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棘先の炎

神に背く者神に喰われる 3話

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驚いた表情を見せるフライとクイラに対し、ノイズはあっけらかんとした顔を見せた後、彼らに近寄る。するとクイラはすかさずノイズの心を読んだ。
(敵意は無い…。ただ、私達に対して興味があるような…感覚がある。)
クイラの読心術に気付いていないノイズは2人に近寄った後、にこりとした笑みを向けた。
「お兄さんとお姉さん。あの先生に捕まったの?ーそしたら早くここを出た方が良いよ。…ここ、よく帷先生が拷問部屋として使う場所だから。…あの人、拷問して俺の仲間の苦しがる様子を俺らに見させて、遊んでるんだよね~。」
小さな少年からとんでもない言葉を聞いた2人ではあったものの、少年は再び言葉を紡ぐ。
「俺達ね。キモいおっさんやおばさんに売られるの。ーでも、そういう人達って頭が良い子とか顔が良い子とかを連れてくからさ~。…まあ、俺もそろそろ売られそうだけどね。」
そして小さな少年とは思えないような哀しげな笑みを見せるノイズ。彼の心を汲み取ったクイラは少年のその言葉に嘘偽りは無い事が分かった。そんな寂しげな表情を見せる少年にフライは足早に駆け寄り…彼を抱き締めた。
「そんな事言わないでよ…。僕達は君を含めた子供達を助ける為に来たんだ。ーだから、無理に笑わなくて良いんだよ。…怖いって言ったって神様は君を見捨てない。」
そして少年の頭を撫でるフライ。すると彼の優しさに触れたノイズは彼の肩に埋めた。自分が売れないようにわざと院長の反感を買っては騒動を起こし、拷問部屋へと連れて来られる少年にとっては…フライの優しく温かい手が心を温かくさせた。そんなフライの様子を見てクイラは彼の心を読んだ。
(本当にフライはあの子を助けようとしている…。ーそう思うと、危険も承知で何故ラビットじゃなくてフライにしたのかが…何となく分かるような気がする。)
フライが光であればラビットは闇。そしてフライが作り出してしまった凶暴なラビットであったら、このような行動は起こさないだろう。そんな考えに浸る彼女にフライはノイズの頭を撫でながら言い放つ。
「クイラ。…早く子供達を救ってあげよう。多分、スネークさんは大丈夫だろうから。ー早く子供達を保護してあげたい。」
決意を固めるフライにクイラは笑みを浮かべる。
「そうだね。早く子供達を保護してあげないと…。ーノイズ君だっけ?私達はあなたの味方だよ。子供達が居る所へ私達を案内してくれる?」
彼女の言葉に驚きで目を見張るノイズではあったが、彼は隠すように涙ぐんだ顔を拭ってから笑った。
「分かった!案内する。」
そして3人は拷問部屋から抜け出した。

扉には鍵が掛けられているものの、錆び付いていて古い事が分かる。そして、天井には換気扇が回っているのだが…。身長が高いスネークではあるが、換気扇の大きさから、もう少し自分が小柄でないと脱出する事は難しいと判断する。そしてこの状況に誰も居ない部屋で彼は溜息を吐いた。
「はぁ…。マジかよ…。そしたらあれしかないか~?ーうるさくなるだろうし敵に見つかる可能性はあると思うが…、これを使うか。」
そして自身のロングブーツに仕込まれた暗器である刃に目を向ける。すると、意を決したスネークは大きな扉の割に錆びついた鍵穴を目掛けて右脚を振り下ろした。轟音と共に鋭い刃が鍵穴に突き刺さる。そして、その行為を何度も行った。…すると鍵穴がひしゃげて隙間が出来た。悪戯な笑みを浮かべるスネークは暗器をブーツに仕舞い込み、ドアの引き戸に手を掛けると…見事に開く。そして、ドアの隙間から敵が居ない事を確認し、扉を思いっきり開けた。
「さーて。一応脱出は出来たし?…早くあいつらと合流しないと…。ーそれに…、薔薇姫様から頂いた情報では、"望月組"の奴らが居るって話だし?」
そして地下牢から抜け出したスネークは2人が無事である事を祈りながら部屋を出るのであった。

フライとクイラはノイズに案内され、子供達が居る場所へと駆け込んだ。薔薇姫の情報では、"望月組"も関わっていると言われている。…それに2人はノイズと同じような状況に陥っている子供達を助けたいとも考えているからだ。ノイズに案内される2人に彼はとある部屋へ立ち止まり…そしてドアを開けた。
「お前ら!俺達、ここから脱出出来るかもしれない!…だから早く支度してくれ!」
ノイズが開けた室内には十数人の子供達が居た。ーだが、彼の言葉に驚く小さな男女ではあるものの、フライとクイラの姿を見て彼らは怯えた様子である。そんな彼らを見てノイズは言い放つ。
「安心しろ!この人達は俺達の味方だ!…あのクソ院長に捕まらないうちに早く逃げよう!」
ノイズの発言に子供達は信じられないと言った様子ではあったものの、彼らはノイズの言葉に従った。
…だがしかし、廊下から足早な足音が聞こえてきたのを2人は感じ取った。するとクイラは自分の前に立っているノイズの背中を押し、室内へと入れる。突然の彼女の行動に驚く彼にクイラは小声で囁いた。
「私達が脱走した事に勘付いて君達を襲おうとしてる奴らが居る。…だから、私達が合図するまでこの中に入って。ー君達を助けるのは本当だから。」
そしてクイラは慌ててドアを閉める。足早に聞こえてくる音に警戒をするフライとクイラは顔を見合わた。
「クイラ?僕と2人で戦えると思う?…僕、自慢じゃないけど、そんなに強くないんだけど…。」
不安げな表情を見せるフライにクイラは鼻で笑った。
「いーや?大丈夫じゃない?…私だって戦うのは怖いけどさ。…まあ、自分を信じて戦うしか無いよ。そうでしょ?」
そして笑みを零す彼女にフライは呆然とした後、柔らかい表情を見せる。…そして、迫り来る敵に2人は固唾を飲んで戦闘態勢に入った。
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