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《事態発生》
ヨルは一人、駅の近くの外れでシギュンを待っていた。買い物はこの前済ませたのだが、妹の燐の言葉でふと思い立ち、行動に移すことにしたのである。
――それは今日、聖の自宅にて燐と共に父親の捜し怒りを鎮めるための作戦会議……のはずだった。
なんでそうなったのかは知らぬが、黒服と一緒に居た燐は右手でティーカップをなぞっては口にしたのが発端である。
「そういえば、ヨル兄さま。――シギュンさんと夜のパーティはしていまして?」
オブラートを百枚くらい束ねているものの、ド下ネタをぶち込んだ燐に、ヨルは飲んでいた紅茶を間違えて気管へ入れてしまった。
「げっほげほ!」
涙目になりながら咽ぶヨルへ、今度は聖も気になった様子で尋ねていく。
「その調子じゃ夫婦の営みはしているようじゃん~。……じゃあ、兄さんが女役?」
「違いますわ、聖兄さま。ヨル兄さまが男役ですわよ。シギュンさんは話し方が女性的ですから。絶対にそうですわ」
「え~、ヨル兄さんがリードできるのか? まぁ、あんまり想像はしたくはないけれど、シギュンさんは手練れていそうだからな~」
仲の良い聖と燐にヨルは怒るように顔を紅潮させては「セクハラだ!」なんて言って紅茶を飲み干した。聖がティーポットに紅茶を注ぎ入れるも、瞳まで充血させてしまう可愛らしい兄へまぁまぁと宥めた。
しかし燐はそれだけだけでは済まさない。
「じゃあ初デートはどこへ行ったのですか? 異国の国ですもん。素敵な場所がありますわよね~」
燐の期待感が籠ったような言葉に疲弊の息を漏らし、ヨルは渋々と言った様子で想起する。
「……初デートは公園、かな。それから出会ってすぐで婚約した、――というか、された? のか?」
「…………はい?」
「どういうことだ?」
さすがにこの発言では燐も聖も不可思議に思ったらしい。だからヨルは軽く出会った経緯や場所などを伝えるのだが、二人は初めは嬉々として聞いていたのだが次第にげんなりとして深く息を吐露してしまう。――さすがに、冷静なヨルもなにがおかしいと尋ねてみた。
まず燐は「それじゃあシギュンさんに呪いという能力を見られたから、結婚したみたいですわ」なんて告げられて図星を突かれた。
次に聖が「シギュンさんの愛に応えてやりなよ……」そう言って自身にカップに紅茶を注ぎ込んでいる。
二人の意見を総括して言えば、「もっとシギュンに尽くせ」なんていうものであった。
「シギュンに尽くせって言ったって……、料理とか学校の手配ぐらいしかできないし」
「そこですわ、兄さま。料理や学校の手配ができるのなら」
――デートなんて朝飯前ですわよ。
また飲もうとしていた紅茶を吹き出しそうになってしまうヨルではあったが、今回は口に付けていないので水面が激しく揺れただけだ。
しかし燐の言葉にも一理ある。
(デート、か……)
ヨルは三人で作戦会議を終えた後、シギュンへ「今日は外食にしないか?」というメッセージを送った。
時間が経ってもシギュンから連絡がこない。どんなに待っていてもだ。
……まさかなにかに巻き込まれたのでは?
一気に不安が押し寄せたヨルは滅多に掛けない電話をして、シギュンと連絡を図ろうと試みる。数回のコール音が鳴り、「はい」という声が聞こえた。
だが即座に違和感を覚えた。――シギュンの声はこんなに高くもないし、冷淡な声質ではない。声から感情が滲み出るような、天真爛漫な人間だ。
だからヨルは深く息を吐いて落ち着かせ、「シギュンになにをした」声の主よりも冷淡な口調を取る。
「ふふっ、冷静さは前世よりかはるかに高いわね、巨大な蛇、いえ」
――災厄を招く巨蛇さん?
