄り、キョウダイにメッセージを送る。
するとすぐに弟と妹の二人が「シギュンに会いたい!」というようなメッセージをくれたので、皿を洗い終えて小鍋でなにかを作っているシギュンへ声を掛けた。
「シギュン~。俺の弟と妹が会いたいってさ。買い物ついでに会ってくれないか?」
「えっ!?? ご、ごきょうだいとですか!??」
小鍋で紅茶を煮出し、牛乳を入れて煮込んでいたシギュンは、顔を紅潮させて頬に両手を当てた。
(ま、まさかご家族とこんな形でお会いするなんて……。どんな対応をしたら良いのでしょう? 私は日本人ではありませんから、日本語も流暢に話せませんし……)
「おい、シギュン。大丈夫か? ……って、なに作っているの?」
「あぁ、えっと……! チャイを作ってみました。お口に合うと良いのですが……」
茶こしで茶葉を濾してカップに淹れていくシギュンの姿に、ヨルは「本当にシスターなんだな」と言いながらも内心では彼の優しさに心を掴まれる。
淹れてくれたチャイはまろやかで優しい味わいがして「シギュンを裏切るな」なんて告げられている気がした。
だがその割にはいい香りがしたのでシギュンは目線をキッチンへ向けると、腰を擦りながらなにかを作っているヨルの姿があった。――シギュンは真剣な顔で調理している彼に抱き着いた。
「おっ、と! シギュン……。お前、急に抱き着くな。危ない」
「嫌です~。ヨルは冷たいです。おはようのキスをしないとですよ?」
「なに朝っぱらから言っていんだ……」
軽く息を吐いて呆れた顔を見せるが、シギュンは訴えかけるような視線と行動でヨルの唇を貪る。……かなり驚いたヨルはお玉を落としてしまうが、無我夢中でキスに応えようと努力する。
「んぅ、んぅ……シ、ギュン……!」
(あぁなんて可愛らしいのでしょう。このまま朝のパフォーマンス大会でもしたいです。私の踊りでヨルを酔わせて、楽しませたい)
だが希望とは打って変わり、ヨルはシギュンの足を強く踏んだ。「いったぁっ!??」涙声で痛がるシギュンにヨルは息を切らしては告げる。
「そんなはしたないことするのなら、朝飯は抜きだ。もう!」
ヨルが口元を拭ってはお玉を拾い上げて料理を作る姿に、シギュンは悲しさもあったが嬉しさもあった。
朝食は日本と洋風が合わさったような食卓であった。白菜のクリームスープに赤魚の粕漬け、ご飯にポテトサラダと小鉢であるほうれん草のお浸しであった。
ヨルは聞いたことがあった。西洋人は海藻類などが日本人と比較して消化するのが遅いらしい。だから入れようかと思ったがやめたのである。もちろん、納豆も控えておいた。でも、日本食には少し触れて欲しかったのだ。
おとなしくコーヒーを飲んで待っていたシギュンにスプーンとフォーク、そして箸二膳を持ってソファベッドに腰掛ける。するとシギュンは嬉しそうに華やいで笑った。
「とっても美味しそうです! ヨルはやっぱり料理上手です~」
「……ありがとうな」
という会話をしつつ、二人して手を合わせて食そうとする前に、シギュンに箸の使い方を教える。どうやら少し苦戦を強いられているようだ。
「ほら、こうやって合わせて……人差し指と中指を動かすようにして……」
「ん~、難しいです……。スプーンとフォークで食べてはダメですか?」
「まぁいきなりだもんな~。これから練習していこう。じゃあ改めて」
――いただきます。
二人は再び手を合わせて食事をした。赤魚の粕漬けはシギュンの口に合ったようだが、少し食べ辛そうにしていた。しかしほかの物はなんなく食すことができたので、ヨルは内心嬉しさを感じた。
そんな幸せなかでヨルは自分が危険な存在であるにも関わらず、シギュンを連れてきてしまった経緯を想起する。
(そうだ、俺はシギュンを親父に会わせたくてここまで連れてきたんだ。キョウダイにも連絡したけれど……嫌だな。だって、シギュンを裏切る羽目になるし)
――俺も嫌なんだ。
白菜のクリームスープを飲みながら考えていると、周りを見渡しているシギュンに気が付いたのでヨルは首を傾げる。「どうかしたか?」尋ねてみるとシギュンは言いづらそうな顔をしてから思い切ったように言い放った。
「ここは少し寂しい部屋です……」
「そうかな?」
「えぇ、まるで”牢屋”に居るような……寂しくて簡素な部屋なのです」
牢屋という発言にはさすがに驚いた。しかしシギュンも悪気がなかったらしく、手刀を切って「いや、あの!」というように慌てて口を開閉させる。
「牢屋の番をしていた時に、同じような部屋だったのが、あの、その、思ってしまっただけなんです! だから、お買い物とかして、雑貨とか増やして……あの!」
「ふふっ! そんな慌てずに言うな。……あんまり自分の部屋に興味がないだけだからさ。正直に言ってくれてありがとう」
「……いえ」
照れくさそうにほうれん草のお浸しを食すシギュンは、率直な意見を受け止めてくれるヨルに再度惚れ直す。好みは容姿だけではなかったらしい。
二人は手を合わせて「ごちそうさまでした」と告げた。しかし、食器洗いはシギュンがやってくれたので、ヨルは礼を告げてスマホを弄り、キョウダイにメッセージを送る。
するとすぐに弟と妹の二人が「シギュンに会いたい!」というようなメッセージをくれたので、皿を洗い終えて小鍋でなにかを作っているシギュンへ声を掛けた。
「シギュン~。俺の弟と妹が会いたいってさ。買い物ついでに会ってくれないか?」
「えっ!?? ご、ごきょうだいとですか!??」
小鍋で紅茶を煮出し、牛乳を入れて煮込んでいたシギュンは、顔を紅潮させて頬に両手を当てた。
(ま、まさかご家族とこんな形でお会いするなんて……。どんな対応をしたら良いのでしょう? 私は日本人ではありませんから、日本語も流暢に話せませんし……)
「おい、シギュン。大丈夫か? ……って、なに作っているの?」
「あぁ、えっと……! チャイを作ってみました。お口に合うと良いのですが……」
茶こしで茶葉を濾してカップに淹れていくシギュンの姿に、ヨルは「本当にシスターなんだな」と言いながらも内心では彼の優しさに心を掴まれる。
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