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花人の謎

不幸ヤンキー、”狼”に奪われる。【終】

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 心と指切りをし終え彼女の頭を軽く撫でる。すると彼女がもっと嬉しそうな表情を見せたので自分も安心感を持つが、そんなことをしている暇は無いと悟った。
「指切りも大事だけれど…その屋内の花園を見つけるぞ! 一応、空を見て回ってみたけど…どこに?」
 幸が能力を解除したおかげで心は自身の能力に集中することが出来た。しかし不思議にもテーマパークであるのに人が居なくなっているのにも不審を抱く。だが心にとってはそれは好都合だ。
 ―余計な心理の騒めきが入らなくて済むのだから。意識を集中させ瞳を閉じ、哉太達を探す。だが哉太の”テレパシー”が薄れてきた気がした。
 …哉太君、フライ君、スピード君。無事でいて…。
 さらに意識を集中させてシルバーアクセサリーの力を駆使した。最大限に使用しているおかげで光輝くアクセサリーに幸は息を呑む。
 …すげぇ。これが、心の大きな力。
 ―だがその膨大なる力のおかげで敵に勘付かれたようだ。
『ほぉ~、さすがや!!!』
「…あなたは?」
『膨大な力が伝わっていたさかい。…ワイにも届いてしもうた』
 なんと敵である玉緒にも気が付かれてしまったようだ。しかし聞こえてくるのは玉緒の声だけで哉太を含めた3人の声が聞こえない。だから心は彼に問い詰めるのだ。
「…どうしてお前の声しか聞こえないっ!!!」
 急に声を荒げて剣幕を立てた心にテレパシーが伝わらない幸は驚く。そして声を掛けようとするが彼女はそれでも彼…いや。敵である玉緒との交信を続けた。声を荒げている彼女に玉緒はクツクツと嫌な笑い方をして言い張るのだ。
『そんなけったいな声出さんでも~! …でっかい観覧車があったやろ。そこから見えたホテル…観覧車に近いホテルや。…そこの中に入ってエレベーターで最上階に上がったところに…お探しの方らは居るで?』
 敵の方から情報を提供され心は警戒し、心情を探るが嘘ではなさそうだ。だから荒げている自分を抑え、次の質問をした。
「…彼らの無事は?」
 すると玉緒は卑屈な笑い方をした。その人を侮蔑するような笑い方に心は苛立ちを見せた。
『安心せぃ、殺すほどワイは度胸は無い。…まっ、倒れるまでおどらせはしたな~。…おもろかったで?』
 そして今度は高らかに笑い声をあげた玉緒の”テレパシー”をわざと切る。場所は分かった。ここから遠くもない。…だが哉太たちが無事ではないという悲惨な状況を知ってしまった。
 …哉太君達が、アイツのせいでひどい目に遭ったんだ。…許せない。
「…心、大丈夫か?」
「幸君…」
「…やっぱり、哉太さん達は無事では無いんだな」
 顔をしかめている心を幸は気遣うと、彼女は意を決するように胸にぶら下がっている形見のネックレスを自分の首から外してしまった。
「…心?」
 ―彼女が小声で「さよなら」と別れを告げていた気がする。どうしたものかと思った幸に心は意を決するように決意表明をしたのだ。
「…私、自分のアクセサリーを渡す」
「えっ、どうして?」
「私の力じゃ…この能力は、人を救えない。だからあの人に渡す」
 しかしそんな彼女に幸は遮るように声を掛ける。…彼女の亡き母の形見をこんな形で敵に渡すのは酷だと考えたから。
「そんなっ、そんなこと無い!!! 心は俺達の想いを繋げてくれたじゃん。…心はそれで本当に良いのか?」
 再度訴えかけるが、可憐な少女はふわりと軽く笑った。覚悟と決意を表すような表情は、本当に彼女は小学生なのかと錯覚させてしまうほどだ。…そしてやはり、将来は儚げな美女に成長しそうだと、幸は不意に思ってしまう。
「いいの。…私は私を救ってくれた人たちを助けたい。……その為だったら、保険で残していたこの能力も要らない。…だって私は、もう”狼”じゃないから…。だからいいの。…でも」
 そう言って心は幸の右手を優しく開かせて自身のネックレスを手渡す。驚く幸に心は再び笑った。
「そしたら今度は、幸君がみんなを守って。…お願い」 
 彼女の願いにさらに驚いた幸は少し困った顔をしてしまう。…それは、このシルバーアクセサリーは心と心の母親が想いを注ぎ込んだ物だから。それでも彼女は受け取って欲しいらしい。そんな彼女に幸は困惑を吐露したのだ。
「俺でも、出来るのか? 心の想いが込められたアクセサリーなのに?」
 すると心も少し考え込んではこのような言葉を掛けた。
「私が力を送り込むから多分平気…かな。私が幸君を想えば良いから」
「う~む。いまいちこのアクセサリーの仕組みはよく分からん」
「あはは」
 軽く笑う心に強さを魅せられた気がした。だから幸も、彼女の想いを繋げられるように自身も軽く笑って頷くのだ。
「…じゃあ、みんなを助けられるように頑張ろう」
「うん…!」
 手渡されたネックレスを幸は手に取って確かめるように見ては、彼女との誓いを立てようとした…その瞬間であった。
 ―幸の脳内にとある情景が映った。それはフライやスピードが傷だらけになって気絶している姿。…そして、哉太が丈夫なロープで囚われ手も出せないでいるにも関わらず、玉緒が彼を殴りつけようとする光景。そして殴りつけられても哉太は動かずにそこに鎮座している…そんな衝撃的な映像。…哉太は動かないでいた。
 ―幸のなにかが、心が、頭が…瞬間的に変化をしたのだ。
 …哉太さんが、オニイサンが…動かない? シン…ダ、死んでしまった…の? …許さない。ゆるさない。ユルサナイっ!!!!!!!!
「…オニイサンを、助ける。こいつを…」
 ―コロす。
「…幸君?」
 すると突然、幸と心の周囲に青い彼岸花が咲き乱れた。驚きを隠せない心は彼に声を掛けるが、彼は一向として彼女に耳を傾けない。幸の手からするりとネックレスが落ち心はすくい上げて彼の心を感じ取り…驚いた。
 …幸君の心が、が…、変わった???
 咲き乱れて2人を道案内する絨毯じゅうたんに変貌した美しい彼岸花。それを幸はまっすぐな瞳で悠然と踏みしめた。
 ―それは心にとって、とてつもなく哀愁を帯びているように感じた。
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