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《アカウサギ》
「誰か~!! だれか~!」
グレイプニールに拘束されて動けないでいるシギュンは、助けを呼ぶことしかできないでいた。だがどんなに助けを呼んでも人が現れない。逆に近くから轟音が聞こえ、自分の身はどうなってしまうのだろうかと危惧をした。
――しかし一番は、赤い髪の美青年に会えないこと。エメラルドのような輝きを持つ、宝石のように艶やかで、でも憂いさが残る青年のいたいけな顔であった。
「ヨル……、私は、あなたと会えずに、――このまま、喉を枯れ果てて死ぬのでしょうか」
叫んだせいで意識がもうろうとする。水を飲もうにも拘束をされて飲めない。……でも、それでも。意識が淀む世界のなかでシギュンは瞳を閉ざすことにした。
「ヨル、あなたに……会いたい、です」
もう声など出なかった。だから最後の願いであった。か細い糸を紡ぐような、そんな願いであった。――そんなとき。
扉の隙間が空いたかと思えば、……一匹の赤いウサギが入り込んできたのだ。驚くシギュンではあったが、赤いウサギはシギュンの足元へ駆け寄り、擦りついた――かと思えば、器用にグレイプニールを解いていくのだ。
しかも今度はシギュンの身体をまさぐるように駆けていき、両手首のリボンをしゅるりと解いてしまったのだ。
ウサギに感謝を告げようにも、喉が渇いて声が出ない。しかし翡翠瞳のウサギはシギュンのドレスの裾を引っ張り、外へ出させようとした。――それでも、シギュンは脱水症状のせいで動けない。
(赤いウサギさん、あなただけでも……逃げてください。でも助けてくれて、ありがとう)
シギュンは少しはにかんで赤いウサギの鼻にキスをした。
「あ~あ。息子の嫁さんにキスされる……なんてね」
「……っ?」
エメラルドグリーンに映る瞳のウサギが傾げて微笑んだように見えた。しかも似たような声を聞いたことがある。――ヨルだ。ヨルの声にそっくりなのだ。
「ヨ……ル?」
「ヨルムンガンドではないよ、美しい花嫁さん。いや、前世では――俺の正式な妻、か」
するとなんということであろうか。赤く緑色のウサギはみるみるうちに身長を伸ばし、人間の骨格に変貌を遂げていく。しかも細く赤い髪を掻き分け、シギュンよりかは小さいが高身長で、余裕のある翡翠の瞳には色気を感じさせる。――まるで、ヨルが一回り大きくなった、より大人になったヨルのように感じられたのだ。
「……ヨ、ル?」
すると男はシギュンの腕を引っ張り上げて、廊下を突っ切る。あまりにも早いが、軽快な走りにどうしてだがついて行くことができた。
一つの扉を開け放ち、小さな部屋を見つけた。そこには冷蔵庫が鎮座され、中身を拝見するとミネラルウォーターが何本かある。
男は一本をシギュンに差し出して微笑んだ。大人の色気をふんだんに彩るような、その笑みにシギュンの鼓動は早くなる。礼をして水に口を付け、「アリガトウ、ゴザイマス」そう告げると、男は軽やかに微笑んだ。
「しかし、俺の作戦は上手くいったようだな~。サンクチュアリで牢屋にぶち込まれたかいがあったもんだ」
「牢屋に、ぶち込まれた? 私は、あなたとは一度も――」
あっ、となった。シギュンは幼い頃に牢屋の当番をしたことがある。簡素で薄暗い牢屋のなかで一人の男が自分を見て、微笑んだのだ。
赤い髪をして、翡翠色の瞳をした――ヨルと酷似している男に、シギュンは出会ったのだ。しかも夢のなかでも出会ったのだ。あまりにも美しくて見惚れてしまったから。
男は驚嘆するシギュンへ囁くような言葉を掛ける。
「いいか、絶対にヨルムンガンドはこの教会に来る。その時、俺はお前よりも巨大な男になって『こいつを殺す!』と叫ぶ。その時にお前は、絶対に一言も発するな。喋るのなら、俺がヨルムンガンドに焼き殺されてからにしろ」
「え、あ……あの、それはなぜですか? それに、あなたはもしかして」
――ヨルのお父さまですか?
