上 下
12 / 49

12.新たなる伏線。

しおりを挟む
空間の書に引き込まれ舌打ちをするライグンは眼光を鋭くさせた。

「ちょっと何すんの?…僕は”はったり”で言ったわけじゃないのに?真実を言っているのに……なんで邪魔すんの?」

武器化させた刃物を豊からルークへと向けるのだが当の本人はにこやかに笑っている。その時ライグンはルークは初めての相手ではあるが人間のくせに妙に自信がありげな彼の態度が気に喰わないように見えた。睨みつけてもどこか余裕のある彼の様子にライグンは顔を訝しんでから突進をし武器化させた腕を振り上げる。
しかしどうにもルークには当たらない。右にも左にも避けられては不意を突かれて回し蹴りをされてしまう。またしても腹部を抑えるライグンにやっとルークは言葉を発した。

「枢要の罪にしてはまぁまぁなんじゃない?…でも困るなぁ~?営業妨害なんだよね~?…こっちとしては”反魂の書”であるリィナと契約コントラクト出来た人間は志郎君だけなんだから?…貴重な存在を無下には出来ないよね~?」

「!??なんでリィナとこいつが契約コントラクトしたのを知ってるの!??…もしかして。」

するとルークはライグンとの間を取ってから笑みを見せる。しかしその笑みは優しげな物なんかじゃない。ひどく冷たい冷酷な笑みであった。

「魔力を抑えて陰ながらね~?君や志郎君が来ていたのを見ていたのさ。…まぁ、契約コントラクトしたは良いものの、君に殺されそうじゃまだまだ焚書士としては一人前じゃないことがよ~く分かったよ。」

「てめぇ……。人をなんだと」

「人なんかじゃないよ。……君は書物。そう。暴走したただの書物だよ。」

一気に冷たく言い放つルークはジッポライターの火蓋を親指で開けて着火させた。するとあろうことか、炎の行先はライグンに向かっている。そんななかで呆然と立ち尽くしている豊をルークは炎が回る前に素早く抱きかかえ、安全な場所へと避難させた。
揺らめく炎のなかでもがき苦しむライグンの姿を豊は呆然と見つめることしか出来ない。そんな彼を見て1人の少女が呟いた。

「…嫌な光景だ。また見続けてしまった。」

「!???リィナ?いつの…間に?」

脳内に居た少女、リィナはもがき苦しむライグンを見つめながらも言葉を綴らせる。

「お前の集中力が切れて、こっちに戻れたんだ。…でも敵とはいえ、同じ書物だから。…この光景を見るのは辛い。」

悲しげな表情を見せるリィナに豊はどのような対応を取ればよいのか分からずにいる。そんな彼にルークもレジーナを人間の姿にさせてから豊にこのように声を掛けた。

「君やリィナにとっては異質だろうけれど、これが現実的な考えなんだよ。…志郎君。君がリィナを守りたいのであれば、残りの枢要の罪と戦うしかない。…その方法でしか、リィナは救われない。」

「……でも。俺は…。」


『それはどうかと思うよ?ルーク?』


豊が何かを言いかければ突如として声が響き渡った。ここは空間の書。力があるものでしか入ることも破ることも出来ない。しかしその声の主は、空間の書の隙間から手を伸ばし、もがき苦しんでいるライグンの手を引いて去ってしまった。…その手はとても異質であった。なぜならば…。

「!??骨??骨の手が…見え…た?」

驚きのあまり唖然とする豊たちに対し声の主を聞いたルークは目を大きく見張った。驚きのあまり声が出せないでいるルークにレジーナは声を掛ける。

「ルーク?…何か、あったの?」

「……別に。何もない。それよりもこの空間を出よう。…志郎君、君にはみっちりと反省文を書いてもらうから、そのつもりでね~。」

普段の調子に戻ったが、どこかいつもとは違って焦っているようなルークの仕草にレジーナは疑心を抱くのであった。


助けられたライグンは助けてくれた本人に礼を述べた。

「ディル~ありがと~!焼け死ぬかと思ったよ~!」

”ディル”と呼ばれた男はライグンに抱きつかれながらも嫌な顔をせずに彼の頭を撫でる。その腕はとてつもなく異質で骨だけで形成された腕ではあるがライグンは気にせずにいた。そんな2人を見つつ今度は浴衣を着た青年がめんどくさそうな表情を見せた。

「そんでどうすんの~?これからのこと。まっ。とか言ってそこまでみんなが集まってるわけじゃないけど。」

浴衣を着た青年の姿をしている…”憂鬱の罪”であるチオロサアドは怠そうな表情を見せて2人に問い掛ける。すると骸骨の両腕を持った男は何かを考えてから言葉を発した。

「僕が出たいところだけれど…まだ今は出られないから。今度は君達に出て欲しいな~。って思ってんだけど?」

「??なんかあったの?」

するとディルは…”強欲の罪”であるアリディルは少し困った顔をしていたのだ。

「ちょっと知り合いに会っちゃってね~?…大きくなったな。ルーク…いや、ジェシー。」

何処か遠い記憶を辿るような目線を向けるディルではあるが2人は彼が何を考えているのか分からずにいるのであった。
しおりを挟む

処理中です...