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《結婚式》
ロキが自身の罪を授与し終えた頃には――ヨルはシギュンに支えてもらいながら呆然と立ち尽くしていた。
あの燃えるような炎が、業が……絆が無くなってしまったかと思うと少し寂しさも感じられる。それだけあの業火の炎は自分にとって厄介ではあるが、大切な存在だったのかもしれない。
そんな束の間に教会の扉が開け放たれた。
息を切らして現れたのは人間の姿になった聖と、煤を付着させた燐――ついでに、黒服に囚われたドレス姿のフレイヤであった。彼女はひどく不服そうな表情を浮かべている。
「フレイヤじゃないか。予想通りだったけれど、やっぱり俺の子供たちには勝てなかったらしいな。殺されるよりいいんじゃないか?」
「……不服だわ。とてつもなくね!」
眉間に顔を寄せてふて腐れた美女を尻目に、同じ深い緑色の瞳を持つ青年と少女は立ち尽くしたかと思えば、ヨルによく似た顔つきの男の姿に駆け寄り……抱き着いた。
彼らもまた、ヨルと同じ気持ちだったのだろう。
「親父、どうしてここに……?」
「あの女から聞いたときは驚きましたが――どうして、お父さまが……」
困惑と喜悦に挟まれる聖と燐ではあったが、そんな二人へロキは「俺のことよりもあの二人を見てみろ」なんて愉快な声で発した。
――純白のドレスを纏った褐色肌の大男に抱き留められている、一回り小さな赤い髪の青年の姿に二人は驚き声を上げる。
「ヨル兄さんにシギュンさん!? ていうか、シギュンさんが……花嫁姿に!?」
「シギュンさん素敵ですわ~! スマホで撮影しておかないと!」
燐が着物の袖からスマホを取り出し撮影し始めた。「はい、ちーず、ですわ~」と先ほどの怒りはどこへやら、呑気に撮影をしている燐に聖は呆れた様子で息を吐く。……脅迫されたフレイヤは彼女の変貌ぶりに目を見張るものだ。
はぁはぁと深呼吸をするヨルと、彼の身体を支えているシギュンではあるが……あることを思いついた。
日本では同性同士で結婚することは認められていない。シギュンの母国であるサンクチュアリであったら可能ではあるが、今はできないだろう。
しかし現在、ヨルの父親やキョウダイに観客も居る。――だから形ではあるができることもあるのだ。
「ヨル、こっちを向いてください」
「え、あ……うん」
ヨルが振り向いた先には真剣な眼差しでシギュンが見つめていた。
「私はあなたを一生の旦那様として尽くし、愛します。……ヨルはどうですか」
シギュンのまっすぐな言葉にヨルは気恥ずかしさが勝った。だが、意図していることはわかったような気がする。
ここは教会で、シギュンは花嫁の姿をしているのだから。
シギュンと一緒に居て、大変なことに巻き込ませてしまったし、自分の至らないところは多々あっただろう。
だがそれでも、彼はいつも笑ってくれた。親身になって怒られた。泣かれた。――すべて自分が起因するものであった。
(だったら答えなんて……一つだよ)
太陽が昇りステンドグラスに日が差し込む。……緑と青に染まったガラスの光を背にして、――ヨルは口づけを施した。
「俺もお前を一生愛するから。だからお互い、支え合おうな」
「……はい」
二人は少人数の観客の前で――誓いのキスをしたのだ。
明け方にまで及んだ大騒動。燐は許してはいないがロキと聖の計らいで、フレイヤは天界に帰ることになった。
もともと、神であるので天界に居る存在なのだが、地上にも降り立てるそうだ。
逆にロキは天界から追放されている身なので、聖や燐、そしてヨルを含め三人の子供たちが天界に掛け合えないか相談したそうだが――ロキ自身がやんわりと断り、鳥の姿になって旅立ってしまったのだ。
そして今。聖に「結婚祝いだから!」と教会の近くに併設してある、スイートルームで眠りこけていたヨルではあるが、一緒に眠っていた花嫁姿のシギュンに目を落とし……唇にキスを落とした。少し気恥ずかしかった。
「どうして、親父は……自分の罪を晴らさずに、旅立ったのかな?」
シギュンの金色の糸を掬いながら問いかける。だがシギュンはぐっすりと眠っていて起きることはない。
――苦しいと言っている花嫁姿の衣装で眠ってしまうほど疲れている様子の彼に、ヨルはごめんの代わりにキスをする。
自身の炎は消えたはずだが、そこだけ熱いのだ。熱くて全身が火照ってしまう。
「んぅ……、ヨル?」
「あ、起きたか。おはよ」
「おはようです~。朝に寝たので眠いですし、やっぱりこの衣装だときついです……」
かなり疲弊した様子のシギュンを見て、ヨルは息を吐いて「着替え、取り返したから脱がせてやるよ」そう言って欠伸をしているシギュンの上体を起こしてもらい、ドレスの後ろにあるチャックを下げていく。
(どうして親父は、自分の罪が晴れるかもしれないのに、天界という場所に行かなかったのかな?)
