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身分は等しくあるべき

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レディオス様の祝福のおかげで大地の神のお怒りがおさまったころユルリッタ様はお菓子を配っていました。
「すごいでしょう?レディオス様は。あ!お菓子焼いたのでこれどうぞ!」
順番に渡しているのでわたくしにもくるのでしょう。
…まぁ来ないとは思いますが。
「あ!アンノージュ様!お菓子、どうぞ?」
最後の「どうぞ?」の声のトーンが低すぎて少しおかしいなとは思っていましたがやはり、と思ってお菓子を見たら焦げてるような真っ黒なクッキーでした。
他の人はちゃんとした茶色や白など様々な色でしたが…なんとなく分かりました。
そう思いながらユルリッタ様を見ていると一人の女の子にお菓子をあげていました。そのお菓子はとても黒かったです。
あの女の子は恐らく下級貴族、とても身分の低い貴族なのでしょう。ユルリッタ様も下級貴族だったのですがレディオス様と婚約されてから権力が大きくなったようです。
「あなた、下級貴族なんでしょう?このくらいのお菓子が似合うわ。」
ユルリッタ様がニヤリと笑いながら女の子を見つめていました。
しばらく女の子はお菓子を手に取ろうとしませんでした。
「ユルリッタ様!わたくし達はお友達だったはずです!どうしてこんなに変わられたのでしょう!」
真っ青な顔でユルリッタ様に訴えます。ですがユルリッタ様にはその気持ちは届かなかったようです。
「何を言っていらっしゃるの、メルディー様?わたくしはもう下級貴族ではなくてよ。あなたと同じにしないで。見苦しい」
その言葉に私の糸がプツンと切れました。
下級貴族だからとか権力とか馬鹿馬鹿しい。
その言葉はわたくしのメリアを否定するような言葉でした。
周りのユルリッタ様とレディオス様以外は皆、言い過ぎではないかという視線をしています。
「ユルリッタ様、そのお言葉はここでは謹んでくださいませ」
「アンノージュ様?何を言ってらっしゃるのですか?貴族はちゃんと身分が分かれていらっしゃるの、わたくしは中級貴族ですよ?下級貴族を罵ったって何も大丈夫でしょう?」
ユルリッタ様が鼻で笑っています。
本当に忌々しい。貴族の常識にもなっていないです。それに腹が立ちました。
わたくしは声をもっと大きくし言い放ちました。
「あら、下級貴族に真っ黒なお菓子をあげていましたけれどそれも罵ったに入っているのですか?」
わたくしは暴れ出す魔力をおさえ睨みつけました。
ユルリッタ様はにっこりと微笑みます。そして手を胸に当て言います。
「いえ?お菓子なんて下級貴族にあげるものではないんですよ?わたくしはあげてあげたんだから感謝するべきだと思いますけれど。わたくしにね?」
「そうですか?では上級貴族に真っ黒なクッキーをあげたわけじゃないのですね?」
「もちろんです。当たり前でしょう?」
…もしやわたくしの身分を知らないということかしら?なんて非常識な…。
でもその代わり都合がいい。ここには皆がいる。そのことを言えば周りの反応はどうなるだろうか。
「へぇ…上級貴族に真っ黒なクッキーをあげないなんて嘘をつかないでくださいませ」
「わたくしに嘘をついているとおっしゃるの?なんて酷いお人」
「そうかしら?わたくし上級貴族なのですけれど…」
そう言いながらわたくしは皆の前でユルリッタ様からもらった真っ黒なクッキーを見せます。
そうすると皆の顔が一気に変わりました。
とても面白いです。
「え?いや…だって…アンノージュ様って…」
「あら?わたくしの身分も知らなかったのかしら。なんと非常識なお人」
言われたことをそのまま言い返しました。
そしてもうこのようなことが起きないようにと遠回しに言います。
「中級貴族はみんなと仲良くやっているようですよ?ユルリッタ様以外は身分は関係せず接しているようです。とてもいい人達ですね。本当にユルリッタ様は器が小さいこと」
「何を言っているんだ!」
さっきまでずっと口を閉ざしていたレディオス様が言葉を放ちます。
「ユルリッタが悪いことをしているような言い方をするな!」
…いやいや、実際に悪いことをしているから注意しただけですよ?
「あら?悪いことをしているからそう言っているのですよ?分からないんですかレディオス様」
「あぁ!分からないな。ユルリッタは何もしていない!」
見て見ぬふりをしていることに気付きました。
王家の人としてこれはどういうことなのか耳を疑いますね。
「では、自分より身分の低い人が相手の身分を勝手に決めつけ、あげるものも酷いもの、クッキーが真っ黒になって渡された場合レディオス様はどう思いますか?」
「別に何も思わないが?」
「でも渡された人にとってはとても惨めな思いをして苦しむ人だっているのです。それも分からないと王にもなれないのでは?」
そう言いながらふふっと微笑みました。
レディオス様は開き直ったようにユルリッタ様なら大丈夫みたいな意味のわからないことを話し続けていました。
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