「俺の問いに答えないのか。……シギュンは無事かと聞いている。狙いは、――俺か?」
「俺……だけじゃなくて、あなたたちキョウダイよ。早い話、指定の場所に来なかったら……シギュンさんは拘束されたまま、飢えて死ぬわ」
「なんだと?」
さすがにその脅しには身体をビクつかせ「どこに行けばいい?」慌てて尋ねるヨルへ女性はまた軽やかに笑って言い放った。
「大狼司グループが経営しているホテルがあるでしょう? そこの舞踏会で待っているわ。もちろん、あなたのお姫さまを隠して待っているから。――警察に行ったら、神々も総出であなたたちを抹殺させると思ってちょうだい」
警察の手を借りさせないという脅しに舌打ちを覚えるが堪える。
「……その前に聞かせて欲しい。お前はいったい何者だ?」
すると女は「ブリーシンガルの首飾り」と答えて切ってしまった。
……ブリーシンガルの、首飾り。そうか、あぁ、わかった。
「豊穣の女神、――フレイヤ、か」
まさか自分が見つけた学校に神が居たとは思いもよらなかった。
――それは今日、聖の自宅にて燐と共に父親の捜し怒りを鎮めるための作戦会議……のはずだった。
なんでそうなったのかは知らぬが、黒服と一緒に居た燐は右手でティーカップをなぞっては口にしたのが発端である。
「そういえば、ヨル兄さま。――シギュンさんと夜のパーティはしていまして?」
オブラートを百枚くらい束ねているものの、ド下ネタをぶち込んだ燐に、ヨルは飲んでいた紅茶を間違えて気管へ入れてしまった。
「げっほげほ!」
涙目になりながら咽ぶヨルへ、今度は聖も気になった様子で尋ねていく。
「その調子じゃ夫婦の営みはしているようじゃん~。……じゃあ、兄さんが女役?」
「違いますわ、聖兄さま。ヨル兄さまが男役ですわよ。シギュンさんは話し方が女性的ですから。絶対にそうですわ」
「え~、ヨル兄さんがリードできるのか? まぁ、あんまり想像はしたくはないけれど、シギュンさんは手練れていそうだからな~」
仲の良い聖と燐にヨルは怒るように顔を紅潮させては「セクハラだ!」なんて言って紅茶を飲み干した。聖がティーポットに紅茶を注ぎ入れるも、瞳まで充血させてしまう可愛らしい兄へまぁまぁと宥めた。
しかし燐はそれだけだけでは済まさない。
「じゃあ初デートはどこへ行ったのですか? 異国の国ですもん。素敵な場所がありますわよね~」
燐の期待感が籠ったような言葉に疲弊の息を漏らし、ヨルは渋々と言った様子で想起する。
「……初デートは公園、かな。それから出会ってすぐで婚約した、――というか、された? のか?」
「…………はい?」
「どういうことだ?」
さすがにこの発言では燐も聖も不可思議に思ったらしい。だからヨルは軽く出会った経緯や場所などを伝えるのだが、二人は初めは嬉々として聞いていたのだが次第にげんなりとして深く息を吐露してしまう。――さすがに、冷静なヨルもなにがおかしいと尋ねてみた。
まず燐は「それじゃあシギュンさんに呪いという能力を見られたから、結婚したみたいですわ」なんて告げられて図星を突かれた。
次に聖が「シギュンさんの愛に応えてやりなよ……」そう言って自身にカップに紅茶を注ぎ込んでいる。
二人の意見を総括して言えば、「もっとシギュンに尽くせ」なんていうものであった。
「シギュンに尽くせって言ったって……、料理とか学校の手配ぐらいしかできないし」
「そこですわ、兄さま。料理や学校の手配ができるのなら」
――デートなんて朝飯前ですわよ。
また飲もうとしていた紅茶を吹き出しそうになってしまうヨルではあったが、今回は口に付けていないので水面が激しく揺れただけだ。
しかし燐の言葉にも一理ある。
(デート、か……)
ヨルは三人で作戦会議を終えた後、シギュンへ「今日は外食にしないか?」というメッセージを送った。
時間が経ってもシギュンから連絡がこない。どんなに待っていてもだ。
……まさかなにかに巻き込まれたのでは?
一気に不安が押し寄せたヨルは滅多に掛けない電話をして、シギュンと連絡を図ろうと試みる。数回のコール音が鳴り、「はい」という声が聞こえた。
だが即座に違和感を覚えた。――シギュンの声はこんなに高くもないし、冷淡な声質ではない。声から感情が滲み出るような、天真爛漫な人間だ。
だからヨルは深く息を吐いて落ち着かせ、「シギュンになにをした」声の主よりも冷淡な口調を取る。
「ふふっ、冷静さは前世よりかはるかに高いわね、巨大な蛇、いえ」
――災厄を招く巨蛇さん?
「俺の問いに答えないのか。……シギュンは無事かと聞いている。狙いは、――俺か?」
「俺……だけじゃなくて、あなたたちキョウダイよ。早い話、指定の場所に来なかったら……シギュンさんは拘束されたまま、飢えて死ぬわ」
「なんだと?」
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「……その前に聞かせて欲しい。お前はいったい何者だ?」
すると女は「ブリーシンガルの首飾り」と答えて切ってしまった。
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