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《戸惑いと怒り》
豊穣の女神、フレイヤの策略によりシギュンは囚われの身となってしまった。虚言かもしれぬが、それにしては悪質を通り越して大胆な犯行にヨルは思考を巡らせる。
(シギュンを使って金をせしめようとするわけではなく、俺たちキョウダイを狙った犯行だ。乗るべきか、乗らぬべきか)
――いや、乗らないとシギュンが……危険な状態に陥る。
「シギュン……。――聖、燐、……ごめん」
普段は使わない電話をタップして、まずは聖に連絡をした。数回のコールのうちに「どうした、兄さん~?」間延びした様子でカタカタと音をさせて対応する。
――おそらくパソコンでもいじっているのだろう。そんな彼にヨルは間髪を入れずに「シギュンが俺たちキョウダイを抹殺させるために監禁された」と状況報告をした。
「……は? あ、え……?」
「聞こえなかったか。シギュンが豊穣の女神、フレイヤに囚われたと言っている」
「いや……、話が突飛すぎてついていけないというか……」
明らかに戸惑っている様子ではあるがヨルも同様の気持ちだ。だが自分がしっかりしなければ冷静な指揮を執れないと判断をしたのだ。――慌てていてもシギュンは無事に帰ってこない。
硬直しているであろう聖へヨルは「すまないが大至急だ」そう告げては大狼司グループが経営をしていて、しかも舞踏会などと謳えるような巨大なホテルはないかと尋ねた。すると聖は数秒唸ってから声を上げて「……横浜にある」震えた声で告げたのだ。
「横浜、か……。ここからだと遠いな」
「兄さん、俺! 今から迎えに行く! 今どこ?」
明らかに動揺を隠せない聖に落ち着けと冷静に話し、自分が居る場所を伝えて待機することにした。
……次は燐、か。
燐は妹ではあるが怒らせたらとてつもないほど恐ろしい形相と態度を取る。初めて出会った頃も、妹の燐がきっかけで自分たちの前世は同じ腹から産まれたキョウダイだと判明したのだが――あまりにも恐れおののいたのは今でも覚えている。
だが今は妹の怒りどころではない。したたかで自己中心的、かつ、傲慢な豊穣の女神のことだ。一人欠ければ、シギュンの居場所さえ教えてくれずに……、
「シギュンを飢えさせて、殺す――か」
指が勝手に燐の連絡先へタップして着信音を鳴らした。――燐はすぐに出てくれた。
「あら、珍しいですわね。兄さま、なにか嫌なことでもあったのですの?」
「嫌なことというより最悪なことが起きた。燐、怒るなよ。――シギュンが監禁された」
数秒ではあったがヨルにとっては数分の沈黙が続いた気がした。
……やばい、怒らせた。
冷や汗を一筋流れたかと思えば、地獄から這いずるような恐々しい声で「……いったい誰が、そうさせたのですか?」落ち着いた口調ではあるが、自身の持つ揺らめく炎のような憎悪の声に、ヨルはたじろぐ。
「いや、あの、その……。警察には言うなって言われいるし、聖の会社経営グループのホテルで監禁されているようだしさ! まぁそんな怒らずに――」
「怒る? 兄さま、そんな優しい言葉で私の思いを語らないでくださりませんか。――私はシギュンさんを監禁させた犯人を切り刻んで、コンクリートに詰めて、水に沈めてしまいたいぐらいですわ。……警察なんて必要ありません」
――これは獄曄の力の見せどきです。
「え、ちょ、燐? そんな怒らずにさ? あの……」
「ヨル兄さま、また連絡をくださいな。――私は準備を致しますので、いいですわね」
「あ……はい」
「では、のちほど」
冷酷に切られたが、地獄の炎を揺らめかせている妹らしい電話に兄は深い息を吐くのだ。
「……どうか死人が出ませんように」
死人を出す自身の手を合わせた人間は、本物の神に祈るのだ。
(シギュンを使って金をせしめようとするわけではなく、俺たちキョウダイを狙った犯行だ。乗るべきか、乗らぬべきか)
――いや、乗らないとシギュンが……危険な状態に陥る。
「シギュン……。――聖、燐、……ごめん」
普段は使わない電話をタップして、まずは聖に連絡をした。数回のコールのうちに「どうした、兄さん~?」間延びした様子でカタカタと音をさせて対応する。
――おそらくパソコンでもいじっているのだろう。そんな彼にヨルは間髪を入れずに「シギュンが俺たちキョウダイを抹殺させるために監禁された」と状況報告をした。
「……は? あ、え……?」
「聞こえなかったか。シギュンが豊穣の女神、フレイヤに囚われたと言っている」
「いや……、話が突飛すぎてついていけないというか……」
明らかに戸惑っている様子ではあるがヨルも同様の気持ちだ。だが自分がしっかりしなければ冷静な指揮を執れないと判断をしたのだ。――慌てていてもシギュンは無事に帰ってこない。
硬直しているであろう聖へヨルは「すまないが大至急だ」そう告げては大狼司グループが経営をしていて、しかも舞踏会などと謳えるような巨大なホテルはないかと尋ねた。すると聖は数秒唸ってから声を上げて「……横浜にある」震えた声で告げたのだ。
「横浜、か……。ここからだと遠いな」
「兄さん、俺! 今から迎えに行く! 今どこ?」
明らかに動揺を隠せない聖に落ち着けと冷静に話し、自分が居る場所を伝えて待機することにした。
……次は燐、か。
燐は妹ではあるが怒らせたらとてつもないほど恐ろしい形相と態度を取る。初めて出会った頃も、妹の燐がきっかけで自分たちの前世は同じ腹から産まれたキョウダイだと判明したのだが――あまりにも恐れおののいたのは今でも覚えている。
だが今は妹の怒りどころではない。したたかで自己中心的、かつ、傲慢な豊穣の女神のことだ。一人欠ければ、シギュンの居場所さえ教えてくれずに……、
「シギュンを飢えさせて、殺す――か」
指が勝手に燐の連絡先へタップして着信音を鳴らした。――燐はすぐに出てくれた。
「あら、珍しいですわね。兄さま、なにか嫌なことでもあったのですの?」
「嫌なことというより最悪なことが起きた。燐、怒るなよ。――シギュンが監禁された」
数秒ではあったがヨルにとっては数分の沈黙が続いた気がした。
……やばい、怒らせた。
冷や汗を一筋流れたかと思えば、地獄から這いずるような恐々しい声で「……いったい誰が、そうさせたのですか?」落ち着いた口調ではあるが、自身の持つ揺らめく炎のような憎悪の声に、ヨルはたじろぐ。
「いや、あの、その……。警察には言うなって言われいるし、聖の会社経営グループのホテルで監禁されているようだしさ! まぁそんな怒らずに――」
「怒る? 兄さま、そんな優しい言葉で私の思いを語らないでくださりませんか。――私はシギュンさんを監禁させた犯人を切り刻んで、コンクリートに詰めて、水に沈めてしまいたいぐらいですわ。……警察なんて必要ありません」
――これは獄曄の力の見せどきです。
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「ヨル兄さま、また連絡をくださいな。――私は準備を致しますので、いいですわね」
「あ……はい」
「では、のちほど」
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