赤髪の免罪

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《ロキ》

 バズーカ砲にて攻撃を仕掛ける燐と、大勢の人間を殴り蹴りつける聖と黒服たちにフレイヤは顔を歪ませた。どうやら予想だにしていないようだった。
 ――というよりも、シギュンを含めた四人が自分に魅了されず、悠然と攻撃を仕掛けてくるとは思いもしなかった。
「な、なんてはしたない攻撃なの?! こんな……トール神のような下品なことをして!」
 震える声で放つフレイヤに、燐は鼻でしたたかに笑う。
「はしたない? ……馬鹿にしないでくださる? ――これは正式な正当防衛です。そんな負け犬の遠吠えを吐くぐらい元気なのなら、早くシギュンさんの場所を吐き出していただかないと」
 燐の罪人を罰するような深い緑色にフレイヤはたじろいだ。……どうやら、燐の阿鼻叫喚を引き連れた地獄の気迫に、――ついに泣き出してしまうのだ。
「わ、私が……悪かったわ~、許して……、うぅ……っ!!」
 それでも前世は冥府の女王は、許さない。
「許す? あなたがシギュンさんを拘束したのは分かっていますの。私の家族に手を出したのですもの。――それ相応の覚悟は必要ではなくて?」
 神をも許さぬその禍々しいその深い深い瞳。罪人であれば、敵であったら殺すのさえもいとわない圧力のある瞳に……フレイヤは泣き崩れ、涙を流した。
 嗚咽するフレイヤには、守るべき人間は居ない。だから燐はバズーカ砲を彼女に向けて放とうとした――瞬間、聖が飛び上がり、バズーカ砲を奪い去ってしまう。
 さすがの燐も驚いて怒鳴ろうとしたが、聖は低く冷静な声で発した。
「燐、いい加減にしろ。神を敵に回してどうする。――そしたら俺たちキョウダイは、本物の災厄になるじゃないか」
「……聖兄さま、でも」
「でも、じゃない。まずはフレイヤにシギュンさんの居場所を聞くのが先決だ。――それで言わなかったら、俺がフレイヤを噛み殺す。お前が手を汚す必要なんてない」
 最後の言葉にはフレイヤも身体を震わせたが、言うことをさえ聞けば助かると思い込み、彼女は口走るのだ。
「シギュンさんは、……悪神あくしんの”ロキ”と居るわ。私が彼をおびき寄せて捕まえたのだから」
「……なんだって?」
 悪神ロキ――それはキョウダイの前世の父親で、最大の悩みである存在であった。
 大男がシギュンに跨ったかと思えば、シギュンの腕を捻り上げようとする光景を見て、ヨルは飛び出し男を掴み上げて焼き殺そうとした。
 だが寸でのところでシギュンは「待ってください!」と叫んだのだ。どういうニュアンスかわからないヨルはいったん止まって、動かずにいれば……男はニタついた笑みでシギュンの上体を起こし、首筋にナイフを向けた。
「こいつを助けたかったら、意地でも俺の相手をしな。だったら、このデカブツ花嫁を解放しても良い」
「……お前、なんでそんなことを言うんだ?」
 大男の意図はわからない。だがこのままではシギュンは殺される。行きずりではあったが――とっくのとうに大事な存在になってしまったシギュンを殺されたくなどない。
 教会の長い机には一本の短刀が置かれていた。まるで使って欲しいというかのような存在ではあったが、ヨルは普段の冷静な態度とは打って変わり……大男を殺す準備を整えた。
 ――ヨルが本物の罪を犯してしまう! そう思った矢先、シギュンはとっさに声が出てしまう。
「待ってください! ヨル、私は無事ですから! だからこの方を殺さないで!」
「おいおい、花嫁は黙っていればいいんだよ。――それともここでてめぇらをぶちのめすか?」
 大男が赤い短髪を振り乱し、シギュンの首元にナイフを向けようとした時――シギュンは身体が勝手に動いて……大男に蹴りを入れていた。男が態勢を崩して屈むような形になり、シギュンは次に彼の右頬を強く叩いたのだ。
 ――見事な破裂音が響き、ヨルも大男も呆気に取られてしまえば、シギュンは泣き出しそうな顔をしていた。
「いい加減になさい! あなたたち親子は嫁の前に喧嘩をするおつもりですか? 殺し合いをするのですか?」
 ……親子、ってまさか。
 ヨルは赤毛の男を見るが大男は立ち尽くし、目を見開いていた。それでもシギュンは言葉を続ける。
「お父さま。私は母国で、ヨルと愛の誓いを致しました。私は神であるゼウス様に見初められていましたが、それでもヨルと駆け落ちの形で日本に来ました。そう決意したからです。そうしたかったからです! ……どんな理由であなたが私に会いに来たのかは存じ上げませんが、私は――私は、ヨルが大好きです」
 大男がさらに驚いた。もちろん、ヨルも同様の反応をした。
「ヨルが大好きで愛しているから、私はたとえ神に狙われようと立ち向かえます。苦楽を共にするのが夫婦の役だと存じているからです。でも、ヨルが間違った方向へ行くというのならば……」
 シギュンは言葉を切って深い意味を込めた。
「私が止めて見せましょう。将来の夫の為に」
 シギュンの熱弁にヨルは立ちすくんだかと思えば、大男を凝視した。すると男はバツが悪そうな顔をして「参ったな……」そう告げては、元の姿に……ヨルを大人びさせたような精悍な顔立ちの男へと遂げた。――ヨルが目を見開いた。
「……親父」
「よぉ、ヨルムンガンド。久しぶり……かな」
 ヨルの深緑の瞳が潤み、幾筋の涙が溢れた。
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