飢えた蝶

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《俺だけを見て?》

 宿に戻る前には空が暗くなり、赤い提灯には灯りが照らされていた。蝶番によると紅琳は朝や昼が短く、夜が長いのだという。そして露店なども出店していたが、聡太は不思議と腹が減らなかった。今は満足感で満ち溢れていたのだ。
 するとそこへ蝶番はコンビニのような露店に立ち寄った。本物のコンビニのようで風情がないなと聡太はなんとなく感じていた。しかし蝶番はそこで下着やら何やらを購入していたのだが、煙草のようなパッケージの箱も購入していたのだ。
 横で見ていた聡太はふと傾げた。「お前、煙草吸えないだろ? あっ、でも蝶人だから関係ないのか……」
 通貨である蝶金ちょうきんで購入していた蝶番が驚いた顔で満ち溢れていた。それからレジ袋から取り出して聡太へ見せる。「これの存在、知らないんですか?」
 聡太はさらに首を傾げていた。”薄さ0.01ミリ”とか”極薄!”とか、”生感覚!”などと書かれているが知らないものは知らない。だから恥ずかしがることもなく答える。
「うーん、わかんない。俺、そういうの使ったことないし。ていうかなに、この生感覚って。手袋かなにか?」
「……ハツモノだ」
「えっ、なにそれ?」
 下品な言葉を口にしたが気づきもしない初物で童貞の聡太に蝶番は急に自分の胸を抑えだした。どういうことなのかわからずにいる聡太へ蝶番は「……やばい、萌える」などと口走っている。なにがなんだが聡太にはさっぱりだ。だがこれだけは言える。
「……よくわかんないけど、お前が変態だというのがよくわかった」
「もうっ、そんな顔して言わないで下さいっ。やばっ、可愛い……!」
「うざいな、お前」
 今にも抱き締めてきそうな変態の蝶に死にたがりの人間は翻して先ほどの宿への帰路に着く。宿では蝶番が追加料金を払ってくれた。どこにそんな金があるのだと聞きたいぐらいだ。というよりも聞いていた。「どこにそんな金があるんだよ? ここは赤い国っていうか、赤い蝶の国だろう? 青い蝶の国の群青とは通貨が違うんじゃないのか?」すると蝶番はなんてことないように答えた。
「いや、通貨は一緒なんですよ。もともとは同じ国だったんですけど、方向性が違っていたというかなんて言うか……」
「方向性って……。人間を幸せに誘う蝶が青い蝶で、死へと誘うのが赤い蝶だろう? でも、まぁ確かに違うなぁ」
 部屋に着いてからどちらが先に風呂に入るという手前の話であった。そんな中で蝶番は少し考え込んでから息を吐き出す。「昔は方向性が一緒だったんですよ。ただ、時の流れと共に違う道を歩み出してしまって……」それから話を続けた。
「赤い蝶も幸せにするという点では一緒なんです。死んで天国に逝くというのが建前ですから。ただ、死ぬ前には地獄のような儀式を行わないといけません。赤い蝶人に食われるという、人間の身を捧げるという儀式です」
「身を捧げる……。まるで獣みたいな、悪魔みたいな儀式だな」
「だから赤い蝶は別名、魔女を誘う象徴……つまり、魔人を司ると言われています。赤い蝶は死にたがっている人間の深層心理に漬け込んでその人間の死を呼び覚まして、自分たちや自分たちのおさに人間の身を食わせて次第に勢力を伸ばしていったんです」
 そんなことがあったのか、などと思った時に聡太は思い出したことがあった。そういえば父親が死んでから赤い蝶、……恐らく四季を見た時は奇麗だとは思ったが、逆に畏怖さも感じたのだ。この蝶を追いかけたら自分はどうなってしまうのだろう、という不安感にも襲われたこともあった。
 だから四季は離れて行ったのではないか。自分を触れさせるようにして、接触させる為に聡太の前には現れていたが聡太が「死にたい」そう心の底から願わなかったから触れさせてくれなかったのではないかとふと考えた。
 蝶番が考え込んでいる様子の聡太の横顔を見やる。恐らく赤い蝶である四季のことだろうと思うと嫉妬のような感覚を覚えた。四季ばかり見ないで欲しい、自分も見て欲しい。――だから、たまらずに頬にキスをしたのだ。
 聡太が驚きと紅潮させた顔で蝶番を見やる。蝶番は、洸は聡太の唇に唇を寄せた。「俺だけを見て下さい。俺だけ見て、俺だけを感じて下さい」
 大きな手のひらで握られた聡太は上擦った声を上げてしまいそうになるのを堪えた。この国に来てからストーカー気質だった後輩に気を許してしまう自分が居た。
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