ふと考え込みながら、チャックを下げ終えて「ほら、もう脱げるから」さらけ出されたシギュンの健康的な両肩を叩いて合図をした
晴天だからか、晴れ間に恵まれたシギュンの姿は聖母のように美しく見えてしまう。……だから、なんとなく自分の父親が罪を認めて去ったのかが察せたような気がした。
(もしかして、親父はシギュンを見てなにかしら思って――)
「ねぇ、ヨル? この下着見て下さい。……はじめての夫婦の営みに最適ではありませんか?」
シギュンは自身の下着を指さしたのは、深い緑と青をベースにした派手なビキニであった。
さすがのヨルも顔を真っ赤にせざる負えない。
「シギュン、またハレンチなものを……」
「でもいいでしょう? じゃあ二人とも充電できましたし!」
するとシギュンはヨルに抱き着き押し倒して、フレンチ・キスからのディープキスを送る。
彼は知っているだろうか。――ヨルが起き抜けに奪った夫婦としてのキスをしたことを。だがわざと教えないヨルは、花嫁のキスに応じたのだ。
あの燃えるような炎が、業が……絆が無くなってしまったかと思うと少し寂しさも感じられる。それだけあの業火の炎は自分にとって厄介ではあるが、大切な存在だったのかもしれない。
そんな束の間に教会の扉が開け放たれた。
息を切らして現れたのは人間の姿になった聖と、煤を付着させた燐――ついでに、黒服に囚われたドレス姿のフレイヤであった。彼女はひどく不服そうな表情を浮かべている。
「フレイヤじゃないか。予想通りだったけれど、やっぱり俺の子供たちには勝てなかったらしいな。殺されるよりいいんじゃないか?」
「……不服だわ。とてつもなくね!」
眉間に顔を寄せてふて腐れた美女を尻目に、同じ深い緑色の瞳を持つ青年と少女は立ち尽くしたかと思えば、ヨルによく似た顔つきの男の姿に駆け寄り……抱き着いた。
彼らもまた、ヨルと同じ気持ちだったのだろう。
「親父、どうしてここに……?」
「あの女から聞いたときは驚きましたが――どうして、お父さまが……」
困惑と喜悦に挟まれる聖と燐ではあったが、そんな二人へロキは「俺のことよりもあの二人を見てみろ」なんて愉快な声で発した。
――純白のドレスを纏った褐色肌の大男に抱き留められている、一回り小さな赤い髪の青年の姿に二人は驚き声を上げる。
「ヨル兄さんにシギュンさん!? ていうか、シギュンさんが……花嫁姿に!?」
「シギュンさん素敵ですわ~! スマホで撮影しておかないと!」
燐が着物の袖からスマホを取り出し撮影し始めた。「はい、ちーず、ですわ~」と先ほどの怒りはどこへやら、呑気に撮影をしている燐に聖は呆れた様子で息を吐く。……脅迫されたフレイヤは彼女の変貌ぶりに目を見張るものだ。
はぁはぁと深呼吸をするヨルと、彼の身体を支えているシギュンではあるが……あることを思いついた。
日本では同性同士で結婚することは認められていない。シギュンの母国であるサンクチュアリであったら可能ではあるが、今はできないだろう。
しかし現在、ヨルの父親やキョウダイに観客も居る。――だから形ではあるができることもあるのだ。
「ヨル、こっちを向いてください」
「え、あ……うん」
ヨルが振り向いた先には真剣な眼差しでシギュンが見つめていた。
「私はあなたを一生の旦那様として尽くし、愛します。……ヨルはどうですか」
