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《委託》
探していた存在に気づくことができなかったヨルではあったが、それでも父親に――ロキに会うことができたことに驚嘆してしまう。
もう、幼い頃に。父親の業を背負って以来、父親を捜して旅はしていた。……だがどこかでもう会えないと、自分のなかで諦めがついていたのだから。
「親父……、でも、どうして?」
「どうして、ね……。俺は逆に、お前が探している最中にもいたんだぜ? ホテルの人間や、空港の人間や――講師の人間に化けたりしてな」
驚くべき事実であった。キョウダイともに父親はどこかに監禁をされているか、どこかに放浪の旅に出ているのかと思っていたからだ。
涙が止まらないが袖で拭い「じゃあ今さらになってどうして出たのだ?」ヨルは疑問を露わにする。するとロキはシギュンを一瞥して「フレイヤがな」と話してきた。
「お前の嫁さんが通っている学校でフレイヤを見つけたんだ。あいつ、ネットを駆使してお前たちも評判も調べていたらしくてな。それで変身を解いて、そこから俺があいつに持ち掛けたんだよ」
――俺の息子や娘が災厄だというのなら、俺を人質にして確かめればいい。
「でもフレイヤはずる賢いから俺も拘束して、嫁さんも人質にしたみたいだな。……ま、ウサギに変身して拘束が緩めたから良かったけどな」
余裕ありげに語るロキへヨルやシギュンは、ロキの方が数段賢いのだと――ずる賢いのだと確信する。
だがそれでもヨルにはわからなかった。
――どうして自分たちの前に姿を現したのかを。
――どうして自分を、ロキをヨルが殺そうと企てたのかを。
「親父。どうして俺の前に現れてさ、殺してくれなんて言ったんだ」
「言ってはいないぜ?」
「言ったようなものだよ。――それは、どうして?」
するとロキは深く息を吐いてはヨルへ近づき……頭を撫でたのである。どういう意図なのか困惑しているヨルだが、久しぶりに触れた父親のシルクのような肌触りの良い手は温かさを持つ。
「……お前たち、いや。お前に恨まれるような行為をしたからさ。――俺が怒りのあまり、お前に俺の罪を、業を擦り付けた。だからお前はキョウダイ以外には触れられない運命だった」
「そう、だな……。それは、変わらないよ」
深く頷くヨルにロキは目を細め「今は違うじゃないか」なんて告げた。どういう意味かわからない。しかしロキが向けた先は――シギュンだった。
「お前の花嫁さんに尽くされてからお前は変わった。たとえほかの人間に触れられなくても、毎日が楽しそうに俺は見えたぜ。……あぁ、鳥の姿でお前らの情事も見ていたもんでね」
「……趣味、わる」
「父親に向けて言うなよ」
だが二人とも声が楽しそうだった。だからと言ってロキはヨルの両手を繋ぎ、重ね触れ合って――目を閉じる。
「神の最高峰、”オーディン”よ。我は、自分の全罪を償う。そしてヨルムンガンドと花嫁シギュンが互いに寄り添って生きていく力を……与えよ」
するとヨルの身体から炎が噴き出し、ロキの身体へ吸い込まれるように吸収されていく。その姿はまさに――継承。子から親へと繋ぐ業という”絆”だ。
(からだが、あつい……)
意識を保とうとして集中するヨルではあったがよろめきそうになってしまった。地面へと倒れそうになる……そう思った時には、誰かに身体を支えられていた。
「ヨルは体力がないのですからやっぱり私が付いていないと駄目ですね。……せっかくお父さまとの共同作業なのですから」
「シギュン……」
「さぁ、頑張りましょう!」
そして二人はケーキ入刀ではなく、罪の解放への共同作業へと取り掛かる。
ヨルの激しい熱風をシギュンが支え堪えていく姿に、ロキは少しはにかんだ。
――罪の委託は終結した。
もう、幼い頃に。父親の業を背負って以来、父親を捜して旅はしていた。……だがどこかでもう会えないと、自分のなかで諦めがついていたのだから。
「親父……、でも、どうして?」
「どうして、ね……。俺は逆に、お前が探している最中にもいたんだぜ? ホテルの人間や、空港の人間や――講師の人間に化けたりしてな」
驚くべき事実であった。キョウダイともに父親はどこかに監禁をされているか、どこかに放浪の旅に出ているのかと思っていたからだ。
涙が止まらないが袖で拭い「じゃあ今さらになってどうして出たのだ?」ヨルは疑問を露わにする。するとロキはシギュンを一瞥して「フレイヤがな」と話してきた。
「お前の嫁さんが通っている学校でフレイヤを見つけたんだ。あいつ、ネットを駆使してお前たちも評判も調べていたらしくてな。それで変身を解いて、そこから俺があいつに持ち掛けたんだよ」
――俺の息子や娘が災厄だというのなら、俺を人質にして確かめればいい。
「でもフレイヤはずる賢いから俺も拘束して、嫁さんも人質にしたみたいだな。……ま、ウサギに変身して拘束が緩めたから良かったけどな」
余裕ありげに語るロキへヨルやシギュンは、ロキの方が数段賢いのだと――ずる賢いのだと確信する。
だがそれでもヨルにはわからなかった。
――どうして自分たちの前に姿を現したのかを。
――どうして自分を、ロキをヨルが殺そうと企てたのかを。
「親父。どうして俺の前に現れてさ、殺してくれなんて言ったんだ」
「言ってはいないぜ?」
「言ったようなものだよ。――それは、どうして?」
するとロキは深く息を吐いてはヨルへ近づき……頭を撫でたのである。どういう意図なのか困惑しているヨルだが、久しぶりに触れた父親のシルクのような肌触りの良い手は温かさを持つ。
「……お前たち、いや。お前に恨まれるような行為をしたからさ。――俺が怒りのあまり、お前に俺の罪を、業を擦り付けた。だからお前はキョウダイ以外には触れられない運命だった」
「そう、だな……。それは、変わらないよ」
深く頷くヨルにロキは目を細め「今は違うじゃないか」なんて告げた。どういう意味かわからない。しかしロキが向けた先は――シギュンだった。
「お前の花嫁さんに尽くされてからお前は変わった。たとえほかの人間に触れられなくても、毎日が楽しそうに俺は見えたぜ。……あぁ、鳥の姿でお前らの情事も見ていたもんでね」
「……趣味、わる」
「父親に向けて言うなよ」
だが二人とも声が楽しそうだった。だからと言ってロキはヨルの両手を繋ぎ、重ね触れ合って――目を閉じる。
「神の最高峰、”オーディン”よ。我は、自分の全罪を償う。そしてヨルムンガンドと花嫁シギュンが互いに寄り添って生きていく力を……与えよ」
するとヨルの身体から炎が噴き出し、ロキの身体へ吸い込まれるように吸収されていく。その姿はまさに――継承。子から親へと繋ぐ業という”絆”だ。
(からだが、あつい……)
意識を保とうとして集中するヨルではあったがよろめきそうになってしまった。地面へと倒れそうになる……そう思った時には、誰かに身体を支えられていた。
「ヨルは体力がないのですからやっぱり私が付いていないと駄目ですね。……せっかくお父さまとの共同作業なのですから」
「シギュン……」
「さぁ、頑張りましょう!」
そして二人はケーキ入刀ではなく、罪の解放への共同作業へと取り掛かる。
ヨルの激しい熱風をシギュンが支え堪えていく姿に、ロキは少しはにかんだ。
――罪の委託は終結した。
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