書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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10.本契約開始。

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舌なめずりをしてリィナに近づこうとする枢要の罪の1人であるライグン。見た目はそばかすを散らした三つ編みを二つに分けた中性的な青年のような少年のような存在だ。…だが、リィナに向けるその見開かれた瞳は目が異様にも爛々としており激しい危機感を感じてしまう。だから豊は彼の前に立ちはだかりリィナを守るように前へと出た。…しかしある意味気取り屋な彼こと豊にライグンは冷酷にも舌打ちをして彼をリィナから離れさせようと画策する。

「…言ったよね?…君は邪魔なの。僕はリィナと話をしたいんだけど?……でも良いや。…君を骨の髄まで”食べちゃえば”…リィナは僕の物になる。」

衝撃的な言葉に豊は激しい恐怖を覚えた。…こいつは本気だ。俺を食べようと。…俺を食い殺す目で見ていると。豊は直感的に思ったが恐怖だからなのか、足がすくんでいるからなのか…もしくはただの意地なのかは知らぬが動けずにリィナの前を退けようとしない。そんな彼にライグンは酷いくらい笑いながら豊に近づき腹に拳を入れてきた。

-ゴッスッッッ!!!

「ぐぅっあぁっ!!??」

痛みでそのまま倒れたいが前に立ちはだかるライグンに豊はリィナを守るように手を平行に向けて彼女を庇う姿勢を取る。そんな献身的な彼の様子に、ついにリィナは動かされたのだ。…心を持たぬ書物であるのに。そんな彼女は浮き声を上げながらも自身を守ってくれる豊に叫ぶように、疑問を問い掛けるのだ。

「どう…して???どうして!!??……私は!お前にとっては邪魔者でも何者でもないのに!??……なんでお前は、私を、そんなに庇うんだよ…。…私は書物だから。…分からない。」

「…分からなくても。良いんだ。」

「えっ……?」

すると豊は彼女に振り向き軽くはにかんだ。

「…俺は自分の正義に屈したくないから。…君と同じで、ただの…意固地な…だけだから。」

リィナを安心させようと微笑む豊にリィナは何かを思い知らされるような表情を浮かべる。…豊は今までとは違う人間なのだ。そう思うに思えない自分がそこに居たのだ。
そんな2人に気に喰わなかったのか、今度はライグンは笑いもせずに豊を殴りつけた。頬を殴っては腹に蹴りを入れその行為を何度も繰り返す。それは何とも残忍で残酷な光景をリィナは脳裏に焼き付けた。そんな彼女の心情など知らずただ一方的に攻撃を繰り返すライグンは吐き捨てるように彼を罵る姿はあまりにも卑劣で極まりない。

「ただの人間のくせに?調子に乗ってんじゃねぇよ?…俺の正義だ?……ふざけんてんの?」

「……っ。」

何も言わず、ただリィナを守る壁となる豊にライグンは薄ら笑う。こいつは何もしない。何もできないで死ぬだけだと確信をし、己の方がかなりの優勢であることを目の当たりにした挑発を彼に送る。

「ほら?反撃してみなよ?…まぁ?平和な世界の壺中の天から来た人間に何ができるんだか?」

笑いながら最後の拳を振ろうとすれば今度はリィナが前に出たのだ。…まるで豊を庇うようにして前に立ちはだかりライグンの拳をしかと受け止める。

-バチィッッンン!!

彼女のとっさの行動にライグンが目を見張った。それは豊もそうであった。今まで自分のことなど気にも留めなかった人間を、自分を避け続けた…いや、豊や他の人間を避けてきた彼女らしからぬ行動に彼は驚いていたのだ。だが反撃もしないでいた身体は限界に近く倒れ込んでしまいそうになる豊を彼女はそっと支えた。彼女の表情は書物であるにも関わらず泣き出しそうだがどこか嬉しそうな表情を見せているのはなぜだろうか?

「……はは。こんなに痛いんだな。殴られるのは。…焼かれるのと同じで…、痛い…んだな。」

「…?リィナ。どうして少し嬉しそうなの?俺、恥ずかしいよ。…喧嘩もしたことないし、殴られて動けずにいるから君を守ることも出来ていないのに…?はは。…俺、情けない。」

「そうだな。…お前は情けないな、私と同じだ。…だから決めた。」

するとリィナは突如、豊を強く抱擁したのだ。苦しいぐらい強く抱きしめられて痛がる豊にリィナは耳元で囁くのだ。

「…私は決断する。……お前を、豊を相棒パートナーとして、契約コントラクトをする。後悔はない。…絶対に。」

「!!??うっそでしょ!??考え直してよ!!??リィナ」

「…私は、あなたと一生の相棒パートナーとして、共に添い遂げる。」

予期しなかったリィナの行動に慌てふためくライグンを逆らうようにリィナはボロ雑巾のようになってしまった豊の霞む瞳を見つめて言葉を紡ぐ。そして意を決した。
……あたたかい。くちびるが…あたたかい。…
淡いアメジストの瞳が閉ざさされ開かれたかと思えば今度は機械のような自動アナウンスが豊の頭上を駆け巡る。

契約コントラクトを開始しました。…成功。これにより壺中の天、志郎 豊は反魂の書と契約コントラクトした証を許します。』

自動音声が切られたかと思えば豊は自身の手首が妙に熱く感じおぼろげな目で視線を向ける。すると自身の左手首にツタのような、樹木のような輪っかの付いた入れ墨が施されていたのだ。あまりの熱さに右手で抑えようとするのだが、先ほどまでいたリィナの姿が居ないことに気が付く。だがその前に。目の前の敵であるライグンが怒りの形相で豊を見つめていた。

「てめぇっ…!!!僕のリィナを横取りして?…何様?…食い殺してやる。……許さない!!!」

本気で殺しにかかろうとするライグンに豊は後退るのだが異様に身体が羽のように軽く、そしてまたライグンの動きが遅いようにも感じてしまった。不思議に思いながらも豊は立ち上がり数メートル彼から離れた。そんな豊ではあるが彼は気付いていない。…この時の速さはわずか数秒の出来事であったのに。渾身の蹴りが豊に当たらずに空を切ったライグンは顔を強張らせる。

「!!??はっやっ!??…これがリィナの力?」
…いや、それだったとしてもあいつは分かってない。

そう。豊はこの能力を分からずに使用していたのだ。リィナが苦しみながら使用しているこの力を。
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