シギュンのまっすぐな言葉にヨルは気恥ずかしさが勝った。だが、意図していることはわかったような気がする。
ここは教会で、シギュンは花嫁の姿をしているのだから。
シギュンと一緒に居て、大変なことに巻き込ませてしまったし、自分の至らないところは多々あっただろう。
だがそれでも、彼はいつも笑ってくれた。親身になって怒られた。泣かれた。――すべて自分が起因するものであった。
(だったら答えなんて……一つだよ)
太陽が昇りステンドグラスに日が差し込む。……緑と青に染まったガラスの光を背にして、――ヨルは口づけを施した。
「俺もお前を一生愛するから。だからお互い、支え合おうな」
「……はい」
二人は少人数の観客の前で――誓いのキスをしたのだ。
明け方にまで及んだ大騒動。燐は許してはいないがロキと聖の計らいで、フレイヤは天界に帰ることになった。
もともと、神であるので天界に居る存在なのだが、地上にも降り立てるそうだ。
逆にロキは天界から追放されている身なので、聖や燐、そしてヨルを含め三人の子供たちが天界に掛け合えないか相談したそうだが――ロキ自身がやんわりと断り、鳥の姿になって旅立ってしまったのだ。
そして今。聖に「結婚祝いだから!」と教会の近くに併設してある、スイートルームで眠りこけていたヨルではあるが、一緒に眠っていた花嫁姿のシギュンに目を落とし……唇にキスを落とした。少し気恥ずかしかった。
「どうして、親父は……自分の罪を晴らさずに、旅立ったのかな?」
シギュンの金色の糸を掬いながら問いかける。だがシギュンはぐっすりと眠っていて起きることはない。
――苦しいと言っている花嫁姿の衣装で眠ってしまうほど疲れている様子の彼に、ヨルはごめんの代わりにキスをする。
自身の炎は消えたはずだが、そこだけ熱いのだ。熱くて全身が火照ってしまう。
「んぅ……、ヨル?」
「あ、起きたか。おはよ」
「おはようです~。朝に寝たので眠いですし、やっぱりこの衣装だときついです……」
かなり疲弊した様子のシギュンを見て、ヨルは息を吐いて「着替え、取り返したから脱がせてやるよ」そう言って欠伸をしているシギュンの上体を起こしてもらい、ドレスの後ろにあるチャックを下げていく。
(どうして親父は、自分の罪が晴れるかもしれないのに、天界という場所に行かなかったのかな?)
ふと考え込みながら、チャックを下げ終えて「ほら、もう脱げるから」さらけ出されたシギュンの健康的な両肩を叩いて合図をした
晴天だからか、晴れ間に恵まれたシギュンの姿は聖母のように美しく見えてしまう。……だから、なんとなく自分の父親が罪を認めて去ったのかが察せたような気がした。
(もしかして、親父はシギュンを見てなにかしら思って――)
「ねぇ、ヨル? この下着見て下さい。……はじめての夫婦の営みに最適ではありませんか?」
シギュンは自身の下着を指さしたのは、深い緑と青をベースにした派手なビキニであった。
さすがのヨルも顔を真っ赤にせざる負えない。
「シギュン、またハレンチなものを……」
「でもいいでしょう? じゃあ二人とも充電できましたし!」
するとシギュンはヨルに抱き着き押し倒して、フレンチ・キスからのディープキスを送る。
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