シギュンの言葉に色男は情けない顔をしてから、シギュンの口端に人差し指を置いて悪戯に笑うのだ。
「俺はただのしがない父親だ。――さぁ行くぞ。フレイヤに気づかれる前に、な」
男はシギュンを連れて扉をまた開け放った。真紅の髪を振りほどくような身軽だが上品な男の姿に、シギュンは激しい戸惑いを抱かせた。
バズーカ砲にてフレイヤに対抗する燐に背中を押され、ヨルは探し回る。聖は燐の加勢に入った模様だ。
「ありがとう!」
二人と黒服に礼をしてヨルはホテルの隅々まで走り回り、駆け巡る。下から地響きが鳴り響き、燐の獰猛さが露見されたなと思って窓を見れば……教会があった。しかも夜だというのに電気が点いている。
その時にふと、シギュンが居るかもしれないと思い立ち、再び走った。
「はぁ、はぁ……はぁっ……」
息も絶えてしまいそうになる。挫けてしまいそうになる。――だがそれでも、青年はバラのように情熱に塗れた髪で走り……扉を開け放った。
シギュンは居た。純白のドレスを着て、彼よりもさらに大きな剛腕な男に襲われそうになっていたのだ。
「シギュンっ!!!!」
青年は彼の元へ急速に駆け寄り、――男を殺そうとした。
グレイプニールに拘束されて動けないでいるシギュンは、助けを呼ぶことしかできないでいた。だがどんなに助けを呼んでも人が現れない。逆に近くから轟音が聞こえ、自分の身はどうなってしまうのだろうかと危惧をした。
――しかし一番は、赤い髪の美青年に会えないこと。エメラルドのような輝きを持つ、宝石のように艶やかで、でも憂いさが残る青年のいたいけな顔であった。
「ヨル……、私は、あなたと会えずに、――このまま、喉を枯れ果てて死ぬのでしょうか」
叫んだせいで意識がもうろうとする。水を飲もうにも拘束をされて飲めない。……でも、それでも。意識が淀む世界のなかでシギュンは瞳を閉ざすことにした。
「ヨル、あなたに……会いたい、です」
もう声など出なかった。だから最後の願いであった。か細い糸を紡ぐような、そんな願いであった。――そんなとき。
扉の隙間が空いたかと思えば、……一匹の赤いウサギが入り込んできたのだ。驚くシギュンではあったが、赤いウサギはシギュンの足元へ駆け寄り、擦りついた――かと思えば、器用にグレイプニールを解いていくのだ。
しかも今度はシギュンの身体をまさぐるように駆けていき、両手首のリボンをしゅるりと解いてしまったのだ。
ウサギに感謝を告げようにも、喉が渇いて声が出ない。しかし翡翠瞳のウサギはシギュンのドレスの裾を引っ張り、外へ出させようとした。――それでも、シギュンは脱水症状のせいで動けない。
(赤いウサギさん、あなただけでも……逃げてください。でも助けてくれて、ありがとう)
シギュンは少しはにかんで赤いウサギの鼻にキスをした。
「あ~あ。息子の嫁さんにキスされる……なんてね」
「……っ?」
エメラルドグリーンに映る瞳のウサギが傾げて微笑んだように見えた。しかも似たような声を聞いたことがある。――ヨルだ。ヨルの声にそっくりなのだ。
「ヨ……ル?」
「ヨルムンガンドではないよ、美しい花嫁さん。いや、前世では――俺の正式な妻、か」
するとなんということであろうか。赤く緑色のウサギはみるみるうちに身長を伸ばし、人間の骨格に変貌を遂げていく。しかも細く赤い髪を掻き分け、シギュンよりかは小さいが高身長で、余裕のある翡翠の瞳には色気を感じさせる。――まるで、ヨルが一回り大きくなった、より大人になったヨルのように感じられたのだ。
「……ヨ、ル?」
すると男はシギュンの腕を引っ張り上げて、廊下を突っ切る。あまりにも早いが、軽快な走りにどうしてだがついて行くことができた。
一つの扉を開け放ち、小さな部屋を見つけた。そこには冷蔵庫が鎮座され、中身を拝見するとミネラルウォーターが何本かある。
男は一本をシギュンに差し出して微笑んだ。大人の色気をふんだんに彩るような、その笑みにシギュンの鼓動は早くなる。礼をして水に口を付け、「アリガトウ、ゴザイマス」そう告げると、男は軽やかに微笑んだ。
「しかし、俺の作戦は上手くいったようだな~。サンクチュアリで牢屋にぶち込まれたかいがあったもんだ」
「牢屋に、ぶち込まれた? 私は、あなたとは一度も――」
あっ、となった。シギュンは幼い頃に牢屋の当番をしたことがある。簡素で薄暗い牢屋のなかで一人の男が自分を見て、微笑んだのだ。
赤い髪をして、翡翠色の瞳をした――ヨルと酷似している男に、シギュンは出会ったのだ。しかも夢のなかでも出会ったのだ。あまりにも美しくて見惚れてしまったから。
男は驚嘆するシギュンへ囁くような言葉を掛ける。
「いいか、絶対にヨルムンガンドはこの教会に来る。その時、俺はお前よりも巨大な男になって『こいつを殺す!』と叫ぶ。その時にお前は、絶対に一言も発するな。喋るのなら、俺がヨルムンガンドに焼き殺されてからにしろ」
「え、あ……あの、それはなぜですか? それに、あなたはもしかして」
――ヨルのお父さまですか?
シギュンの言葉に色男は情けない顔をしてから、シギュンの口端に人差し指を置いて悪戯に笑うのだ。
「俺はただのしがない父親だ。――さぁ行くぞ。フレイヤに気づかれる前に、な」
男はシギュンを連れて扉をまた開け放った。真紅の髪を振りほどくような身軽だが上品な男の姿に、シギュンは激しい戸惑いを抱かせた。
バズーカ砲にてフレイヤに対抗する燐に背中を押され、ヨルは探し回る。聖は燐の加勢に入った模様だ。
「ありがとう!」
二人と黒服に礼をしてヨルはホテルの隅々まで走り回り、駆け巡る。下から地響きが鳴り響き、燐の獰猛さが露見されたなと思って窓を見れば……教会があった。しかも夜だというのに電気が点いている。
その時にふと、シギュンが居るかもしれないと思い立ち、再び走った。
「はぁ、はぁ……はぁっ……」
息も絶えてしまいそうになる。挫けてしまいそうになる。――だがそれでも、青年はバラのように情熱に塗れた髪で走り……扉を開け放った。
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